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太宰治『人間失格』(No Longer Human by Osamu Dazai), 第二の手記 (1)

第 二 の 手記 (1)

海 の 、波打 際 、と いって も いい くらい に 海 に ちかい 岸辺 に 、真 黒い 樹 肌 の 山桜 の 、かなり 大きい の が 二十 本 以上 も 立ち ならび 、新 学年 が はじまる と 、山桜 は 、褐色 の ねばっこい ような 嫩葉 わかば と 共に 、青い 海 を 背景 に して 、その 絢爛 けん らん たる 花 を ひらき 、やがて 、花 吹雪 の 時 に は 、花びら が おびただしく 海 に 散り 込み 、海面 を 鏤 ちりばめて 漂い 、波 に 乗せられ 再び 波打 際 に 打ちかえさ れる 、その 桜 の 砂浜 が 、そのまま 校庭 と して 使用 せられて いる 東北 の 或る 中学校 に 、自分 は 受験 勉強 も ろくに し なかった のに 、どうやら 無事に 入学 できました。 そうして 、その 中学 の 制 帽 の 徽章 きしょう に も 、制服 の ボタン に も 、桜 の 花 が 図案 化 せられて 咲いて いました。

その 中学校 の すぐ 近く に 、自分 の 家 と 遠い 親戚 に 当る 者 の 家 が ありました ので 、その 理由 も あって 、父 が その 海 と 桜 の 中学校 を 自分 に 選んで くれた のでした。 自分 は 、その 家 に あずけられ 、何せ 学校 の すぐ 近く な ので 、朝礼 の 鐘 の 鳴る の を 聞いて から 、走って 登校 する と いう ような 、かなり 怠 惰 な 中学生 でした が 、それ でも 、れいの お 道化 に 依って 、日一日 と クラス の 人気 を 得て いました。

生れて はじめて 、謂 わ ば 他 郷 へ 出た わけな のです が 、自分 に は 、その他 郷 の ほう が 、自分 の 生れ 故郷 より も 、ずっと 気楽な 場所 の ように 思わ れました。 それ は 、自分 の お 道化 も その 頃 に は いよいよ ぴったり 身 に ついて 来て 、人 を あざむく のに 以前 ほど の 苦労 を 必要 と し なく なって いた から である 、と 解説 して も いい でしょう が 、しかし 、それ より も 、肉親 と 他人 、故郷 と 他 郷 、そこ に は 抜く べ から ざる 演技 の 難易 の 差 が 、どのような 天才 に とって も 、た とい 神 の 子 の イエス に とって も 、存在 して いる もの な ので は ない でしょう か。 俳優 に とって 、最も 演じ にくい 場所 は 、故郷 の 劇場 であって 、しかも 六 親 眷属 けん ぞく 全部 そろって 坐って いる 一 部屋 の 中 に 在って は 、いか な 名優 も 演技 どころ で は 無くなる ので は ない でしょう か。 けれども 自分 は 演じて 来ました。 しかも 、それ が 、かなり の 成功 を 収めた のです。 それほど の 曲者 くせもの が 、他 郷 に 出て 、万が一 に も 演じ 損ねる など と いう 事 は 無い わけでした。

自分 の 人間 恐怖 は 、それ は 以前 に まさる と も 劣ら ぬ くらい 烈 しく 胸 の 底 で 蠕動 ぜん どうして いました が 、しかし 、演技 は 実に のびのび と して 来て 、教室 に あって は 、いつも クラス の 者 たち を 笑わ せ 、教師 も 、この クラス は 大庭 さえ いない と 、とても いい クラス な んだ が 、と 言葉 で は 嘆 じ ながら 、手 で 口 を 覆って 笑って いました。 自分 は 、あの 雷 の 如き 蛮声 を 張り上げる 配属 将校 を さえ 、実に 容易に 噴き出 させる 事 が 出来た のです。

もはや 、自分 の 正体 を 完全に 隠蔽 いんぺい し 得た ので は ある まい か 、と ほっと しかけた 矢先 に 、自分 は 実に 意外に も 背後 から 突き刺さ れました。 それ は 、背後 から 突き刺す 男 の ご たぶん に もれ ず 、クラス で 最も 貧弱な 肉体 を して 、顔 も 青 ぶ くれ で 、そうして たしかに 父兄 の お 古 と 思わ れる 袖 が 聖徳太子 の 袖 みたいに 長 すぎる 上 衣 うわぎ を 着て 、学課 は 少しも 出来 ず 、教 練 や 体操 は いつも 見学 と いう 白 痴 に 似た 生徒 でした。 自分 も さすが に 、その 生徒 に さえ 警戒 する 必要 は 認めて い なかった のでした。

その 日 、体操 の 時間 に 、その 生徒 (姓 は いま 記憶 して いません が 、名 は 竹一 と いった か と 覚えて います )その 竹一 は 、れい に 依って 見学 、自分 たち は 鉄棒 の 練習 を さ せられて いました。 自分 は 、わざと 出来る だけ 厳粛な 顔 を して 、鉄棒 めがけて 、えいっと 叫んで 飛び 、そのまま 幅 飛び の ように 前方 へ 飛んで しまって 、砂地 に ドスン と 尻餅 を つきました。 すべて 、計画 的な 失敗 でした。 果して 皆 の 大笑い に なり 、自分 も 苦笑 し ながら 起き上って ズボン の 砂 を 払って いる と 、いつ そこ へ 来て いた の か 、竹一 が 自分 の 背中 を つつき 、低い 声 で こう 囁 ささやきました。

「ワザ。 ワザ」

自分 は 震撼 しんかん しました。 ワザ と 失敗 した と いう 事 を 、人 も あろう に 、竹一 に 見破ら れる と は 全く 思い も 掛け ない 事 でした。 自分 は 、世界 が 一瞬にして 地獄 の 業 火 に 包まれて 燃え上る の を 眼前 に 見る ような 心地 が して 、わ あっ! と 叫んで 発 狂 し そうな 気配 を 必死の 力 で 抑えました。

それ から の 日々 の 、自分 の 不安 と 恐怖。

表面 は 相 変ら ず 哀しい お 道化 を 演じて 皆 を 笑わ せて いました が 、ふっと 思わず 重苦しい 溜息 ためいき が 出て 、何 を したって すべて 竹一 に 木っ葉 みじん に 見破られて いて 、そうして あれ は 、その うち に きっと 誰 かれ と なく 、それ を 言いふらして 歩く に 違いない のだ 、と 考える と 、額 に じっとり 油 汗 が わいて 来て 、狂 人 みたいに 妙な 眼 つきで 、あたり を キョロキョロ むなしく 見 廻したり しました。 できる 事 なら 、朝 、昼 、晩 、四六時中 、竹一 の 傍 そばから 離れ ず 彼 が 秘密 を 口走ら ない ように 監視 して いたい 気持 でした。 そうして 、自分 が 、彼 に まつわりついて いる 間 に 、自分 の お 道化 は 、所 謂 「ワザ 」で は 無くて 、ほんもの であった と いう よう 思い込ま せる ように あらゆる 努力 を 払い 、あわよくば 、彼 と 無二 の 親友 に なって しまいたい もの だ 、もし 、その 事 が 皆 、不可能 なら 、もはや 、彼 の 死 を 祈る より 他 は 無い 、と さえ 思いつめました。 しかし 、さすが に 、彼 を 殺そう と いう 気 だけ は 起りません でした。 自分 は 、これ まで の 生涯 に 於 おいて 、人 に 殺さ れたい と 願望 した 事 は 幾 度 と なく ありました が 、人 を 殺したい と 思った 事 は 、いち ども ありません でした。 それ は 、おそるべき 相手 に 、かえって 幸福 を 与える だけ の 事 だ と 考えて いた から です。

自分 は 、彼 を 手なずける ため 、まず 、顔 に 偽 クリスチャン の ような 「優しい 」媚笑 びしょう を 湛 たたえ 、首 を 三十 度 くらい 左 に 曲げて 、彼 の 小さい 肩 を 軽く 抱き 、そうして 猫 撫 ねこなで声 に 似た 甘ったるい 声 で 、彼 を 自分 の 寄宿 して いる 家 に 遊び に 来る よう しばしば 誘いました が 、彼 は 、いつも 、ぼんやり した 眼 つき を して 、黙って いました。 しかし 、自分 は 、或る 日 の 放課後 、たしか 初夏 の 頃 の 事 でした 、夕立 ち が 白く 降って 、生徒 たち は 帰宅 に 困って いた ようでした が 、自分 は 家 が すぐ 近く な ので 平気で 外 へ 飛び出そう と して 、ふと 下駄 箱 の かげ に 、竹一 が しょんぼり 立って いる の を 見つけ 、行こう 、傘 を 貸して あげる 、と 言い 、臆する 竹一 の 手 を 引っぱって 、一緒に 夕 立ち の 中 を 走り 、家 に 着いて 、二 人 の 上 衣 を 小 母さん に 乾かして もらう ように たのみ 、竹一 を 二 階 の 自分 の 部屋 に 誘い込む の に 成功 しました。

その 家 に は 、五十 すぎ の 小 母さん と 、三十 くらい の 、眼鏡 を かけて 、病身 らしい 背 の 高い 姉 娘 (この 娘 は 、いち ど よそ へ お 嫁 に 行って 、それ から また 、家 へ 帰って いる ひと でした。 自分 は 、この ひと を 、ここの 家 の ひと たち に ならって 、アネサ と 呼んで いました )それ と 、最近 女学校 を 卒業 した ばかり らしい 、セッ ちゃん と いう 姉 に 似 ず 背 が 低く 丸顔 の 妹 娘 と 、三 人 だけ の 家族 で 、下 の 店 に は 、文房具 やら 運動 用具 を 少々 並べて いました が 、主な 収入 は 、なくなった 主人 が 建てて 残して 行った 五六 棟 の 長屋 の 家賃 の ようでした。

「耳 が 痛い」

竹一 は 、立った まま で そう 言いました。

「雨 に 濡れたら 、痛く なった よ」

自分 が 、見て みる と 、両方 の 耳 が 、ひどい 耳 だれ でした。 膿 うみ が 、いまにも 耳 殻 の 外 に 流れ出よう と して いました。

「これ は 、いけない。 痛い だろう」

と 自分 は 大袈裟 おおげさに おどろいて 見せて、

「雨 の 中 を 、引っぱり出したり して 、ごめん ね」

と 女 の 言葉 みたいな 言葉 を 遣って 「優しく 」謝り 、それ から 、下 へ 行って 綿 と アルコール を もらって 来て 、竹一 を 自分 の 膝 ひざ を 枕 に して 寝かせ 、念入りに 耳 の 掃除 を して やりました。 竹一 も 、さすが に 、これ が 偽善 の 悪 計 である こと に は 気 附 か なかった ようで、

「お前 は 、きっと 、女 に 惚 ほれられる よ」

と 自分 の 膝 枕 で 寝 ながら 、無 智 なお 世辞 を 言った くらい でした。

しかし これ は 、おそらく 、あの 竹一 も 意識 し なかった ほど の 、おそろしい 悪魔 の 予言 の ような もの だった と いう 事 を 、自分 は 後年 に 到って 思い知りました。 惚れる と 言い 、惚れられる と 言い 、その 言葉 は ひどく 下品で 、ふざけて 、いかにも 、やに さがった もの の 感じ で 、どんなに 所 謂 「厳粛 」の 場 であって も 、そこ へ この 言葉 が 一言 でも ひょいと 顔 を 出す と 、みるみる 憂鬱 の 伽藍 がらん が 崩壊 し 、ただ のっぺらぼう に なって しまう ような 心地 が する もの です けれども 、惚れられる つら さ 、など と いう 俗語 で なく 、愛せられる 不安 、と でも いう 文学 語 を 用いる と 、あながち 憂鬱 の 伽藍 を ぶちこわす 事 に は なら ない ようです から 、奇妙な もの だ と 思います。

竹一 が 、自分 に 耳 だれ の 膿 の 仕末 を して もらって 、お前 は 惚れられる と いう 馬鹿な お世辞 を 言い 、自分 は その 時 、ただ 顔 を 赤らめて 笑って 、何も 答えません でした けれども 、しかし 、実は 、幽 かすか に 思い当る ところ も あった のでした。 でも 、「惚れられる 」と いう ような 野 卑 な 言葉 に 依って 生じる や に さがった 雰囲気 ふんいき に 対して 、そう 言わ れる と 、思い当る ところ も ある 、など と 書く の は 、ほとんど 落語 の 若 旦那 の せりふ に さえ なら ぬ くらい 、おろか しい 感 懐 を 示す ような もの で 、まさか 、自分 は 、そんな ふざけた 、やに さがった 気持 で 、「思い当る ところ も あった 」わけで は 無い のです。

自分 に は 、人間 の 女性 の ほう が 、男性 より も さらに 数 倍 難解でした。 自分 の 家族 は 、女性 の ほう が 男性 より も 数 が 多く 、また 親戚 に も 、女の子 が たくさん あり 、また れい の 「犯罪 」の 女 中 など も い まして 、自分 は 幼い 時 から 、女 と ばかり 遊んで 育った と いって も 過言 で は ない と 思って います が 、それ は 、また 、しかし 、実に 、薄氷 を 踏む 思い で 、その 女 の ひと たち と 附合って 来た のです。 ほとんど 、まるで 見当 が 、つか ない のです。 五里霧中 で 、そうして 時たま 、虎 の 尾 を 踏む 失敗 を して 、ひどい 痛手 を 負い 、それ が また 、男性 から 受ける 笞 むち と ちがって 、内出血 みたいに 極度に 不快に 内 攻 して 、なかなか 治癒 ちゆ し 難い 傷 でした。

女 は 引き寄せて 、つっ放す 、或いは また 、女 は 、人 の いる ところ で は 自分 を さげすみ 、邪 慳 じゃけんに し 、誰 も い なく なる と 、ひしと 抱きしめる 、女 は 死んだ ように 深く 眠る 、女 は 眠る ため に 生きて いる ので は ない かしら 、その他 、女 に 就いて の さまざまの 観察 を 、すでに 自分 は 、幼年 時代 から 得て いた のです が 、同じ 人類 の ようであり ながら 、男 と は また 、全く 異った 生きもの の ような 感じ で 、そうして また 、この 不可解で 油断 の なら ぬ 生きもの は 、奇妙に 自分 を かまう のでした。 「惚れられる 」なんて いう 言葉 も 、また 「好か れる 」と いう 言葉 も 、自分 の 場合 に は ちっとも 、ふさわしく なく 、「かまわ れる 」と でも 言った ほう が 、まだしも 実 状 の 説明 に 適して いる かも 知れません。


第 二 の 手記 (1) だい|ふた||しゅき Second memoir (1) Cuentas de segunda mano (1) 두 번째 수기 (1) Contas em segunda mão (1) 第二注 (1) 第二注 (1)

海 の 、波打 際 、と いって も いい くらい に 海 に ちかい 岸辺 に 、真 黒い 樹 肌 の 山桜 の 、かなり 大きい の が 二十 本 以上 も 立ち ならび 、新 学年 が はじまる と 、山桜 は 、褐色 の ねばっこい ような 嫩葉 わかば と 共に 、青い 海 を 背景 に して 、その 絢爛 けん らん たる 花 を ひらき 、やがて 、花 吹雪 の 時 に は 、花びら が おびただしく 海 に 散り 込み 、海面 を 鏤 ちりばめて 漂い 、波 に 乗せられ 再び 波打 際 に 打ちかえさ れる 、その 桜 の 砂浜 が 、そのまま 校庭 と して 使用 せられて いる 東北 の 或る 中学校 に 、自分 は 受験 勉強 も ろくに し なかった のに 、どうやら 無事に 入学 できました。 うみ||なみうち|さい|||||||うみ|||きしべ||まこと|くろい|き|はだ||やまざくら|||おおきい|||にじゅう|ほん|いじょう||たち||しん|がくねん||||やまざくら||かっしょく||||どんは|||ともに|あおい|うみ||はいけい||||けんらん||||か||||か|ふぶき||じ|||はなびら|||うみ||ちり|こみ|かいめん||る||ただよい|なみ||のせ られ|ふたたび|なみうち|さい||うちかえさ|||さくら||すなはま|||こうてい|||しよう|せら れて||とうほく||ある|ちゅうがっこう||じぶん||じゅけん|べんきょう|||||||ぶじに|にゅうがく|でき ました On the shore near the sea, on the shore of the sea, there are more than 20 fairly large mountain cherry blossoms with black skin, and when the new school year begins, the mountain cherry blossoms are brown. With the sticky leaves of Wakaba against the background of the blue sea, the gorgeous flowers are opened, and then, at the time of the snowstorm, the petals are scattered in the sea and scattered on the surface of the sea. Apparently, I didn't study for the exam at a junior high school in Tohoku, where the sandy beach of the cherry blossoms, which was put on the waves and re-beaten at the time of the waves, was used as a school yard as it was. I was able to enroll safely. No início do ano letivo, as cerejeiras em flor esvoaçam em profusão contra o mar azul, com as suas folhas frescas, castanhas e pegajosas e a wakaba (wakaba), acabando por desabrochar durante a tempestade de neve, As flores de cerejeira espalham-se em abundância no mar durante a tempestade de neve, flutuando em gotículas à superfície do mar e sendo depois transportadas pelas ondas de volta à praia. そうして 、その 中学 の 制 帽 の 徽章 きしょう に も 、制服 の ボタン に も 、桜 の 花 が 図案 化 せられて 咲いて いました。 ||ちゅうがく||せい|ぼう||きしょう||||せいふく||ぼたん|||さくら||か||ずあん|か|せら れて|さいて|い ました Then, the cherry blossoms were designed and bloomed on the emblem of the cap of the junior high school and on the buttons of the uniform. O emblema do boné da escola e os botões do uniforme escolar foram também decorados com flores de cerejeira.

その 中学校 の すぐ 近く に 、自分 の 家 と 遠い 親戚 に 当る 者 の 家 が ありました ので 、その 理由 も あって 、父 が その 海 と 桜 の 中学校 を 自分 に 選んで くれた のでした。 |ちゅうがっこう|||ちかく||じぶん||いえ||とおい|しんせき||あたる|もの||いえ||あり ました|||りゆう|||ちち|||うみ||さくら||ちゅうがっこう||じぶん||えらんで|| My house and a distant relative had a house very close to that junior high school, so my father chose Umi to Sakura Junior High School for me. 自分 は 、その 家 に あずけられ 、何せ 学校 の すぐ 近く な ので 、朝礼 の 鐘 の 鳴る の を 聞いて から 、走って 登校 する と いう ような 、かなり 怠 惰 な 中学生 でした が 、それ でも 、れいの お 道化 に 依って 、日一日 と クラス の 人気 を 得て いました。 じぶん|||いえ||あずけ られ|なにせ|がっこう|||ちかく|||ちょうれい||かね||なる|||きいて||はしって|とうこう||||||おこた|だ||ちゅうがくせい|||||||どうけ||よって|ひいちにち||くらす||にんき||えて|い ました I was a rather lazy junior high school student who was entrusted with the house, and since it was right next to the school, I would run to school after hearing the morning assembly bell ring, but nevertheless, I was fine. day by day, he was gaining popularity in his class.

生れて はじめて 、謂 わ ば 他 郷 へ 出た わけな のです が 、自分 に は 、その他 郷 の ほう が 、自分 の 生れ 故郷 より も 、ずっと 気楽な 場所 の ように 思わ れました。 うまれて||い|||た|ごう||でた||||じぶん|||そのほか|ごう||||じぶん||うまれ|こきょう||||きらくな|ばしょ|||おもわ|れ ました For the first time in my life, as it were, I went to another country, but it seemed to me to be a much more comfortable place than my hometown. それ は 、自分 の お 道化 も その 頃 に は いよいよ ぴったり 身 に ついて 来て 、人 を あざむく のに 以前 ほど の 苦労 を 必要 と し なく なって いた から である 、と 解説 して も いい でしょう が 、しかし 、それ より も 、肉親 と 他人 、故郷 と 他 郷 、そこ に は 抜く べ から ざる 演技 の 難易 の 差 が 、どのような 天才 に とって も 、た とい 神 の 子 の イエス に とって も 、存在 して いる もの な ので は ない でしょう か。 ||じぶん|||どうけ|||ころ|||||み|||きて|じん||||いぜん|||くろう||ひつよう|||||||||かいせつ||||||||||にくしん||たにん|こきょう||た|ごう||||ぬく||||えんぎ||なんい||さ|||てんさい||||||かみ||こ||いえす||||そんざい||||||||| You could explain that it was because by that time my clowning was getting better and better, and deceiving people didn't take as much effort as it used to. However, more than that, the difference in the difficulty of acting between relatives and strangers, hometowns and foreigners, which cannot be overtaken, is the difference for any genius, even for Jesus, the Son of God. Doesn't it also exist? 俳優 に とって 、最も 演じ にくい 場所 は 、故郷 の 劇場 であって 、しかも 六 親 眷属 けん ぞく 全部 そろって 坐って いる 一 部屋 の 中 に 在って は 、いか な 名優 も 演技 どころ で は 無くなる ので は ない でしょう か。 はいゆう|||もっとも|えんじ||ばしょ||こきょう||げきじょう|||むっ|おや|けんぞく|||ぜんぶ||すわって||ひと|へや||なか||あって||||めいゆう||えんぎ||||なくなる||||| For an actor, the most difficult place to play is in the theater of his hometown, and in a room where all six parents are sitting together, no actor can be acting. Isn't it? けれども 自分 は 演じて 来ました。 |じぶん||えんじて|き ました However, I came to act. しかも 、それ が 、かなり の 成功 を 収めた のです。 |||||せいこう||おさめた| Moreover, it was quite successful. それほど の 曲者 くせもの が 、他 郷 に 出て 、万が一 に も 演じ 損ねる など と いう 事 は 無い わけでした。 ||くせもの|||た|ごう||でて|まんがいち|||えんじ|そこねる||||こと||ない| There was no way such a crooked performer could go to another country and fail to perform.

自分 の 人間 恐怖 は 、それ は 以前 に まさる と も 劣ら ぬ くらい 烈 しく 胸 の 底 で 蠕動 ぜん どうして いました が 、しかし 、演技 は 実に のびのび と して 来て 、教室 に あって は 、いつも クラス の 者 たち を 笑わ せ 、教師 も 、この クラス は 大庭 さえ いない と 、とても いい クラス な んだ が 、と 言葉 で は 嘆 じ ながら 、手 で 口 を 覆って 笑って いました。 じぶん||にんげん|きょうふ||||いぜん|||||おとら|||れつ||むね||そこ||ぜんどう|||い ました|||えんぎ||じつに||||きて|きょうしつ|||||くらす||もの|||わらわ||きょうし|||くらす||おおにわ||||||くらす|||||ことば|||なげ|||て||くち||おおって|わらって|い ました My fear of humans was as intense as it had been before, and it was wobbling in the bottom of my heart, but acting came really freely, and when I was in the classroom, I always felt like I was in class. The teacher covered his mouth with his hand while lamenting that this class would be great if it weren't for the large garden. 自分 は 、あの 雷 の 如き 蛮声 を 張り上げる 配属 将校 を さえ 、実に 容易に 噴き出 させる 事 が 出来た のです。 じぶん|||かみなり||ごとき|ばんこえ||はりあげる|はいぞく|しょうこう|||じつに|よういに|ふきで|さ せる|こと||できた| I was able to make even the attached officer who raised that thunderous barbaric voice burst out easily.

もはや 、自分 の 正体 を 完全に 隠蔽 いんぺい し 得た ので は ある まい か 、と ほっと しかけた 矢先 に 、自分 は 実に 意外に も 背後 から 突き刺さ れました。 |じぶん||しょうたい||かんぜんに|いんぺい|||えた|||||||||やさき||じぶん||じつに|いがいに||はいご||つきささ|れ ました Just when I was about to let him know that he had completely concealed his true identity, I was surprisingly stabbed in the back. それ は 、背後 から 突き刺す 男 の ご たぶん に もれ ず 、クラス で 最も 貧弱な 肉体 を して 、顔 も 青 ぶ くれ で 、そうして たしかに 父兄 の お 古 と 思わ れる 袖 が 聖徳太子 の 袖 みたいに 長 すぎる 上 衣 うわぎ を 着て 、学課 は 少しも 出来 ず 、教 練 や 体操 は いつも 見学 と いう 白 痴 に 似た 生徒 でした。 ||はいご||つきさす|おとこ|||||||くらす||もっとも|ひんじゃくな|にくたい|||かお||あお||||||ふけい|||ふる||おもわ||そで||しょうとくたいし||そで||ちょう||うえ|ころも|||きて|がっか||すこしも|でき||きょう|ね||たいそう|||けんがく|||しろ|ち||にた|せいと| Like all the men who stab him in the back, he has the weakest body in the class and has a bluish face. He wore a jacket that was too long, could not do his schoolwork at all, and was an idiot-like student who always observed drills and gymnastics. 自分 も さすが に 、その 生徒 に さえ 警戒 する 必要 は 認めて い なかった のでした。 じぶん|||||せいと|||けいかい||ひつよう||みとめて||| As expected, I didn't even recognize the need to be wary of that student.

その 日 、体操 の 時間 に 、その 生徒 (姓 は いま 記憶 して いません が 、名 は 竹一 と いった か と 覚えて います )その 竹一 は 、れい に 依って 見学 、自分 たち は 鉄棒 の 練習 を さ せられて いました。 |ひ|たいそう||じかん|||せいと|せい|||きおく||いま せ ん||な||たけいち|||||おぼえて|い ます||たけいち||||よって|けんがく|じぶん|||てつぼう||れんしゅう|||せら れて|い ました That day, during gymnastics, the student (I don't remember his last name now, but I do remember his name was Takeichi) took a tour with Rei. I was forced to practice 自分 は 、わざと 出来る だけ 厳粛な 顔 を して 、鉄棒 めがけて 、えいっと 叫んで 飛び 、そのまま 幅 飛び の ように 前方 へ 飛んで しまって 、砂地 に ドスン と 尻餅 を つきました。 じぶん|||できる||げんしゅくな|かお|||てつぼう||えい っと|さけんで|とび||はば|とび|||ぜんぽう||とんで||すなじ||どすん||しりもち||つき ました I purposely put on as solemn a face as possible, aimed at the horizontal bar, shouted, and jumped forward like a broad jump, landing on my bottom with a thud on the sandy ground. すべて 、計画 的な 失敗 でした。 |けいかく|てきな|しっぱい| Everything was a planned failure. 果して 皆 の 大笑い に なり 、自分 も 苦笑 し ながら 起き上って ズボン の 砂 を 払って いる と 、いつ そこ へ 来て いた の か 、竹一 が 自分 の 背中 を つつき 、低い 声 で こう 囁 ささやきました。 はたして|みな||おおわらい|||じぶん||くしょう|||おきあがって|ずぼん||すな||はらって||||||きて||||たけいち||じぶん||せなか|||ひくい|こえ|||ささや|ささやき ました Everyone laughed so hard, and I smiled wryly as I got up and brushed the sand off my pants when Takeichi poked me in the back and whispered in a low voice: rice field.

「ワザ。 "On purpose. ワザ」

自分 は 震撼 しんかん しました。 じぶん||しんかん||し ました I was trembling. ワザ と 失敗 した と いう 事 を 、人 も あろう に 、竹一 に 見破ら れる と は 全く 思い も 掛け ない 事 でした。 ||しっぱい||||こと||じん||||たけいち||みやぶら||||まったく|おもい||かけ||こと| It was completely unexpected that Takeichi would be able to detect the fact that he had failed with a trick. 自分 は 、世界 が 一瞬にして 地獄 の 業 火 に 包まれて 燃え上る の を 眼前 に 見る ような 心地 が して 、わ あっ! じぶん||せかい||いっしゅんにして|じごく||ぎょう|ひ||つつま れて|もえあがる|||がんぜん||みる||ここち|||| I felt like I was watching the world burst into flames of hell in an instant, wow! と 叫んで 発 狂 し そうな 気配 を 必死の 力 で 抑えました。 |さけんで|はつ|くる||そう な|けはい||ひっしの|ちから||おさえ ました

それ から の 日々 の 、自分 の 不安 と 恐怖。 |||ひび||じぶん||ふあん||きょうふ

表面 は 相 変ら ず 哀しい お 道化 を 演じて 皆 を 笑わ せて いました が 、ふっと 思わず 重苦しい 溜息 ためいき が 出て 、何 を したって すべて 竹一 に 木っ葉 みじん に 見破られて いて 、そうして あれ は 、その うち に きっと 誰 かれ と なく 、それ を 言いふらして 歩く に 違いない のだ 、と 考える と 、額 に じっとり 油 汗 が わいて 来て 、狂 人 みたいに 妙な 眼 つきで 、あたり を キョロキョロ むなしく 見 廻したり しました。 ひょうめん||そう|かわら||かなしい||どうけ||えんじて|みな||わらわ||い ました|||おもわず|おもくるしい|ためいき|||でて|なん||||たけいち||き っ は|||みやぶら れて|||||||||だれ||||||いいふらして|あるく||ちがいない|||かんがえる||がく|||あぶら|あせ|||きて|くる|じん||みょうな|がん||||||み|まわしたり|し ました On the surface, he was still acting like a sad clown, making everyone laugh, but all of a sudden, he let out a heavy sigh. When I thought that I was sure that one day there would be no one else who would walk around spreading the word, my forehead would be dripping with sweat, and my eyes would be strange like that of a madman. I looked around in vain. できる 事 なら 、朝 、昼 、晩 、四六時中 、竹一 の 傍 そばから 離れ ず 彼 が 秘密 を 口走ら ない ように 監視 して いたい 気持 でした。 |こと||あさ|ひる|ばん|しろくじちゅう|たけいち||そば||はなれ||かれ||ひみつ||くちばしら|||かんし||い たい|きもち| If possible, I wanted to stay by Takeichi's side 24 hours a day, 7 days a week, to make sure he didn't reveal his secret. そうして 、自分 が 、彼 に まつわりついて いる 間 に 、自分 の お 道化 は 、所 謂 「ワザ 」で は 無くて 、ほんもの であった と いう よう 思い込ま せる ように あらゆる 努力 を 払い 、あわよくば 、彼 と 無二 の 親友 に なって しまいたい もの だ 、もし 、その 事 が 皆 、不可能 なら 、もはや 、彼 の 死 を 祈る より 他 は 無い 、と さえ 思いつめました。 |じぶん||かれ||||あいだ||じぶん|||どうけ||しょ|い||||なくて||||||おもいこま||||どりょく||はらい||かれ||むに||しんゆう|||しま い たい|||||こと||みな|ふかのう|||かれ||し||いのる||た||ない|||おもいつめ ました And then, while I was haunting him, I made every effort to convince him that my foolishness was not a so-called ``trick,'' but a real one, If possible, I would like to become his best friend. しかし 、さすが に 、彼 を 殺そう と いう 気 だけ は 起りません でした。 |||かれ||ころそう|||き|||おこり ませ ん| But, as expected, I had no desire to kill him. 自分 は 、これ まで の 生涯 に 於 おいて 、人 に 殺さ れたい と 願望 した 事 は 幾 度 と なく ありました が 、人 を 殺したい と 思った 事 は 、いち ども ありません でした。 じぶん|||||しょうがい||お||じん||ころさ|れ たい||がんぼう||こと||いく|たび|||あり ました||じん||ころし たい||おもった|こと||||あり ませ ん| それ は 、おそるべき 相手 に 、かえって 幸福 を 与える だけ の 事 だ と 考えて いた から です。 |||あいて|||こうふく||あたえる|||こと|||かんがえて||| Because I thought it was just to give happiness to a terrible opponent.

自分 は 、彼 を 手なずける ため 、まず 、顔 に 偽 クリスチャン の ような 「優しい 」媚笑 びしょう を 湛 たたえ 、首 を 三十 度 くらい 左 に 曲げて 、彼 の 小さい 肩 を 軽く 抱き 、そうして 猫 撫 ねこなで声 に 似た 甘ったるい 声 で 、彼 を 自分 の 寄宿 して いる 家 に 遊び に 来る よう しばしば 誘いました が 、彼 は 、いつも 、ぼんやり した 眼 つき を して 、黙って いました。 じぶん||かれ||てなずける|||かお||ぎ|くりすちゃん|||やさしい|びわらい|||たん||くび||さんじゅう|たび||ひだり||まげて|かれ||ちいさい|かた||かるく|いだき||ねこ|ぶ|ねこなでごえ||にた|あまったるい|こえ||かれ||じぶん||きしゅく|||いえ||あそび||くる|||さそい ました||かれ|||||がん||||だまって|い ました In order to tame him, I first put a "gentle" smile on my face like a fake Christian, bent my neck about 30 degrees to the left, and lightly embraced his small shoulders. I often invited him to visit me at the house where I was boarding, with a sweet voice resembling a cat's stroking voice, but he always remained silent with a blank look in his eyes. I was there. しかし 、自分 は 、或る 日 の 放課後 、たしか 初夏 の 頃 の 事 でした 、夕立 ち が 白く 降って 、生徒 たち は 帰宅 に 困って いた ようでした が 、自分 は 家 が すぐ 近く な ので 平気で 外 へ 飛び出そう と して 、ふと 下駄 箱 の かげ に 、竹一 が しょんぼり 立って いる の を 見つけ 、行こう 、傘 を 貸して あげる 、と 言い 、臆する 竹一 の 手 を 引っぱって 、一緒に 夕 立ち の 中 を 走り 、家 に 着いて 、二 人 の 上 衣 を 小 母さん に 乾かして もらう ように たのみ 、竹一 を 二 階 の 自分 の 部屋 に 誘い込む の に 成功 しました。 |じぶん||ある|ひ||ほうかご||しょか||ころ||こと||ゆうだち|||しろく|ふって|せいと|||きたく||こまって||||じぶん||いえ|||ちかく|||へいきで|がい||とびだそう||||げた|はこ||||たけいち|||たって||||みつけ|いこう|かさ||かして|||いい|おくする|たけいち||て||ひっぱって|いっしょに|ゆう|たち||なか||はしり|いえ||ついて|ふた|じん||うえ|ころも||しょう|かあさん||かわかして||||たけいち||ふた|かい||じぶん||へや||さそいこむ|||せいこう|し ました One day after school, in early summer, a white evening shower was falling and the students were having trouble getting home, but I was about to run out without a care because my house was just around the corner, when I suddenly found Takeichi standing by the shadow of the shoe box, looking down at himself and saying, "Let's go, I'll lend you my umbrella. He pulled Takeichi's timid hand and together they ran into the evening, arrived at the house, asked his mother to dry their coats, and succeeded in luring Takeichi upstairs to his room.

その 家 に は 、五十 すぎ の 小 母さん と 、三十 くらい の 、眼鏡 を かけて 、病身 らしい 背 の 高い 姉 娘 (この 娘 は 、いち ど よそ へ お 嫁 に 行って 、それ から また 、家 へ 帰って いる ひと でした。 |いえ|||ごじゅう|||しょう|かあさん||さんじゅう|||めがね|||びょうしん||せ||たかい|あね|むすめ||むすめ|||||||よめ||おこなって||||いえ||かえって||| In that house, there was an aunt in her fifties, and a tall older sister in her thirties who wore glasses and seemed to be sick. It was someone who had returned home. 自分 は 、この ひと を 、ここの 家 の ひと たち に ならって 、アネサ と 呼んで いました )それ と 、最近 女学校 を 卒業 した ばかり らしい 、セッ ちゃん と いう 姉 に 似 ず 背 が 低く 丸顔 の 妹 娘 と 、三 人 だけ の 家族 で 、下 の 店 に は 、文房具 やら 運動 用具 を 少々 並べて いました が 、主な 収入 は 、なくなった 主人 が 建てて 残して 行った 五六 棟 の 長屋 の 家賃 の ようでした。 じぶん|||||ここ の|いえ||||||||よんで|い ました|||さいきん|じょがっこう||そつぎょう||||||||あね||に||せ||ひくく|まるがお||いもうと|むすめ||みっ|じん|||かぞく||した||てん|||ぶんぼうぐ||うんどう|ようぐ||しょうしょう|ならべて|い ました||おもな|しゅうにゅう|||あるじ||たてて|のこして|おこなった|ごろく|むね||ながや||やちん|| I called this person Anesa after the people of this house.) Also, unlike my older sister, Set-chan, who seems to have just graduated from girls' school, she is short and round-faced. I was a family of three, my younger sister and daughter, and the store downstairs had a small selection of stationery and exercise equipment, but the main source of income was the rent of the five-six tenement houses that my late husband built and left behind. It was like

「耳 が 痛い」 みみ||いたい My ears hurt.

竹一 は 、立った まま で そう 言いました。 たけいち||たった||||いい ました

「雨 に 濡れたら 、痛く なった よ」 あめ||ぬれたら|いたく|| It hurts when it rains.

自分 が 、見て みる と 、両方 の 耳 が 、ひどい 耳 だれ でした。 じぶん||みて|||りょうほう||みみ|||みみ|| When I took a look myself, both ears were terribly dewy. 膿 うみ が 、いまにも 耳 殻 の 外 に 流れ出よう と して いました。 うみ||||みみ|から||がい||ながれでよう|||い ました The pus was about to flow out of the ear shell at any moment.

「これ は 、いけない。 痛い だろう」 いたい|

と 自分 は 大袈裟 おおげさに おどろいて 見せて、 |じぶん||おおげさ|||みせて

「雨 の 中 を 、引っぱり出したり して 、ごめん ね」 あめ||なか||ひっぱりだしたり||| I'm sorry I pulled you out in the rain.

と 女 の 言葉 みたいな 言葉 を 遣って 「優しく 」謝り 、それ から 、下 へ 行って 綿 と アルコール を もらって 来て 、竹一 を 自分 の 膝 ひざ を 枕 に して 寝かせ 、念入りに 耳 の 掃除 を して やりました。 |おんな||ことば||ことば||つかって|やさしく|あやまり|||した||おこなって|めん||あるこーる|||きて|たけいち||じぶん||ひざ|||まくら|||ねかせ|ねんいりに|みみ||そうじ|||やり ました 竹一 も 、さすが に 、これ が 偽善 の 悪 計 である こと に は 気 附 か なかった ようで、 たけいち||||||ぎぜん||あく|けい|||||き|ふ||| Even Takeichi didn't seem to realize that this was a hypocritical scheme.

「お前 は 、きっと 、女 に 惚 ほれられる よ」 おまえ|||おんな||ぼけ|ほれ られる| "I'm sure you'll fall in love with a woman."

と 自分 の 膝 枕 で 寝 ながら 、無 智 なお 世辞 を 言った くらい でした。 |じぶん||ひざ|まくら||ね||む|さとし||せじ||いった|| All I could say was ignorant flattery while lying on my knee pillow.

しかし これ は 、おそらく 、あの 竹一 も 意識 し なかった ほど の 、おそろしい 悪魔 の 予言 の ような もの だった と いう 事 を 、自分 は 後年 に 到って 思い知りました。 |||||たけいち||いしき||||||あくま||よげん|||||||こと||じぶん||こうねん||とう って|おもいしり ました However, I came to realize later in life that this was probably a kind of terrifying prophecy of the devil that even Takeichi was unaware of. 惚れる と 言い 、惚れられる と 言い 、その 言葉 は ひどく 下品で 、ふざけて 、いかにも 、やに さがった もの の 感じ で 、どんなに 所 謂 「厳粛 」の 場 であって も 、そこ へ この 言葉 が 一言 でも ひょいと 顔 を 出す と 、みるみる 憂鬱 の 伽藍 がらん が 崩壊 し 、ただ のっぺらぼう に なって しまう ような 心地 が する もの です けれども 、惚れられる つら さ 、など と いう 俗語 で なく 、愛せられる 不安 、と でも いう 文学 語 を 用いる と 、あながち 憂鬱 の 伽藍 を ぶちこわす 事 に は なら ない ようです から 、奇妙な もの だ と 思います。 ほれる||いい|ほれ られる||いい||ことば|||げひんで|||||||かんじ|||しょ|い|げんしゅく||じょう||||||ことば||いちげん|||かお||だす|||ゆううつ||がらん|||ほうかい||||||||ここち||||||ほれ られる||||||ぞくご|||あいせ られる|ふあん||||ぶんがく|ご||もちいる|||ゆううつ||がらん|||こと|||||||きみょうな||||おもい ます Say you'll fall in love, say you'll fall in love, and those words are terribly vulgar, playful, and have a really snobbish feel to them, and no matter how so-called 'solemn' the place is, just one word is there. But when I show my face, the cathedral of melancholy collapses in an instant, and I feel like I'm just empty-handed. I think it's strange, because using that literary term doesn't seem like you're going to destroy the cathedral of melancholy.

竹一 が 、自分 に 耳 だれ の 膿 の 仕末 を して もらって 、お前 は 惚れられる と いう 馬鹿な お世辞 を 言い 、自分 は その 時 、ただ 顔 を 赤らめて 笑って 、何も 答えません でした けれども 、しかし 、実は 、幽 かすか に 思い当る ところ も あった のでした。 たけいち||じぶん||みみ|||うみ||しまつ||||おまえ||ほれ られる|||ばかな|おせじ||いい|じぶん|||じ||かお||あからめて|わらって|なにも|こたえ ませ ん||||じつは|ゆう|||おもいあたる|||| Takeichi asked him to clean up the pus in his ear, and said a silly flattery that he would fall in love with him. I did, but, in fact, I had a faint recollection of it. でも 、「惚れられる 」と いう ような 野 卑 な 言葉 に 依って 生じる や に さがった 雰囲気 ふんいき に 対して 、そう 言わ れる と 、思い当る ところ も ある 、など と 書く の は 、ほとんど 落語 の 若 旦那 の せりふ に さえ なら ぬ くらい 、おろか しい 感 懐 を 示す ような もの で 、まさか 、自分 は 、そんな ふざけた 、やに さがった 気持 で 、「思い当る ところ も あった 」わけで は 無い のです。 |ほれ られる||||の|ひ||ことば||よって|しょうじる||||ふんいき|||たいして||いわ|||おもいあたる||||||かく||||らくご||わか|だんな||||||||||かん|ふところ||しめす|||||じぶん||||||きもち||おもいあたる||||||ない|

自分 に は 、人間 の 女性 の ほう が 、男性 より も さらに 数 倍 難解でした。 じぶん|||にんげん||じょせい||||だんせい||||すう|ばい|なんかいでした 自分 の 家族 は 、女性 の ほう が 男性 より も 数 が 多く 、また 親戚 に も 、女の子 が たくさん あり 、また れい の 「犯罪 」の 女 中 など も い まして 、自分 は 幼い 時 から 、女 と ばかり 遊んで 育った と いって も 過言 で は ない と 思って います が 、それ は 、また 、しかし 、実に 、薄氷 を 踏む 思い で 、その 女 の ひと たち と 附合って 来た のです。 じぶん||かぞく||じょせい||||だんせい|||すう||おおく||しんせき|||おんなのこ|||||||はんざい||おんな|なか|||||じぶん||おさない|じ||おんな|||あそんで|そだった||||かごん|||||おもって|い ます||||||じつに|はくひょう||ふむ|おもい|||おんな|||||ふごう って|きた| ほとんど 、まるで 見当 が 、つか ない のです。 ||けんとう|||| Almost as if I had no clue. 五里霧中 で 、そうして 時たま 、虎 の 尾 を 踏む 失敗 を して 、ひどい 痛手 を 負い 、それ が また 、男性 から 受ける 笞 むち と ちがって 、内出血 みたいに 極度に 不快に 内 攻 して 、なかなか 治癒 ちゆ し 難い 傷 でした。 ごりむちゅう|||ときたま|とら||お||ふむ|しっぱい||||いたで||おい||||だんせい||うける|ち||||ないしゅっけつ||きょくどに|ふかいに|うち|おさむ|||ちゆ|||かたい|きず| In the midst of the fog, I sometimes made a mistake stepping on the tiger's tail and suffered a terrible injury. It was a wound that was difficult to heal.

女 は 引き寄せて 、つっ放す 、或いは また 、女 は 、人 の いる ところ で は 自分 を さげすみ 、邪 慳 じゃけんに し 、誰 も い なく なる と 、ひしと 抱きしめる 、女 は 死んだ ように 深く 眠る 、女 は 眠る ため に 生きて いる ので は ない かしら 、その他 、女 に 就いて の さまざまの 観察 を 、すでに 自分 は 、幼年 時代 から 得て いた のです が 、同じ 人類 の ようであり ながら 、男 と は また 、全く 異った 生きもの の ような 感じ で 、そうして また 、この 不可解で 油断 の なら ぬ 生きもの は 、奇妙に 自分 を かまう のでした。 おんな||ひきよせて|つ っぱなす|あるいは||おんな||じん||||||じぶん|||じゃ|けん|||だれ|||||||だきしめる|おんな||しんだ||ふかく|ねむる|おんな||ねむる|||いきて||||||そのほか|おんな||ついて|||かんさつ|||じぶん||ようねん|じだい||えて||||おなじ|じんるい||||おとこ||||まったく|い った|いきもの|||かんじ|||||ふかかいで|ゆだん||||いきもの||きみょうに|じぶん||| A woman pulls and lets go, or else, a woman despises and hates herself when there are people around, hugs tightly when no one is around, a woman sleeps as deeply as the dead, I wonder if women live to sleep, and other observations I have made about women since I was a child. It also felt like an entirely different creature, and so, too, did this mysterious and insidious creature peek at itself strangely. 「惚れられる 」なんて いう 言葉 も 、また 「好か れる 」と いう 言葉 も 、自分 の 場合 に は ちっとも 、ふさわしく なく 、「かまわ れる 」と でも 言った ほう が 、まだしも 実 状 の 説明 に 適して いる かも 知れません。 ほれ られる|||ことば|||すか||||ことば||じぶん||ばあい||||||||||いった||||み|じょう||せつめい||てきして|||しれ ませ ん