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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 42. 愛 - 宮本百合子

42. 愛 - 宮本百合子

愛 - 宮本 百合子

愛 と いう ことば は 、 いつ から 人間 の 社会 に 発生 した もの でしょう 。 愛 と いう 言葉 を もつ ように なった 時期 に 、 人類 は ともかく 一 つ の 飛躍 を とげた と 思います 。 なぜなら 、 人間 の ほか の 生きもの は 、 愛 の 感覚 に よって 行動 して も 、 愛 と いう 言葉 の 表 象 に よって まとめられた 愛 の 観念 は もって いません から 。 更に 、 その 愛 と いう 言葉 が 、 人間 同士 の 思いちがい や 、 だまし あい の 媒介 物 と なった の は 、 いつ の 頃 から でしょう 。 そして 、 愛 と いう 字 が 近代 の 偽善 と 自己 欺瞞 の シムボル の ように なった の は いつ の 時代 から でしょう か 。 三 文 文士 が この 字 で 幼稚な 読者 を ごまかし 、 説教 壇 から この 字 を 叫んで 戦争 を 煽 動 し 、 最も 軽薄な 愛人 たち が 、 彼等 の さまざまな モメント に 、 愛 を 囁いて 、 一人一人 男 や 女 を だまして います 。 愛 と いう 字 は 、 こんな きたな らしい 扱い を うけて いて いい でしょう か 。

愛 と いう 言葉 を もった とき 、 人間 の 悲劇 は はじまりました 。 人類 愛 と いう 声 が やかましく 叫ば れる とき ほど 、 飢え や 寒 さ や 人情 の 刻 薄 が ひどく 、 階級 の 対立 は 鋭く 、 非 条 理 は 横行 します 。 わたし は 、 愛 を 愛します 。 ですから 、 この ドロドロ の なか に 溺れて いる 人間 の 愛 を すくい出したい と 思います 。 どう したら 、 それ が 可能でしょう か 。 わたし の 方法 は 、 愛 と いう 観念 を 、 あっち 側 から 扱う 方法 です 。 人間 らしく ない すべて の 事情 、 人間 らしく ない すべて の 理 窟 と すべて の 欺瞞 を 憎みます 。 愛 と いう 感情 が 真実 わたし たち の 心 に 働いて いる とき 、 どうして 漫画 の ように 肥った 両手 を あわせて 膝 を つき 、 存在 し も し ない 何 か に 向って 上 眼 を つかって いられましょう 。 この 社会 に あって は 条 理 に あわ ない こと を 、 ない ように して ゆく こと 。 憎む べき もの を 凜然 と して 憎む こと 。 その 心 の 力 が なくて 、 どこ に 愛 が 支え を もつ でしょう か 。

愛 と か 幸福 と か 、 いつも 人間 が この 社会 矛盾 の 間 で 生き ながら 渇望 して いる 感覚 に よって 、 私 たち が われ と わが身 を だまして ゆく こと を 、 はっきり 拒絶 したい と 思います 。 愛 が 聖 ら か である なら 、 それ は 純潔な 怒り と 憎悪 と 適切な 行動 に 支えられた とき だけ です 。 そして 、 現代 の 常識 と して 忘れて なら ぬ 一 つ の こと は 、 愛 に も 階級 性 が ある と いう 、 無愛想な 真実です 。

〔 一九四八 年 二 月 〕

42. 愛 - 宮本百合子 あい|みやもと ゆりこ 42. love - Yuriko MIYAMOTO 42. amor - Yuriko Miyamoto. 42. 사랑 - 미야모토 유리코

愛 - 宮本 百合子 あい|みやもと|ゆりこ Liebe-Yuriko Miyamoto

愛 と いう ことば は 、 いつ から 人間 の 社会 に 発生 した もの でしょう 。 あい|||||||にんげん||しゃかい||はっせい||| Wann kam das Wort Liebe in der menschlichen Gesellschaft? When did the word love come from in human society? 愛 と いう 言葉 を もつ ように なった 時期 に 、 人類 は ともかく 一 つ の 飛躍 を とげた と 思います 。 あい|||ことば|||||じき||じんるい|||ひと|||ひやく||||おもい ます Ich denke, dass die Menschen zu der Zeit einen Sprung nach vorne gemacht haben, als sie kamen, um das Wort Liebe zu haben. なぜなら 、 人間 の ほか の 生きもの は 、 愛 の 感覚 に よって 行動 して も 、 愛 と いう 言葉 の 表 象 に よって まとめられた 愛 の 観念 は もって いません から 。 |にんげん||||いきもの||あい||かんかく|||こうどう|||あい|||ことば||ひょう|ぞう|||まとめ られた|あい||かんねん|||いま せ ん| Dies liegt daran, dass andere Menschen, selbst wenn sie nach ihrem Sinn für Liebe handeln, nicht die Idee der Liebe haben, die durch die Darstellung des Wortes Liebe zusammengefasst wird. This is because other human beings, even if they act by the sense of love, do not have the idea of love that is summarized by the expression of the word love. 更に 、 その 愛 と いう 言葉 が 、 人間 同士 の 思いちがい や 、 だまし あい の 媒介 物 と なった の は 、 いつ の 頃 から でしょう 。 さらに||あい|||ことば||にんげん|どうし||おもいちがい|||||ばいかい|ぶつ|||||||ころ|| そして 、 愛 と いう 字 が 近代 の 偽善 と 自己 欺瞞 の シムボル の ように なった の は いつ の 時代 から でしょう か 。 |あい|||あざ||きんだい||ぎぜん||じこ|ぎまん||||||||||じだい||| Und wann wurde das Wort Liebe wie die moderne Heuchelei und Selbsttäuschung Simbol? 三 文 文士 が この 字 で 幼稚な 読者 を ごまかし 、 説教 壇 から この 字 を 叫んで 戦争 を 煽 動 し 、 最も 軽薄な 愛人 たち が 、 彼等 の さまざまな モメント に 、 愛 を 囁いて 、 一人一人 男 や 女 を だまして います 。 みっ|ぶん|ぶんし|||あざ||ようちな|どくしゃ|||せっきょう|だん|||あざ||さけんで|せんそう||あお|どう||もっとも|けいはくな|あいじん|||かれら|||||あい||ささやいて|ひとりひとり|おとこ||おんな|||い ます 愛 と いう 字 は 、 こんな きたな らしい 扱い を うけて いて いい でしょう か 。 あい|||あざ|||||あつかい||||||

愛 と いう 言葉 を もった とき 、 人間 の 悲劇 は はじまりました 。 あい|||ことば||||にんげん||ひげき||はじまり ました Als wir das Wort Liebe hatten, begann die menschliche Tragödie. 人類 愛 と いう 声 が やかましく 叫ば れる とき ほど 、 飢え や 寒 さ や 人情 の 刻 薄 が ひどく 、 階級 の 対立 は 鋭く 、 非 条 理 は 横行 します 。 じんるい|あい|||こえ|||さけば||||うえ||さむ|||にんじょう||きざ|うす|||かいきゅう||たいりつ||するどく|ひ|じょう|り||おうこう|し ます Je lauter die Stimme der Liebe zur Menschheit geschrien wird, desto stärker ist der Hunger, die Kälte und die Dünnheit der Menschheit, desto schärfer der Klassenkonflikt und desto häufiger die Absurdität. わたし は 、 愛 を 愛します 。 ||あい||あいし ます Ich liebe die Liebe. ですから 、 この ドロドロ の なか に 溺れて いる 人間 の 愛 を すくい出したい と 思います 。 ||||||おぼれて||にんげん||あい||すくいだし たい||おもい ます Deshalb möchte ich die Liebe der Menschen herausschöpfen, die in diesem Schlamm ertrinken. どう したら 、 それ が 可能でしょう か 。 ||||かのうでしょう| わたし の 方法 は 、 愛 と いう 観念 を 、 あっち 側 から 扱う 方法 です 。 ||ほうほう||あい|||かんねん||あっ ち|がわ||あつかう|ほうほう| 人間 らしく ない すべて の 事情 、 人間 らしく ない すべて の 理 窟 と すべて の 欺瞞 を 憎みます 。 にんげん|||||じじょう|にんげん|||||り|いわや||||ぎまん||にくみ ます 愛 と いう 感情 が 真実 わたし たち の 心 に 働いて いる とき 、 どうして 漫画 の ように 肥った 両手 を あわせて 膝 を つき 、 存在 し も し ない 何 か に 向って 上 眼 を つかって いられましょう 。 あい|||かんじょう||しんじつ||||こころ||はたらいて||||まんが|||こえ った|りょうて|||ひざ|||そんざい|||||なん|||むかい って|うえ|がん|||いら れ ましょう この 社会 に あって は 条 理 に あわ ない こと を 、 ない ように して ゆく こと 。 |しゃかい||||じょう|り|||||||||| In this society, do not do anything that does not meet the rules. 憎む べき もの を 凜然 と して 憎む こと 。 にくむ||||りんぜん|||にくむ| その 心 の 力 が なくて 、 どこ に 愛 が 支え を もつ でしょう か 。 |こころ||ちから|||||あい||ささえ||||

愛 と か 幸福 と か 、 いつも 人間 が この 社会 矛盾 の 間 で 生き ながら 渇望 して いる 感覚 に よって 、 私 たち が われ と わが身 を だまして ゆく こと を 、 はっきり 拒絶 したい と 思います 。 あい|||こうふく||||にんげん|||しゃかい|むじゅん||あいだ||いき||かつぼう|||かんかく|||わたくし|||||わがみ|||||||きょぜつ|し たい||おもい ます 愛 が 聖 ら か である なら 、 それ は 純潔な 怒り と 憎悪 と 適切な 行動 に 支えられた とき だけ です 。 あい||せい|||||||じゅんけつな|いかり||ぞうお||てきせつな|こうどう||ささえ られた||| そして 、 現代 の 常識 と して 忘れて なら ぬ 一 つ の こと は 、 愛 に も 階級 性 が ある と いう 、 無愛想な 真実です 。 |げんだい||じょうしき|||わすれて|||ひと|||||あい|||かいきゅう|せい|||||ぶあいそうな|しんじつです

〔 一九四八 年 二 月 〕 いちきゅうしはち|とし|ふた|つき