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三姉妹探偵団 3 珠美・初恋篇, 三姉妹探偵団 3 Chapter 07

三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 07

7 消えた 珠美

何だか お 葬式 づい てる わ ね 。

珠美 は 、 いささか うんざり した 気分 で 、 考えた 。

と いって 、 今日 の ところ は 仕方ない 。

何しろ 殺さ れた 丸山 の 葬儀 な のである 。

珠美 と して も 、「 容疑 者 」 である 勇一 を マンション に かくまって いる 立場 上 、 やはり 、 多少 の 関心 は あった 。

つまり 、 本当の 犯人 が 見付から ない 限り 、 有田 勇一 を 置いて おか なくて は なら ない から だ 。

いくら 珠美 が 勇一 の こと を 好きだ と して も 、 そこ まで 面倒 は 見 切れ ない 。

大体 、 父親 が 帰って 来たら 、 いやで も 勇一 に は 出て って もらう しか ない わけな のだ から ……。

警察 の 方 で は 、 勇一 を 手配 して 、 その後 は 全く 新しい 動き も なかった 。

「 や あ 、 珠美 君 」

と 、 声 が した 。

焼香 を 終って 、 中 に いる わけに も いか ず 、 外 に 出て 、 出 棺 を 待って いる ところ だった 。

── 寒い こと は 寒い が 、 陽 が 射 して いる ので 、 それなり に 快い 気候 である 。

「 あら 、 国 友 さん 」

珠美 は 、 逃亡 犯 を かくまって いる と は とても 思え ない 愛想 の 良 さ で 、 国 友 に 微笑み かけた 。

「 クラス の 全員 が 来て る の ?

と 、 国 友 は 訊 いた 。

「 うん 。

一応 ね 。 もう 帰った の も 沢山 いる 。 今日 は 土曜日 だ もん ね 」

「 殺人 事件 の 捜索 に は 休日 なんか ない よ 」

国 友 は 、 やや 悲壮な 面持ち で 言った 。

「 何 か 分 った の ?

「 いや 。

── 丸山 の 身辺 を 当って みた んだ が 、 あの 有田 信 子 と つながり が あった と いう 証拠 は 出て 来 なかった よ 」

「 捜査 が 手ぬるい んじゃ ない ?

「 や あ 、 こりゃ 叱ら れちゃ った な 」

と 、 国 友 は 苦笑 した 。

「 丸山 先生 を 殺した 犯人 の 方 は ?

「 有田 勇一 ?

まだ 足取り が つかめ ない んだ よ 」

と 、 国 友 は 首 を 振った 。

「 どこ へ 消え ち まった の か なあ 」

「 そう ねえ 」

珠美 は とぼけて 、「 もしかしたら 、 うち に でも 隠れて ん の かも しれ ない よ 」

「 そう だ な 。

夕 里子 君 なら 、 やり かね ない 」

と 、 国 友 は 笑い ながら 言った 。

「 でも ── その 子 が やった って いう の は 、 確かな の ?

「 夕 里子 君 と も 話した んだ 。

夕 里子 君 は 、 有田 勇一 が 刺した ところ を 見た わけじゃ ない 。 血 の ついた ナイフ を 持って 立って る ところ を 見た だけ だって ね 」

「 そう 。

じゃ 、 犯人 は 別に いる かも しれ ない って わけ ね ? 「 しかし 、 一応 、 何といっても 容疑 者 と して ナンバーワン だ から ね 」

「 あんまり ありがたく ない ナンバーワン ね 」

と 、 珠美 は 笑った 。

「── あ 、 いけない 。 お 葬式 な のに 」

「 まあ 、 確かに ね 」

と 、 国 友 は 肯 いて 、「 僕 も 有田 勇一 が やった の か どう か 、 まだ いささか 疑問 は 持って る んだ 」

しかし 、 国 友 は 何といっても 勇一 を 直接 は 知ら ない のだ 。

珠美 は 、 勇一 から 話 を 聞いて いた 。

もちろん 夕 里子 が 、 国 友 に 話 を した と いう の も 、 それ を 聞いて から の こと である 。

「── 俺 じゃ ない よ 」

夜中 に 目 を 覚ました 勇一 は 、 三 姉妹 を 前 に 、 はっきり 否定 した 。

「 もちろん 、 そう 言った って 、 信じちゃ くれ ない だろう けど な 」

「 言って み なきゃ 分 ら ない わ よ 」

と 、 夕 里子 が 言った 。

「 丸山 先生 を 、 あんた 知って た の ? 「 うん 。

前 に あの 学校 に いた とき 、 習って た から な 」

「 向 う も 憶 えて た かしら ?

「── どうか な 」

勇一 は 、 なぜ か ちょっと ためらって 、「 どっち に した って 、 あれ きり 会って ない んだ から ……」

夕 里子 は 、 少し 考え ながら 、

「 あの とき の こと 、 話して よ 」

と 促した 。

「 うん ……。

俺 は ガード の 反対 側 の 方 から 歩いて 来た 。 向 う から 、 誰 か が 歩いて 来て ── それ が 丸山 だった と 思う けど な 。 いやに せかせか した 歩き 方 だった 」

夕 里子 は 真剣な 表情 で 、 勇一 の 話 に 耳 を 傾けて いる 。

珠美 は 勇一 を かばった 立場 上 、 ハラハラ し ながら 聞いて いる 。

そして 、 綾子 は ── 座って は いた が 、 もう ウトウト 、 半分 眠り かけて 、 聞いて …… いる ( と いう べきだろう か ?

)。

「 それ で ?

と 、 夕 里子 が 言った 。

「 丸山 の 姿 は 、 ちょうど ガード 下 へ 入った んで 、 シルエット に なって 、 見えて た んだ 。

そ したら 、 そこ へ 、 いきなり 誰 か が 飛び出して 行った 」

「 どこ から ?

「 ガード 下 の 暗がり から だ 。

丸山 に ぶつかった ように 見えた な 。 ── アッ 、 と か ウッ と か いう 低い 声 が して ……。 その 人影 が 走って 行 っ ち まった 」

と 、 勇一 は 言った 。

「 それ は どんな 人 ?

「 よく 分 ん ねえ けど ……」

勇一 は 眉 を 寄せて 、「 コート 着た 男 だった と 思う よ 」

「 男 ?

確かに ? 「 うん 。

でも 顔 は 見え なかった 。 パーッ と 走って っちゃ った から 」

「 それ から ?

「 俺 、 スリ か かっぱ らい な の か な 、 と 思った んだ 。

見て たら 、 その ぶつから れた 方 ── 丸山 が 、 フラフラ して ん の さ 。 酔って る の か と 思った よ 。 で 、 歩いて 行って 、 ヒョイ と 見る と 、 いきなり 俺 の 方 へ ドドッ と よろけて 来て さ 。 ── ワッ と 抱きつく んだ 。 びっくり した ぜ 」

「 そりゃ そう でしょう ね 」

「 何だか 手 に 触った もん が あって ── つかんだら 、 それ が ナイフ だった んだ 。

それ で 、 やっと 分 った 。 こいつ 、 刺さ れた んだ 、 って 」

「 そこ へ 私 が 行き合わ せた わけ ね 」

「 俺 が 、 無意識に 押し戻した んだ な 。

丸山 は よろけ ながら 歩いて 行って ── そこ へ あんた が 来て さ 。 俺 、 何 が 何だか 分 ん なくて 、 ポカン と して た けど 、 気 が 付いたら 、 ナイフ 握って 立って る だ ろ 。 これ じゃ 、 俺 が やった と 思わ れる 。 そう 考えて 、 パッと 逃げ 出した んだ 」

「 逃げりゃ 、 もっと 疑わ れる わ よ 」

「 そりゃ 、 理屈 は そう だ けど よ 」

と 、 勇一 は 肩 を すくめた 。

「 大体 、 ワル って こと に なって んだ し 、 言い訳 した って 、 聞いちゃ くれ ねえ だ ろ 。 それ に 、 あんた の 後 から 走って 来た の 、 刑事 だ ろ ? 「 よく 知って る わ ね 」

「 見りゃ 分 る よ 。

だから 、 余計に ヤバイ と 思って さ 」

勇一 は 、 珠美 の 方 を 見て 、「 どこ へ 行こう か と 考えて も 、 全然 思い 付か なくて 。

腹 も 減って 来る し 、 このまま じゃ こごえ死 ん じまい そうだ と 思って さ 。 ── その とき 、 こいつ の こと 思い出した んだ 。 飯 だけ 食って 、 出て く つもりだった 。 迷惑 かけ たく ねえ から な 。 まさか 、 あんた が これ の 姉さん だ なんて 思い も し なかった し 」

「 こっち だって 、 あんた が ここ で 寝て る なんて 思って も い なかった わ よ 」

と 、 夕 里子 は 苦笑 した 。

「 出て って も いい よ 。

俺 は どこ で だって 寝 られる 」

「 この 寒い のに ?

と 、 珠美 が 言った 、「 風邪 ひく よ 」

「 いい わ よ 」

夕 里子 が 息 を ついて 、「 ともかく 、 差し 当って は ここ に いなさ い 。

── 警察 だって 、 あんた が やった と 決めてかかって る わけじゃ ない んだ から 。 ── ねえ 、 お 姉さん 」

と 、 夕 里子 が 綾子 の 方 を 見た が …… 綾子 は 完全に 眠って いた ……。

そして 、 その後 、 また 勇一 が 眠り 込んで から 、 夕 里子 は 珠美 に 言った 。

「 私 たち 、 大変な 危険 を かかえ 込んで る の よ 。

分 って る ? 「 うん 」

「 犯人 を かくまう って の は 犯罪 な んだ から 。

── ま 、 大体 が 無 茶 やって 来て んだ し 、 私 も あんた の こと 、 言え ない けど ね 」

「 そう だ そうだ 」

「 調子 に 乗る な !

── いい ? いくら 、 あんた や お 姉さん が 、 あの 子 を 信じて たって 、 現実 に あの 子 が 犯人 だって こと も あり 得る の よ 」

「 分 って る わ よ 」

「 私 は ね 、 母親 代り の 立場 で 言って る の 。

分 る ? パパ が 帰って 来て 、 娘 三 人 、 皆殺し に なって る なんて 悲惨な こと に し たく ない でしょ ? 「 まさか !

「 最悪の 場合 は 、 よ 。

── いい ? 決して あの 子 と 二 人きり に なら ないで 。 帰る とき は 、 外 で 私 と 待ち合せて 帰る の よ 」

珠美 も 、 夕 里子 の この 言葉 に は 反論 の しよう も なく 、 ただ コックリ と 肯 く ばかり だった ……。

「── そろそろ 出 棺 か な 」

と 、 国 友 が 、 丸山 の 家 の 方 へ 目 を やった 。

「 そう ね 。

もう 焼香 客 も 来 ない みたいだ し ……」

と 、 珠美 が 言った 。

「 ちょっと 電話 を かけて 来る 。

── 珠美 君 、 まだ ここ に いる かい ? 「 うん 。

見送る つもり よ 」

「 じゃ 、 待って て くれ 」

国 友 が 行って しまう と 、 珠美 は 、 いささか 重苦しい 気分 で 、 考え 込んだ 。

珍しい こと である 。

── 珠美 と して も 、 夕 里子 の 心配 は よく 分 る 。

勇一 の こと を 信じて は いる のだ が 、 それ でも 、 世の中 、 人 に 裏切ら れる なんて 、 珍しく も 何とも ない こと ぐらい 、 承知 して いる 。

「── 夕 里子 姉ちゃん に 心配 かけちゃ いけない わ 」

と 、 珠美 は 呟いた 。

「 私 、 自分 で 犯人 捜そう ! その方 が 、 よっぽど 心配 を かける こと に なり そうだ が ……。

女 が 一 人 、 目の前 を 通って 行った 。

── 黒い スーツ 。 弔問 客 だろう 。

珠美 が 、 ふと その 女 に 目 を ひか れた の は 、 何となく 、 どこ か で 見た こと の ある 顔 の ように 見えた から だった 。

誰 だろう ?

── いくら 考えて も 分 ら ない 。

珠美 は 、 中 へ 入って みた 。

その 女 が 焼香 して いる 。

ふと 、 珠美 は 、 丸山 の 妻 に 目 を やって みた 。

丸山 の 妻 は 、 もう 大分 老け 込んで いて 、 もちろん 夫 を 亡くした せい で も あった だろう が 、 誰 が 焼香 に 来て も 、 ほとんど 気 に も 止め ない ように 、 機械 的に 頭 を 下げて いる 感じ だった 。

だが ── 今 は 違って いた 。

はっきり と 頭 を 上げて 、 目 を 見開いて 、 焼香 して いる 女 の 方 を 見て いる 。

ただ 見て いる ので は なかった 。 にらんで いる のだ 。

そう 。

それ は 、「 にらんで いる 」 と しか 言え ない 視線 だった 。

青ざめて いた 顔 に パッと 朱 が さし 、 キュッ と 唇 を 固く 結んで 、 何 か 爆発 し そうな もの を 抑えて いる 、 と いう 様子 だった 。

何 だろう ?

珠美 は 、 焼香 を 終って 、 こっち へ 向いた 女 の 顔 を 見つめた 。

年齢 は ── 珠美 は そう 観察 眼 の 鋭い 方 で は ない が ── せいぜい 三十 か そこら 。

なかなか 美人 。

まあ 、 多少 きつい 感じ で は ある 。

その 女 、 丸山 の 妻 の 方 は 全く 見よう と も せ ず 、 来た とき と 同じ ように 、 足早に 出て 行って しまった 。

妻 の 視線 は 、 その 女 の 背中 へ 、 突き刺さら ん ばかりだ 。

夫 の 恋人 か 何 か だった の か な ?

でも 、 あんな 美人 なら 、 丸山 なんか を 恋人 に する かしら ?

珠美 は なかなか 厳しい こと を 考えて いた 。

それ に 、 丸山 の 妻 の 視線 は 、 そういう 嫉妬 と か 怒り と いう の と は 、 どことなく 違って いる ように 、 珠美 に は 感じ られた 。

よし 。

── あの 女 の こと 、 探って やれ 。

別に 、 その 女 が 事件 と 関係 ある と いう 理由 も なかった のだ が 、 ともかく 、 珠美 は その 女 の 後 を 追って 行った 。

女 は 足早に 道 を 歩いて 行き 、 角 を 曲った 。

珠美 は 急いで その 角 まで 行って 足 を 止め 、 そっと 覗いて 見た 。

車 が 停 って いて 、 男 が ドア を 開けて 立って いる 。

── どこ か で 見た 男 だ な 、 と 思った 。

車 は 高 そうな 外車 で ……。

アッ と 珠美 は 声 を 上げ そうに なった 。

思い出した !

車 の わき に 立って いる 男 。

それ は 、 小 峰 と いう 老 紳士 ── 有田 信子 の 父親 と 名乗った ── の 秘書 だ 。

つい 、 興奮 して 顔 を ぐ い と 出して しまって いた らしい 。

その 秘書 が 、 珠美 に 気付いた 。

「 おい !

何 やって る ? 「 あ ── いえ 」

珠美 は あわてて 、 首 を 引っ込めた 。

帰り ま しょ ── と 歩き 出した が ……。

「 待てよ 」

秘書 が 走って 来て 、 珠美 の 前 に 立った 。

「 あの ── ご用 です か ?

「 そっち こそ 用 じゃ ない の か ?

何 を 覗いて た んだ ? 「 いえ ── ただ 、 車 が 珍しかった から 」

と 、 出まかせ を 言う 。

「 待てよ ……」

と 、 秘書 は 考え 込んだ 。

「 どこ か で 会った かな ? 「 人違い でしょ 」

「 いや 、 確かに ……。

そう だ ! あの 葬式 の とき 、 来て た 娘 だ な 」

「 ああ 、 そう でした ね 」

と 、 珠美 は とぼけて 、「 お 久しぶりで 」

「 ちょうど 良かった 」

「 え ?

何 が です か ? 「 小峰 様 が 君 に 会い たがって おら れる んだ 」

「 小 峰 って ── あの 、 勇一 の ── いえ 、 有田 さん の ……」

「 そうだ 。

来て くれ 」

「 でも ── ちょっと 人 が 待って る んです 」

「 いい 機会 だ よ 。

人 の めぐり合い って の は 、 一 度 逃す と 、 なかなか ない もん だ 」

「 そ 、 そう でしょう か ?

珠美 は 、 その 秘書 に ぐいぐい 押さ れる ように して 、 車 の 方 へ 連れて 行か れた 。

「── さあ 、 乗って 。

心配 する こと は ない 。 ちゃんと 帰り も 送る よ 」

「 は あ ……」

珠美 は 諦めて 、 車 に 乗り 込んだ 。

国 友 さん 、 心配 する か な 。

── でも 、 まあ ついて 行けば 、 この 女 の こと も 分 る だろう し ……。

女 と 並んで 後ろ の 座席 に 座る 。

車 は 、 バス や 地下鉄 と は 比較 に なら ない 滑らか さ で 走り 出した 。

「 あの ── どこ へ 行く んです か ?

珠美 は 訊 いて みた 。

「 小峰 様 の 屋敷 よ 」

と 、 女 が 言った 。

「 よろしく 。 私 は 草間 由美子 」

「 佐々 本 珠美 です 」

「 まあ 、 きれいな 名前 ね 」

と 、 草間 由美子 は 微笑んだ 。

「 可愛い わ ね 。 いく つ ? 「 十五 です 」

「 中学生 ?

「 三 年生 です 」

「 若い わ ねえ !

私 も 十 何 年 か 前 に は 、 そんな とき が あった んだ わ 」

「 いやに 感傷 的じゃ ない か 」

と 、 運転 して いる 秘書 が 言った 。

「 僕 は ね 、 小峰 様 の 秘書 で 井口 と いう んだ 」

「 ゆっくり して ね 。

三十 分 くらい で 着く わ 」

と 、 草間 由美子 が 言った 。

「 ええ ……」

「 何 か 飲む ?

ジュース でも 」

「 ジュース です か ?

ええ 、 でも ──」

草間 由美子 が 、 前 の 座席 の 背 を 開いた 。

ミニバー の セット が スッ と 出て 来る 。 珠美 は 目 を 丸く した 。

これ で 一 つ 、 話 の 種 が できた !

── 珠美 は 呑気 な こと を 考えて いた のである 。

「 いただき ます 」

珠美 は オレンジジュース を 飲んだ 。

── 葬儀 に 出て いて 、 ずっと 外 で 立って いた せい か 、 喉 も 渇いて いた 。

フレッシュジュース らしく 、 甘 み は あまり なく 、 少し 苦い 感じ だった が 、 それなり に おいしい 。

「 どうも 」

すっかり 空 に して 、 コップ を 返す 。

「 あなた 、 ボーイフレンド は ?

と 、 草間 由美子 が 訊 いた 。

「 私 です か ?

── い ない こと も ない けど ……」

勇一 を ボーイフレンド と は 呼び にくい 。

「 可愛い から 、 男の子 が 言い 寄って 来て 困る でしょ 」

「 そう で も ── ないで す 」

あまり 言わ れ つけ ない こと を 言わ れて 、 少々 照れて いる 。

珠美 は 欠 伸 を した 。

何だか 体 が だるく なって 来る 。

「 眠い ?

疲れた んじゃ ない の ? と 、 草間 由美子 が 言った 。

「 そんな こと …… ない んです けど 」

何だか 変だ わ 。

目 が トロン と して 来て 、 くっつき そうで ……。

「 寝て て も いい よ 」

と 、 井口 が 言った 。

「 着いたら 起こして あげる 」

「 いえ …… 大丈夫です 」

おかしい なあ 。

ゆうべ だって 、 ちゃんと いつも ぐらい は 寝て る のに 。

本当に ── おかしい 。

珠美 は 、 それ 以上 、「 おかしい 」 と 思う 間もなく 、 深い 眠り に 引き 込ま れて いた ……。


三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 07 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter

7  消えた 珠美 きえた|たまみ

何だか お 葬式 づい てる わ ね 。 なんだか||そうしき||||

珠美 は 、 いささか うんざり した 気分 で 、 考えた 。 たまみ|||||きぶん||かんがえた

と いって 、 今日 の ところ は 仕方ない 。 ||きょう||||しかたない

何しろ 殺さ れた 丸山 の 葬儀 な のである 。 なにしろ|ころさ||まるやま||そうぎ||

珠美 と して も 、「 容疑 者 」 である 勇一 を マンション に かくまって いる 立場 上 、 やはり 、 多少 の 関心 は あった 。 たまみ||||ようぎ|もの||ゆういち||まんしょん||||たちば|うえ||たしょう||かんしん||

つまり 、 本当の 犯人 が 見付から ない 限り 、 有田 勇一 を 置いて おか なくて は なら ない から だ 。 |ほんとうの|はんにん||みつから||かぎり|ありた|ゆういち||おいて||||||| In other words, unless a real culprit is found, Yuichi Arita must be left.

いくら 珠美 が 勇一 の こと を 好きだ と して も 、 そこ まで 面倒 は 見 切れ ない 。 |たまみ||ゆういち||||すきだ||||||めんどう||み|きれ| Even if Tomomi likes Yuichi, I can not take care of that.

大体 、 父親 が 帰って 来たら 、 いやで も 勇一 に は 出て って もらう しか ない わけな のだ から ……。 だいたい|ちちおや||かえって|きたら|||ゆういち|||でて||||||| Generally, when my father comes home, because there is no choice but to have Yuichi go out ... ....

警察 の 方 で は 、 勇一 を 手配 して 、 その後 は 全く 新しい 動き も なかった 。 けいさつ||かた|||ゆういち||てはい||そのご||まったく|あたらしい|うごき||

「 や あ 、 珠美 君 」 ||たまみ|きみ

と 、 声 が した 。 |こえ||

焼香 を 終って 、 中 に いる わけに も いか ず 、 外 に 出て 、 出 棺 を 待って いる ところ だった 。 しょうこう||しまって|なか|||||||がい||でて|だ|ひつぎ||まって||| After burning incense, I could not stay inside, went outside and was waiting for a coffin.

── 寒い こと は 寒い が 、 陽 が 射 して いる ので 、 それなり に 快い 気候 である 。 さむい|||さむい||よう||い||||||こころよい|きこう| ── The cold is cold, but because the sun is shining, it is a pleasant climate.

「 あら 、 国 友 さん 」 |くに|とも|

珠美 は 、 逃亡 犯 を かくまって いる と は とても 思え ない 愛想 の 良 さ で 、 国 友 に 微笑み かけた 。 たまみ||とうぼう|はん|||||||おもえ||あいそ||よ|||くに|とも||ほおえみ|

「 クラス の 全員 が 来て る の ? くらす||ぜんいん||きて||

と 、 国 友 は 訊 いた 。 |くに|とも||じん|

「 うん 。

一応 ね 。 いちおう| もう 帰った の も 沢山 いる 。 |かえった|||たくさん| 今日 は 土曜日 だ もん ね 」 きょう||どようび|||

「 殺人 事件 の 捜索 に は 休日 なんか ない よ 」 さつじん|じけん||そうさく|||きゅうじつ|||

国 友 は 、 やや 悲壮な 面持ち で 言った 。 くに|とも|||ひそうな|おももち||いった

「 何 か 分 った の ? なん||ぶん||

「 いや 。

── 丸山 の 身辺 を 当って みた んだ が 、 あの 有田 信 子 と つながり が あった と いう 証拠 は 出て 来 なかった よ 」 まるやま||しんぺん||あたって|||||ありた|しん|こ|||||||しょうこ||でて|らい||

「 捜査 が 手ぬるい んじゃ ない ? そうさ||てぬるい|| "Is the investigation tedious?

「 や あ 、 こりゃ 叱ら れちゃ った な 」 |||しから|||

と 、 国 友 は 苦笑 した 。 |くに|とも||くしょう|

「 丸山 先生 を 殺した 犯人 の 方 は ? まるやま|せんせい||ころした|はんにん||かた|

「 有田 勇一 ? ありた|ゆういち

まだ 足取り が つかめ ない んだ よ 」 |あしどり|||||

と 、 国 友 は 首 を 振った 。 |くに|とも||くび||ふった

「 どこ へ 消え ち まった の か なあ 」 ||きえ|||||

「 そう ねえ 」

珠美 は とぼけて 、「 もしかしたら 、 うち に でも 隠れて ん の かも しれ ない よ 」 たまみ|||||||かくれて||||||

「 そう だ な 。

夕 里子 君 なら 、 やり かね ない 」 ゆう|さとご|きみ||||

と 、 国 友 は 笑い ながら 言った 。 |くに|とも||わらい||いった

「 でも ── その 子 が やった って いう の は 、 確かな の ? ||こ|||||||たしかな|

「 夕 里子 君 と も 話した んだ 。 ゆう|さとご|きみ|||はなした|

夕 里子 君 は 、 有田 勇一 が 刺した ところ を 見た わけじゃ ない 。 ゆう|さとご|きみ||ありた|ゆういち||さした|||みた|| 血 の ついた ナイフ を 持って 立って る ところ を 見た だけ だって ね 」 ち|||ないふ||もって|たって||||みた|||

「 そう 。

じゃ 、 犯人 は 別に いる かも しれ ない って わけ ね ? |はんにん||べつに||||||| 「 しかし 、 一応 、 何といっても 容疑 者 と して ナンバーワン だ から ね 」 |いちおう|なんといっても|ようぎ|もの|||なんばーわん|||

「 あんまり ありがたく ない ナンバーワン ね 」 |||なんばーわん|

と 、 珠美 は 笑った 。 |たまみ||わらった

「── あ 、 いけない 。 お 葬式 な のに 」 |そうしき||

「 まあ 、 確かに ね 」 |たしかに|

と 、 国 友 は 肯 いて 、「 僕 も 有田 勇一 が やった の か どう か 、 まだ いささか 疑問 は 持って る んだ 」 |くに|とも||こう||ぼく||ありた|ゆういち|||||||||ぎもん||もって||

しかし 、 国 友 は 何といっても 勇一 を 直接 は 知ら ない のだ 。 |くに|とも||なんといっても|ゆういち||ちょくせつ||しら|| But national friends do not know Yuichi directly though.

珠美 は 、 勇一 から 話 を 聞いて いた 。 たまみ||ゆういち||はなし||きいて|

もちろん 夕 里子 が 、 国 友 に 話 を した と いう の も 、 それ を 聞いて から の こと である 。 |ゆう|さとご||くに|とも||はなし|||||||||きいて|||| It is of course that evening Riko talked to a national friend since listening to it.

「── 俺 じゃ ない よ 」 おれ|||

夜中 に 目 を 覚ました 勇一 は 、 三 姉妹 を 前 に 、 はっきり 否定 した 。 よなか||め||さました|ゆういち||みっ|しまい||ぜん|||ひてい|

「 もちろん 、 そう 言った って 、 信じちゃ くれ ない だろう けど な 」 ||いった||しんじちゃ||||| "Of course, I would not believe that I said so,"

「 言って み なきゃ 分 ら ない わ よ 」 いって|||ぶん|||| "I do not know if I have to try it"

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 丸山 先生 を 、 あんた 知って た の ? まるやま|せんせい|||しって|| 「 うん 。

前 に あの 学校 に いた とき 、 習って た から な 」 ぜん|||がっこう||||ならって||| I was learning it when I was in that school before. "

「 向 う も 憶 えて た かしら ? むかい|||おく|||

「── どうか な 」

勇一 は 、 なぜ か ちょっと ためらって 、「 どっち に した って 、 あれ きり 会って ない んだ から ……」 ゆういち||||||||||||あって||| Yuichi hesitated somehow why, "I never met you because I decided which way ..."

夕 里子 は 、 少し 考え ながら 、 ゆう|さとご||すこし|かんがえ|

「 あの とき の こと 、 話して よ 」 ||||はなして|

と 促した 。 |うながした

「 うん ……。

俺 は ガード の 反対 側 の 方 から 歩いて 来た 。 おれ||がーど||はんたい|がわ||かた||あるいて|きた 向 う から 、 誰 か が 歩いて 来て ── それ が 丸山 だった と 思う けど な 。 むかい|||だれ|||あるいて|きて|||まるやま|||おもう|| いやに せかせか した 歩き 方 だった 」 |||あるき|かた|

夕 里子 は 真剣な 表情 で 、 勇一 の 話 に 耳 を 傾けて いる 。 ゆう|さとご||しんけんな|ひょうじょう||ゆういち||はなし||みみ||かたむけて|

珠美 は 勇一 を かばった 立場 上 、 ハラハラ し ながら 聞いて いる 。 たまみ||ゆういち|||たちば|うえ|はらはら|||きいて|

そして 、 綾子 は ── 座って は いた が 、 もう ウトウト 、 半分 眠り かけて 、 聞いて …… いる ( と いう べきだろう か ? |あやこ||すわって|||||うとうと|はんぶん|ねむり||きいて|||||

)。

「 それ で ?

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 丸山 の 姿 は 、 ちょうど ガード 下 へ 入った んで 、 シルエット に なって 、 見えて た んだ 。 まるやま||すがた|||がーど|した||はいった||しるえっと|||みえて||

そ したら 、 そこ へ 、 いきなり 誰 か が 飛び出して 行った 」 |||||だれ|||とびだして|おこなった

「 どこ から ?

「 ガード 下 の 暗がり から だ 。 がーど|した||くらがり||

丸山 に ぶつかった ように 見えた な 。 まるやま||||みえた| ── アッ 、 と か ウッ と か いう 低い 声 が して ……。 |||||||ひくい|こえ|| その 人影 が 走って 行 っ ち まった 」 |ひとかげ||はしって|ぎょう|||

と 、 勇一 は 言った 。 |ゆういち||いった

「 それ は どんな 人 ? |||じん

「 よく 分 ん ねえ けど ……」 |ぶん|||

勇一 は 眉 を 寄せて 、「 コート 着た 男 だった と 思う よ 」 ゆういち||まゆ||よせて|こーと|きた|おとこ|||おもう|

「 男 ? おとこ

確かに ? たしかに 「 うん 。

でも 顔 は 見え なかった 。 |かお||みえ| パーッ と 走って っちゃ った から 」 ||はしって|||

「 それ から ?

「 俺 、 スリ か かっぱ らい な の か な 、 と 思った んだ 。 おれ||||||||||おもった|

見て たら 、 その ぶつから れた 方 ── 丸山 が 、 フラフラ して ん の さ 。 みて|||ぶつ から||かた|まるやま||ふらふら|||| 酔って る の か と 思った よ 。 よって|||||おもった| で 、 歩いて 行って 、 ヒョイ と 見る と 、 いきなり 俺 の 方 へ ドドッ と よろけて 来て さ 。 |あるいて|おこなって|||みる|||おれ||かた|||||きて| ── ワッ と 抱きつく んだ 。 ||だきつく| びっくり した ぜ 」

「 そりゃ そう でしょう ね 」

「 何だか 手 に 触った もん が あって ── つかんだら 、 それ が ナイフ だった んだ 。 なんだか|て||さわった|||||||ないふ||

それ で 、 やっと 分 った 。 |||ぶん| こいつ 、 刺さ れた んだ 、 って 」 |ささ|||

「 そこ へ 私 が 行き合わ せた わけ ね 」 ||わたくし||ゆきあわ|||

「 俺 が 、 無意識に 押し戻した んだ な 。 おれ||むいしきに|おしもどした||

丸山 は よろけ ながら 歩いて 行って ── そこ へ あんた が 来て さ 。 まるやま||||あるいて|おこなって|||||きて| 俺 、 何 が 何だか 分 ん なくて 、 ポカン と して た けど 、 気 が 付いたら 、 ナイフ 握って 立って る だ ろ 。 おれ|なん||なんだか|ぶん||||||||き||ついたら|ないふ|にぎって|たって||| これ じゃ 、 俺 が やった と 思わ れる 。 ||おれ||||おもわ| そう 考えて 、 パッと 逃げ 出した んだ 」 |かんがえて|ぱっと|にげ|だした|

「 逃げりゃ 、 もっと 疑わ れる わ よ 」 にげりゃ||うたがわ|||

「 そりゃ 、 理屈 は そう だ けど よ 」 |りくつ|||||

と 、 勇一 は 肩 を すくめた 。 |ゆういち||かた||

「 大体 、 ワル って こと に なって んだ し 、 言い訳 した って 、 聞いちゃ くれ ねえ だ ろ 。 だいたい||||||||いいわけ|||きいちゃ|||| それ に 、 あんた の 後 から 走って 来た の 、 刑事 だ ろ ? ||||あと||はしって|きた||けいじ|| 「 よく 知って る わ ね 」 |しって|||

「 見りゃ 分 る よ 。 みりゃ|ぶん||

だから 、 余計に ヤバイ と 思って さ 」 |よけいに|||おもって|

勇一 は 、 珠美 の 方 を 見て 、「 どこ へ 行こう か と 考えて も 、 全然 思い 付か なくて 。 ゆういち||たまみ||かた||みて|||いこう|||かんがえて||ぜんぜん|おもい|つか|

腹 も 減って 来る し 、 このまま じゃ こごえ死 ん じまい そうだ と 思って さ 。 はら||へって|くる||||こごえじ|||そう だ||おもって| ── その とき 、 こいつ の こと 思い出した んだ 。 |||||おもいだした| 飯 だけ 食って 、 出て く つもりだった 。 めし||くって|でて|| 迷惑 かけ たく ねえ から な 。 めいわく||||| まさか 、 あんた が これ の 姉さん だ なんて 思い も し なかった し 」 |||||ねえさん|||おもい|||| No way, I never thought you were her elder sister. "

「 こっち だって 、 あんた が ここ で 寝て る なんて 思って も い なかった わ よ 」 ||||||ねて|||おもって||||| "Even here, I never thought you were asleep here."

と 、 夕 里子 は 苦笑 した 。 |ゆう|さとご||くしょう|

「 出て って も いい よ 。 でて||||

俺 は どこ で だって 寝 られる 」 おれ|||||ね|

「 この 寒い のに ? |さむい|

と 、 珠美 が 言った 、「 風邪 ひく よ 」 |たまみ||いった|かぜ||

「 いい わ よ 」

夕 里子 が 息 を ついて 、「 ともかく 、 差し 当って は ここ に いなさ い 。 ゆう|さとご||いき||||さし|あたって|||||

── 警察 だって 、 あんた が やった と 決めてかかって る わけじゃ ない んだ から 。 けいさつ||||||きめてかかって||||| ── ねえ 、 お 姉さん 」 ||ねえさん

と 、 夕 里子 が 綾子 の 方 を 見た が …… 綾子 は 完全に 眠って いた ……。 |ゆう|さとご||あやこ||かた||みた||あやこ||かんぜんに|ねむって|

そして 、 その後 、 また 勇一 が 眠り 込んで から 、 夕 里子 は 珠美 に 言った 。 |そのご||ゆういち||ねむり|こんで||ゆう|さとご||たまみ||いった

「 私 たち 、 大変な 危険 を かかえ 込んで る の よ 。 わたくし||たいへんな|きけん|||こんで|||

分 って る ? ぶん|| 「 うん 」

「 犯人 を かくまう って の は 犯罪 な んだ から 。 はんにん||||||はんざい|||

── ま 、 大体 が 無 茶 やって 来て んだ し 、 私 も あんた の こと 、 言え ない けど ね 」 |だいたい||む|ちゃ||きて|||わたくし|||||いえ|||

「 そう だ そうだ 」 ||そう だ

「 調子 に 乗る な ! ちょうし||のる|

── いい ? いくら 、 あんた や お 姉さん が 、 あの 子 を 信じて たって 、 現実 に あの 子 が 犯人 だって こと も あり 得る の よ 」 ||||ねえさん|||こ||しんじて||げんじつ|||こ||はんにん|||||える||

「 分 って る わ よ 」 ぶん||||

「 私 は ね 、 母親 代り の 立場 で 言って る の 。 わたくし|||ははおや|かわり||たちば||いって||

分 る ? ぶん| パパ が 帰って 来て 、 娘 三 人 、 皆殺し に なって る なんて 悲惨な こと に し たく ない でしょ ? ぱぱ||かえって|きて|むすめ|みっ|じん|みなごろし|||||ひさんな|||||| 「 まさか !

「 最悪の 場合 は 、 よ 。 さいあくの|ばあい||

── いい ? 決して あの 子 と 二 人きり に なら ないで 。 けっして||こ||ふた|ひときり||| 帰る とき は 、 外 で 私 と 待ち合せて 帰る の よ 」 かえる|||がい||わたくし||まちあわせて|かえる||

珠美 も 、 夕 里子 の この 言葉 に は 反論 の しよう も なく 、 ただ コックリ と 肯 く ばかり だった ……。 たまみ||ゆう|さとご|||ことば|||はんろん||||||||こう|||

「── そろそろ 出 棺 か な 」 |だ|ひつぎ||

と 、 国 友 が 、 丸山 の 家 の 方 へ 目 を やった 。 |くに|とも||まるやま||いえ||かた||め||

「 そう ね 。

もう 焼香 客 も 来 ない みたいだ し ……」 |しょうこう|きゃく||らい|||

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 ちょっと 電話 を かけて 来る 。 |でんわ|||くる

── 珠美 君 、 まだ ここ に いる かい ? たまみ|きみ||||| 「 うん 。

見送る つもり よ 」 みおくる||

「 じゃ 、 待って て くれ 」 |まって||

国 友 が 行って しまう と 、 珠美 は 、 いささか 重苦しい 気分 で 、 考え 込んだ 。 くに|とも||おこなって|||たまみ|||おもくるしい|きぶん||かんがえ|こんだ

珍しい こと である 。 めずらしい||

── 珠美 と して も 、 夕 里子 の 心配 は よく 分 る 。 たまみ||||ゆう|さとご||しんぱい|||ぶん|

勇一 の こと を 信じて は いる のだ が 、 それ でも 、 世の中 、 人 に 裏切ら れる なんて 、 珍しく も 何とも ない こと ぐらい 、 承知 して いる 。 ゆういち||||しんじて|||||||よのなか|じん||うらぎら|||めずらしく||なんとも||||しょうち|| Even though I believe in Yuichi, I am aware that even in the world, people are betrayed by rarely anything.

「── 夕 里子 姉ちゃん に 心配 かけちゃ いけない わ 」 ゆう|さとご|ねえちゃん||しんぱい|||

と 、 珠美 は 呟いた 。 |たまみ||つぶやいた

「 私 、 自分 で 犯人 捜そう ! わたくし|じぶん||はんにん|さがそう その方 が 、 よっぽど 心配 を かける こと に なり そうだ が ……。 そのほう|||しんぱい||||||そう だ|

女 が 一 人 、 目の前 を 通って 行った 。 おんな||ひと|じん|めのまえ||かよって|おこなった

── 黒い スーツ 。 くろい|すーつ 弔問 客 だろう 。 ちょうもん|きゃく|

珠美 が 、 ふと その 女 に 目 を ひか れた の は 、 何となく 、 どこ か で 見た こと の ある 顔 の ように 見えた から だった 。 たまみ||||おんな||め||||||なんとなく||||みた||||かお|||みえた||

誰 だろう ? だれ|

── いくら 考えて も 分 ら ない 。 |かんがえて||ぶん||

珠美 は 、 中 へ 入って みた 。 たまみ||なか||はいって| Tomi entered the room.

その 女 が 焼香 して いる 。 |おんな||しょうこう||

ふと 、 珠美 は 、 丸山 の 妻 に 目 を やって みた 。 |たまみ||まるやま||つま||め|||

丸山 の 妻 は 、 もう 大分 老け 込んで いて 、 もちろん 夫 を 亡くした せい で も あった だろう が 、 誰 が 焼香 に 来て も 、 ほとんど 気 に も 止め ない ように 、 機械 的に 頭 を 下げて いる 感じ だった 。 まるやま||つま|||だいぶ|ふけ|こんで|||おっと||なくした|||||||だれ||しょうこう||きて|||き|||とどめ|||きかい|てきに|あたま||さげて||かんじ| Maruyama 's wife is already aging already, it was probably because of her losing her husband, of course, even if you come to burn incense, you should lower your head mechanically so that you can hardly stop mind It was feeling there.

だが ── 今 は 違って いた 。 |いま||ちがって|

はっきり と 頭 を 上げて 、 目 を 見開いて 、 焼香 して いる 女 の 方 を 見て いる 。 ||あたま||あげて|め||みひらいて|しょうこう|||おんな||かた||みて|

ただ 見て いる ので は なかった 。 |みて|||| にらんで いる のだ 。

そう 。

それ は 、「 にらんで いる 」 と しか 言え ない 視線 だった 。 ||||||いえ||しせん|

青ざめて いた 顔 に パッと 朱 が さし 、 キュッ と 唇 を 固く 結んで 、 何 か 爆発 し そうな もの を 抑えて いる 、 と いう 様子 だった 。 あおざめて||かお||ぱっと|しゅ|||||くちびる||かたく|むすんで|なん||ばくはつ||そう な|||おさえて||||ようす| It looked like Puppy Zhu was pointing to pale face, tightly tying his lips firmly, holding down what is going to explode.

何 だろう ? なん|

珠美 は 、 焼香 を 終って 、 こっち へ 向いた 女 の 顔 を 見つめた 。 たまみ||しょうこう||しまって|||むいた|おんな||かお||みつめた

年齢 は ── 珠美 は そう 観察 眼 の 鋭い 方 で は ない が ── せいぜい 三十 か そこら 。 ねんれい||たまみ|||かんさつ|がん||するどい|かた||||||さんじゅう||

なかなか 美人 。 |びじん

まあ 、 多少 きつい 感じ で は ある 。 |たしょう||かんじ|||

その 女 、 丸山 の 妻 の 方 は 全く 見よう と も せ ず 、 来た とき と 同じ ように 、 足早に 出て 行って しまった 。 |おんな|まるやま||つま||かた||まったく|みよう|||||きた|||おなじ||あしばやに|でて|おこなって|

妻 の 視線 は 、 その 女 の 背中 へ 、 突き刺さら ん ばかりだ 。 つま||しせん|||おんな||せなか||つきささら||

夫 の 恋人 か 何 か だった の か な ? おっと||こいびと||なん|||||

でも 、 あんな 美人 なら 、 丸山 なんか を 恋人 に する かしら ? ||びじん||まるやま|||こいびと|||

珠美 は なかなか 厳しい こと を 考えて いた 。 たまみ|||きびしい|||かんがえて|

それ に 、 丸山 の 妻 の 視線 は 、 そういう 嫉妬 と か 怒り と いう の と は 、 どことなく 違って いる ように 、 珠美 に は 感じ られた 。 ||まるやま||つま||しせん|||しっと|||いかり|||||||ちがって|||たまみ|||かんじ|

よし 。

── あの 女 の こと 、 探って やれ 。 |おんな|||さぐって|

別に 、 その 女 が 事件 と 関係 ある と いう 理由 も なかった のだ が 、 ともかく 、 珠美 は その 女 の 後 を 追って 行った 。 べつに||おんな||じけん||かんけい||||りゆう||||||たまみ|||おんな||あと||おって|おこなった

女 は 足早に 道 を 歩いて 行き 、 角 を 曲った 。 おんな||あしばやに|どう||あるいて|いき|かど||まがった

珠美 は 急いで その 角 まで 行って 足 を 止め 、 そっと 覗いて 見た 。 たまみ||いそいで||かど||おこなって|あし||とどめ||のぞいて|みた

車 が 停 って いて 、 男 が ドア を 開けて 立って いる 。 くるま||てい|||おとこ||どあ||あけて|たって|

── どこ か で 見た 男 だ な 、 と 思った 。 |||みた|おとこ||||おもった

車 は 高 そうな 外車 で ……。 くるま||たか|そう な|がいしゃ|

アッ と 珠美 は 声 を 上げ そうに なった 。 ||たまみ||こえ||あげ|そう に|

思い出した ! おもいだした

車 の わき に 立って いる 男 。 くるま||||たって||おとこ

それ は 、 小 峰 と いう 老 紳士 ── 有田 信子 の 父親 と 名乗った ── の 秘書 だ 。 ||しょう|みね|||ろう|しんし|ありた|のぶこ||ちちおや||なのった||ひしょ|

つい 、 興奮 して 顔 を ぐ い と 出して しまって いた らしい 。 |こうふん||かお|||||だして|||

その 秘書 が 、 珠美 に 気付いた 。 |ひしょ||たまみ||きづいた

「 おい !

何 やって る ? なん|| 「 あ ── いえ 」

珠美 は あわてて 、 首 を 引っ込めた 。 たまみ|||くび||ひっこめた

帰り ま しょ ── と 歩き 出した が ……。 かえり||||あるき|だした|

「 待てよ 」 まてよ

秘書 が 走って 来て 、 珠美 の 前 に 立った 。 ひしょ||はしって|きて|たまみ||ぜん||たった

「 あの ── ご用 です か ? |ごよう||

「 そっち こそ 用 じゃ ない の か ? ||よう||||

何 を 覗いて た んだ ? なん||のぞいて|| 「 いえ ── ただ 、 車 が 珍しかった から 」 ||くるま||めずらしかった|

と 、 出まかせ を 言う 。 |でまかせ||いう

「 待てよ ……」 まてよ

と 、 秘書 は 考え 込んだ 。 |ひしょ||かんがえ|こんだ

「 どこ か で 会った かな ? |||あった| 「 人違い でしょ 」 ひとちがい|

「 いや 、 確かに ……。 |たしかに

そう だ ! あの 葬式 の とき 、 来て た 娘 だ な 」 |そうしき|||きて||むすめ||

「 ああ 、 そう でした ね 」

と 、 珠美 は とぼけて 、「 お 久しぶりで 」 |たまみ||||ひさしぶりで

「 ちょうど 良かった 」 |よかった

「 え ?

何 が です か ? なん||| 「 小峰 様 が 君 に 会い たがって おら れる んだ 」 こみね|さま||きみ||あい||||

「 小 峰 って ── あの 、 勇一 の ── いえ 、 有田 さん の ……」 しょう|みね|||ゆういち|||ありた||

「 そうだ 。 そう だ

来て くれ 」 きて|

「 でも ── ちょっと 人 が 待って る んです 」 ||じん||まって||

「 いい 機会 だ よ 。 |きかい||

人 の めぐり合い って の は 、 一 度 逃す と 、 なかなか ない もん だ 」 じん||めぐりあい||||ひと|たび|のがす|||||

「 そ 、 そう でしょう か ?

珠美 は 、 その 秘書 に ぐいぐい 押さ れる ように して 、 車 の 方 へ 連れて 行か れた 。 たまみ|||ひしょ|||おさ||||くるま||かた||つれて|いか|

「── さあ 、 乗って 。 |のって

心配 する こと は ない 。 しんぱい|||| ちゃんと 帰り も 送る よ 」 |かえり||おくる|

「 は あ ……」

珠美 は 諦めて 、 車 に 乗り 込んだ 。 たまみ||あきらめて|くるま||のり|こんだ

国 友 さん 、 心配 する か な 。 くに|とも||しんぱい|||

── でも 、 まあ ついて 行けば 、 この 女 の こと も 分 る だろう し ……。 |||いけば||おんな||||ぶん||| ─ ─ But, if you go well, you will know this woman ... ....

女 と 並んで 後ろ の 座席 に 座る 。 おんな||ならんで|うしろ||ざせき||すわる

車 は 、 バス や 地下鉄 と は 比較 に なら ない 滑らか さ で 走り 出した 。 くるま||ばす||ちかてつ|||ひかく||||なめらか|||はしり|だした

「 あの ── どこ へ 行く んです か ? |||いく||

珠美 は 訊 いて みた 。 たまみ||じん||

「 小峰 様 の 屋敷 よ 」 こみね|さま||やしき|

と 、 女 が 言った 。 |おんな||いった

「 よろしく 。 私 は 草間 由美子 」 わたくし||くさま|ゆみこ

「 佐々 本 珠美 です 」 ささ|ほん|たまみ|

「 まあ 、 きれいな 名前 ね 」 ||なまえ|

と 、 草間 由美子 は 微笑んだ 。 |くさま|ゆみこ||ほおえんだ

「 可愛い わ ね 。 かわいい|| いく つ ? 「 十五 です 」 じゅうご|

「 中学生 ? ちゅうがくせい

「 三 年生 です 」 みっ|ねんせい|

「 若い わ ねえ ! わかい||

私 も 十 何 年 か 前 に は 、 そんな とき が あった んだ わ 」 わたくし||じゅう|なん|とし||ぜん||||||||

「 いやに 感傷 的じゃ ない か 」 |かんしょう|てきじゃ||

と 、 運転 して いる 秘書 が 言った 。 |うんてん|||ひしょ||いった

「 僕 は ね 、 小峰 様 の 秘書 で 井口 と いう んだ 」 ぼく|||こみね|さま||ひしょ||いぐち|||

「 ゆっくり して ね 。

三十 分 くらい で 着く わ 」 さんじゅう|ぶん|||つく| I'll be there in about 30 minutes. "

と 、 草間 由美子 が 言った 。 |くさま|ゆみこ||いった

「 ええ ……」

「 何 か 飲む ? なん||のむ

ジュース でも 」 じゅーす|

「 ジュース です か ? じゅーす||

ええ 、 でも ──」

草間 由美子 が 、 前 の 座席 の 背 を 開いた 。 くさま|ゆみこ||ぜん||ざせき||せ||あいた Yumiko Kusama opened the back of the front seat.

ミニバー の セット が スッ と 出て 来る 。 ||せっと||||でて|くる 珠美 は 目 を 丸く した 。 たまみ||め||まるく|

これ で 一 つ 、 話 の 種 が できた ! ||ひと||はなし||しゅ||

── 珠美 は 呑気 な こと を 考えて いた のである 。 たまみ||のんき||||かんがえて||

「 いただき ます 」

珠美 は オレンジジュース を 飲んだ 。 たまみ||||のんだ

── 葬儀 に 出て いて 、 ずっと 外 で 立って いた せい か 、 喉 も 渇いて いた 。 そうぎ||でて|||がい||たって||||のど||かわいて|

フレッシュジュース らしく 、 甘 み は あまり なく 、 少し 苦い 感じ だった が 、 それなり に おいしい 。 ||あま|||||すこし|にがい|かんじ|||||

「 どうも 」

すっかり 空 に して 、 コップ を 返す 。 |から|||こっぷ||かえす

「 あなた 、 ボーイフレンド は ? |ぼーいふれんど|

と 、 草間 由美子 が 訊 いた 。 |くさま|ゆみこ||じん|

「 私 です か ? わたくし||

── い ない こと も ない けど ……」 ─ ─ There is nothing we can not do but ... "

勇一 を ボーイフレンド と は 呼び にくい 。 ゆういち||ぼーいふれんど|||よび|

「 可愛い から 、 男の子 が 言い 寄って 来て 困る でしょ 」 かわいい||おとこのこ||いい|よって|きて|こまる|

「 そう で も ── ないで す 」

あまり 言わ れ つけ ない こと を 言わ れて 、 少々 照れて いる 。 |いわ||||||いわ||しょうしょう|てれて|

珠美 は 欠 伸 を した 。 たまみ||けつ|しん||

何だか 体 が だるく なって 来る 。 なんだか|からだ||||くる

「 眠い ? ねむい

疲れた んじゃ ない の ? つかれた||| と 、 草間 由美子 が 言った 。 |くさま|ゆみこ||いった

「 そんな こと …… ない んです けど 」

何だか 変だ わ 。 なんだか|へんだ|

目 が トロン と して 来て 、 くっつき そうで ……。 め|||||きて||そう で

「 寝て て も いい よ 」 ねて||||

と 、 井口 が 言った 。 |いぐち||いった

「 着いたら 起こして あげる 」 ついたら|おこして|

「 いえ …… 大丈夫です 」 |だいじょうぶです

おかしい なあ 。

ゆうべ だって 、 ちゃんと いつも ぐらい は 寝て る のに 。 ||||||ねて||

本当に ── おかしい 。 ほんとうに|

珠美 は 、 それ 以上 、「 おかしい 」 と 思う 間もなく 、 深い 眠り に 引き 込ま れて いた ……。 たまみ|||いじょう|||おもう|まもなく|ふかい|ねむり||ひき|こま||