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Readings (6-7mins), 8. 雪に埋れた話 - 土田耕平

8. 雪 に 埋れた 話 - 土田 耕平

雪 に 埋 れた 話 - 土田 耕平

お 秋 さん は 、 山 へ 柴 刈 に 行 つた か へり に 、 雪 に 降りこめられました 。 こん /\ と 止めど なく 降 つて くる 雪 は 、 膝 を 埋め 、 腰 を 埋め 、 胸 を 埋める 深 さ に まで 積 つて きました 。 お 秋 さん は 、 大きな 柴 の 束 を 背負 つ たま ゝ 、 立ちすくんで しま ひました 。 ・・

「 もう 助かり や う は ない 。」 ・・

と 思 つて 、 目 を つぶ つて 静かに して ゐま す と 、 だん /\ 気 が 遠く なりました 。 そして 、 何 時間 たつ たこ と やら 分 りません が 、 誰 か 自分 を 呼ぶ や う な 気 が して ひよ つと 目 を あいて 見ます と 、 雪 の と ん ねる が 長 くつ ゞ いた 中 に 、 お 秋 さん は 立つ て ゐる のでした 。 ・・

むかう の 方 が 少し 明るく 見えます ので 、 と ん ねる の 中 を とぼとぼ 歩いて 行きます と 、 突きあたり が 雪 の 扉 に な つて ゐま す 。 扉 を あけて 内 へ は ひる と 、 そこ は 大きな 洞 でした 。 洞 の 隅 の 方 に 身の丈 一 丈 も あらう か と 思 は れる 大 男 が 坐 つて ゐま した 。 ・・

「 もつ とこ つち へ お 出 で 。」 ・・

と 大 男 が 云 ひました 。 声 は 低い が 底力 が あつ て 、 洞 一 ぱい ひ ゞ き わたりました 。 お 秋 さん は 恐 る /\ 三 足 ばかり 前 へ 出ます と 、・・

「 柴 を おろし な 。」 ・・

と また 大 男 が 云 ひました 。 お 秋 さん は 雪 に 降りこめられた 時 の ま ゝ 柴 の 束 を 背負 つて ゐた のです 。 さつ そく 背中 から おろします と 、・・

「 こ ゝ へ 焼 べ な 。」 ・・

と また 云 ひました 。 大 男 の 前 に は 炉 が あつ て 、 とろ /\ 火 が 燃えて ゐま した 。 お 秋 さん が 柴 を くべます と 、 火 は 勢 よく 燃えあが つて 、 洞 の 上 から さ が つて ゐる 氷柱 が 赤く か ゞ やきました 。 ・・

「 火 を 消して は いけない 。 その 柴 が なくなる まで だん /\ 焼 べ たす のだ 。」 ・・

と 男 は 云 つて 、 もう それ きり 何も 云 ひません でした 。 お 秋 さん は 火 を 焚 き ながら 時々 顔 を あげて 見ます と 、 大 男 は いつも 目 を つぶ つ たま ゝ でした 。 考 へ ごと を して ゐる の か 、 それとも 眠 つて ゐる の か 分 りません でした 。 体 は 大きい けれど 、 顔つき は 大そう やさしくて 、 お 寺 に ある 仏 さま の や う でした 。 ・・

「 一体 この 人 は 何 だ ら う 。 こんな 洞 の 中 に いつも 一 人 で ゐる の だ ら うか 。」 など と お 秋 さん は 考 へました 。 そのくせ お 秋 さん 自身 が 、 どうして こんな 洞 の 中 へ 来た の か 、 それ に ついて は ちつ と も 考 へません でした 。 ・・

その 中 に 柴 の 束 はだん /\ 燃やし つくされて 、 す つかり おしま ひに なりました 。 炉 の 火 が 消えて しま ふと 一 所 に 、 男 は ぱつ ちり と 目 を あいて 、・・

「 御 苦労 々々 々 。 もう か へ つて も よろしい 。」 ・・

と 云 ひました 。 お 秋 さん は 大 男 を 怖い と 思 ふ 心 は 、 全く 消えて ゐま した 。 けれど このま ゝ 洞 の 中 に 一 し よに 居 や う と は 思 ひません でした 。 ・・

立ちあが つて 洞 の 外 へ 出て 見ます と 、 雪 の と ん ねる は 、 いつか 消えて しま つて 、 あちこち に 梅 の 花 が 咲いて ゐま す 。 う ぐ ひ す や 目白 の 声 も きこえます 。 ・・

「 あ ゝ もう 春 だ 。」 ・・

と お 秋 さん は 、 ふしぎ さ う に 呟きました 。 洞 の 中 に ゐた の は 一 時間 ばかり と 思 ふ のに 、 早くも 一 冬 を 過 して しま つ た のです 。 お 秋 さん は 無事 家 へ か へる こと が できました 。 村 の 人々 を さそ つて 再び 山 へ 来て 見ました が 、 どうしても 大 男 を 見つける こと は 出来ません でした 。 洞 の あと も 分 りません でした 。


8. 雪 に 埋れた 話 - 土田 耕平 ゆき||うずまれた|はなし|つちた|こうへい

雪 に 埋 れた 話 - 土田 耕平 ゆき||うずま||はなし|つちた|こうへい

お 秋 さん は 、 山 へ 柴 刈 に 行 つた か へり に 、 雪 に 降りこめられました 。 |あき|||やま||しば|か||ぎょう|||||ゆき||ふりこめられました こん /\ と 止めど なく 降 つて くる 雪 は 、 膝 を 埋め 、 腰 を 埋め 、 胸 を 埋める 深 さ に まで 積 つて きました 。 ||とめど||ふ|||ゆき||ひざ||うずめ|こし||うずめ|むね||うずめる|ふか||||せき|| お 秋 さん は 、 大きな 柴 の 束 を 背負 つ たま ゝ 、 立ちすくんで しま ひました 。 |あき|||おおきな|しば||たば||せお||||たちすくんで|| ・・

「 もう 助かり や う は ない 。」 |たすかり|||| ・・

と 思 つて 、 目 を つぶ つて 静かに して ゐま す と 、 だん /\ 気 が 遠く なりました 。 |おも||め||||しずかに||||||き||とおく| そして 、 何 時間 たつ たこ と やら 分 りません が 、 誰 か 自分 を 呼ぶ や う な 気 が して ひよ つと 目 を あいて 見ます と 、 雪 の と ん ねる が 長 くつ ゞ いた 中 に 、 お 秋 さん は 立つ て ゐる のでした 。 |なん|じかん|||||ぶん|||だれ||じぶん||よぶ||||き|||||め|||みます||ゆき||||||ちょう||||なか|||あき|||たつ||| ・・

むかう の 方 が 少し 明るく 見えます ので 、 と ん ねる の 中 を とぼとぼ 歩いて 行きます と 、 突きあたり が 雪 の 扉 に な つて ゐま す 。 ||かた||すこし|あかるく|みえます||||||なか|||あるいて|いきます||つきあたり||ゆき||とびら||||| 扉 を あけて 内 へ は ひる と 、 そこ は 大きな 洞 でした 。 とびら|||うち|||||||おおきな|ほら| 洞 の 隅 の 方 に 身の丈 一 丈 も あらう か と 思 は れる 大 男 が 坐 つて ゐま した 。 ほら||すみ||かた||みのたけ|ひと|たけ|||||おも|||だい|おとこ||すわ||| ・・

「 もつ とこ つち へ お 出 で 。」 |||||だ| ・・

と 大 男 が 云 ひました 。 |だい|おとこ||うん| 声 は 低い が 底力 が あつ て 、 洞 一 ぱい ひ ゞ き わたりました 。 こえ||ひくい||そこぢから||||ほら|ひと||||| お 秋 さん は 恐 る /\ 三 足 ばかり 前 へ 出ます と 、・・ |あき|||こわ||みっ|あし||ぜん||でます|

「 柴 を おろし な 。」 しば||| ・・

と また 大 男 が 云 ひました 。 ||だい|おとこ||うん| お 秋 さん は 雪 に 降りこめられた 時 の ま ゝ 柴 の 束 を 背負 つて ゐた のです 。 |あき|||ゆき||ふりこめられた|じ||||しば||たば||せお|||の です さつ そく 背中 から おろします と 、・・ ||せなか|||

「 こ ゝ へ 焼 べ な 。」 |||や|| ・・

と また 云 ひました 。 ||うん| 大 男 の 前 に は 炉 が あつ て 、 とろ /\ 火 が 燃えて ゐま した 。 だい|おとこ||ぜん|||ろ|||||ひ||もえて|| お 秋 さん が 柴 を くべます と 、 火 は 勢 よく 燃えあが つて 、 洞 の 上 から さ が つて ゐる 氷柱 が 赤く か ゞ やきました 。 |あき|||しば||||ひ||ぜい||もえあが||ほら||うえ||||||つらら||あかく||| ・・

「 火 を 消して は いけない 。 ひ||けして|| その 柴 が なくなる まで だん /\ 焼 べ たす のだ 。」 |しば|||||や||| ・・

と 男 は 云 つて 、 もう それ きり 何も 云 ひません でした 。 |おとこ||うん|||||なにも|うん|| お 秋 さん は 火 を 焚 き ながら 時々 顔 を あげて 見ます と 、 大 男 は いつも 目 を つぶ つ たま ゝ でした 。 |あき|||ひ||ふん|||ときどき|かお|||みます||だい|おとこ|||め|||||| 考 へ ごと を して ゐる の か 、 それとも 眠 つて ゐる の か 分 りません でした 。 こう|||||||||ねむ|||||ぶん|| 体 は 大きい けれど 、 顔つき は 大そう やさしくて 、 お 寺 に ある 仏 さま の や う でした 。 からだ||おおきい||かおつき||たいそう|||てら|||ふつ||||| ・・

「 一体 この 人 は 何 だ ら う 。 いったい||じん||なん||| こんな 洞 の 中 に いつも 一 人 で ゐる の だ ら うか 。」 |ほら||なか|||ひと|じん|||||| など と お 秋 さん は 考 へました 。 |||あき|||こう| そのくせ お 秋 さん 自身 が 、 どうして こんな 洞 の 中 へ 来た の か 、 それ に ついて は ちつ と も 考 へません でした 。 ||あき||じしん||||ほら||なか||きた||||||||||こう|| ・・

その 中 に 柴 の 束 はだん /\ 燃やし つくされて 、 す つかり おしま ひに なりました 。 |なか||しば||たば||もやし|||||| 炉 の 火 が 消えて しま ふと 一 所 に 、 男 は ぱつ ちり と 目 を あいて 、・・ ろ||ひ||きえて|||ひと|しょ||おとこ|||||め||

「 御 苦労 々々 々 。 ご|くろう|| もう か へ つて も よろしい 。」 ・・

と 云 ひました 。 |うん| お 秋 さん は 大 男 を 怖い と 思 ふ 心 は 、 全く 消えて ゐま した 。 |あき|||だい|おとこ||こわい||おも||こころ||まったく|きえて|| けれど このま ゝ 洞 の 中 に 一 し よに 居 や う と は 思 ひません でした 。 |||ほら||なか||ひと|||い|||||おも|| ・・

立ちあが つて 洞 の 外 へ 出て 見ます と 、 雪 の と ん ねる は 、 いつか 消えて しま つて 、 あちこち に 梅 の 花 が 咲いて ゐま す 。 たちあが||ほら||がい||でて|みます||ゆき|||||||きえて|||||うめ||か||さいて|| う ぐ ひ す や 目白 の 声 も きこえます 。 |||||めじろ||こえ|| ・・

「 あ ゝ もう 春 だ 。」 |||はる| ・・

と お 秋 さん は 、 ふしぎ さ う に 呟きました 。 ||あき|||||||つぶやきました 洞 の 中 に ゐた の は 一 時間 ばかり と 思 ふ のに 、 早くも 一 冬 を 過 して しま つ た のです 。 ほら||なか|||||ひと|じかん|||おも|||はやくも|ひと|ふゆ||か|||||の です お 秋 さん は 無事 家 へ か へる こと が できました 。 |あき|||ぶじ|いえ|||||| 村 の 人々 を さそ つて 再び 山 へ 来て 見ました が 、 どうしても 大 男 を 見つける こと は 出来ません でした 。 むら||ひとびと||||ふたたび|やま||きて|みました|||だい|おとこ||みつける|||できません| 洞 の あと も 分 りません でした 。 ほら||||ぶん||