( 栞 ( しおり ) ) 汐宮 ( しお み や ) 栞 です
私 は 今 大きな そして え たい の 知れ ない
怪 異 に 取りつか れ て い ます
その 不気味 な 感覚 は 私 の 体中 を 四六時中 支配 し
片 とき も 休ま せる こと は … ない
( 藤井寺 ( ふじ い で ら ) ) 栞 !
小説 舞 校 ( まい こう ) 祭 用 の コピー 本 の 書 け た か ?
も … もう 少し です
もう 少し が 長 ( なげ ) え ぞ
あさって の 朝 まで に 書か ない と もう 出さ ない から な ~
( 栞 ) 私 は うすうす 気付 い て いる の だ この 怪 異 の 正体
これ は 世間 一般 の 男女 が
れ … れ … 恋愛 と 呼 ん で いる 感情
… かも しれ ない
本 の 中 で は 時 に 甘く 時 に 愛らしく 時 に 悲しく 描か れ て き た 恋愛
しかし 私 の それ は その どれ に も 当てはまら ない !
私 の 小説 に 介入 し て き た アレ
男 同士 で 組 ん ず ほぐれ つ し て い た アレ
女装 し て 高 笑い し て い た アレ
そして 私 が ここ に 籠城 し た 時 助け て くれ た 人 と
もし かして 同一 人物 ?
それにしても なんて ひどい 話 な の
最初 に 遭遇 する 男性 が あんな …
倒 錯 ! 変態 ! 女装 男 だ なんて
ど ない せい と 言う の よ !
そして 何より 罪深い の は
あの 男 が 約束 を 守ら ない 男 って こと
私 の 小説 の 続き を 読み に 来る って 言った のに …
昨日 は ずっと 待って た の に 来 なかった
ただ の 倒 錯 変態 男 なら まだしも
約束 を 守ら ない 倒 錯 変態 男 は 救い よう が ない わ
そんな 男 と キス し ちゃ った の かな
でも この 前 まで 少し も 思い出 せ なかった
私 は 人生 の 初めて の キス の ごとき 一大事 を
あっさり 忘れ て しまう アン ポン タン な の だ ろ う か
あっ …
( 栞 ) また この 子 ?
どこ から 入って くる の か な
( ミネルヴァ ) あっ …
( 栞 ) どこ の 子 だ ろ う ?
( 桂 馬 ( け いま ) ) や あ ( 栞 ) あっ …
( 栞 ) 汐宮 栞 です
私 は 今 え たい の 知れ ない 怪 異 に 取りつか れ て いる の です
出会い の 神様 あんた いっぺん 死 ぬれ !
♪ ~
~ ♪
( 栞 ) こんな 倒 錯 男 の ため に 私 は 悩み
あま つ さえ 小説 の 意見 まで 求めよ う と し た の ?
もう 関わら ない で おこ う
( 桂 馬 ) あの … ( 栞 ) ああ …
きみ の 小説 読み に 来 た よ
( 栞 ) お … 覚え て て くれ た の か
あっ … いやいや 殊勝 な セリフ いくら 言って も
その 格好 で 全部 台なし !
でも … まず は 一応 話 は 聞 くわ
私 は 寛容 な 人間 な の
( 栞 ) じょ … 女装 好き な ん です か ?
実は … 僕 は ある 事情 で 女 に なら なく て は いけ なく なって
最初 は 作戦 の ため だ と 思って い た 女装 が
だんだん やめ られ なく なって しまった ん だ
思え ば あの 日 … 屋上 で 地獄 の 使い が 現れ て 以来
僕 の 日常 は 崩壊 を 始め て いた ん だ
常識 と 非常識 の 境界 は とう に ない
このまま 僕 は 現実 の 歯車 の 上 で
ズタズタ に さ れ て しまう の だ ろ う か
( 栞 ) 何 を ぬかし てる の この 男 …
話 を すれ ば する ほど 分から ない
なん なん だ ろ う この 人 は …
( 席 を 立つ 音 ) あっ …
つま ん ない 話し て ごめん 帰る よ
あっ … あの !
ん ?
悩み の こと は 話し た ほう が 軽く なる って
この 図書 館 の 1,347 冊 の 本 に 書 い て あり まし た
もう 少し 話 聞か せ て ください
( チャイム ) あっ …
帰り ながら で いい ?
( 栞 ) か … 帰り ながら ~ ?
( 栞 ) 外 で は カツラ かぶる ん だ
( 桂 馬 ) ん ?
こう する と 意外に 気付か れ ない ん だ
( 栞 ) 結構 かわいい
あ … あの 話す なら お 店 の ほう で …
( 桂 馬 ) 歩き ながら で いい よ
でも … あっ !
あ … あそこ 入り ませ ん か ?
( 桂 馬 ) ラーメン ?
( 戸 が 開く 音 ) ( 店員 ) らっしゃ ~ い !
( 栞 ) 私 に は この “ へい らっしゃい ” 感 の 中
注文 する 勇気 は なかった
でも 今 は 男 の 人 が いる
今日 こそ ネギ ラーメン を 注文 でき そう !
( 桂 馬 ) 食 券 何 頼む ? ( 栞 ) あっ …
( 栞 ) 声 を 出さ なく て も 頼 め る システム が あった と は …
お … おいしい ! 生き て て よかった !
しかし 初めて の 男 の 人 と の 食事 が ラーメン と は …
これ は 乙女 の 風上 に も 置け ぬ 所業 で は なか ろ う か
もっとも 相手 も 男 の 風上 に も 置け ぬ 女装 …
あっ …
こんな 不思議 な 人 どんな 本 の 中 に も い なかった
ん ?
あ … あの …
あなた の こと
主役 に し て お 話 書 い て いい です か ?
えっ ?
私 … あなた の こと 書き たい ん です !
い … いい けど
( 栞 ) あ … ありがとう ござい ます !
あした の 朝 図書 館 に 来 て ください
書 い て き ます から !
( 栞 ) 今 なら … 書 け そう !
( 店員 ) ありがとう ござい まし た ~ !
これ で 舞 校 祭 に は 間に合う な
( ハクア ) 本当 ?
ああ 大丈夫 だ ろ う
栞 が 話 を 書き上げ られ ない の は 自分 の ネタ に 自信 が ない から だ
だから 途中 で イヤ に なる
しかし こんな キテレツ な ヤツ が そば に いる
こんな 強力 な ネタ は 他 に ない !
自分 で 言う な
( 桂 馬 ) これ で 小説 の 完成 を ともに 迎え れ ば
栞 の 好感 度 は マックス だ !
いよいよ エンディング が 見え た ぞ ! 久々
知ら ない わ よ
あ … あの …
も … もう 少し な ん です けど
もう 少し って 白紙 じゃ ねえ か よ !
どう す ん です か 栞 先生 ~ !
( 栞 ) あ … あの あと 1 時間 あれ ば でき た ん です けど …
あと 1 時間 で 何 が できる ? どん だけ 超 短編 小説 な ん だ よ !
( 桂 馬 ) … と は いえ 迷走 し た 跡 は 見受け られる
( 桂 馬 ) 栞 ( 栞 ) 下 の 名前 で 呼ば れ た !
今日 2 人 で ここ で カンヅメ しよ う
( 栞 ) えっ ?
( 桂 馬 ) お前 の 話 が 完成 する まで 僕 は ここ を 出 ない
そして お前 を 出さ ない
( 栞 ) えっ ?
( 桂 馬 ) あした まで に 小説 を 完成 さ せる ん だ いい な !
( 栞 ) え ~ !
( 桂 馬 ) 栞 に は いくら でも 逃避 できる 心 の 広場 が ある
余裕 を 与え たら ダメ だ
だが 追い込み すぎる と 意図 的 な タイム アップ
つまり 逃げる 恐れ も ある
それ を 防ぐ ため の カンヅメ だ
( ハクア ) で も 締め切り あした でしょ ?
それ くらい で 書 ける よう に なる かしら
( 桂 馬 ) 書 い て もらう ほか ない な 傑作 を
( ハクア ) 初めて の 小説 で ? 簡単 に 言う わ ね
それ 以外 の シナリオ は 僕 の 想定 に ない
まっ 頑張って ね 私 は ちょっと 出かけ て くるわ
どこ 行く ?
地区 長 は 定期 的 に 報告 会 が ある の
そう か … ( くしゃみ )
( ハクア ) どう し た の ?
( 桂 馬 ) おととい 昨日 と 女装 が 続 い た から な
足元 が ス ~ ス ~ し て 冷え た の かも しれ ない
( ハクア ) 気 を つけ なさい よ
お前 疲れ も たまって る だ ろ う し 無理 し ない で
そもそも お前 ら が 来 なきゃ 無理 し て ない
ベ ~ !
( 桂 馬 ) 子供 か お前 は !
( ノーラ ) 駆け 魂 ( たま ) 隊 の 中 に
ヴィンテージ が 入り込 ん で いる と いう ウワサ ―
知って る ?
( ハクア ) 確かめ なく ちゃ !
( 栞 ) な っ …
なんで こんな こと に ?
ん ?
あっ …
( 紙 が 破れる 音 )
( 栞 ) 記念 す べき 処女 作 な の に 出だし から 人 マネ なんて 問題 外 !
もっと オリジナル で ! かつ 面白 そう な 出だし …
宇宙 紀 第 10 RD 10 ( いち まる アール ディー じゅう ) 年
かつて 強力 な 同盟 を 誇った 銀河 恒星 系 の
各 惑星 の 求心力 は 急速 に 衰え
決定 的 な 破壊 が 訪れる こと と なった
宇宙 大 戦争 で ある !
( 紙 が 破れる 音 )
( 栞 ) 煮詰まる と 宇宙 戦争 を 始め て しまう の は 私 の 悪い 癖 だ わ
宇宙 は 平和 の まま で いい の
要 は キャラクター な の !
キャラ が 強かったら どんな 出だし でも 関係ない わ
考え て み たら 私 この 人 の こと なんにも 知ら ない
知って る こと と いえ ば 芸能 人 と ウワサ に なり
なお 男子 と も つきあう 女装 男 なんて …
あり え ませ ん 常識 的 に !
ひょっとして 全部 私 の 妄想 な の か な ?
キス し た こと も みんな
でも …
“ あんた あたい と キス し た の かい ? ”
… なんて 絶対 に 聞 け ない !
あっ !
( 栞 ) な … 何 を 考え てる の 私 !
今 は 書く の 急 い で 書く の !
こんな 時 は 先人 の 遺産 を 参考 に する の よ
きっと そこ に 手がかり が !
( 栞 ) あっ 読みふけって しまった 1 時間 半 も たって る
誘惑 に 負け た 書く こと に 集中 集中
女装 って 英語 だ と …
何 を やって る の よ 私 の アホ ~ ! あっ …
う う …
( 栞 ) もう 今日 書 け なく て も いい か な
だって なんにも 浮か ん で こ ない ん だ もん
こんな 状況 で 奇跡 的 に 何 か ひらめく なんて あり え ない
( カシラギ ) ご ちゃ ご ちゃ 考え て ない で 書 け よ
( 栞 ) えっ ?
あれ ?
締め切り まで あと 1 日 しか ない ん だ よ
なのに まだ 一 枚 も 書 け て ない
栞 が たくさん 本 を 読 ん で た の は なんの ため だい ?
考え て ない で 早く 書 い て おくれよ
( 栞 ) うるさい な
そもそも あんた が 全然 動 い て くれ ない の が いけ ない の よ
私 の 物語 の 登場 人物 の くせ に !
( カシラギ ) 僕 の せい だって いう の かい ?
それ は 書く 人 の 能力 な ん じゃ ない か ?
( 栞 ) うるさい ! あんた なんか 埋まれ !
( カシラギ ) そもそも 小説 を 書こ う と し た の は 栞 の ほう じゃ ない か
( 藤井寺 ) 栞 は 最近 変わった な ( 栞 ) えっ ?
相変わらず 話さ ん けど 明るい 無口 に なった な
( カシラギ ) 栞 は 変わった よ
きみ は 本 を 読 ん で いる だけ で 満足 だった ん じゃ ない の かい ?
小説 を 書 い て 誰 に 読 ん で もらい たかった ん だい ?
( 栞 ) 誰 か の ため なんか じゃ ない
私 は ただ … 心 に モヤモヤ が 広がって くる の
あれ 以来 胸 が ずっと ドキドキ し て
何 か し なく ちゃ 心 が 体 が 爆発 し そう だった
何 か を せ ず に は い られ なかった の よ !
でも 余計 に モヤモヤ し ちゃ った
お 話 を 書く 力 ある か と 思った けど 思い違い だった みたい
( 桂 馬 ) ご ちゃ ご ちゃ 考え て ない で 書 け よ
書け ば いい よ
お前 なら 書 ける よ 誰 より も 面白い 話
( 栞 ) か … 簡単 に 言わ ない で
( 桂 馬 ) 簡単 だ よ
栞 の こと を 書け ば いい ん だ よ
あっ …
( 桂 馬 ) 世 の 中 に いっぱい 物語 は ある
でも そんな の は どう で も いい ん だ
僕 が 読み たい の は 栞 の 話 さ
図書 館 の 中 に ずっと 住 ん で いる 本 を 愛する 子 の 話
でも 人 づ きあい は 不器用 で 図書 館 に 立てこもって しまう
( 栞 ) あっ …
( 桂 馬 ) そんな 子 の 話 が 読み たい ん だ
( 栞 ) う っ …
そ … そんな 話 つまらない です !
( 桂 馬 ) 書 ける はず だ 栞 が 覚え て い れ ば …
ハァ ハァ …
( 栞 ) やっぱり やっぱり いたん だ !
あの 籠城 の 夜 に あの 人 …
いたん だ !
そろそろ 書 け そう ?
( 栞 ) あっ …
あれ ?
か … 桂木 ( かつらぎ ) く ~ ん
あっ …
( 鳥 の さえずり )
( 足音 )
( 栞 ) 「 私 に つい て 」
「 頭 目 の 鍵 と 王 の 谷 の 宝 」 面白かった
「 果てしなく アバンチュール 」 面白かった
「 現代 哲学 地図 2 」 面白かった 1 より も
「 カルチャー 講座 ブレイク ダンス って 簡単 ! ! 」
簡単 じゃ なかった
これ が 今週 私 が 読 ん だ 本
図書 委員 は いろいろ な 本 が 読める
面白い 本 そう で ない 本
楽しい 本 悲しい 本 優しい 本
あした また 読み たい よう な 本
人気 の ある 本 を 読む の は 好き
だって 本 は 読ま れる ため に 生まれ て き た ん だ から
人気 の ない 本 は 特に 大切 に 読む
どの 本 も 本当 は 面白い の よ
キレイ な 本 は 好き 見 て いる だけ で 幸せ に な れる
汚れ た 本 も 好き よく 働 い た 証拠 だ も の
そんな 本 たち が 暮らし て いる 大きな 家
それ が 図書 館
私 の 幸せ の 住みか さまざま な 人 の 知恵
さまざま な 人 の 時間 さまざま な 人 の 思い
それ が 一堂 に 会する 場 こんな ところ は 他 に どこ に も ない
でも 私 に は 仲間 も いる
委員 長 の 藤井寺 さん
いつも ガミガミ 言って る けど 本当 は 優しい 人
私 が 図書 館 に 立てこもった 時 も 先生 に 言いつけ なかった
忘れ ない
下級 生 の みわ ちゃん は 音楽 好き で いつも いろいろ 教え て くれる
でも カラオケ など と いう 恐ろしい 場所 は
何度 誘わ れよ う と 行か ない から ね
みわ ちゃん の こと が 好き な 上井 ( かみ い ) 君 は 映画 好き
でも 本 も 読 ん だ ほう が いい わ 図書 委員 な ん だ から
今 は 外 で 本 を 読む の も 好き
人 が いる 図書 館 も 悪く も ない そう 思える
だって 本 は 人 が 書 い て 人 に 伝える もの だ から
本 は 私 の 空気
本 が あれ ば 私 の 世界 は どこまでも 広がる
そして 私 は …
ん …
あっ …
あ … あれ ?
お前 は 女神 か ?
えっ ? 知ら ない 人 と は 話さ ない よ
アポロ が ダメ って 言って た もん
( 桂 馬 ) アポロ ? ( ミネルヴァ ) ひ っ あっ あっ …
あた た … ん ?
か … 桂木 君
話 出来 た ん だ な
あっ … こんな の ただ の 独り言
話 なんて なんにも ない し … あっ …
僕 は 今 まで の 栞 の 話 で これ が 一 番 好き だ よ
全部 栞 に しか 書 け ない 言葉 だ
あっ ! あ … あの よ … 読 ん だ の ?
( 桂 馬 ) うん
( 栞 ) 最後 まで ? ( 桂 馬 ) うん
( 栞 ) 読 ん じゃ ダメ ~ ( 桂 馬 ) あっ あっ …
あ … あの 最後 の は 本気 じゃ なく て
だって もう 帰って こ ない 気 が し た から …
僕 と 栞 の 物語 は まだ 終わら ない よ
( 栞 ) ああ …
( 桂 馬 ) 栞 ( 栞 ) は … はい
( 桂 馬 ) これ 持って て ほしい ん だ
( 栞 ) プ … プレゼント ?
よかったら つけ て おい て よ
そ … それ は 分かり まし た けど あの …
( 栞 ) 最後 の 言葉 見 た ん でしょ う ? キス が その 答え で いい の ?
( 桂 馬 ) これ から 毎日 ここ に 来 て いい ?
栞 に 毎日 会い たい から
えっ …
( 栞 ) 結局 なんにも 言 え なかった
私 が 自分 の 気持ち を ツラツラ と 話せる 日 は
恐らく 未来 永 劫 ( えい ごう ) 訪れ ない で あ ろ う
あっ …
わ … 私 ミネルヴァ
( 栞 ) う っ ! ( ミネルヴァ ) あっ …
( 栞 ) こんな おかしな こと が あって も きっと 誰 に も 話せ ない
でも 今日 … 自分 の 言葉 が 見つかった かも しれ ない
続き 書か なきゃ
♪ ~
~ ♪
( 桂 馬 ) 発熱 悪寒 せき
この 忙しい 時 に 僕 は 風邪 を ひ い て しまった
だが ピンチ を チャンス に 変え て こそ
優れ た ゲーム プレーヤー だ
鉄板 の お 見舞い イベント で
歩美 ( あゆみ ) と ちひろ を 一気に 攻め落とす
( 亮 ( りょう ) ) 大変 だ ね ~
僕 風邪 なんて ひ い た こと ない から
分か ん ない や