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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 21. 大寒小寒 - 土田耕平

21. 大寒 小寒 - 土田 耕平

大寒 小寒 - 土田 耕平

お ほ 寒 こ 寒 ・・

山 から 小僧 が ・・

とんで くる ……・・

冬 の さむい 晩 の こと 、 三郎 は おばあ さん と 二 人 で 、 奥 座敷 の こたつ に あた つて ゐま した 。 庭 の 竹やぶ が 、 とき /″\ 風 に 吹き たわむ 音 が して 、 その あと は 、 しんと しづか に なります 。 そして 、 遠く の 方 で 犬 の 吠える 声 が きこえたり する の も 、 山家 の 冬 らしい 気 もち で あります 。 大寒 小寒 の 唄 は 、 さ う いふ さむい 晩 など 、 お ばあさん が 口癖 の や うに 、 三郎 に うた つて きかせる 唄 で ありました 。 ・・

「 おばあ さん 、 小僧 が なぜ 山 から とんで くる の 。」 ・・

三郎 は 、 今 また おばあ さん が 口ずさんで ゐる の を きいて 、 かう 云 つて たづ ねました 。 ・・

「 山 は 寒う な つて も 、 こたつ も なければ お家 も ない 。 それ で とんで くる のだ ら うよ 。」 ・・

おばあ さん は 手 に 縫物 の 針 を はこび ながら 答 へました 。 ・・

「 小僧 つて お 寺 の 小僧 かい 。」 ・・

「 何 に お 寺 な もの か 、 お 寺 なら お 師匠 さま が ゐて 可愛が つて 下さる だ ら う が 、 山 の 小僧 は 木 の 股 から 生れた から 、 お 父さん も お母さん も なし の 一 人 ぽつ ちよ 。」 ・・

「 お ばあさん も ない の 。」 ・・

「 ああ 、 お ばあさん も ない のだ よ 。」 ・・

「 それ で 小僧 は 着物 を きて ゐる の かい 。」 ・・

「 着物 くら ゐ は きて ゐる だ ら うよ 。」 ・・

「 誰 が 着物 を 縫 つて くれる の 。」 ・・

「 そんな こと は 知ら ない よ 。 大方 木 の 葉 の 衣 か なんだら う 。」 ・・

木 の 葉 の 衣 つて どんな もの だ ら う と 、 三郎 は 想像 して みた が 、 はつ きり 思 ひ 浮べる こと は できません でした 。 ・・

「 小僧 は 山 から とんで きて どう する の 。」 ・・

「 人 の 家 の 門 へ 立つ て 、 モシ /\ 火 に あたら せて おく んな さい 、 なんて 云 ふ の だ ら う 。」 ・・

「 そして 、 火 に あたら せて も らふ の 。」 ・・

「 い ゝ え 、 火 に なん ぞ あたれ ない 。」 ・・

「 なぜ 。」 ・・

「 小僧 の いふ こと は 、 誰 の 耳 に も きこえ ない のだ から 、 いくら 大きな 声 を した とて 聞え ない 。 もし かすれば 、 今 じぶん お家 の 門 へ きて 立つ て ゐる かも 知れ ない 。」 ・・

三郎 は そんな 話 を きく と 、 気味 が わるく なりました 。 頭 を 青く すり こく つた 、 赤 はだし の 小僧 の すがた が 、 目 に 見える や うに お も ひました 。 おばあ さん は 、 やさしい 笑み を 浮かべて 、・・

「 どれ /\、 一 つ お 餅 でも やいて たべよう 。」 ・・

と 云 ひ ながら 、 縫物 を わき へ よせました 。 そして 、 こたつ の 火 を つぎたして 、 その 上 へ 金網 を わたしました 。 お 餅 の やける か うば しい 匂 ひ を かぐ と 、 三郎 は もう 小僧 の こと など 忘れて しま ひました 。 ・・

--

三郎 は 大人 に な つて 、 東京 の にぎやかな 町 なか で くらす や う に なりました 。 けれど 毎年 冬 に なる と 、 大寒 小寒 の 唄 を おも ひ 出し 、 おばあ さん を 思 ひ 出し する ので ありました 。 幼い 三郎 が かさね /″\ 問 ひた づ ねる の を 、 少しも うるさがる こと なく 、 しんせつに 答 へて 下された おばあ さん を 、 どんなに か なつかしく お も ひました こと で せ う 。

21. 大寒 小寒 - 土田 耕平 だいかん|しょうかん|つちた|こうへい 21. Große Kälte und kleine Kälte - Kohei Tsuchida 21. big chill little chill - TSUCHIDA Kohei 21. frío grande y frío pequeño - Kohei Tsuchida 21. Grand froid et petit froid - Kohei Tsuchida 21. 대한소한 - 토치다 고헤이 21. Большой холод и маленький холод - Кохэй Цутида

大寒 小寒 - 土田 耕平 だいかん|しょうかん|つちた|こうへい Dahan Xiaohan-Kohei Tsuchida

お ほ 寒 こ 寒 ・・ ||さむ||さむ Hot, cold, cold, cold, cold...

山 から 小僧 が ・・ やま||こぞう| A kid from the mountain ...

とんで くる ……・・ It's coming. .........

冬 の さむい 晩 の こと 、 三郎 は おばあ さん と 二 人 で 、 奥 座敷 の こたつ に あた つて ゐま した 。 ふゆ|||ばん|||さぶろう|||||ふた|じん||おく|ざしき||||||| It was a breezy winter evening, and Saburo and his grandmother were sitting on the kotatsu in the living room. 庭 の 竹やぶ が 、 とき /″\ 風 に 吹き たわむ 音 が して 、 その あと は 、 しんと しづか に なります 。 にわ||たけやぶ|||かぜ||ふき||おと|||||||しずか||なり ます The bamboo grove in the garden sometimes sounds like it is being deflected by the wind, and then it becomes quiet and still. そして 、 遠く の 方 で 犬 の 吠える 声 が きこえたり する の も 、 山家 の 冬 らしい 気 もち で あります 。 |とおく||かた||いぬ||ほえる|こえ||||||やまが||ふゆ||き|||あり ます The sound of dogs barking in the distance is also a wintery mood in the mountain households. 大寒 小寒 の 唄 は 、 さ う いふ さむい 晩 など 、 お ばあさん が 口癖 の や うに 、 三郎 に うた つて きかせる 唄 で ありました 。 だいかん|しょうかん||うた||||||ばん|||||くちぐせ||||さぶろう|||||うた||あり ました ・・

「 おばあ さん 、 小僧 が なぜ 山 から とんで くる の 。」 ||こぞう|||やま|||| "Grandma, why did the little boy come from the mountain?" ・・

三郎 は 、 今 また おばあ さん が 口ずさんで ゐる の を きいて 、 かう 云 つて たづ ねました 。 さぶろう||いま|||||くちずさんで||||||うん|||ね ました When Saburo heard his grandmother humming again, he asked her about it. ・・

「 山 は 寒う な つて も 、 こたつ も なければ お家 も ない 。 やま||さむう|||||||おいえ|| "When it gets cold in the mountains, there are no kotatsu (a table over the fireplace) and no houses. それ で とんで くる のだ ら うよ 。」 ・・

おばあ さん は 手 に 縫物 の 針 を はこび ながら 答 へました 。 |||て||ぬいもの||はり||||こたえ|へ ました Grandmother answered while carrying a sewing needle in her hand. ・・

「 小僧 つて お 寺 の 小僧 かい 。」 こぞう|||てら||こぞう| "A monk is a monk in a temple." ・・

「 何 に お 寺 な もの か 、 お 寺 なら お 師匠 さま が ゐて 可愛が つて 下さる だ ら う が 、 山 の 小僧 は 木 の 股 から 生れた から 、 お 父さん も お母さん も なし の 一 人 ぽつ ちよ 。」 なん|||てら|||||てら|||ししょう||||かわいが||くださる|||||やま||こぞう||き||また||うまれた|||とうさん||お かあさん||||ひと|じん|| If it were a temple, the master would be lovely and adorable, but the mountain boy was born out of a tree, so he's all alone without a father or mother. ・・

「 お ばあさん も ない の 。」 I don't even have a grandmother. ・・

「 ああ 、 お ばあさん も ない のだ よ 。」 Oh, and grandma's not here either. ・・

「 それ で 小僧 は 着物 を きて ゐる の かい 。」 ||こぞう||きもの||||| "That's why the little boy wears a kimono." ・・ ...

「 着物 くら ゐ は きて ゐる だ ら うよ 。」 きもの|||||||| "I'm wearing a kimono, that's all." ・・

「 誰 が 着物 を 縫 つて くれる の 。」 だれ||きもの||ぬ||| "Who will sew the kimono." ・・

「 そんな こと は 知ら ない よ 。 |||しら|| I don't know anything about that. 大方 木 の 葉 の 衣 か なんだら う 。」 おおかた|き||は||ころも||| I wonder if it's a garment of leaves of a tree. " ・・

木 の 葉 の 衣 つて どんな もの だ ら う と 、 三郎 は 想像 して みた が 、 はつ きり 思 ひ 浮べる こと は できません でした 。 き||は||ころも||||||||さぶろう||そうぞう||||||おも||うかべる|||でき ませ ん| Saburo imagined what kind of clothing the leaves of a tree would be, but he couldn't think of it. ・・

「 小僧 は 山 から とんで きて どう する の 。」 こぞう||やま|||||| "What does a boy do when he comes from the mountains?" ・・

「 人 の 家 の 門 へ 立つ て 、 モシ /\ 火 に あたら せて おく んな さい 、 なんて 云 ふ の だ ら う 。」 じん||いえ||もん||たつ|||ひ||||||||うん||||| "What do they say, 'Stand at the gate of a man's house and let him light the fire for you'?" ・・

「 そして 、 火 に あたら せて も らふ の 。」 |ひ|||||| "And then I'm going to let the fire burn." ・・

「 い ゝ え 、 火 に なん ぞ あたれ ない 。」 |||ひ||||| No, you can't stand the fire. ・・

「 なぜ 。」 Why? ・・

「 小僧 の いふ こと は 、 誰 の 耳 に も きこえ ない のだ から 、 いくら 大きな 声 を した とて 聞え ない 。 こぞう|||||だれ||みみ||||||||おおきな|こえ||||きこえ| The boy's words are inaudible to all, so no matter how loud he speaks, they will not be heard. もし かすれば 、 今 じぶん お家 の 門 へ きて 立つ て ゐる かも 知れ ない 。」 ||いま||おいえ||もん|||たつ||||しれ| If I had, I might be standing at your door right now. ・・

三郎 は そんな 話 を きく と 、 気味 が わるく なりました 。 さぶろう|||はなし||||きみ|||なり ました Saburo felt bad when he heard such a story. 頭 を 青く すり こく つた 、 赤 はだし の 小僧 の すがた が 、 目 に 見える や うに お も ひました 。 あたま||あおく||||あか|||こぞう||||め||みえる|||||ひ ました I was visibly surprised to see a bare-chested boy with his head rubbed blue. おばあ さん は 、 やさしい 笑み を 浮かべて 、・・ ||||えみ||うかべて She smiled kindly and...

「 どれ /\、 一 つ お 餅 でも やいて たべよう 。」 |ひと|||もち||| Let's make a rice cake and eat it. ・・

と 云 ひ ながら 、 縫物 を わき へ よせました 。 |うん|||ぬいもの||||よせ ました He put his stitches aside and said, "I'm sorry, I'm sorry. そして 、 こたつ の 火 を つぎたして 、 その 上 へ 金網 を わたしました 。 |||ひ||||うえ||かなあみ||わたし ました Then he continued to build a fire for the kotatsu and placed a wire netting over it. お 餅 の やける か うば しい 匂 ひ を かぐ と 、 三郎 は もう 小僧 の こと など 忘れて しま ひました 。 |もち||||||にお|||||さぶろう|||こぞう||||わすれて||ひ ました When Saburo smelled the delicious smell of the baked rice cakes, he forgot all about the boy. ・・

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三郎 は 大人 に な つて 、 東京 の にぎやかな 町 なか で くらす や う に なりました 。 さぶろう||おとな||||とうきょう|||まち|||||||なり ました Saburo became an adult and lived in the middle of the bustling city of Tokyo. けれど 毎年 冬 に なる と 、 大寒 小寒 の 唄 を おも ひ 出し 、 おばあ さん を 思 ひ 出し する ので ありました 。 |まいとし|ふゆ||||だいかん|しょうかん||うた||||だし||||おも||だし|||あり ました But every winter, I would recall the songs of the "big cold and the little cold" and think of my grandmother. 幼い 三郎 が かさね /″\ 問 ひた づ ねる の を 、 少しも うるさがる こと なく 、 しんせつに 答 へて 下された おばあ さん を 、 どんなに か なつかしく お も ひました こと で せ う 。 おさない|さぶろう|||とい||||||すこしも|||||こたえ||くだされた|||||||||ひ ました|||| I can only imagine how much he must have missed his grandmother, who answered the questions that the young Saburo asked her without being in any way annoying or annoying.