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三姉妹探偵団 3 珠美・初恋篇, 三姉妹探偵団 3 Chapter 08

三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 08

8 珠美 の 人形

「 珠美 ったら 、 全く ──」

夕 里子 は 、 マンション の ロビー へ 入り ながら 、 ブツブツ 文句 を 言って いた 。

独り言 である 。

帰り に 待ち合せて いた と いう のに 、 一 時間 以上 待って も 、 珠美 が やって 来 なかった のである 。

「 来 られ なきゃ 、 電話 の 一 本 ぐらい かけて 来りゃ いい の よ !

エレベーター の 中 でも 、 まだ グチ が 出る 。

── 玄関 を 入って 、 夕 里子 は 、 あれ 、 と 思った 。

男 もの の 靴 。

── はき 古 して 、 大分 くたびれて いる 。 これ は きっと ……。

「 お 帰り 」

国 友 が 、 顔 を 覗か せた 。

「 国 友 さん !

忙しい んじゃ ない の ? 「 忙しい けど 、 ちょっと 寄る ぐらい の ヒマ は ある よ 」

「 そう 。

でも ──」

夕 里子 は 、 やっと 気付いた 。

勇一 が ここ に いる んだ !

「 あら 、 夕 里子 、 珠美 と 一緒じゃ なかった の ?

台所 に 立って いる 綾子 が 訊 いた 。

「 それ が 、 待ち惚け で ……。

お 姉さん 」

「 何 よ ?

夕 里子 は 、 国 友 が 居間 に いる の を 確かめて 、 急いで 綾子 の そば へ 行った 。

「 あの 子 は ?

と 、 押し殺した 声 で 訊 く 。

「 あの 子 って ?

「 ほら 、 有田 勇一 よ 」

「 ああ 、 有田 勇一 ね 」

「 しっ !

と 、 あわてて 言って 、「 どうした の ?

隠れて る の ? 「 い なかった わ よ 。

帰って 来た とき は 」

「 い なかった ?

「 そう 。

出かけた んじゃ ない ? 夕 里子 は ホッ と して 、 息 を ついた 。

何しろ 綾子 は 、 勇一 が ご飯 を 食べて いたって 平気で 国 友 を 食堂 へ 通す ぐらい の こと は やり かね ない のだ 。

しかし 、 勇一 は どこ へ 出かけた のだろう ?

手配 さ れて いる の は 分 って いる のに 。

「 国 友 さん 、 ご飯 食べて 行く って 。

夕 里子 、 手伝って よ 」

「 うん 。

いい わ よ 」

── 手早く 料理 を 作る の は 、 夕 里子 の 十八 番 。

もっとも 、 味 の 方 は 保証 の 限り で ない 。

しかし 、 食べた 国 友 は 、

「 旨 い !

と 絶賛 して いた 。

「── じゃ 、 珠美 と 会った の ?

食事 し ながら 、 夕 里子 は 国 友 の 話 に 、 ちょっと けげんな 表情 に なった 。

「 うん 。

待って る はずだった が 、 戻って みる と 、 もう い なくて ね 。 出 棺 まで いた けど 、 結局 帰って 来 なかった んだ 」

「 変 ね 。

どこ へ 行った の かしら 」

「 てっきり 先 に 帰った んだ と 思った けど ね 」

「 でも 、 待ち合せ の 店 に 来 なかった の よ 」

夕 里子 は 首 を かしげた 。

もちろん 、 珠美 とて 、 少々 いい加減な ところ は ある 。

いや 、 少々 で は なく 、「 かなり 」 かも しれ ない 。

しかし 、 待って いる と 言って おいて 、 い なく なる と か 、 待ち合せ を す っぽ かす と か ── そんな こと を する の は 、 いかにも 珠美 らしく ない こと であった 。

「 事故 に でも 遭った の かしら 」

と 、 綾子 が 言い 出した 。

「 まさか 。

── そんな こと ない わ よ 」

「 僕 が 早く 戻って りゃ 良かった んだ が ……」

「 もし ── 車 に でも はね られて ……」

綾子 は 、 青く なって 来た 。

「 どう しよう ! パパ が い ない って いう のに 、 留守 を 守る 責任 は 私 に ある のに 、 万一 の こと が あったら ……。 珠美 は まだ 十五 な の よ 。 十五 歳 の 若 さ で 死ぬ なんて ……」

綾子 は シクシク 泣き 出した 。

「 もう ── お 姉さん たら 、 勝手に 想像 して 泣か ないで よ 」

夕 里子 は 、 ため息 を ついた 。

「 大丈夫 。

珠美 君 は しっかり者 だ 。 滅多な こと が ある もん か 」

と 、 国 友 が 力づける ように 言った 。

「── 本当に そう 思う ?

綾子 が 赤く なった 目 で 国 友 を 見る 。

「 ああ !

決 って る さ 」

と 、 力強く 肯 く 国 友 に 、 安心 した の か 、

「 じゃ 、 きっと 何でもない わ ね 」

綾子 は パクパク と ご飯 を 食べ 始めた 。

夕 里子 も 、 これ に は 呆れる しか なかった ……。

と 、 そこ へ チャイム が 鳴る 。

「 珠美 だ わ !

全く 、 人騒がせな んだ から 」

夕 里子 は 、 席 を 立って 玄関 へ 出て 行った 。

「── 何 やって た の よ 」

と 、 ドア を 開けて ……。

立って いた の は 珠美 で は なかった 。

「 や あ 、 恋 が たき さん 」

いとも 可愛い ワンピース に 、 毛皮 の ハーフコート を ヒョイ と は おって 立って いる の は 、 あの 、 杉 下 ルミ だった 。

「 あんた な の 」

と 、 夕 里子 は 顔 を しかめた 。

「 国 友 さん 、 ここ でしょ ?

「 だったら 何 だって の よ 」

「 会い たい の 」

「 へえ 。

── じゃ 、 待って なさい 」

夕 里子 が ツンと して 言った 。

国 友 の 方 が 、 声 を 聞き つけて 出て 来る 。

「 また 君 か 」

「 悪かった わ ねえ 。

お 二 人 で 愛し 合って た の ? と 、 ルミ は にっこり 笑った 。

「 晩 ご飯 よ 」

と 、 夕 里子 が 言った 。

「 国 友 さん に 話 が ある の なら 、 言えば ? 「 うん 。

── ねえ 、 私 の 国 友 さん 。 今夜 、 パーティ が ある の 。 行か ない ? 「 今 、 殺人 事件 の 捜査 の 最中 だ ぞ 。

遊んで る 時間 は ない んだ 」

「 あら 、 この 子 と なら 遊んで て も いい の ?

「 夕食 を ごちそう に なって る だけ さ 」

「 だったら 、 私 と 行った 方 が 、 よっぽど おいしい もの 、 食べ られる わ よ 」

夕 里子 は カチン と 来て 、

「 私 の 料理 が まずい って 言い たい の ?

と 、 腕組み を した 。

「 あら 怖い 。

女 組長 って 感じ ね 」

「 いい加減に して くれ よ 」

と 、 国 友 は うんざり した 様子 で 、「 君 は 誰 か 他の ボーイフレンド を 捜して 行く んだ ね 、 その パーティ と やら に 」

「 残念だ なあ 」

「 じゃ 、 バイバイ 」

夕 里子 が ドア を 閉めよう と する と 、 ルミ が 言った 。

「 妹 さん 、 心配 ね 」

── 夕 里子 は 、 また ドア を 開けた 。

「 あんた 、 今 、 何て 言った ?

「 妹 よ 、 あんた の 。

まだ 帰って ない んでしょ ? と ルミ が 得意 げ に 言った 。

「 どうして 知って る の ?

「 私 、 見た んだ もん 」

「 何 を ?

「 さあ ねえ ……。

もう 忘れちゃ った なあ ……」

と 、 ルミ が とぼける 。

「 ちょっと 、 あんた ──」

夕 里子 が 顔色 を 変えて 、「 何 か 知って る の なら 、 言い なさい よ !

「 人 に もの を 訊 く とき は 、 もっと 丁寧に 言う もん よ 」

夕 里子 は 、 怒り で 真 赤 に なった 。

「 おい 、 君 」

と 、 国 友 が 見 かねて 、「 何 だい 、 一体 ?

もったいぶら ず に 言えよ 」

「 国 友 さん の 頼み なら 、 聞いちゃ う 」

ルミ は ニヤニヤ して 、「 今日 も 、 国 友 さん の 後 を 尾 け て た の 」

「 昼間 から ?

「 そう よ 。

── お 葬式 に 行った でしょ 」

「 ああ 」

「 で 、 ここ の 妹 と しゃべって た でしょ 。

学校 で 顔 見て る から 、 分 る もん 」

「 珠美 君 だ よ 」

「 それ で 、 国 友 さん 、 電話 かけ に 行って ── 戻って みる と 、 もう 、 あの 子 は い なかった 。

── ね ? 「 そう だ よ 。

君 、 何 か 見て た の か ? 「 うん 。

あの 子 、 車 に 押し 込ま れて 連れ 去ら れた の よ 」

「 何で すって ?

夕 里子 が 目 を 見張った 。

「 それ ── 本当な の ? 「 信じ ない なら いい わよう 」

と 、 ルミ は 口 を 尖ら せて 、「 せっかく 人 が 親切に 教えて あげて る のに 」

「 連れ 去ら れた って 、 無理に って こと か ?

と 、 国 友 が 訊 いた 。

「 でしょう ね 。

男 と 女 の 二 人 連れだった 。 車 は ね 、 ビュイック 」

「 ビュイック ?

高級 車 だ な 」

「 そう ね 。

── あんた の とこ 、 お 金持 ? 「 うち が ?

まさか 」

「 じゃ 、 身代金 、 払え ない わ ね 」

夕 里子 と 国 友 は 顔 を 見合わせた 。

その とき ── ドシン 、 と いう 音 が 、 夕 里子 の 背後 で 聞こえた 。

振り向く と 、 綾子 が 倒れて いる 。

「 話 を 聞いちゃ った んだ わ 」

と 、 夕 里子 が 言った 。

「 ショック で 失神 した の よ 」

「 いい かい 、 君 」

と 、 国 友 が ルミ に 言った 。

「 よく 聞く んだ 。 もし これ が 冗談 だったら 、 僕 は 許さ ない ぞ 」

「 本当 よ 。

信じて 」

「── 分 った 」

と 、 国 友 は 肯 いた 。

「 車 の 色 は ? 「 青 ね 。

メタリック の 」

「 ナンバー 、 見た かい ?

「 そこ まで 憶 えて らん ない わ 。

私 、 カメラ じゃ ない もん 」

と 、 ルミ は 言った 。

「 一 桁 か 二 桁 で も いい んだ 」

「 だめ 。

忘れた 」

「 そう か 。

── しかし 、 そう 沢山 ある 車 じゃ ない から 」

「 国 友 さん 、 すぐ 調べて くれる ?

と 、 夕 里子 が 、 綾子 を 介抱 し ながら 言った 。

「 もちろん だ 。

電話 を 借りる よ 」

と 、 国 友 が 、 居間 の 方 へ 行き かける と 、

「 国 友 さん !

と 、 ルミ が 呼び止めた 。

「 パーティ に 行こう よ 」

「 それ どころ じゃ ないだ ろ !

誘拐 事件 だ と したら 大変だ 」

「 パーティ へ 来て る かも よ 」

「 誰 が ?

「 その ビュイック 」

国 友 は 、 目 を パチクリ さ せた 。

「 どういう 意味 だい ?

「 私 、 見 憶 え が ある の 。

あの 車 。 ── ちょっと 変った ステッカー 貼って あって ね 」

「 それ と パーティ と ──」

「 関係 ある の よ 。

うち みたいな 上流 家庭 に は ね 、 よく パーティ の 案内 が 来る わ 。 たいてい は つま ん なくて 行か ない んだ けど 、 今夜 の パーティ は 二 ヵ 月 に 一 回 、 定期 的に あって ね 、 割と 楽しい の 。 前 、 この パーティ に 行った とき 、 駐車 場 で 、 あの ビュイック を 見た の よ 」

「── 確か かい ?

「 百 パーセント と は 言わ ない けど 、 たぶん 確か よ 」

と 、 ルミ は 肯 いた 。

「 あそこ の 客 は たいてい 定 連 。 今夜 も 来て る んじゃ ない か な 」

夕 里子 は 、 綾子 を 寝か せた まま 、 立ち上って 、

「 私 も 行く わ 」

と 言った 。

「 だめ よ 。

だって 、 男女 の カップル で ない と いけない んだ もん 」

と ルミ が 言った 。

「 私 は 国 友 さん と 行く わ 。 あんた 、 誰 か ボーイフレンド いる の ? 夕 里子 は ぐっと 詰った 。

ボーイフレンド の 一 人 や 二 人 ── と 言い たい が 、 いやし ない のである 。

「 何とか ── 見付ける わ よ 」

「 無理じゃ ない ?

今 すぐ 見付けよう った って 」

ルミ は 楽し げに 言った 、「 ね 、 国 友 さん 、 出かけ ま しょ 」

その とき だった 。

── タッタッ と 足音 が した と 思う と 、 玄関 へ 入って 来た の は ……。

「 おお 寒い !

こごえ ち まう よ 」

と 、 勇一 が 身震い して ── 国 友 に 気付いた 。

「 あ ……」

「 お前 ──」

国 友 が 啞然 と した 。

「 有田 勇一 だ な ! 「 待って !

夕 里子 が 間 に 飛び 込んだ 。

「 ね 、 待って ! 国 友 さん !

今 は 見逃して 」

「 だけど ──」

「 私 、 この 子 と パーティ に 行く 」

「 何 だって ?

「 今 は 珠美 の 方 が 大事 。

── ね ? 分 って ちょうだい ! 「 それ は …… まあ 、 そう だ けど ……」

「 説明 は 後 で する わ !

ね 、 あんた も 上って ! パパ の 服 を 着る の よ 」

と 、 勇一 を 引 張り上げる 。

「 おい 、 何 だ よ !

勇一 は 、 わけ が 分 ら ず 、 前 へ つんのめり そうに なり ながら 、 奥 へ と 入って 行った 。

眠い ……。

頭 が 重い 。

── 珠美 は 、 やっと の 思い で 、 目 を 開けた 。

あー あ 。

どう しちゃ った んだ ろ ?

どこ か に 寝て いる 。

── うち じゃ ない みたい 。 天井 が 違う 。

それ に ── いやに 大きな ベッド ……。

「 どう なって ん の ?

と 、 呟いて 、 ゆっくり と 起き上る 。

何 か 、 いやに ガサゴソ と 音 が する 服 で ……。

「── 何 よ 、 これ !

一気に 目 が さめて しまった 。

珠美 が 着て いる の は ── どう 見た って 、 自分 の 服 じゃ なかった 。

制服 で も ない 。

だって …… まるで フランス 人形 みたいな 、 と いう か 、 TV で アイドル 歌手 が 着る ぐらい しか 使い よう の ない 、 フワッ と 広がった 、 やたらに 飾り の ついた 真 白 な ドレス を 着て いる のである 。

「 私 ── これ 、 夢 じゃ ない の ?

珠美 は ポカン 、 と 拳 で 頭 を 殴った 。

「 いて て ! 現実 らしい 。

しかし 、 どうして こんな 格好 を ?

「 あ 、 そう だ !

やっと 思い出した 。

あの 小 峰 の 秘書 と か いう 井口 と いう 男 、 それ に 草間 由美子 と 、 車 に 乗って た んだ 。

そして 、 ジュース を 飲んだ 。

「 薬 が 入って た んだ !

今に なって 悔し がって も 遅い が 、 それにしても ……。

何 だろう 、 これ は ?

部屋 そのもの は 、 重厚な 英国 風 の 調度 の 、 豪華な 寝室 と いう 趣 だった 。

寝て いた ベッド も 、 それ に ふさわしい 、 大きな サイズ の もの で 、 寝心地 は 悪く ない 。

しかし 、 この 衣裳 ……。

これ ばっかり は 、 いただけ ない !

「 野暮ったい なあ 」

と 、 ブツクサ 言って いる と 、 ドア が 開いた 。

「 や あ 、 目 が 覚めた か 」

井口 である 。

「 どういう こと です か 、 これ ?

と 、 珠美 は 、 井口 を にらんだ 。

「 いや 、 悪かった 。

しかし 、 その 服 は 、 きっと 君 の 趣味 じゃ ない か と 思った んで ね 」

と 、 井口 は 平然と して いる 。

「 こんな の 、 悪 趣味 です 」

「 その 通り 。

しかし 、 小峰 様 の 趣味 で ね 」

珠美 は 、 ちょっと ゾッと した 。

「── 私 に どう しろ って いう んです か ?

「 君 は 何も し ない 」

と 、 井口 は 言った 。

「 何も ?

「 でき ない の さ 。

人形 だ から な 」

「 人形 って ── 私 が ?

「 そう 。

まあ 、 一種 の ゲーム だ な 」

珠美 は 、 ちょっと 怖く なった 。

考えて みれば 、 この 服 を 着せ られた と いう こと は 、 その 前 に 、 服 を 脱 が さ れて いる のだ 。

「── 変な こと する んじゃ ない でしょう ね ?

「 それ は 、 君 が 誰 に もらわ れて 行く か に よる な 」

「 もらわ れて ?

どういう こと ? 「 君 は ね 、 賞品 な んだ 」

「── 馬鹿げて る わ !

「 まあ 、 それ は 事実 だ ね 。

しかし 、 小峰 様 は 、 君 を すっかり お 気 に 入り だ 。 本当 は 手 もと に 置いて おき たい らしい 」

「 私 、 人間 よ !

「 あと 三十 分 くらい したら 、 呼び に 来る よ 」

と 、 井口 は 言って 、 出て 行った 。

「 待って ──」

珠美 は ドア へ 向 って 駆け 出した が 、 まだ 薬 の ききめ が 残って いる の か 、 途中 で 足 が もつれて 、 ひっくり返って しまった 。

ドア が 、 カチリ と 閉じる 。

立ち上って 、 ドア まで 行って みた が 、 鍵 が かかって いた 。

部屋 の 中 を 見 回した が 、 窓 が 一 つ も ない のだ 。

これ じゃ 、 出 られ や し ない 。

「 参った なあ ……」

珠美 は 、 何だか 信じ られ なかった 。

まだ 夢 を 見て る んじゃ ない か 、 と いう 気 が して ……。

── あの 小峰 って いう 人 、 少し おかしい んだ わ 。

見た ところ は 紳士 な のに 。

勇一 の 母親 も 、 父親 が 少し 変だ と 知って 、 堪え られ なくて 、 出て 行った の かも しれ ない 。

だけど 、 差し当り 、 そんな こと が 分 って も 仕方ない 。

何とか して 、 出 なきゃ !

人形 だの 、 賞品 だ の って 、 冗談 じゃ ない わ 。

こ ち と ら 、 そんな 遊び に 付き合って る ヒマ は ない んだ から 。

珠美 は 、 部屋 の 中 を 隅 から 隅 まで 、 見て 回った 。

どこ か 、 出 られる 所 、 逃げ 出せる 手がかり で も ない か 、 と ……。

しかし 、 むだだった 。

くたびれて 、 ベッド に 引っくり返る 。

どれ くらい 眠って た の かしら ?

お腹 の 空き 具合 から いく と 、 たぶん まだ 夜 ……。

真 夜中 に は なって い ない だろう 。

それにしても ── 一体 、 女の子 に こんな 格好 を さ せて 、 どう しよう って いう の かしら ?

この 衣裳 の 可愛らし さ 、 靴 から ブレスレット から 、 総 て 、 イメージ を 統一 した この スタイル が 、 却って 、 薄気味悪い 。

「 国 友 さん でも 助け に 来 ない か なあ 」

と 、 珠美 は 呟いた 。

「 私 の 貯金 全部 ── いえ 、 半分 か 三 分 の 一 ぐらい なら 、 あげる んだ けど ……」

── どこ から か 、 にぎやかな 音楽 が 流れて 来た 。


三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 08 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter Three Sisters Detectives 3 Chapter 08

8  珠美 の 人形 たまみ||にんぎょう 8 Tamami doll

「 珠美 ったら 、 全く ──」 たまみ||まったく "Beautiful, totally -"

夕 里子 は 、 マンション の ロビー へ 入り ながら 、 ブツブツ 文句 を 言って いた 。 ゆう|さとご||まんしょん||ろびー||はいり||ぶつぶつ|もんく||いって|

独り言 である 。 ひとりごと|

帰り に 待ち合せて いた と いう のに 、 一 時間 以上 待って も 、 珠美 が やって 来 なかった のである 。 かえり||まちあわせて|||||ひと|じかん|いじょう|まって||たまみ|||らい||

「 来 られ なきゃ 、 電話 の 一 本 ぐらい かけて 来りゃ いい の よ ! らい|||でんわ||ひと|ほん|||くりゃ|||

エレベーター の 中 でも 、 まだ グチ が 出る 。 えれべーたー||なか|||||でる

── 玄関 を 入って 、 夕 里子 は 、 あれ 、 と 思った 。 げんかん||はいって|ゆう|さとご||||おもった

男 もの の 靴 。 おとこ|||くつ

── はき 古 して 、 大分 くたびれて いる 。 |ふる||だいぶ|| これ は きっと ……。

「 お 帰り 」 |かえり

国 友 が 、 顔 を 覗か せた 。 くに|とも||かお||のぞか|

「 国 友 さん ! くに|とも|

忙しい んじゃ ない の ? いそがしい||| 「 忙しい けど 、 ちょっと 寄る ぐらい の ヒマ は ある よ 」 いそがしい|||よる|||ひま|||

「 そう 。

でも ──」

夕 里子 は 、 やっと 気付いた 。 ゆう|さとご|||きづいた

勇一 が ここ に いる んだ ! ゆういち|||||

「 あら 、 夕 里子 、 珠美 と 一緒じゃ なかった の ? |ゆう|さとご|たまみ||いっしょじゃ||

台所 に 立って いる 綾子 が 訊 いた 。 だいどころ||たって||あやこ||じん|

「 それ が 、 待ち惚け で ……。 ||まちぼうけ|

お 姉さん 」 |ねえさん

「 何 よ ? なん|

夕 里子 は 、 国 友 が 居間 に いる の を 確かめて 、 急いで 綾子 の そば へ 行った 。 ゆう|さとご||くに|とも||いま|||||たしかめて|いそいで|あやこ||||おこなった

「 あの 子 は ? |こ|

と 、 押し殺した 声 で 訊 く 。 |おしころした|こえ||じん|

「 あの 子 って ? |こ|

「 ほら 、 有田 勇一 よ 」 |ありた|ゆういち|

「 ああ 、 有田 勇一 ね 」 |ありた|ゆういち|

「 しっ !

と 、 あわてて 言って 、「 どうした の ? ||いって||

隠れて る の ? かくれて|| 「 い なかった わ よ 。

帰って 来た とき は 」 かえって|きた||

「 い なかった ?

「 そう 。

出かけた んじゃ ない ? でかけた|| 夕 里子 は ホッ と して 、 息 を ついた 。 ゆう|さとご||ほっ|||いき||

何しろ 綾子 は 、 勇一 が ご飯 を 食べて いたって 平気で 国 友 を 食堂 へ 通す ぐらい の こと は やり かね ない のだ 。 なにしろ|あやこ||ゆういち||ごはん||たべて||へいきで|くに|とも||しょくどう||とおす||||||||

しかし 、 勇一 は どこ へ 出かけた のだろう ? |ゆういち||||でかけた|

手配 さ れて いる の は 分 って いる のに 。 てはい||||||ぶん|||

「 国 友 さん 、 ご飯 食べて 行く って 。 くに|とも||ごはん|たべて|いく|

夕 里子 、 手伝って よ 」 ゆう|さとご|てつだって|

「 うん 。

いい わ よ 」

── 手早く 料理 を 作る の は 、 夕 里子 の 十八 番 。 てばやく|りょうり||つくる|||ゆう|さとご||じゅうはち|ばん ── The reason why you cook quickly is Yutako Riko no. 18.

もっとも 、 味 の 方 は 保証 の 限り で ない 。 |あじ||かた||ほしょう||かぎり||

しかし 、 食べた 国 友 は 、 |たべた|くに|とも|

「 旨 い ! むね|

と 絶賛 して いた 。 |ぜっさん||

「── じゃ 、 珠美 と 会った の ? |たまみ||あった|

食事 し ながら 、 夕 里子 は 国 友 の 話 に 、 ちょっと けげんな 表情 に なった 。 しょくじ|||ゆう|さとご||くに|とも||はなし||||ひょうじょう||

「 うん 。

待って る はずだった が 、 戻って みる と 、 もう い なくて ね 。 まって||||もどって|||||| 出 棺 まで いた けど 、 結局 帰って 来 なかった んだ 」 だ|ひつぎ||||けっきょく|かえって|らい||

「 変 ね 。 へん|

どこ へ 行った の かしら 」 ||おこなった||

「 てっきり 先 に 帰った んだ と 思った けど ね 」 |さき||かえった|||おもった||

「 でも 、 待ち合せ の 店 に 来 なかった の よ 」 |まちあわせ||てん||らい|||

夕 里子 は 首 を かしげた 。 ゆう|さとご||くび||

もちろん 、 珠美 とて 、 少々 いい加減な ところ は ある 。 |たまみ||しょうしょう|いいかげんな|||

いや 、 少々 で は なく 、「 かなり 」 かも しれ ない 。 |しょうしょう||||||| No, it's not a bit, it may be "pretty".

しかし 、 待って いる と 言って おいて 、 い なく なる と か 、 待ち合せ を す っぽ かす と か ── そんな こと を する の は 、 いかにも 珠美 らしく ない こと であった 。 |まって|||いって|||||||まちあわせ||||||||||||||たまみ||||

「 事故 に でも 遭った の かしら 」 じこ|||あった||

と 、 綾子 が 言い 出した 。 |あやこ||いい|だした

「 まさか 。

── そんな こと ない わ よ 」

「 僕 が 早く 戻って りゃ 良かった んだ が ……」 ぼく||はやく|もどって||よかった||

「 もし ── 車 に でも はね られて ……」 |くるま||||

綾子 は 、 青く なって 来た 。 あやこ||あおく||きた

「 どう しよう ! パパ が い ない って いう のに 、 留守 を 守る 責任 は 私 に ある のに 、 万一 の こと が あったら ……。 ぱぱ|||||||るす||まもる|せきにん||わたくし||||まんいち|||| 珠美 は まだ 十五 な の よ 。 たまみ|||じゅうご||| 十五 歳 の 若 さ で 死ぬ なんて ……」 じゅうご|さい||わか|||しぬ|

綾子 は シクシク 泣き 出した 。 あやこ||しくしく|なき|だした

「 もう ── お 姉さん たら 、 勝手に 想像 して 泣か ないで よ 」 ||ねえさん||かってに|そうぞう||なか||

夕 里子 は 、 ため息 を ついた 。 ゆう|さとご||ためいき||

「 大丈夫 。 だいじょうぶ

珠美 君 は しっかり者 だ 。 たまみ|きみ||しっかりもの| 滅多な こと が ある もん か 」 めったな|||||

と 、 国 友 が 力づける ように 言った 。 |くに|とも||ちからづける||いった

「── 本当に そう 思う ? ほんとうに||おもう

綾子 が 赤く なった 目 で 国 友 を 見る 。 あやこ||あかく||め||くに|とも||みる

「 ああ !

決 って る さ 」 けっ|||

と 、 力強く 肯 く 国 友 に 、 安心 した の か 、 |ちからづよく|こう||くに|とも||あんしん|||

「 じゃ 、 きっと 何でもない わ ね 」 ||なんでもない||

綾子 は パクパク と ご飯 を 食べ 始めた 。 あやこ||||ごはん||たべ|はじめた

夕 里子 も 、 これ に は 呆れる しか なかった ……。 ゆう|さとご|||||あきれる|| Even Yuriko had no choice but to be amazed ...

と 、 そこ へ チャイム が 鳴る 。 |||ちゃいむ||なる

「 珠美 だ わ ! たまみ||

全く 、 人騒がせな んだ から 」 まったく|ひとさわがせな||

夕 里子 は 、 席 を 立って 玄関 へ 出て 行った 。 ゆう|さとご||せき||たって|げんかん||でて|おこなった

「── 何 やって た の よ 」 なん||||

と 、 ドア を 開けて ……。 |どあ||あけて

立って いた の は 珠美 で は なかった 。 たって||||たまみ|||

「 や あ 、 恋 が たき さん 」 ||こい||| "Oh, love comes Taki"

いとも 可愛い ワンピース に 、 毛皮 の ハーフコート を ヒョイ と は おって 立って いる の は 、 あの 、 杉 下 ルミ だった 。 |かわいい|わんぴーす||けがわ||||||||たって|||||すぎ|した|るみ|

「 あんた な の 」

と 、 夕 里子 は 顔 を しかめた 。 |ゆう|さとご||かお||

「 国 友 さん 、 ここ でしょ ? くに|とも|||

「 だったら 何 だって の よ 」 |なん|||

「 会い たい の 」 あい||

「 へえ 。

── じゃ 、 待って なさい 」 |まって|

夕 里子 が ツンと して 言った 。 ゆう|さとご||つんと||いった

国 友 の 方 が 、 声 を 聞き つけて 出て 来る 。 くに|とも||かた||こえ||きき||でて|くる

「 また 君 か 」 |きみ|

「 悪かった わ ねえ 。 わるかった||

お 二 人 で 愛し 合って た の ? |ふた|じん||あいし|あって|| と 、 ルミ は にっこり 笑った 。 |るみ|||わらった

「 晩 ご飯 よ 」 ばん|ごはん|

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 国 友 さん に 話 が ある の なら 、 言えば ? くに|とも|||はなし|||||いえば 「 うん 。

── ねえ 、 私 の 国 友 さん 。 |わたくし||くに|とも| 今夜 、 パーティ が ある の 。 こんや|ぱーてぃ||| 行か ない ? いか| 「 今 、 殺人 事件 の 捜査 の 最中 だ ぞ 。 いま|さつじん|じけん||そうさ||さい なか||

遊んで る 時間 は ない んだ 」 あそんで||じかん|||

「 あら 、 この 子 と なら 遊んで て も いい の ? ||こ|||あそんで||||

「 夕食 を ごちそう に なって る だけ さ 」 ゆうしょく|||||||

「 だったら 、 私 と 行った 方 が 、 よっぽど おいしい もの 、 食べ られる わ よ 」 |わたくし||おこなった|かた|||||たべ|||

夕 里子 は カチン と 来て 、 ゆう|さとご||||きて

「 私 の 料理 が まずい って 言い たい の ? わたくし||りょうり||||いい||

と 、 腕組み を した 。 |うでぐみ||

「 あら 怖い 。 |こわい

女 組長 って 感じ ね 」 おんな|くみちょう||かんじ|

「 いい加減に して くれ よ 」 いいかげんに|||

と 、 国 友 は うんざり した 様子 で 、「 君 は 誰 か 他の ボーイフレンド を 捜して 行く んだ ね 、 その パーティ と やら に 」 |くに|とも||||ようす||きみ||だれ||たの|ぼーいふれんど||さがして|いく||||ぱーてぃ|||

「 残念だ なあ 」 ざんねんだ|

「 じゃ 、 バイバイ 」

夕 里子 が ドア を 閉めよう と する と 、 ルミ が 言った 。 ゆう|さとご||どあ||しめよう||||るみ||いった

「 妹 さん 、 心配 ね 」 いもうと||しんぱい|

── 夕 里子 は 、 また ドア を 開けた 。 ゆう|さとご|||どあ||あけた

「 あんた 、 今 、 何て 言った ? |いま|なんて|いった

「 妹 よ 、 あんた の 。 いもうと|||

まだ 帰って ない んでしょ ? |かえって|| と ルミ が 得意 げ に 言った 。 |るみ||とくい|||いった

「 どうして 知って る の ? |しって||

「 私 、 見た んだ もん 」 わたくし|みた||

「 何 を ? なん|

「 さあ ねえ ……。

もう 忘れちゃ った なあ ……」 |わすれちゃ||

と 、 ルミ が とぼける 。 |るみ||

「 ちょっと 、 あんた ──」

夕 里子 が 顔色 を 変えて 、「 何 か 知って る の なら 、 言い なさい よ ! ゆう|さとご||かおいろ||かえて|なん||しって||||いい||

「 人 に もの を 訊 く とき は 、 もっと 丁寧に 言う もん よ 」 じん||||じん|||||ていねいに|いう||

夕 里子 は 、 怒り で 真 赤 に なった 。 ゆう|さとご||いかり||まこと|あか||

「 おい 、 君 」 |きみ

と 、 国 友 が 見 かねて 、「 何 だい 、 一体 ? |くに|とも||み||なん||いったい

もったいぶら ず に 言えよ 」 |||いえよ Say it without pity. "

「 国 友 さん の 頼み なら 、 聞いちゃ う 」 くに|とも|||たのみ||きいちゃ|

ルミ は ニヤニヤ して 、「 今日 も 、 国 友 さん の 後 を 尾 け て た の 」 るみ||||きょう||くに|とも|||あと||お||||

「 昼間 から ? ひるま|

「 そう よ 。

── お 葬式 に 行った でしょ 」 |そうしき||おこなった|

「 ああ 」

「 で 、 ここ の 妹 と しゃべって た でしょ 。 |||いもうと||||

学校 で 顔 見て る から 、 分 る もん 」 がっこう||かお|みて|||ぶん||

「 珠美 君 だ よ 」 たまみ|きみ||

「 それ で 、 国 友 さん 、 電話 かけ に 行って ── 戻って みる と 、 もう 、 あの 子 は い なかった 。 ||くに|とも||でんわ|||おこなって|もどって|||||こ|||

── ね ? 「 そう だ よ 。

君 、 何 か 見て た の か ? きみ|なん||みて||| 「 うん 。

あの 子 、 車 に 押し 込ま れて 連れ 去ら れた の よ 」 |こ|くるま||おし|こま||つれ|さら|||

「 何で すって ? なんで|

夕 里子 が 目 を 見張った 。 ゆう|さとご||め||みはった

「 それ ── 本当な の ? |ほんとうな| 「 信じ ない なら いい わよう 」 しんじ|||| "Do not believe it"

と 、 ルミ は 口 を 尖ら せて 、「 せっかく 人 が 親切に 教えて あげて る のに 」 |るみ||くち||とがら|||じん||しんせつに|おしえて|||

「 連れ 去ら れた って 、 無理に って こと か ? つれ|さら|||むりに|||

と 、 国 友 が 訊 いた 。 |くに|とも||じん|

「 でしょう ね 。

男 と 女 の 二 人 連れだった 。 おとこ||おんな||ふた|じん|つれだった 車 は ね 、 ビュイック 」 くるま|||

「 ビュイック ?

高級 車 だ な 」 こうきゅう|くるま||

「 そう ね 。

── あんた の とこ 、 お 金持 ? ||||かねもち 「 うち が ? "My house?"

まさか 」

「 じゃ 、 身代金 、 払え ない わ ね 」 |みのしろきん|はらえ|||

夕 里子 と 国 友 は 顔 を 見合わせた 。 ゆう|さとご||くに|とも||かお||みあわせた

その とき ── ドシン 、 と いう 音 が 、 夕 里子 の 背後 で 聞こえた 。 |||||おと||ゆう|さとご||はいご||きこえた At that time, the sound like Doshin heard behind Yuriko Yu.

振り向く と 、 綾子 が 倒れて いる 。 ふりむく||あやこ||たおれて|

「 話 を 聞いちゃ った んだ わ 」 はなし||きいちゃ|||

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 ショック で 失神 した の よ 」 しょっく||しっしん|||

「 いい かい 、 君 」 ||きみ

と 、 国 友 が ルミ に 言った 。 |くに|とも||るみ||いった

「 よく 聞く んだ 。 |きく| もし これ が 冗談 だったら 、 僕 は 許さ ない ぞ 」 |||じょうだん||ぼく||ゆるさ||

「 本当 よ 。 ほんとう|

信じて 」 しんじて

「── 分 った 」 ぶん|

と 、 国 友 は 肯 いた 。 |くに|とも||こう|

「 車 の 色 は ? くるま||いろ| 「 青 ね 。 あお|

メタリック の 」

「 ナンバー 、 見た かい ? なんばー|みた|

「 そこ まで 憶 えて らん ない わ 。 ||おく||||

私 、 カメラ じゃ ない もん 」 わたくし|かめら|||

と 、 ルミ は 言った 。 |るみ||いった

「 一 桁 か 二 桁 で も いい んだ 」 ひと|けた||ふた|けた||||

「 だめ 。

忘れた 」 わすれた

「 そう か 。

── しかし 、 そう 沢山 ある 車 じゃ ない から 」 ||たくさん||くるま|||

「 国 友 さん 、 すぐ 調べて くれる ? くに|とも|||しらべて|

と 、 夕 里子 が 、 綾子 を 介抱 し ながら 言った 。 |ゆう|さとご||あやこ||かいほう|||いった

「 もちろん だ 。

電話 を 借りる よ 」 でんわ||かりる|

と 、 国 友 が 、 居間 の 方 へ 行き かける と 、 |くに|とも||いま||かた||いき||

「 国 友 さん ! くに|とも|

と 、 ルミ が 呼び止めた 。 |るみ||よびとめた

「 パーティ に 行こう よ 」 ぱーてぃ||いこう|

「 それ どころ じゃ ないだ ろ !

誘拐 事件 だ と したら 大変だ 」 ゆうかい|じけん||||たいへんだ

「 パーティ へ 来て る かも よ 」 ぱーてぃ||きて|||

「 誰 が ? だれ|

「 その ビュイック 」

国 友 は 、 目 を パチクリ さ せた 。 くに|とも||め||||

「 どういう 意味 だい ? |いみ|

「 私 、 見 憶 え が ある の 。 わたくし|み|おく||||

あの 車 。 |くるま ── ちょっと 変った ステッカー 貼って あって ね 」 |かわった|すてっかー|はって||

「 それ と パーティ と ──」 ||ぱーてぃ|

「 関係 ある の よ 。 かんけい|||

うち みたいな 上流 家庭 に は ね 、 よく パーティ の 案内 が 来る わ 。 ||じょうりゅう|かてい|||||ぱーてぃ||あんない||くる| たいてい は つま ん なくて 行か ない んだ けど 、 今夜 の パーティ は 二 ヵ 月 に 一 回 、 定期 的に あって ね 、 割と 楽しい の 。 |||||いか||||こんや||ぱーてぃ||ふた||つき||ひと|かい|ていき|てきに|||わりと|たのしい| 前 、 この パーティ に 行った とき 、 駐車 場 で 、 あの ビュイック を 見た の よ 」 ぜん||ぱーてぃ||おこなった||ちゅうしゃ|じょう|||||みた||

「── 確か かい ? たしか|

「 百 パーセント と は 言わ ない けど 、 たぶん 確か よ 」 ひゃく|ぱーせんと|||いわ||||たしか|

と 、 ルミ は 肯 いた 。 |るみ||こう|

「 あそこ の 客 は たいてい 定 連 。 ||きゃく|||てい|れん 今夜 も 来て る んじゃ ない か な 」 こんや||きて|||||

夕 里子 は 、 綾子 を 寝か せた まま 、 立ち上って 、 ゆう|さとご||あやこ||ねか|||たちのぼって

「 私 も 行く わ 」 わたくし||いく|

と 言った 。 |いった

「 だめ よ 。

だって 、 男女 の カップル で ない と いけない んだ もん 」 |だんじょ||かっぷる||||||

と ルミ が 言った 。 |るみ||いった

「 私 は 国 友 さん と 行く わ 。 わたくし||くに|とも|||いく| あんた 、 誰 か ボーイフレンド いる の ? |だれ||ぼーいふれんど|| 夕 里子 は ぐっと 詰った 。 ゆう|さとご|||なじった

ボーイフレンド の 一 人 や 二 人 ── と 言い たい が 、 いやし ない のである 。 ぼーいふれんど||ひと|じん||ふた|じん||いい|||||

「 何とか ── 見付ける わ よ 」 なんとか|みつける||

「 無理じゃ ない ? むりじゃ|

今 すぐ 見付けよう った って 」 いま||みつけよう||

ルミ は 楽し げに 言った 、「 ね 、 国 友 さん 、 出かけ ま しょ 」 るみ||たのし|げ に|いった||くに|とも||でかけ||

その とき だった 。

── タッタッ と 足音 が した と 思う と 、 玄関 へ 入って 来た の は ……。 ||あしおと||||おもう||げんかん||はいって|きた|| ─ ─ When I thought that the sound of footsteps felt, what came into the entrance ... ....

「 おお 寒い ! |さむい

こごえ ち まう よ 」 It will go. "

と 、 勇一 が 身震い して ── 国 友 に 気付いた 。 |ゆういち||みぶるい||くに|とも||きづいた

「 あ ……」

「 お前 ──」 おまえ

国 友 が 啞然 と した 。 くに|とも||啞ぜん||

「 有田 勇一 だ な ! ありた|ゆういち|| 「 待って ! まって

夕 里子 が 間 に 飛び 込んだ 。 ゆう|さとご||あいだ||とび|こんだ

「 ね 、 待って ! |まって 国 友 さん ! くに|とも|

今 は 見逃して 」 いま||みのがして

「 だけど ──」

「 私 、 この 子 と パーティ に 行く 」 わたくし||こ||ぱーてぃ||いく

「 何 だって ? なん|

「 今 は 珠美 の 方 が 大事 。 いま||たまみ||かた||だいじ

── ね ? 分 って ちょうだい ! ぶん|| 「 それ は …… まあ 、 そう だ けど ……」

「 説明 は 後 で する わ ! せつめい||あと|||

ね 、 あんた も 上って ! |||のぼって パパ の 服 を 着る の よ 」 ぱぱ||ふく||きる||

と 、 勇一 を 引 張り上げる 。 |ゆういち||ひ|はりあげる

「 おい 、 何 だ よ ! |なん||

勇一 は 、 わけ が 分 ら ず 、 前 へ つんのめり そうに なり ながら 、 奥 へ と 入って 行った 。 ゆういち||||ぶん|||ぜん|||そう に|||おく|||はいって|おこなった Although Yuichi did not know the reason, he went into the back as it seemed to pull ahead.

眠い ……。 ねむい

頭 が 重い 。 あたま||おもい

── 珠美 は 、 やっと の 思い で 、 目 を 開けた 。 たまみ||||おもい||め||あけた

あー あ 。

どう しちゃ った んだ ろ ?

どこ か に 寝て いる 。 |||ねて|

── うち じゃ ない みたい 。 天井 が 違う 。 てんじょう||ちがう

それ に ── いやに 大きな ベッド ……。 |||おおきな|べっど

「 どう なって ん の ?

と 、 呟いて 、 ゆっくり と 起き上る 。 |つぶやいて|||おきあがる

何 か 、 いやに ガサゴソ と 音 が する 服 で ……。 なん|||||おと|||ふく|

「── 何 よ 、 これ ! なん||

一気に 目 が さめて しまった 。 いっきに|め|||

珠美 が 着て いる の は ── どう 見た って 、 自分 の 服 じゃ なかった 。 たまみ||きて|||||みた||じぶん||ふく||

制服 で も ない 。 せいふく|||

だって …… まるで フランス 人形 みたいな 、 と いう か 、 TV で アイドル 歌手 が 着る ぐらい しか 使い よう の ない 、 フワッ と 広がった 、 やたらに 飾り の ついた 真 白 な ドレス を 着て いる のである 。 ||ふらんす|にんぎょう|||||tv||あいどる|かしゅ||きる|||つかい||||||ひろがった||かざり|||まこと|しろ||どれす||きて||

「 私 ── これ 、 夢 じゃ ない の ? わたくし||ゆめ|||

珠美 は ポカン 、 と 拳 で 頭 を 殴った 。 たまみ||||けん||あたま||なぐった

「 いて て ! 現実 らしい 。 げんじつ|

しかし 、 どうして こんな 格好 を ? |||かっこう|

「 あ 、 そう だ !

やっと 思い出した 。 |おもいだした

あの 小 峰 の 秘書 と か いう 井口 と いう 男 、 それ に 草間 由美子 と 、 車 に 乗って た んだ 。 |しょう|みね||ひしょ||||いぐち|||おとこ|||くさま|ゆみこ||くるま||のって||

そして 、 ジュース を 飲んだ 。 |じゅーす||のんだ

「 薬 が 入って た んだ ! くすり||はいって||

今に なって 悔し がって も 遅い が 、 それにしても ……。 いまに||くやし|||おそい||

何 だろう 、 これ は ? なん|||

部屋 そのもの は 、 重厚な 英国 風 の 調度 の 、 豪華な 寝室 と いう 趣 だった 。 へや|その もの||じゅうこうな|えいこく|かぜ||ちょうど||ごうかな|しんしつ|||おもむき|

寝て いた ベッド も 、 それ に ふさわしい 、 大きな サイズ の もの で 、 寝心地 は 悪く ない 。 ねて||べっど|||||おおきな|さいず||||ねごこち||わるく|

しかし 、 この 衣裳 ……。 ||いしょう

これ ばっかり は 、 いただけ ない !

「 野暮ったい なあ 」 やぼったい|

と 、 ブツクサ 言って いる と 、 ドア が 開いた 。 ||いって|||どあ||あいた

「 や あ 、 目 が 覚めた か 」 ||め||さめた|

井口 である 。 いぐち|

「 どういう こと です か 、 これ ?

と 、 珠美 は 、 井口 を にらんだ 。 |たまみ||いぐち||

「 いや 、 悪かった 。 |わるかった

しかし 、 その 服 は 、 きっと 君 の 趣味 じゃ ない か と 思った んで ね 」 ||ふく|||きみ||しゅみ|||||おもった||

と 、 井口 は 平然と して いる 。 |いぐち||へいぜんと||

「 こんな の 、 悪 趣味 です 」 ||あく|しゅみ|

「 その 通り 。 |とおり

しかし 、 小峰 様 の 趣味 で ね 」 |こみね|さま||しゅみ||

珠美 は 、 ちょっと ゾッと した 。 たまみ|||ぞっと|

「── 私 に どう しろ って いう んです か ? わたくし|||||||

「 君 は 何も し ない 」 きみ||なにも||

と 、 井口 は 言った 。 |いぐち||いった

「 何も ? なにも

「 でき ない の さ 。

人形 だ から な 」 にんぎょう|||

「 人形 って ── 私 が ? にんぎょう||わたくし|

「 そう 。

まあ 、 一種 の ゲーム だ な 」 |いっしゅ||げーむ||

珠美 は 、 ちょっと 怖く なった 。 たまみ|||こわく|

考えて みれば 、 この 服 を 着せ られた と いう こと は 、 その 前 に 、 服 を 脱 が さ れて いる のだ 。 かんがえて|||ふく||ちゃくせ|||||||ぜん||ふく||だつ|||||

「── 変な こと する んじゃ ない でしょう ね ? へんな||||||

「 それ は 、 君 が 誰 に もらわ れて 行く か に よる な 」 ||きみ||だれ||||いく||||

「 もらわ れて ?

どういう こと ? 「 君 は ね 、 賞品 な んだ 」 きみ|||しょうひん||

「── 馬鹿げて る わ ! ばかげて||

「 まあ 、 それ は 事実 だ ね 。 |||じじつ||

しかし 、 小峰 様 は 、 君 を すっかり お 気 に 入り だ 。 |こみね|さま||きみ||||き||はいり| However, Mr. Komine quite likes you. 本当 は 手 もと に 置いて おき たい らしい 」 ほんとう||て|||おいて|||

「 私 、 人間 よ ! わたくし|にんげん|

「 あと 三十 分 くらい したら 、 呼び に 来る よ 」 |さんじゅう|ぶん|||よび||くる|

と 、 井口 は 言って 、 出て 行った 。 |いぐち||いって|でて|おこなった

「 待って ──」 まって

珠美 は ドア へ 向 って 駆け 出した が 、 まだ 薬 の ききめ が 残って いる の か 、 途中 で 足 が もつれて 、 ひっくり返って しまった 。 たまみ||どあ||むかい||かけ|だした|||くすり||||のこって||||とちゅう||あし|||ひっくりかえって|

ドア が 、 カチリ と 閉じる 。 どあ||||とじる

立ち上って 、 ドア まで 行って みた が 、 鍵 が かかって いた 。 たちのぼって|どあ||おこなって|||かぎ|||

部屋 の 中 を 見 回した が 、 窓 が 一 つ も ない のだ 。 へや||なか||み|まわした||まど||ひと||||

これ じゃ 、 出 られ や し ない 。 ||だ||||

「 参った なあ ……」 まいった|

珠美 は 、 何だか 信じ られ なかった 。 たまみ||なんだか|しんじ||

まだ 夢 を 見て る んじゃ ない か 、 と いう 気 が して ……。 |ゆめ||みて|||||||き||

── あの 小峰 って いう 人 、 少し おかしい んだ わ 。 |こみね|||じん|すこし|||

見た ところ は 紳士 な のに 。 みた|||しんし||

勇一 の 母親 も 、 父親 が 少し 変だ と 知って 、 堪え られ なくて 、 出て 行った の かも しれ ない 。 ゆういち||ははおや||ちちおや||すこし|へんだ||しって|こらえ|||でて|おこなった||||

だけど 、 差し当り 、 そんな こと が 分 って も 仕方ない 。 |さしあたり||||ぶん|||しかたない But, for the moment, there is no point in seeing such a thing.

何とか して 、 出 なきゃ ! なんとか||だ|

人形 だの 、 賞品 だ の って 、 冗談 じゃ ない わ 。 にんぎょう||しょうひん||||じょうだん|||

こ ち と ら 、 そんな 遊び に 付き合って る ヒマ は ない んだ から 。 |||||あそび||つきあって||ひま||||

珠美 は 、 部屋 の 中 を 隅 から 隅 まで 、 見て 回った 。 たまみ||へや||なか||すみ||すみ||みて|まわった

どこ か 、 出 られる 所 、 逃げ 出せる 手がかり で も ない か 、 と ……。 ||だ||しょ|にげ|だせる|てがかり|||||

しかし 、 むだだった 。

くたびれて 、 ベッド に 引っくり返る 。 |べっど||ひっくりかえる

どれ くらい 眠って た の かしら ? ||ねむって|||

お腹 の 空き 具合 から いく と 、 たぶん まだ 夜 ……。 おなか||あき|ぐあい||||||よ

真 夜中 に は なって い ない だろう 。 まこと|よなか||||||

それにしても ── 一体 、 女の子 に こんな 格好 を さ せて 、 どう しよう って いう の かしら ? |いったい|おんなのこ|||かっこう||||||||| Nevertheless, what is it supposed to do, let the girls take this look?

この 衣裳 の 可愛らし さ 、 靴 から ブレスレット から 、 総 て 、 イメージ を 統一 した この スタイル が 、 却って 、 薄気味悪い 。 |いしょう||かわいらし||くつ||||そう||いめーじ||とういつ|||すたいる||かえって|うすきみわるい

「 国 友 さん でも 助け に 来 ない か なあ 」 くに|とも|||たすけ||らい|||

と 、 珠美 は 呟いた 。 |たまみ||つぶやいた

「 私 の 貯金 全部 ── いえ 、 半分 か 三 分 の 一 ぐらい なら 、 あげる んだ けど ……」 わたくし||ちょきん|ぜんぶ||はんぶん||みっ|ぶん||ひと||||| "All my savings - no, if it is half or a third, I will give it ..."

── どこ から か 、 にぎやかな 音楽 が 流れて 来た 。 ||||おんがく||ながれて|きた