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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 82. 鷹を貰い損なった話 - 寺田寅彦

82. 鷹 を 貰い 損なった 話 - 寺田 寅彦

鷹 を 貰い 損なった 話 - 寺田 寅彦

小学 時代 の 先生 方 から 学校 教育 を 受けた 外 に 同 学 の 友達 から は 色々の 大切な 人間 教育 を 受けた 。 そういう 友達 の 中 に も 硬派 と 軟 派 と 二 種類 あって 、 その 硬派 の 首領 株 から は だいぶ いじめられた 。 板垣 退 助 を 戴 いた 自由党 が 全盛 の 時代 であった ので 、 軍人 の 子供 である 自分 は 、「 官権 党 の 子 」 だ と いう 理由 で いじめられた 。 東京 訛 が 抜け なかった ため に 「 他国 もん の べろ しゃ /\」 だ と 云って いじめられた 。 そうして 、 墨 を よこさ なければ 帰り に 待伏せ する と 威 かさ れ 、 小 刀 を くれ ない と し でる ぞ ( ひどい 目 に 合わせる ) と 云って は 脅かさ れた 。 その頃 の 硬派 の 首領 株 の 一 人 は その後 人力車 夫 に なった と 聞いた が 、 それ から どう なった か 一 度 も 巡り合わ ず それ きり 消息 を 知る こと が 出来 ない 。 ・・

そういう 怖い 仲間 と は まるで 感じ の ちがう × と いう の が 居た 。 うち は 何 商売 だった か 分 ら ない が 、 その 家 の 店先 に 小鳥 の 籠 が いくつか 並べて あった 。 梟 が 撞木 に 止まって まじまじ 尤 も らしい 顔 を して いた こと も あった 。 しかし 小鳥 屋 専門 の 店 で は なかった ような 気 が する 。 ・・

その × は 色 の 白い 女 の ように 優しい 子 であった が 、 それ が 自分 に 対して 特別に 優し 味 と 柔らか 味 の ある 一風 変った 友達 と して 接近 して いた 。 外 の 事 は 覚えて いない が ただ 一事 はっきり 覚えて いる の は 、 この 子 が 自分 に ときどき 梟 を やろう と か 時 鳥 を やろう と か また 鷹 を やろう と か いう 申し出 し を した こと である 。 但し それ に は 交換 条件 が あって 、 おまえ の もって いる 墨 と か ナイフ と か を 呉 れたら 、 と いう のであった 。 自分 は どういう 訳 か その 鷹 が ひどく 欲しかった ので 、 彼 の 申込み に 応じて 品 は 忘れた が 彼 の 要求 する もの を 引渡した 。 そうして いよいよ 鷹 が 貰える と 思って 夜 が 寝られ ない ほど 嬉し がった もの である 。 鷹 を 貰って から の こと を 色々 空中 に 画 いて は エクスタシー に 耽った もの と 見えて 、 今 でも なんだか 本当に 一 度 鷹 を 飼った こと が ある ような 気持 が する こと が ある 、 もちろん 事実 は 鷹 など かつて 飼った 経験 は ない のである 。 ・・

明日 は いよいよ 鷹 が 貰える と 思って さんざん に 待ちかねて 、 やっと その 日 に なって みる と 鷹 は 今 ちょうど トヤ に 入って いる から もう 二 、 三 日 待って くれ と いう のである 。 ひどく がっかり して 、 しかし 結局 あきらめて 辛抱 して 待って 、 さて もう いい か と 思って 催促 する と 、 今度 は 何とか が どう とかして 何とか で 工 合 が 悪い から もう 二 、 三 日 待て と いう 、 その 何とか が 実に 尤 千万 な 何とか で 疑う 余地 など は 鷹 の 睫毛 ほど も ない のだ から 全く 納得 さ せられる 外 は なかった 。 それ から ……。 そういう 風 に して 結局 とうとう 鷹 の 夢 を 存分に 享 楽 さ せて もらった だけ で 、 生きて いる 実在 の 鷹 は とうとう 自分 の もの に なら ないで おしまい に なった 。 はじめ に 交換 条件 で 渡した 品 を 返して もらった か もらわ なかった か 、 それ は 思い出せ ない 。 ・・

これ など は 幼年 時代 に 受けた 教育 の 中 でも かなり ため に なる 種類 の もの であった と 思う 。 多分 十 歳 くらい の こと であった か 、 あるいは 七 、 八 歳 だった かも しれ ない 。 ・・

× の 消息 は その後 全く 分 ら ない 。 ・・

尤 も 、 この 頃 でも やはり ときどき は 「 鷹 を 貰い 損なう 」 こと が ある ような 気 が する のである 。 ・・

( 昭和 九 年 八 月 『 行動 』)

82. 鷹 を 貰い 損なった 話 - 寺田 寅彦 たか||もらい|そこなった|はなし|てらた|とらひこ 82. the story of missing the hawk - Torahiko Terada 82. 失去鹰的故事——寺田虎彦

鷹 を 貰い 損なった 話 - 寺田 寅彦 たか||もらい|そこなった|はなし|てらた|とらひこ The story of losing a hawk-Torahiko Terada

小学 時代 の 先生 方 から 学校 教育 を 受けた 外 に 同 学 の 友達 から は 色々の 大切な 人間 教育 を 受けた 。 しょうがく|じだい||せんせい|かた||がっこう|きょういく||うけた|がい||どう|まな||ともだち|||いろいろの|たいせつな|にんげん|きょういく||うけた そういう 友達 の 中 に も 硬派 と 軟 派 と 二 種類 あって 、 その 硬派 の 首領 株 から は だいぶ いじめられた 。 |ともだち||なか|||こうは||なん|は||ふた|しゅるい|||こうは||しゅりょう|かぶ||||いじめ られた 板垣 退 助 を 戴 いた 自由党 が 全盛 の 時代 であった ので 、 軍人 の 子供 である 自分 は 、「 官権 党 の 子 」 だ と いう 理由 で いじめられた 。 いたがき|しりぞ|じょ||たい||じゆうとう||ぜんせい||じだい|||ぐんじん||こども||じぶん||かんけん|とう||こ||||りゆう||いじめ られた 東京 訛 が 抜け なかった ため に 「 他国 もん の べろ しゃ /\」 だ と 云って いじめられた 。 とうきょう|なま||ぬけ||||たこく|||||||うん って|いじめ られた I was bullied by saying that it was "Bellosha of another country / \" because I couldn't get rid of the Tokyo accent. そうして 、 墨 を よこさ なければ 帰り に 待伏せ する と 威 かさ れ 、 小 刀 を くれ ない と し でる ぞ ( ひどい 目 に 合わせる ) と 云って は 脅かさ れた 。 |すみ||||かえり||まちぶせ|||たけし|||しょう|かたな|||||||||め||あわせる||うん って||おびやかさ| その頃 の 硬派 の 首領 株 の 一 人 は その後 人力車 夫 に なった と 聞いた が 、 それ から どう なった か 一 度 も 巡り合わ ず それ きり 消息 を 知る こと が 出来 ない 。 そのころ||こうは||しゅりょう|かぶ||ひと|じん||そのご|じんりきしゃ|おっと||||きいた|||||||ひと|たび||めぐりあわ||||しょうそく||しる|||でき| ・・

そういう 怖い 仲間 と は まるで 感じ の ちがう × と いう の が 居た 。 |こわい|なかま||||かんじ|||||||いた うち は 何 商売 だった か 分 ら ない が 、 その 家 の 店先 に 小鳥 の 籠 が いくつか 並べて あった 。 ||なん|しょうばい|||ぶん|||||いえ||みせさき||ことり||かご||いく つ か|ならべて| 梟 が 撞木 に 止まって まじまじ 尤 も らしい 顔 を して いた こと も あった 。 ふくろう||どうき||とまって||ゆう|||かお|||||| しかし 小鳥 屋 専門 の 店 で は なかった ような 気 が する 。 |ことり|や|せんもん||てん|||||き|| ・・

その × は 色 の 白い 女 の ように 優しい 子 であった が 、 それ が 自分 に 対して 特別に 優し 味 と 柔らか 味 の ある 一風 変った 友達 と して 接近 して いた 。 ||いろ||しろい|おんな|||やさしい|こ|||||じぶん||たいして|とくべつに|やさし|あじ||やわらか|あじ|||いっぷう|かわった|ともだち|||せっきん|| 外 の 事 は 覚えて いない が ただ 一事 はっきり 覚えて いる の は 、 この 子 が 自分 に ときどき 梟 を やろう と か 時 鳥 を やろう と か また 鷹 を やろう と か いう 申し出 し を した こと である 。 がい||こと||おぼえて||||いちじ||おぼえて|||||こ||じぶん|||ふくろう|||||じ|ちょう||||||たか||||||もうしで||||| I don't remember the outside world, but the only thing I remember clearly is that the child sometimes offered to do owls, birds, and hawks. be . 但し それ に は 交換 条件 が あって 、 おまえ の もって いる 墨 と か ナイフ と か を 呉 れたら 、 と いう のであった 。 ただし||||こうかん|じょうけん|||||||すみ|||ないふ||||くれ|||| 自分 は どういう 訳 か その 鷹 が ひどく 欲しかった ので 、 彼 の 申込み に 応じて 品 は 忘れた が 彼 の 要求 する もの を 引渡した 。 じぶん|||やく|||たか|||ほしかった||かれ||もうしこみ||おうじて|しな||わすれた||かれ||ようきゅう||||ひきわたした そうして いよいよ 鷹 が 貰える と 思って 夜 が 寝られ ない ほど 嬉し がった もの である 。 ||たか||もらえる||おもって|よ||ね られ|||うれし||| 鷹 を 貰って から の こと を 色々 空中 に 画 いて は エクスタシー に 耽った もの と 見えて 、 今 でも なんだか 本当に 一 度 鷹 を 飼った こと が ある ような 気持 が する こと が ある 、 もちろん 事実 は 鷹 など かつて 飼った 経験 は ない のである 。 たか||もらって|||||いろいろ|くうちゅう||が|||||たん った|||みえて|いま|||ほんとうに|ひと|たび|たか||かった|||||きもち|||||||じじつ||たか|||かった|けいけん||| ・・

明日 は いよいよ 鷹 が 貰える と 思って さんざん に 待ちかねて 、 やっと その 日 に なって みる と 鷹 は 今 ちょうど トヤ に 入って いる から もう 二 、 三 日 待って くれ と いう のである 。 あした|||たか||もらえる||おもって|||まちかねて|||ひ|||||たか||いま||||はいって||||ふた|みっ|ひ|まって|||| ひどく がっかり して 、 しかし 結局 あきらめて 辛抱 して 待って 、 さて もう いい か と 思って 催促 する と 、 今度 は 何とか が どう とかして 何とか で 工 合 が 悪い から もう 二 、 三 日 待て と いう 、 その 何とか が 実に 尤 千万 な 何とか で 疑う 余地 など は 鷹 の 睫毛 ほど も ない のだ から 全く 納得 さ せられる 外 は なかった 。 ||||けっきょく||しんぼう||まって||||||おもって|さいそく|||こんど||なんとか||||なんとか||こう|ごう||わるい|||ふた|みっ|ひ|まて||||なんとか||じつに|ゆう|せんまん||なんとか||うたがう|よち|||たか||まつげ||||||まったく|なっとく||せら れる|がい|| それ から ……。 そういう 風 に して 結局 とうとう 鷹 の 夢 を 存分に 享 楽 さ せて もらった だけ で 、 生きて いる 実在 の 鷹 は とうとう 自分 の もの に なら ないで おしまい に なった 。 |かぜ|||けっきょく||たか||ゆめ||ぞんぶんに|あきら|がく||||||いきて||じつざい||たか|||じぶん|||||||| はじめ に 交換 条件 で 渡した 品 を 返して もらった か もらわ なかった か 、 それ は 思い出せ ない 。 ||こうかん|じょうけん||わたした|しな||かえして||||||||おもいだせ| ・・

これ など は 幼年 時代 に 受けた 教育 の 中 でも かなり ため に なる 種類 の もの であった と 思う 。 |||ようねん|じだい||うけた|きょういく||なか||||||しゅるい|||||おもう 多分 十 歳 くらい の こと であった か 、 あるいは 七 、 八 歳 だった かも しれ ない 。 たぶん|じゅう|さい|||||||なな|やっ|さい|||| ・・

× の 消息 は その後 全く 分 ら ない 。 |しょうそく||そのご|まったく|ぶん|| ・・

尤 も 、 この 頃 でも やはり ときどき は 「 鷹 を 貰い 損なう 」 こと が ある ような 気 が する のである 。 ゆう|||ころ|||||たか||もらい|そこなう|||||き||| ・・

( 昭和 九 年 八 月 『 行動 』) しょうわ|ここの|とし|やっ|つき|こうどう