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よだかの星 (宮沢 賢治), よだか の 星 (宮沢 賢治 ) 第 三 夜

よだか の 星 (宮沢 賢治 )第 三 夜

霧 が はれて 、お 日 さま が ちょうど 東 から 昇りました 。 夜 だか は ぐらぐら する ほど まぶしい の を こらえて 、矢 の ように 、そっち へ 飛んで 行きました 。 「お 日 さん 、お 日 さん 。 どうぞ 私 を あなた の 所 へ 連れてって 下さい 。 焼けて 死んで も かまいません 。 私 の ような みにくい 体 でも 焼けて 時 に は 小さな 光 を 出す でしょう 。 どうか 私 を 連れてって 下さい 。」 行って も 行って も 、お 日さま は 近く なりません でした 。 かえって だんだん 小さく 遠く なり ながら お日さま が 言いました 。 「お前 は よだか だ な 。 なるほど 、ずいぶん つらかろう 。 今度 空 を 飛んで 、星 に そう 頼んで ごらん 。 お前 は 昼 の 鳥 で は ない のだ から な 。」

夜 だか は おじぎ を 一つ した と 思いました が 、急に ぐらぐら して とうとう 野原 の 草 の 上 に 落ちて しまいました 。 そして まるで 夢 を 見て いる ようでした 。 からだ が ずっと 赤 や 黄 の 星 の あいだ を のぼって 行ったり 、どこまでも 風 に 飛ばされたり 、また 鷹 が 来て 、体 を つかんだり した ようでした 。 冷たい もの が にわかに 顔 に 落ちました 。 よだか は 眼 を 開きました 。 一本 の 若い すすき の 葉 から 露 が したたった の でした 。 もう すっかり 夜 に なって 、空 は 青黒く 、一面の 星 が またたいて いました 。 よだか は 空 へ 飛びあがりました 。 今夜 も 山やけ の 火 は 真っ赤 です 。 よだか は その 火 の かすかな 照り と 、冷たい 星明り の 中 を 飛び 巡りました 。 それから もう いっぺん 飛び 巡りました 。 そして 思い切って 西 の 空 の あの 美しい オリオン の 星 の 方 に 、まっすぐに 飛びながら 叫びました 。 「お 星 さん 。 西 の 青白い お 星 さん 。 どうか 私 を あなた の ところ へ 連れてって 下さい 。 焼けて 死んで も かまいません 。」 オリオン は 勇ましい 歌 を 続け ながら よだか など は てんで 相手 に しません でした 。 よだか は 泣き そうに なって 、よろよろ と 落ちて 、それから やっと 踏み 止って 、もう いっぺん 飛び 巡りました 。 それから 、南 の 大犬座 の 方 へ まっすぐに 飛びながら 叫びました 。 「お 星 さん 。 南 の 青い お 星 さん 。 どうか 私 を あなた の 所 へ つれてって 下さい 。 焼けて 死んで も かまいません 。」 大犬 は 青 や 紫 や 黄 や うつくしく せわしく またたき ながら いいました 。 「馬鹿 を いう な 。 おまえ なんか 一体 どんな もの だい 。 たか が 鳥 じゃない か 。 おまえ の はね で ここ まで 来る に は 、億 年 兆 年 億兆 年 だ 。」

そして また 別の 方 を 向きました 。 よだか は がっかり して 、よろよろ 落ちて 、それから また 、二へん 飛び めぐりました 。 それから また 思い切って 北 の 大熊星 の 方 へ まっすぐに 飛びながら 叫びました 。 「北 の 青い お 星さま 、あなた の 所 へ どうか 私 を 連れてって 下さい 。」 大熊星 は 静かに 言いました 。 「余計な こと を 考える もの で は ない 。 少し 頭 を 冷やして 来なさい 。 そう 言う とき は 、氷山 の 浮いている 海 の 中 へ 飛び込む か 、近く に 海 が なかったら 、氷 を 浮かべた コップ の 水 の 中 へ 飛び込む のが 一等 だ 。」

よだか は がっかり して 、よろよろ 落ちて 、それから また 、四へん そら を めぐりました 。 そして もう 一度 、東 から 今 のぼった 天の川 の 向う 岸 の 鷲 の 星 に 叫びました 。 「東 の 白い お 星 さま 、どうか 私 を あなた の 所 へ 連れてって 下さい 。 焼けて 死んで も かまいません 。」 鷲 は 大 風 に 言いました 。 「いいや 、とても とても 、話 に も 何にも ならん 。 星 に なる に は 、それ 相応 の 身分 で なくちゃ いかん 。 また よほど 金 も いる のだ 。」

よだか は もう すっかり 力 を 落して しまって 、羽 を 閉じて 、地 に 落ちて 行きました 。 そして もう 一尺 で 地面 に その 弱い 足 が つく と いう とき 、よだか は にわかに のろし の ように 空 へ 飛び上がりました 。 空 の 中ほど へ 来て 、よだか は まるで 鷲 が 熊 を 襲う とき する ように 、ぶるっと 体 を 揺すって 毛 を 逆立てました 。 それから キシキシキシキシキシッ と 高く 高く 叫びました 。 その 声 は まるで 鷹 でした 。 野原 や 林 に 眠って いた 他 の 鳥 は 、 みんな 目 を 覚まして 、 ぶるぶる ふるえ ながら 、 いぶかし そうに 星空 を 見あげました 。 夜 だか は 、どこまでも 、どこまでも 、まっすぐに 空 へ 上って 行きました 。 もう 山焼け の 火 は たばこ の 吸殻 の くらい に しか 見えません 。 よだか は 上って 上って 行きました 。 寒さ に 息 は 、胸 に 白く 凍りました 。 空気 が うすく なった 為に 、はね を それはそれは せわしく 動かさ なければ なりません でした 。 それ だ のに 、星 の 大きさ は 、さっき と 少しも 変りません 。 つく 息 は ふいご の ようです 。 寒さ や 霜 が まるで 剣 の ように よだか を 刺しました 。 よだか は 羽 が すっかり しびれて しまいました 。 そして 涙ぐんだ 目 を あげて もう いっぺん 空 を 見ました 。 そう です 。 これ が よだか の 最後 でした 。 もう よだか は 落ちて いる の か 、上って いる の か 、逆さ に なって いる の か 、上 を 向いて いる の かも 、わかりません でした 。 ただ 心持ち は 安らかに 、その 血 の ついた 大きな くちばし は 、横 に まがって は 居ました が 、たしかに 少し 笑って おりました 。 それから しばらく たって よだか は はっきり 眼 を ひらきました 。 そして 自分 の 体 が いま 燐 の 火 の ような 青い 美しい 光 に なって 、静かに 燃えている のを 見ました 。 すぐ 隣 は 、カシオピア座 でした 。 天の川 の 青白い 光 が 、すぐ 後ろ に なって いました 。 そして よだか の 星 は 燃え 続けました 。 いつまでも いつまでも 燃え 続けました 。 今でも まだ 、燃えて います 。

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