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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 70. 智恵子の紙絵 - 高村光太郎

70. 智恵子 の 紙 絵 - 高村 光太郎

智恵子 の 紙 絵 - 高村 光太郎

精神 病者 に 簡単な 手 工 を すすめる の は いい と きいて ゐた ので 、 智恵子 が 病院 に 入院 して 、 半年 も たち 、 昂 奮 が やや 鎮静 した 頃 、 私 は 智恵子 の 平常 好きだ つた 千代紙 を 持つ てい つた 。 智恵子 は 大へん よろこんで 其 で 千羽鶴 を 折 つた 。 訪問 する たび に 部屋 の 天井 から 下 つて ゐる 鶴 の 折紙 が ふえて 美 しか つた 。 その うち 、 鶴 の 外 に も 紙 灯籠 だ と か 其他 の 形 の もの が 作ら れる や うに なり 、 中 々 意匠 を こらした もの が ぶら 下 つて ゐた 。 すると 或時 、 智恵子 は 訪問 の 私 に 一 つ の 紙づつみ を 渡して 見ろ と いふ 風情 で あつ た 。 紙 包 を あける と 中 に 色 が み を 鋏 で 切 つた 模様 風 の 美しい 紙 細工 が 大切 さ う に 仕舞 つ てあつ た 。 其 を 見て 私 は 驚いた 。 其 が まつ たく 折 鶴 から 飛躍 的に 進んだ 立派な 芸術 品 で あつ たから である 。 私 の 感嘆 を 見て 智恵子 は 恥 かし さ う に 笑 つた り 、 お辞儀 を したり して ゐた 。

その頃 は 、 何でも そこら に ある 紙 きれ を 手あたり次第 に 用 ゐて ゐた の である が 、 やがて 色彩 に 対する 要求 が 強く な つた と 見えて 、 いろ 紙 を 持つ て 来て くれ と いふ や うに な つた 。 私 は 早速 丸の内 の はい 原 へ 行 つて 子供 が 折紙 に つか ふい ろ紙 を 幾 種 か 買 つて 送 つた 。 智恵子 の 「 仕事 」 が それ から 始まつ た 。 看護 婦 さん の いふ ところ に よる と 、 風邪 を ひいたり 、 熱 を 出したり した 時 以外 は 、 毎日 「 仕事 」 を する のだ とい つて 、 朝 から しきり と 切 紙 細工 を や つて ゐた らしい 。 鋏 は マニキュア に 使 ふ 小さな 、 尖 端 の 曲 つた 鋏 である 。 その 鋏 一 挺 を 手 に して 、 暫く 紙 を 見つめて ゐて から 、 あと は すら すら と 切りぬいて ゆく のだ と いふ 事 である 。 模様 の 類 は 紙 を 四 つ 折 又は 八 つ 折 に して 置いて 切りぬいて から 紙 を ひらく と 其処 に シムメトリイ が 出来る わけである 。 さ う いふ 模様 に 中 々 おもしろい の が ある 。 はじめ は 一 枚 の 紙 で 一 枚 を 作る 単 色 の もの で あつ た が 、 後 に は だんだん 色調 の 配合 、 色 量 の 均衡 、 布 置 の 比例 等 に 微妙な 神経 が はたらいて 来て 紙 は 一 個 の カムバス と な つた 。 十二単 衣 に 於 ける 色 襲 ね の 美 を 見る や うに 、 一 枚 の 切抜き を 又一 枚 の 別の いろ 紙 の 上 に 貼りつけ 、 その 色 の 調和 や 対照 に 妙味 尽き ない もの が 出来る や うに な つた 。 或 は 同 色 を 襲 ねたり 、 或 は 近 似 の 色 で 構成 したり 、 或 は 鋏 で 線 だけ 切 つて 切りぬか ず に 置いたり 、 いろいろの 技巧 を こらした 。 此の 切りぬか ず に 置いて 、 其 を 別の 紙 の 上 に 貼 つたの は 、 下 の 紙 の 色 が ちらちら と 上 の 紙 の 線 の 間 に 見えて 不可 言 の 美 を 作る 。 智恵子 は 触 目 の もの を 手あたり次第 に 題材 に した 。 食 膳 が 出る と 其 の 皿 の 上 の もの を 紙 で つくら ない うち は 箸 を とら ず 、 その ため 食事 が 遅れて 看護 婦 さん を 困ら した 事 も 多 か つた らしい 。 千 数 百 枚 に 及ぶ 此等 の 切抜 絵 は すべて 智恵子 の 詩 であり 、 抒情 であり 、 機 智 であり 、 生活 記録 であり 、 此世 へ の 愛 の 表明 である 。 此 を 私 に 見せる 時 の 智恵子 の 恥 かし さ うな うれし さ うな 顔 が 忘れられ ない 。

70. 智恵子 の 紙 絵 - 高村 光太郎 ちえこ||かみ|え|たかむら|みつたろう 70. paper picture of Chieko - TAKAMURA Kotaro 70. бумажная фотография Чиеко - Котаро Такамура

智恵子 の 紙 絵 - 高村 光太郎 ちえこ||かみ|え|たかむら|みつたろう

精神 病者 に 簡単な 手 工 を すすめる の は いい と きいて ゐた ので 、 智恵子 が 病院 に 入院 して 、 半年 も たち 、 昂 奮 が やや 鎮静 した 頃 、 私 は 智恵子 の 平常 好きだ つた 千代紙 を 持つ てい つた 。 せいしん|びょうしゃ||かんたんな|て|こう||||||||||ちえこ||びょういん||にゅういん||はんとし|||たかし|ふる|||ちんせい||ころ|わたくし||ちえこ||へいじょう|すきだ||ちよがみ||もつ|| 智恵子 は 大へん よろこんで 其 で 千羽鶴 を 折 つた 。 ちえこ||たいへん||その||せんばづる||お| 訪問 する たび に 部屋 の 天井 から 下 つて ゐる 鶴 の 折紙 が ふえて 美 しか つた 。 ほうもん||||へや||てんじょう||した|||つる||おりがみ|||び|| その うち 、 鶴 の 外 に も 紙 灯籠 だ と か 其他 の 形 の もの が 作ら れる や うに なり 、 中 々 意匠 を こらした もの が ぶら 下 つて ゐた 。 ||つる||がい|||かみ|とうろう||||そのほか||かた||||つくら|||||なか||いしょう||||||した|| すると 或時 、 智恵子 は 訪問 の 私 に 一 つ の 紙づつみ を 渡して 見ろ と いふ 風情 で あつ た 。 |あるとき|ちえこ||ほうもん||わたくし||ひと|||かみづつみ||わたして|みろ|||ふぜい||| 紙 包 を あける と 中 に 色 が み を 鋏 で 切 つた 模様 風 の 美しい 紙 細工 が 大切 さ う に 仕舞 つ てあつ た 。 かみ|つつ||||なか||いろ||||やっとこ||せつ||もよう|かぜ||うつくしい|かみ|さいく||たいせつ||||しま||| 其 を 見て 私 は 驚いた 。 その||みて|わたくし||おどろいた 其 が まつ たく 折 鶴 から 飛躍 的に 進んだ 立派な 芸術 品 で あつ たから である 。 その||||お|つる||ひやく|てきに|すすんだ|りっぱな|げいじゅつ|しな|||| 私 の 感嘆 を 見て 智恵子 は 恥 かし さ う に 笑 つた り 、 お辞儀 を したり して ゐた 。 わたくし||かんたん||みて|ちえこ||はじ|||||わら|||おじぎ||||

その頃 は 、 何でも そこら に ある 紙 きれ を 手あたり次第 に 用 ゐて ゐた の である が 、 やがて 色彩 に 対する 要求 が 強く な つた と 見えて 、 いろ 紙 を 持つ て 来て くれ と いふ や うに な つた 。 そのころ||なんでも||||かみ|||てあたりしだい||よう|||||||しきさい||たいする|ようきゅう||つよく||||みえて||かみ||もつ||きて||||||| 私 は 早速 丸の内 の はい 原 へ 行 つて 子供 が 折紙 に つか ふい ろ紙 を 幾 種 か 買 つて 送 つた 。 わたくし||さっそく|まるのうち|||はら||ぎょう||こども||おりがみ||||ろし||いく|しゅ||か||おく| 智恵子 の 「 仕事 」 が それ から 始まつ た 。 ちえこ||しごと||||しまつ| 看護 婦 さん の いふ ところ に よる と 、 風邪 を ひいたり 、 熱 を 出したり した 時 以外 は 、 毎日 「 仕事 」 を する のだ とい つて 、 朝 から しきり と 切 紙 細工 を や つて ゐた らしい 。 かんご|ふ||||||||かぜ|||ねつ||だしたり||じ|いがい||まいにち|しごと||||||あさ||||せつ|かみ|さいく||||| 鋏 は マニキュア に 使 ふ 小さな 、 尖 端 の 曲 つた 鋏 である 。 やっとこ||まにきゅあ||つか||ちいさな|とが|はし||きょく||やっとこ| その 鋏 一 挺 を 手 に して 、 暫く 紙 を 見つめて ゐて から 、 あと は すら すら と 切りぬいて ゆく のだ と いふ 事 である 。 |やっとこ|ひと|てい||て|||しばらく|かみ||みつめて||||||||きりぬいて|||||こと| 模様 の 類 は 紙 を 四 つ 折 又は 八 つ 折 に して 置いて 切りぬいて から 紙 を ひらく と 其処 に シムメトリイ が 出来る わけである 。 もよう||るい||かみ||よっ||お|または|やっ||お|||おいて|きりぬいて||かみ||||そこ||||できる| さ う いふ 模様 に 中 々 おもしろい の が ある 。 |||もよう||なか||||| はじめ は 一 枚 の 紙 で 一 枚 を 作る 単 色 の もの で あつ た が 、 後 に は だんだん 色調 の 配合 、 色 量 の 均衡 、 布 置 の 比例 等 に 微妙な 神経 が はたらいて 来て 紙 は 一 個 の カムバス と な つた 。 ||ひと|まい||かみ||ひと|まい||つくる|ひとえ|いろ|||||||あと||||しきちょう||はいごう|いろ|りょう||きんこう|ぬの|お||ひれい|とう||びみょうな|しんけい|||きて|かみ||ひと|こ||||| 十二単 衣 に 於 ける 色 襲 ね の 美 を 見る や うに 、 一 枚 の 切抜き を 又一 枚 の 別の いろ 紙 の 上 に 貼りつけ 、 その 色 の 調和 や 対照 に 妙味 尽き ない もの が 出来る や うに な つた 。 じゅうにひとえ|ころも||お||いろ|おそ|||び||みる|||ひと|まい||きりぬき||またいち|まい||べつの||かみ||うえ||はりつけ||いろ||ちょうわ||たいしょう||みょうみ|つき||||できる|||| 或 は 同 色 を 襲 ねたり 、 或 は 近 似 の 色 で 構成 したり 、 或 は 鋏 で 線 だけ 切 つて 切りぬか ず に 置いたり 、 いろいろの 技巧 を こらした 。 ある||どう|いろ||おそ||ある||ちか|に||いろ||こうせい||ある||やっとこ||せん||せつ||きりぬか|||おいたり||ぎこう|| 此の 切りぬか ず に 置いて 、 其 を 別の 紙 の 上 に 貼 つたの は 、 下 の 紙 の 色 が ちらちら と 上 の 紙 の 線 の 間 に 見えて 不可 言 の 美 を 作る 。 この|きりぬか|||おいて|その||べつの|かみ||うえ||は|||した||かみ||いろ||||うえ||かみ||せん||あいだ||みえて|ふか|げん||び||つくる 智恵子 は 触 目 の もの を 手あたり次第 に 題材 に した 。 ちえこ||さわ|め||||てあたりしだい||だいざい|| 食 膳 が 出る と 其 の 皿 の 上 の もの を 紙 で つくら ない うち は 箸 を とら ず 、 その ため 食事 が 遅れて 看護 婦 さん を 困ら した 事 も 多 か つた らしい 。 しょく|ぜん||でる||その||さら||うえ||||かみ||||||はし||||||しょくじ||おくれて|かんご|ふ|||こまら||こと||おお||| 千 数 百 枚 に 及ぶ 此等 の 切抜 絵 は すべて 智恵子 の 詩 であり 、 抒情 であり 、 機 智 であり 、 生活 記録 であり 、 此世 へ の 愛 の 表明 である 。 せん|すう|ひゃく|まい||およぶ|これなど||きりぬ|え|||ちえこ||し||じょじょう||き|さとし||せいかつ|きろく||このよ|||あい||ひょうめい| 此 を 私 に 見せる 時 の 智恵子 の 恥 かし さ うな うれし さ うな 顔 が 忘れられ ない 。 これ||わたくし||みせる|じ||ちえこ||はじ|||||||かお||わすれられ|