105. いろいろな 花 - 小川 未明 |か|おがわ|みめい 105. various flowers - ogawa miaki 105. flores diversas - Mimei Ogawa

いろいろな 花 - 小川 未明 |か|おがわ|みめい

さまざまの 草 が 、 いろいろな 運命 を もって この世 に 生まれて きました 。 |くさ|||うんめい|||このよ||うまれて|き ました それ は 、 ちょうど 人間 の 身の上 と 変わり が なかった のです 。 |||にんげん||みのうえ||かわり||| It was just like a human being. ・・

広い 野原 の 中 に 、 紫色 の すみれ の 花 が 咲き かけました とき は 、 まだ 山 の 端に 雪 が 白く かかって いました 。 ひろい|のはら||なか||むらさきいろ||||か||さき|かけ ました||||やま||はしたに|ゆき||しろく||い ました 春 と いって も 、 ほんの 名 ばかり であって 、 どこ を 見て も 冬枯れ の まま の 景色 で ありました 。 はる|||||な|||||みて||ふゆがれ||||けしき||あり ました ・・

すみれ は 、 小鳥 が あちら の 林 の 中 で 、 さびし そうに ないて いる の を ききました 。 ||ことり||||りん||なか|||そう に|||||きき ました すみれ は 、 おりおり 寒い 風 に 吹かれて 、 小さな 体 が 凍える ようで ありました が 、 一 日一日 と 、 それ でも 雲 の 色 が 、 だんだん 明るく なって 、 その 雲間 から もれる 日 の 光 が 野 の 上 を 暖か そうに 照らす の を 見ます と 、 うれしい 気持ち が しました 。 |||さむい|かぜ||ふか れて|ちいさな|からだ||こごえる||あり ました||ひと|ひいちにち||||くも||いろ|||あかるく|||くもま|||ひ||ひかり||の||うえ||あたたか|そう に|てらす|||み ます|||きもち||し ました ・・

すみれ は 、 毎朝 、 太陽 が 上る ころ から 、 日 の 暮れる ころ まで 、 その いい 小鳥 の なき声 を ききました 。 ||まいあさ|たいよう||のぼる|||ひ||くれる|||||ことり||なきごえ||きき ました ・・

「 どんな 鳥 だろう か 、 どうか 見たい もの だ 。」 |ちょう||||み たい|| と 、 すみれ は 思いました 。 |||おもい ました ・・

けれど 、 すみれ は 、 ついに その 鳥 の 姿 を 見 ず して 、 いつしか 散る 日 が きた のであります 。 |||||ちょう||すがた||み||||ちる|ひ|||のであり ます その とき 、 ちょうど かたわら に 生えて いた 、 ぼけ の 花 が 咲き かけて いました 。 |||||はえて||||か||さき||い ました ぼけ の 花 は 、 すみれ が 独り言 を して さびしく 散って ゆく 、 はかない 影 を 見た のであります 。 ||か||||ひとりごと||||ちって|||かげ||みた|のであり ます ・・

ぼけ の 花 は 、 真 紅 に みごとに 咲きました 。 ||か||まこと|くれない|||さき ました そして 日 の 光 に 照らされて 、 それ は 美しかった のであります 。 |ひ||ひかり||てらさ れて|||うつくしかった|のであり ます ・・

ある 朝 、 ぼけ の 枝 に 、 きれいな 小鳥 が 飛んで きて 、 いい 声 で なきました 。 |あさ|||えだ|||ことり||とんで|||こえ||なき ました その とき 、 ぼけ の 花 は 、 その 小鳥 に 向かって 、・・ ||||か|||ことり||むかって

「 ああ 、 なんという いい 声 な んです か 。 |||こえ||| あなた の 声 に 、 どんなに 、 すみれ さん は 憧れて いました か 。 ||こえ||||||あこがれて|い ました| どうか 一目 あなた の 姿 を 見たい もの だ と いって いました が 、 かわいそうに 、 二 日 ばかり 前 に さびしく 散って しまいました 。」 |いちもく|||すがた||み たい|||||い ました|||ふた|ひ||ぜん|||ちって|しまい ました と 、 ぼけ の 花 は 、 小鳥 に 向かって い いました 。 |||か||ことり||むかって||い ました ・・

小鳥 は 、 くび を かしげて 聞いて いました が 、・・ ことり|||||きいて|い ました|

「 それ は 、 私 で ない 。 ||わたくし|| こちょう の こと では ありません か 。 ||||あり ませ ん| 私 みたいな 醜い 姿 を 見た とて 、 なんで 目 を 楽しま せる こと が ある もん です か 。」 わたくし||みにくい|すがた||みた|||め||たのしま||||||| Why is it sometimes entertaining to see an ugly figure like me? " と 、 小鳥 は 答えた 。 |ことり||こたえた ・・

「 こちょう の 姿 は 、 そんなに きれいな んです か 。 ||すがた||||| あなた の 姿 より も 、 もっと きれいな んです か 。」 ||すがた|||||| と 、 ぼけ の 花 は 驚いて ききました 。 |||か||おどろいて|きき ました ・・

「 私 は いい 声 で 唄 を うたいます が 、 こちょう は 黙って います 。 わたくし|||こえ||うた||うたい ます||||だまって|い ます そのかわり 私 より も 幾 倍 と なく きれいな んです 。」 |わたくし|||いく|ばい|||| と 、 小鳥 は 答えて 、 やがて どこ に か 飛び去って しまいました 。 |ことり||こたえて|||||とびさって|しまい ました ・・

ぼけ の 花 は 、 その とき から 一目 こちょう を 見たい もの だ と 、 その 姿 に 憧れました 。 ||か|||||いちもく|||み たい|||||すがた||あこがれ ました けれど 、 まだ 野原 の 上 は 寒くて 、 弱い こちょう は 飛んで いません でした 。 ||のはら||うえ||さむくて|よわい|||とんで|いま せ ん| ・・

ある 風 の 強い 日 の 暮れ方 に 、 その ぼけ の 花 は 音 も なく 散って 、 土 に 帰ら なければ なりません でした 。 |かぜ||つよい|ひ||くれがた|||||か||おと|||ちって|つち||かえら||なり ませ ん| ついに 、 ぼけ の 花 は 、 こちょう を 見 ず に しまった のです 。 |||か||||み|||| ・・

それ から 、 幾 日 か たつ と 、 野 の 上 は 暖かで 、 そこ に は 、 いろいろな 花 が 咲き誇って いました 。 ||いく|ひ||||の||うえ||あたたかで|||||か||さきほこって|い ました はね の 美しい こちょう は 、 黄色く 炎 の 燃える ように 咲き誇った たんぽぽ の 花 の 上 に 止まって いました 。 ||うつくしい|||きいろく|えん||もえる||さきほこった|||か||うえ||とまって|い ました ・・

ほか の いろいろの 多く の 花 は 、 みんな その たんぽぽ の 花 を うらやましく 思って いた のです 。 |||おおく||か||||||か|||おもって|| その 時分 に は 、 いつか 小鳥 の 声 を きいて 、 その 姿 を 見たい と いって いた すみれ の 花 も 、 また 、 小鳥 から こちょう の 姿 を きいて 、 一目 見たい と いって いた ぼけ の 花 も 、 朽ちて 土 と なって 、 まったく その 影 を とどめ なかった ので ありました 。 |じぶん||||ことり||こえ||||すがた||み たい||||||か|||ことり||||すがた|||いちもく|み たい||||||か||くちて|つち|||||かげ|||||あり ました ・・

たんぽぽ の 花 は 、 こちょう と 楽しく 話 を して いました 。 ||か||||たのしく|はなし|||い ました それ は 静かな 、 いい 日 で ありました 。 ||しずかな||ひ||あり ました たちまち 、 カッポ 、 カッポ と いう 地 に 響く 音 が 聞こえました 。 |||||ち||ひびく|おと||きこえ ました ・・

「 なんだろう 。」 と 、 たんぽぽ の 花 は いいました 。 |||か||いい ました ・・

「 なに か 、 怖 ろし いもの が 、 こちら へ やってくる ようだ 。」 ||こわ||||||| と 、 こちょう は いいました 。 |||いい ました ・・

「 どうか こちょう さん 、 私 の そば に いて ください 。 |||わたくし||||| 私 は 怖 ろ しく て しかたがない 。」 わたくし||こわ|||| と 、 たんぽぽ の 花 は 震え ながら いいました 。 |||か||ふるえ||いい ました ・・

「 私 は 、 こうして はいら れません よ 。」 わたくし||||れ ませ ん| と 、 こちょう は いって 、 花 の 上 から 飛びたちました 。 ||||か||うえ||とびたち ました ・・

その とき 、 カッポ 、 カッポ の 音 は 近づきました 。 |||||おと||ちかづき ました 百姓 に ひかれて 、 大きな 馬 が その 路 を 通った のです 。 ひゃくしょう||ひか れて|おおきな|うま|||じ||かよった| そして 、 路傍 に 咲いて いる たんぽぽ の 花 は 馬 に 踏まれて 砕かれて しまいました 。 |ろぼう||さいて||||か||うま||ふま れて|くだか れて|しまい ました ・・

野原 の 上 は 静かに なりました 。 のはら||うえ||しずかに|なり ました The top of the field became quiet. あくる 日 も あくる 日 も いい 天気 で 、 もう 馬 は 通ら なかった 。 |ひ|||ひ|||てんき|||うま||とおら|