第 三 の 手記 二 (2) だい|みっ||しゅき|ふた Third Memorandum 2 (2) Tercera nota ii (2). 제 3의 수기 2 (2) 第三注2 (2)

ほとんど 、ろ れつ の 廻ら ぬ くらい に 酔って いる のでした。 ||||まわら||||よって|| Most of the time, I was so drunk that I couldn't get around.

「勝手に しろ。 かってに| どこ か へ 行っち まえ！ |||ぎょう っち| 」

「罪 と 空腹 、空腹 と そら 豆 、いや 、これ は シノニム か」 ざい||くうふく|くうふく|||まめ|||||

出 鱈 目 でたらめ を 言い ながら 起き上ります。 だ|たら|め|||いい||おきあがり ます

罪 と 罰。 ざい||ばち ドストイエフスキイ。 Dostojehuski. ちら と それ が 、頭脳 の 片隅 を かすめて 通り 、はっと 思いました。 ||||ずのう||かたすみ|||とおり||おもい ました I was surprised that it passed through a corner of my brain. もしも 、あの ドスト 氏 が 、罪 と 罰 を シノニム と 考え ず 、アントニム と して 置き 並べた もの と したら？ |||うじ||ざい||ばち||||かんがえ|||||おき|ならべた||| 罪 と 罰 、絶対 に 相 通ぜ ざる もの 、氷 炭 相 容 あい いれ ざる もの。 ざい||ばち|ぜったい||そう|つうぜ|||こおり|すみ|そう|よう|||| 罪 と 罰 を アント と して 考えた ドスト の 青 み どろ 、腐った 池 、乱 麻 の 奥底 の 、……ああ 、わかり かけた 、いや 、まだ 、……など と 頭脳 に 走 馬 燈 が くるくる 廻って いた 時 に、 ざい||ばち|||||かんがえた|||あお|||くさった|いけ|らん|あさ||おくそこ|||||||||ずのう||はし|うま|とも|||まわって||じ|

「おい！ とんだ 、そら 豆 だ。 ||まめ| 来い！ こい 」

堀木 の 声 も 顔色 も 変って います。 ほりき||こえ||かおいろ||かわって|い ます 堀木 は 、たったいま ふらふら 起きて した へ 行った 、か と 思う と また 引返して 来た のです。 ほりき||||おきて|||おこなった|||おもう|||ひきかえして|きた|

「なんだ」

異様に 殺気 立ち 、ふた り 、屋上 から 二 階 へ 降り 、二 階 から 、さらに 階下 の 自分 の 部屋 へ 降りる 階段 の 中途 で 堀木 は 立ち止り、 いように|さっき|たち|||おくじょう||ふた|かい||ふり|ふた|かい|||かいか||じぶん||へや||おりる|かいだん||ちゅうと||ほりき||たちどまり

「見ろ！ みろ 」

と 小声 で 言って 指差します。 |こごえ||いって|ゆびさし ます

自分 の 部屋 の 上 の 小 窓 が あいて いて 、そこ から 部屋 の 中 が 見えます。 じぶん||へや||うえ||しょう|まど||||||へや||なか||みえ ます 電気 が ついた まま で 、二 匹 の 動物 が いました。 でんき|||||ふた|ひき||どうぶつ||い ました

自分 は 、ぐらぐら 目 まい し ながら 、これ も また 人間 の 姿 だ 、これ も また 人間 の 姿 だ 、おどろく 事 は 無い 、など 劇 はげしい 呼吸 と 共に 胸 の 中 で 呟 つぶやき 、ヨシ子 を 助ける 事 も 忘れ 、階段 に 立ちつくして いました。 じぶん|||め|||||||にんげん||すがた|||||にんげん||すがた|||こと||ない||げき||こきゅう||ともに|むね||なか||つぶや||よしこ||たすける|こと||わすれ|かいだん||たちつくして|い ました

堀木 は 、大きい 咳 せきばらい を しました。 ほりき||おおきい|せき|||し ました 自分 は 、ひと り 逃げる ように また 屋上 に 駈 け 上り 、寝ころび 、雨 を 含んだ 夏 の 夜空 を 仰ぎ 、その とき 自分 を 襲った 感情 は 、怒り で も 無く 、嫌悪 でも 無く 、また 、悲しみ で も 無く 、もの 凄 すさまじい 恐怖 でした。 じぶん||||にげる|||おくじょう||く||のぼり|ねころび|あめ||ふくんだ|なつ||よぞら||あおぎ|||じぶん||おそった|かんじょう||いかり|||なく|けんお||なく||かなしみ|||なく||すご||きょうふ| それ も 、墓地 の 幽霊 など に 対する 恐怖 で は なく 、神社 の 杉 木立 で 白衣 の 御 神 体 に 逢った 時 に 感ずる かも 知れ ない ような 、四 の 五 の 言わ さ ぬ 古代 の 荒々しい 恐怖 感 でした。 ||ぼち||ゆうれい|||たいする|きょうふ||||じんじゃ||すぎ|こだち||はくい||ご|かみ|からだ||あった|じ||かんずる||しれ|||よっ||いつ||いわ|||こだい||あらあらしい|きょうふ|かん| 自分 の 若 白髪 は 、その 夜 から はじまり 、いよいよ 、すべて に 自信 を 失い 、いよいよ 、ひと を 底 知れ ず 疑い 、この世 の 営み に 対する 一さい の 期待 、よろこび 、共鳴 など から 永遠に は なれる ように なりました。 じぶん||わか|しらが|||よ||||||じしん||うしない||||そこ|しれ||うたがい|このよ||いとなみ||たいする|いっさい||きたい||きょうめい|||えいえんに||||なり ました 実に 、それ は 自分 の 生涯 に 於 いて 、決定 的な 事件 でした。 じつに|||じぶん||しょうがい||お||けってい|てきな|じけん| 自分 は 、まっこう から 眉間 みけん を 割ら れ 、そうして それ 以来 その 傷 は 、どんな 人間 に でも 接近 する 毎 に 痛む のでした。 じぶん||||みけん|||わら||||いらい||きず|||にんげん|||せっきん||まい||いたむ|

「同情 は する が 、しかし 、お前 も これ で 、少し は 思い知ったろう。 どうじょう|||||おまえ||||すこし||おもいしったろう もう 、おれ は 、二度と ここ へ は 来 ない よ。 |||にどと||||らい|| まるで 、地獄 だ。 |じごく| ……でも 、ヨシ ちゃん は 、ゆるして やれ。 |よし|||| お前 だって 、どうせ 、ろくな 奴 じゃ ない んだ から。 おまえ||||やつ|||| 失敬 する ぜ」 しっけい||

気まずい 場所 に 、永く とどまって いる ほど 間 ま の 抜けた 堀木 では ありません でした。 きまずい|ばしょ||ながく||||あいだ|||ぬけた|ほりき||あり ませ ん|

自分 は 起き上って 、ひと り で 焼酎 を 飲み 、それ から 、おいおい 声 を 放って 泣きました。 じぶん||おきあがって||||しょうちゅう||のみ||||こえ||はなって|なき ました いくら でも 、いくら でも 泣ける のでした。 ||||なける|

いつのまにか 、背後 に 、ヨシ子 が 、そら 豆 を 山盛り に した お 皿 を 持って ぼんやり 立って いました。 |はいご||よしこ|||まめ||やまもり||||さら||もって||たって|い ました

「なんにも 、し ない からって 言って、……」 |||から って|いって

「いい。 何も 言う な。 なにも|いう| お前 は 、ひと を 疑う 事 を 知ら なかった んだ。 おまえ||||うたがう|こと||しら|| お 坐り。 |すわり 豆 を 食べよう」 まめ||たべよう

並んで 坐って 豆 を 食べました。 ならんで|すわって|まめ||たべ ました 嗚呼 、信頼 は 罪な りや？ ああ|しんらい||つみな| 相手 の 男 は 、自分 に 漫画 を かかせて は 、わずかな お 金 を もったい振って 置いて 行く 三十 歳 前後 の 無 学 な 小 男 の 商人 な のでした。 あいて||おとこ||じぶん||まんが||||||きむ||もったいぶって|おいて|いく|さんじゅう|さい|ぜんご||む|まな||しょう|おとこ||しょうにん||

さすが に その 商人 は 、その後 やって は 来ません でした が 、自分 に は 、どうして だ か 、その 商人 に 対する 憎悪 より も 、さいしょに 見つけた すぐ その 時 に 大きい 咳ばらい も 何も せ ず 、そのまま 自分 に 知らせ に また 屋上 に 引返して 来た 堀木 に 対する 憎しみ と 怒り が 、眠ら れ ぬ 夜 など に むらむら 起って 呻 うめきました。 |||しょうにん||そのご|||き ませ ん|||じぶん|||||||しょうにん||たいする|ぞうお||||みつけた|||じ||おおきい|せきばらい||なにも||||じぶん||しらせ|||おくじょう||ひきかえして|きた|ほりき||たいする|にくしみ||いかり||ねむら|||よ||||おこって|うめ|うめき ました

ゆるす も 、ゆるさ ぬ も ありません。 ||ゆる さ|||あり ませ ん ヨシ子 は 信頼 の 天才 な のです。 よしこ||しんらい||てんさい|| ひと を 疑う 事 を 知ら なかった のです。 ||うたがう|こと||しら|| しかし 、それ ゆえ の 悲惨。 ||||ひさん

神 に 問う。 かみ||とう 信頼 は 罪 なり や。 しんらい||ざい||

ヨシ子 が 汚さ れた と いう 事 より も 、ヨシ子 の 信頼 が 汚さ れた と いう 事 が 、自分 に とって その のち 永く 、生きて おら れ ない ほど の 苦悩 の 種 に なりました。 よしこ||きたな さ||||こと|||よしこ||しんらい||きたな さ||||こと||じぶん|||||ながく|いきて||||||くのう||しゅ||なり ました 自分 の ような 、いやらしく おどおど して 、ひと の 顔 いろ ばかり 伺い 、人 を 信じる 能力 が 、ひび割れて しまって いる もの に とって 、ヨシ子 の 無垢 むくの 信頼 心 は 、それ こそ 青葉 の 滝 の ように すがすがしく 思われて いた のです。 じぶん||||||||かお|||うかがい|じん||しんじる|のうりょく||ひびわれて||||||よしこ||むく||しんらい|こころ||||あおば||たき||||おもわ れて|| それ が 一夜 で 、黄色い 汚水 に 変って しまいました。 ||いちや||きいろい|おすい||かわって|しまい ました 見よ 、ヨシ子 は 、その 夜 から 自分 の 一 顰 いっぴん 一笑 に さえ 気 を 遣う ように なりました。 みよ|よしこ|||よ||じぶん||ひと|ひん||いっしょう|||き||つかう||なり ました

「おい」

と 呼ぶ と 、ぴくっと して 、もう 眼 の やり場 に 困って いる 様子 です。 |よぶ||ぴく っと|||がん||やりば||こまって||ようす| どんなに 自分 が 笑わ せよう と して 、お 道化 を 言って も 、おろおろ し 、びくびく し 、やたらに 自分 に 敬語 を 遣う ように なりました。 |じぶん||わらわ|||||どうけ||いって|||||||じぶん||けいご||つかう||なり ました

果して 、無垢の 信頼 心 は 、罪 の 原 泉 なり や。 はたして|むくの|しんらい|こころ||ざい||はら|いずみ||

自分 は 、人妻 の 犯さ れた 物語 の 本 を 、いろいろ 捜して 読んで みました。 じぶん||ひとづま||おかさ||ものがたり||ほん|||さがして|よんで|み ました けれども 、ヨシ子 ほど 悲惨な 犯さ れ 方 を して いる 女 は 、ひと り も 無い と 思いました。 |よしこ||ひさんな|おかさ||かた||||おんな|||||ない||おもい ました どだい 、これ は 、てんで 物語 に も 何も なりません。 ||||ものがたり|||なにも|なり ませ ん あの 小 男 の 商人 と 、ヨシ子 と の あいだ に 、少し でも 恋 に 似た 感情 で も あった なら 、自分 の 気持 も かえって たすかる かも 知れません が 、ただ 、夏 の 一夜 、ヨシ子 が 信頼 して 、そうして 、それっきり 、しかも その ため に 自分 の 眉間 は 、まっこう から 割ら れ 声 が 嗄れて 若 白髪 が はじまり 、ヨシ子 は 一生 おろおろ しなければ なら なく なった のです。 |しょう|おとこ||しょうにん||よしこ|||||すこし||こい||にた|かんじょう|||||じぶん||きもち|||||しれ ませ ん|||なつ||いちや|よしこ||しんらい||||||||じぶん||みけん||||わら||こえ||しわがれて|わか|しらが|||よしこ||いっしょう||し なければ|||| たいてい の 物語 は 、その 妻 の 「行為 」を 夫 が 許す か どう か 、そこ に 重点 を 置いて いた ようでした が 、それ は 自分 に とって は 、そんなに 苦しい 大 問題 で は 無い ように 思わ れました。 ||ものがたり|||つま||こうい||おっと||ゆるす||||||じゅうてん||おいて||||||じぶん|||||くるしい|だい|もんだい|||ない||おもわ|れ ました 許す 、許さ ぬ 、そのような 権利 を 留保 して いる 夫 こそ 幸いなる 哉 かな 、とても 許す 事 が 出来 ぬ と 思った なら 、何も そんなに 大騒ぎ せ ず と も 、さっさと 妻 を 離縁 して 、新しい 妻 を 迎えたら どう だろう 、それ が 出来 なかったら 、所 謂 いわゆる 「許して 」我慢 する さ 、いずれ に して も 夫 の 気持 一 つ で 四方八方 が まるく 収 る だろう に 、と いう 気 さえ する のでした。 ゆるす|ゆるさ|||けんり||りゅうほ|||おっと||さいわいなる|や|||ゆるす|こと||でき|||おもった||なにも||おおさわぎ||||||つま||りえん||あたらしい|つま||むかえたら|||||でき||しょ|い||ゆるして|がまん|||||||おっと||きもち|ひと|||しほうはっぽう|||おさむ||||||き||| つまり 、そのような 事件 は 、たしかに 夫 に とって 大いなる ショック であって も 、しかし 、それ は 「ショック 」であって 、いつまでも 尽きる こと 無く 打ち返し 打ち寄せる 波 と 違い 、権利 の ある 夫 の 怒り でもって どうにでも 処理 できる トラブル の ように 自分 に は 思わ れた のでした。 ||じけん|||おっと|||おおいなる|しょっく||||||しょっく|||つきる||なく|うちかえし|うちよせる|なみ||ちがい|けんり|||おっと||いかり|でも って||しょり||とらぶる|||じぶん|||おもわ|| けれども 、自分 たち の 場合 、夫 に 何の 権利 も 無く 、考える と 何もかも 自分 が わるい ような 気 が して 来て 、怒る どころ か 、お こごと 一 つ も 言え ず 、また 、その 妻 は 、その 所有 して いる 稀 まれな 美 質 に 依って 犯さ れた のです。 |じぶん|||ばあい|おっと||なんの|けんり||なく|かんがえる||なにもかも|じぶん||||き|||きて|いかる|||||ひと|||いえ||||つま|||しょゆう|||まれ||び|しち||よって|おかさ|| しかも 、その 美 質 は 、夫 の かねて あこがれ の 、無垢の 信頼 心 と いう たまらなく 可憐 かれんな もの な のでした。 ||び|しち||おっと|||||むくの|しんらい|こころ||||かれん||||

無垢の 信頼 心 は 、罪 なり や。 むくの|しんらい|こころ||ざい||

唯一 の たのみ の 美 質 に さえ 、疑惑 を 抱き 、自分 は 、もはや 何もかも 、わけ が わから なく なり 、おもむく ところ は 、ただ アルコール だけ に なりました。 ゆいいつ||||び|しち|||ぎわく||いだき|じぶん|||なにもかも||||||||||あるこーる|||なり ました 自分 の 顔 の 表情 は 極度に いやしく なり 、朝 から 焼酎 を 飲み 、歯 が ぼろぼろに 欠けて 、漫画 も ほとんど 猥画 わ いが に 近い もの を 画 くよう に なりました。 じぶん||かお||ひょうじょう||きょくどに|||あさ||しょうちゅう||のみ|は|||かけて|まんが|||わいが||||ちかい|||が|||なり ました いいえ 、はっきり 言います。 ||いい ます 自分 は その頃 から 、春 画 の コピイ を して 密売 しました。 じぶん||そのころ||はる|が|||||みつばい|し ました 焼酎 を 買う お 金 が ほしかった のです。 しょうちゅう||かう||きむ||| いつも 自分 から 視線 を はずして おろおろ して いる ヨシ子 を 見る と 、こいつ は 全く 警戒 を 知ら ぬ 女 だった から 、あの 商人 と いち ど だけ で は 無かった ので は なかろう か 、また 、堀木 は？ |じぶん||しせん||||||よしこ||みる||||まったく|けいかい||しら||おんな||||しょうにん|||||||なかった||||||ほりき| いや 、或いは 自分 の 知ら ない 人 と も？ |あるいは|じぶん||しら||じん|| と 疑惑 は 疑惑 を 生み 、さりとて 思い切って それ を 問い 正す 勇気 も 無く 、れいの 不安 と 恐怖 に のたうち 廻る 思い で 、ただ 焼酎 を 飲んで 酔って は 、わずかに 卑屈な 誘導 訊問 じんもん みたいな もの を おっかなびっくり 試み 、内心 おろか しく 一喜一憂 し 、うわべ は 、やたらに お 道化 て 、そうして 、それ から 、ヨシ子 に いまわしい 地獄 の 愛 撫 あい ぶ を 加え 、泥 の ように 眠りこける のでした。 |ぎわく||ぎわく||うみ||おもいきって|||とい|ただす|ゆうき||なく||ふあん||きょうふ|||まわる|おもい|||しょうちゅう||のんで|よって|||ひくつな|ゆうどう|じんもん||||||こころみ|ないしん|||いっきいちゆう||||||どうけ|||||よしこ|||じごく||あい|ぶ||||くわえ|どろ|||ねむりこける|

その 年 の 暮 、自分 は 夜 おそく 泥酔 して 帰宅 し 、砂糖 水 を 飲み たく 、ヨシ子 は 眠って いる ようでした から 、自分 で お 勝手に 行き 砂糖 壺 を 捜し出し 、ふた を 開けて みたら 砂糖 は 何も は いって なくて 、黒く 細長い 紙 の 小 箱 が はいって いました。 |とし||くら|じぶん||よ||でいすい||きたく||さとう|すい||のみ||よしこ||ねむって||||じぶん|||かってに|いき|さとう|つぼ||さがしだし|||あけて||さとう||なにも||||くろく|ほそながい|かみ||しょう|はこ|||い ました 何気なく 手 に 取り 、その 箱 に はられて ある レッテル を 見て 愕然 がくぜんと しました。 なにげなく|て||とり||はこ||はら れて||れってる||みて|がくぜん||し ました その レッテル は 、爪 で 半分 以上 も 掻か き は が されて いました が 、洋 字 の 部分 が 残って いて 、それ に はっきり 書かれて いました。 |れってる||つめ||はんぶん|いじょう||かか||||さ れて|い ました||よう|あざ||ぶぶん||のこって|||||かか れて|い ました ＤＩＡＬ。 ｄｉａｌ

ジアール。 自分 は その頃 もっぱら 焼酎 で 、催眠 剤 を 用いて は いま せ ん でした が 、しかし 、不眠 は 自分 の 持病 の ような もの でした から 、たいてい の 催眠 剤 に は お 馴染 なじみ でした。 じぶん||そのころ||しょうちゅう||さいみん|ざい||もちいて||||||||ふみん||じぶん||じびょう||||||||さいみん|ざい||||なじみ|| ジアール の この 箱 一 つ は 、たしかに 致死 量 以上 の 筈 でした。 |||はこ|ひと||||ちし|りょう|いじょう||はず| まだ 箱 の 封 を 切って は いま せ ん でした が 、しかし 、いつか は 、やる 気 で こんな ところ に 、しかも レッテル を 掻き はがしたり など して 隠して いた の に 違い ありません。 |はこ||ふう||きって|||||||||||き||||||れってる||かき||||かくして||||ちがい|あり ませ ん 可哀想に 、あの 子 に は レッテル の 洋 字 が 読め ない ので 、爪 で 半分 掻き はがして 、これ で 大丈夫 と 思って いた のでしょう。 かわいそうに||こ|||れってる||よう|あざ||よめ|||つめ||はんぶん|かき||||だいじょうぶ||おもって|| （お前 に 罪 は 無い） おまえ||ざい||ない

自分 は 、音 を 立て ない ように そっと コップ に 水 を 満たし 、それ から 、ゆっくり 箱 の 封 を 切って 、全部 、一気に 口 の 中 に ほうり 、コップ の 水 を 落ちついて 飲みほし 、電 燈 を 消して そのまま 寝ました。 じぶん||おと||たて||||こっぷ||すい||みたし||||はこ||ふう||きって|ぜんぶ|いっきに|くち||なか|||こっぷ||すい||おちついて|のみほし|いなずま|とも||けして||ね ました

三 昼夜 、自分 は 死んだ ように なって いた そうです。 みっ|ちゅうや|じぶん||しんだ||||そう です 医者 は 過失 と 見なして 、警察 に とどける の を 猶予 して くれた そうです。 いしゃ||かしつ||みなして|けいさつ|||||ゆうよ|||そう です 覚醒 かくせい し かけて 、一ばん さき に 呟いた うわごと は 、うち へ 帰る 、と いう 言葉 だった そうです。 かくせい||||ひとばん|||つぶやいた|||||かえる|||ことば||そう です うち と は 、どこ の 事 を 差して 言った の か 、当の 自分 に も 、よく わかりません が 、とにかく 、そう 言って 、ひどく 泣いた そうです。 |||||こと||さして|いった|||とうの|じぶん||||わかり ませ ん||||いって||ないた|そう です

次第に 霧 が はれて 、見る と 、枕元 に ヒラメ が 、ひどく 不機嫌な 顔 を して 坐って いました。 しだいに|きり|||みる||まくらもと||ひらめ|||ふきげんな|かお|||すわって|い ました

「このまえ も 、年 の 暮 の 事 でして ね 、お互い もう 、目 が 廻る くらい いそがしい のに 、いつも 、年 の 暮 を ねらって 、こんな 事 を やられた ひに は 、こっち の 命 が たまらない」 ||とし||くら||こと|||おたがい||め||まわる|||||とし||くら||||こと|||||||いのち||

ヒラメ の 話 の 聞き手 に なって いる の は 、京 橋 の バア の マダム でした。 ひらめ||はなし||ききて||||||けい|きょう|||||

「マダム」

と 自分 は 呼びました。 |じぶん||よび ました

「うん 、何？ |なん 気 が ついた？ き|| 」

マダム は 笑い顔 を 自分 の 顔 の 上 に かぶせる ように して 言いました。 ||わらいがお||じぶん||かお||うえ|||||いい ました

自分 は 、ぽろぽろ 涙 を 流し、 じぶん|||なみだ||ながし

「ヨシ子 と わかれ させて」 よしこ|||さ せて

自分 でも 思いがけなかった 言葉 が 出ました。 じぶん||おもいがけなかった|ことば||で ました

マダム は 身 を 起し 、幽 かな 溜息 を もらしました。 ||み||おこし|ゆう||ためいき||もらし ました

それ から 自分 は 、これ も また 実に 思いがけない 滑稽 と も 阿呆らしい と も 、形容 に 苦しむ ほど の 失言 を しました。 ||じぶん|||||じつに|おもいがけない|こっけい|||あほらしい|||けいよう||くるしむ|||しつげん||し ました

「僕 は 、女 の いない ところ に 行く んだ」 ぼく||おんな|||||いく|

うわっはっは 、と まず 、ヒラメ が 大声 を 挙げて 笑い 、マダム も クスクス 笑い 出し 、自分 も 涙 を 流し ながら 赤面 の 態 てい に なり 、苦笑 しました。 うわ っ は っは|||ひらめ||おおごえ||あげて|わらい|||くすくす|わらい|だし|じぶん||なみだ||ながし||せきめん||なり||||くしょう|し ました

「うん 、その ほう が いい」

と ヒラメ は 、いつまでも だ らし 無く 笑い ながら、 |ひらめ|||||なく|わらい|

「女 の いない ところ に 行った ほう が よい。 おんな|||||おこなった||| 女 が いる と 、どうも いけない。 おんな||||| 女 の いない ところ と は 、いい 思いつき です」 おんな|||||||おもいつき|

女 の いない ところ。 おんな||| しかし 、この 自分 の 阿 呆 くさい うわごと は 、のち に 到って 、非常に 陰惨に 実現 せられました。 ||じぶん||おもね|ぼけ||||||とう って|ひじょうに|いんさんに|じつげん|せら れ ました

ヨシ子 は 、何 か 、自分 が ヨシ子 の 身代り に なって 毒 を 飲んだ と でも 思い込んで いる らしく 、以前 より も 尚 なお いっそう 、自分 に 対して 、おろおろ して 、自分 が 何 を 言って も 笑わ ず 、そうして ろくに 口 も きけ ない ような 有様 な ので 、自分 も アパート の 部屋 の 中 に いる の が 、うっとうしく 、つい 外 へ 出て 、相 変ら ず 安い 酒 を あおる 事 に なる のでした。 よしこ||なん||じぶん||よしこ||みがわり|||どく||のんだ|||おもいこんで|||いぜん|||しよう|||じぶん||たいして|||じぶん||なん||いって||わらわ||||くち|||||ありさま|||じぶん||あぱーと||へや||なか|||||||がい||でて|そう|かわら||やすい|さけ|||こと||| しかし 、あの ジアール の 一 件 以来 、自分 の からだ が めっきり 痩 やせ細って 、手足 が だるく 、漫画 の 仕事 も 怠け がちに なり 、ヒラメ が あの 時 、見舞い と して 置いて 行った お 金 （ヒラメ は それ を 、渋田 の 志 です 、と 言って いかにも ご 自身 から 出た お 金 の ように して 差出しました が 、これ も 故郷 の 兄 たち から の お 金 の ようでした。 ||||ひと|けん|いらい|じぶん|||||そう|やせほそって|てあし|||まんが||しごと||なまけ|||ひらめ|||じ|みまい|||おいて|おこなった||きむ|ひらめ||||しぶた||こころざし|||いって|||じしん||でた||きむ||||さしだし ました||||こきょう||あに|||||きむ|| 自分 も その 頃 に は 、ヒラメ の 家 から 逃げ出した あの 時 と ちがって 、ヒラメ の そんな もったい振った 芝居 を 、おぼろげ ながら 見抜く 事 が 出来る ように なって いました ので 、こちら も ずるく 、全く 気づか ぬ 振り を して 、神妙に その お 金 の お 礼 を ヒラメ に 向って 申し上げた のでした が 、しかし 、ヒラメ たち が 、なぜ 、そんな ややこしい カラ クリ を やら かす の か 、わかる ような 、わから ない ような 、どうしても 自分 に は 、へんな 気 が して なりません でした ）その お 金 で 、思い切って ひと り で 南伊豆 の 温泉 に 行って みたり など しました が 、とても そんな 悠長な 温泉 めぐり など 出来る 柄 がら で は なく 、ヨシ子 を 思えば 侘 わびし さ 限りなく 、宿 の 部屋 から 山 を 眺める など の 落ちついた 心境 に は 甚だ 遠く 、ドテラ に も 着 換え ず 、お 湯 に も はいら ず 、外 へ 飛び出して は 薄汚い 茶店 みたいな ところ に 飛び込んで 、焼酎 を 、それ こそ 浴びる ほど 飲んで 、からだ 具合 い を 一そう 悪く して 帰京 した だけ の 事 でした。 じぶん|||ころ|||ひらめ||いえ||にげだした||じ|||ひらめ|||もったいぶった|しばい||||みぬく|こと||できる|||い ました|||||まったく|きづか||ふり|||しんみょうに|||きむ|||れい||ひらめ||むかい って|もうしあげた||||ひらめ||||||から|くり||||||||||||じぶん||||き|||なり ませ ん||||きむ||おもいきって||||みなみいず||おんせん||おこなって|||し ました||||ゆうちょうな|おんせん|||できる|え|||||よしこ||おもえば|た|||かぎりなく|やど||へや||やま||ながめる|||おちついた|しんきょう|||はなはだ|とおく||||ちゃく|かえ|||ゆ|||||がい||とびだして||うすぎたない|ちゃみせ||||とびこんで|しょうちゅう||||あびる||のんで||ぐあい|||いっそう|わるく||ききょう||||こと|