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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 76. 火の玉を見たこと - 牧野富太郎

76. 火 の 玉 を 見た こと - 牧野 富太郎

火 の 玉 を 見た こと - 牧野 富太郎

時 は 、 明治 十五 、 六 年 頃 、 私 は まだ 二十一 、 二 才 頃 の とき であったろう と 思って いる が 、 その 時分 に ときどき 、 高知 ( 土佐 ) から 七 里 ほど の 夜道 を 踏んで 西方 の 郷里 、 佐川 町 へ 帰った こと が あった 。 ・・

かく 夜中 に 歩いて 帰る こと は 当時 すこぶる 興味 を 覚えて いた ので 、 ときどき これ を 実行 した 。 すなわち ある 時 は ひと り 、 また ある 時 は 二 人 、 三 人 と いっしょであった 。 ・・

ある 夏 に 、 例の とおり ひと り で 高知 から 佐川 に 向かった 。 郷里 から さほど 遠く ない 加茂 村 の うち の 字 、 長竹 と いう 在 所 に 国道 が あって 、 そこ が 南 向け に 通じて いた 。 北国 道 の 両側 は 低い 山 で その 向 う の 山 は それ より 高かった 。 まっ暗 な 夜 で 、 別に 風 も なく 静かであった 。 ・・

たぶん 午前 三 時 頃 で も あったろう か 。 ふと 、 向 う を 見る と 突然 空 高く 西 の 方 から 一 個 の 火 の 玉 が 東 に 向いて 水平に 飛んで 来た 。 ハッと 思って 見る うち に 、 たぶん そこ な 山 の 木 か 、 もしくは 岩 か に 突き当たった のであろう 。 パッと 花火 の 火 の ように 火花 が 散り 砕けて すぐ 消えて しまって 、 後 は まっ暗 であった 。 そして 、 その 火 の 玉 の 色 は 少し 赤み が かって いた ように 感じ 、 あえて 青白い ような 光 で は なかった 。 ・・

次 は 、 これ と 前後 した 頃 であった と 思う 。 やはり 、 暗い 闇 の 夜 に 高知 から 郷里 に 向かって の 帰途 、 岩 目 地 と いう ところ の 低い 岡 の 南側 を 通る ように 道 が ついて いる 。 この 岡 の ところ に 林 が あって 、 そこ に 小さい 神社 が あり 、 土地 の 人 は これ を 御 竜 様 と 呼んで いる 。 この 神社 の 下 が すなわち 通路 で 、 これ は 国道 から 南 に 少し 離れた 間道 である 。 そして この 道 の 南方 一帯 が 水 の ある 湿地 で 、 小 灌木 や 水草 など が 生え 繁って 田 など は なく 、 また もとより その 近辺 に は 一 軒 の 人家 も 見え ず 、 人家 から は だいぶ 隔たって いる 淋しい 場所 で 、 南東 に は 岡 が あり 、 その 麓 に 小さい 川 が 流れて 、 右 の 湿地 を 抱いて いる 。 ・・

ある 年 の 夏 、 暗い 夜 の 三 時 か 、 四 時 頃 で も あった であろう 。 私 は 御 竜 様 の 下 の 道 から ふと 向 う を 見る と 、 その 東南 一 町 ほど の 湿地 、 灌木 など の 茂って いる 辺 に ごく 低く 、 一 個 の 静かな 火 が 見えて いた 。 それ は 光 の 弱い 火 で きわめて 静かに じ ーっと 沈んだ ように なって いた 。 私 は これ を 一 つ の 陰 火 であった と 今 も 思って いる が 、 そこ は よく ケチビ ( 土佐 で は 陰 火 を こういう ) が 出る と いわれて いる 地域 である 。 ・・

次 は 明治 八 、 九 年 頃 の こと で は なかった か と 思って いる が 、 私 の 佐川 町 で 見た 火 の 玉 である 。 それ は 、 まだ 宵 の うち であった が 、 町 で 遊んで いる と 町 の 人家 と 人家 と の 間 から この 火 の 玉 が 見えた 。 これ は 、 光り の ごく 弱い 大きな まるい 玉 で 、 淡い 月 を 見る ような 火 の 玉 であった 。 この 火 の 玉 は 上 から やや 斜めに ゆるやかに 下りて きて 地面 に 近く なった ところ で 、 ついに 人家 に 遮られて 見え なく なった 。 そこ の 町名 は 新町 で 、 その 外側 は 東 に 向かい 、 それ から 稲田 が つづいて いた 。 ・・

なお 、 四国 に は 、 陰 火 が よく 現われる ところ と して 知られて いる 土地 が ある 。 それ は 、 徳島 県 海部 郡 なる 日和佐 町 の 附近 で 、 ここ に は 一 つ の 川 が あって 、 その 川 の 辺 に は 時々 陰 火 が 現われる と いう 。 陰 火 の 研究 に でかけて みる と 面白い ところ だ と 思わ れる 。

76. 火 の 玉 を 見た こと - 牧野 富太郎 ひ||たま||みた||まきの|とみたろう 76. seeing a fireball - Tomitaro Makino

火 の 玉 を 見た こと - 牧野 富太郎 ひ||たま||みた||まきの|とみたろう Seeing a fireball-Tomitaro Makino

時 は 、 明治 十五 、 六 年 頃 、 私 は まだ 二十一 、 二 才 頃 の とき であったろう と 思って いる が 、 その 時分 に ときどき 、 高知 ( 土佐 ) から 七 里 ほど の 夜道 を 踏んで 西方 の 郷里 、 佐川 町 へ 帰った こと が あった 。 じ||めいじ|じゅうご|むっ|とし|ころ|わたくし|||にじゅういち|ふた|さい|ころ|||||おもって||||じぶん|||こうち|とさ||なな|さと|||よみち||ふんで|せいほう||きょうり|さがわ|まち||かえった||| ・・

かく 夜中 に 歩いて 帰る こと は 当時 すこぶる 興味 を 覚えて いた ので 、 ときどき これ を 実行 した 。 |よなか||あるいて|かえる|||とうじ||きょうみ||おぼえて||||||じっこう| すなわち ある 時 は ひと り 、 また ある 時 は 二 人 、 三 人 と いっしょであった 。 ||じ||||||じ||ふた|じん|みっ|じん|| ・・

ある 夏 に 、 例の とおり ひと り で 高知 から 佐川 に 向かった 。 |なつ||れいの|||||こうち||さがわ||むかった 郷里 から さほど 遠く ない 加茂 村 の うち の 字 、 長竹 と いう 在 所 に 国道 が あって 、 そこ が 南 向け に 通じて いた 。 きょうり|||とおく||かも|むら||||あざ|ながたけ|||ざい|しょ||こくどう|||||みなみ|むけ||つうじて| 北国 道 の 両側 は 低い 山 で その 向 う の 山 は それ より 高かった 。 きたぐに|どう||りょうがわ||ひくい|やま|||むかい|||やま||||たかかった まっ暗 な 夜 で 、 別に 風 も なく 静かであった 。 まっくら||よ||べつに|かぜ|||しずかであった ・・

たぶん 午前 三 時 頃 で も あったろう か 。 |ごぜん|みっ|じ|ころ|||| ふと 、 向 う を 見る と 突然 空 高く 西 の 方 から 一 個 の 火 の 玉 が 東 に 向いて 水平に 飛んで 来た 。 |むかい|||みる||とつぜん|から|たかく|にし||かた||ひと|こ||ひ||たま||ひがし||むいて|すいへいに|とんで|きた ハッと 思って 見る うち に 、 たぶん そこ な 山 の 木 か 、 もしくは 岩 か に 突き当たった のであろう 。 はっと|おもって|みる||||||やま||き|||いわ|||つきあたった| パッと 花火 の 火 の ように 火花 が 散り 砕けて すぐ 消えて しまって 、 後 は まっ暗 であった 。 ぱっと|はなび||ひ||よう に|ひばな||ちり|くだけて||きえて||あと||まっくら| そして 、 その 火 の 玉 の 色 は 少し 赤み が かって いた ように 感じ 、 あえて 青白い ような 光 で は なかった 。 ||ひ||たま||いろ||すこし|あかみ||||よう に|かんじ||あおじろい||ひかり||| ・・

次 は 、 これ と 前後 した 頃 であった と 思う 。 つぎ||||ぜんご||ころ|||おもう やはり 、 暗い 闇 の 夜 に 高知 から 郷里 に 向かって の 帰途 、 岩 目 地 と いう ところ の 低い 岡 の 南側 を 通る ように 道 が ついて いる 。 |くらい|やみ||よ||こうち||きょうり||むかって||きと|いわ|め|ち|||||ひくい|おか||みなみがわ||とおる|よう に|どう||| この 岡 の ところ に 林 が あって 、 そこ に 小さい 神社 が あり 、 土地 の 人 は これ を 御 竜 様 と 呼んで いる 。 |おか||||りん|||||ちいさい|じんじゃ|||とち||じん||||ご|りゅう|さま||よんで| この 神社 の 下 が すなわち 通路 で 、 これ は 国道 から 南 に 少し 離れた 間道 である 。 |じんじゃ||した|||つうろ||||こくどう||みなみ||すこし|はなれた|かんどう| そして この 道 の 南方 一帯 が 水 の ある 湿地 で 、 小 灌木 や 水草 など が 生え 繁って 田 など は なく 、 また もとより その 近辺 に は 一 軒 の 人家 も 見え ず 、 人家 から は だいぶ 隔たって いる 淋しい 場所 で 、 南東 に は 岡 が あり 、 その 麓 に 小さい 川 が 流れて 、 右 の 湿地 を 抱いて いる 。 ||どう||なんぽう|いったい||すい|||しっち||しょう|かんぼく||みずくさ|||はえ|しげって|た|||||||きんぺん|||ひと|のき||じんか||みえ||じんか||||へだたって||さびしい|ばしょ||なんとう|||おか||||ふもと||ちいさい|かわ||ながれて|みぎ||しっち||いだいて| ・・

ある 年 の 夏 、 暗い 夜 の 三 時 か 、 四 時 頃 で も あった であろう 。 |とし||なつ|くらい|よ||みっ|じ||よっ|じ|ころ|||| 私 は 御 竜 様 の 下 の 道 から ふと 向 う を 見る と 、 その 東南 一 町 ほど の 湿地 、 灌木 など の 茂って いる 辺 に ごく 低く 、 一 個 の 静かな 火 が 見えて いた 。 わたくし||ご|りゅう|さま||した||どう|||むかい|||みる|||とうなん|ひと|まち|||しっち|かんぼく|||しげって||ほとり|||ひくく|ひと|こ||しずかな|ひ||みえて| それ は 光 の 弱い 火 で きわめて 静かに じ ーっと 沈んだ ように なって いた 。 ||ひかり||よわい|ひ|||しずかに||-っと|しずんだ|よう に|| 私 は これ を 一 つ の 陰 火 であった と 今 も 思って いる が 、 そこ は よく ケチビ ( 土佐 で は 陰 火 を こういう ) が 出る と いわれて いる 地域 である 。 わたくし||||ひと|||かげ|ひ|||いま||おもって|||||||とさ|||かげ|ひ||||でる||||ちいき| ・・

次 は 明治 八 、 九 年 頃 の こと で は なかった か と 思って いる が 、 私 の 佐川 町 で 見た 火 の 玉 である 。 つぎ||めいじ|やっ|ここの|とし|ころ||||||||おもって|||わたくし||さがわ|まち||みた|ひ||たま| それ は 、 まだ 宵 の うち であった が 、 町 で 遊んで いる と 町 の 人家 と 人家 と の 間 から この 火 の 玉 が 見えた 。 |||よい|||||まち||あそんで|||まち||じんか||じんか|||あいだ|||ひ||たま||みえた これ は 、 光り の ごく 弱い 大きな まるい 玉 で 、 淡い 月 を 見る ような 火 の 玉 であった 。 ||ひかり|||よわい|おおきな||たま||あわい|つき||みる||ひ||たま| この 火 の 玉 は 上 から やや 斜めに ゆるやかに 下りて きて 地面 に 近く なった ところ で 、 ついに 人家 に 遮られて 見え なく なった 。 |ひ||たま||うえ|||ななめに||おりて||じめん||ちかく|||||じんか||さえぎられて|みえ|| そこ の 町名 は 新町 で 、 その 外側 は 東 に 向かい 、 それ から 稲田 が つづいて いた 。 ||ちょうめい||しんまち|||そとがわ||ひがし||むかい|||いなだ||| ・・

なお 、 四国 に は 、 陰 火 が よく 現われる ところ と して 知られて いる 土地 が ある 。 |しこく|||かげ|ひ|||あらわれる||||しられて||とち|| それ は 、 徳島 県 海部 郡 なる 日和佐 町 の 附近 で 、 ここ に は 一 つ の 川 が あって 、 その 川 の 辺 に は 時々 陰 火 が 現われる と いう 。 ||とくしま|けん|かいふ|ぐん||ひわさ|まち||ふきん|||||ひと|||かわ||||かわ||ほとり|||ときどき|かげ|ひ||あらわれる|| 陰 火 の 研究 に でかけて みる と 面白い ところ だ と 思わ れる 。 かげ|ひ||けんきゅう|||||おもしろい||||おもわ|