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太宰治『人間失格』(No Longer Human by Osamu Dazai), 第二の手記 (3)

第 二 の 手記 (3)

自分 は 、やがて 画 塾 で 、或る 画 学生 から 、酒 と 煙草 と 淫売 婦 い ん ばい ふと 質屋 と 左翼 思想 と を 知ら さ れました。 妙な 取合 せ でした が 、しかし 、それ は 事実 でした。

その 画 学生 は 、堀木 正雄 と いって 、東京 の 下町 に 生れ 、自分 より 六 つ 年 長者 で 、私立 の 美術 学校 を 卒業 して 、家 に アトリエ が 無い ので 、この 画 塾 に 通い 、洋画 の 勉強 を つづけて いる のだ そうです。

「五 円 、貸して くれ ない か」

お互い ただ 顔 を 見 知っている だけ で 、それ まで 一言 も 話 合った 事 が 無かった のです。 自分 は 、へ ど もどして 五 円 差し出しました。

「よし 、飲もう。 おれ が 、お前 に おごる んだ。 よか チゴ じゃ のう」

自分 は 拒否 し 切れ ず 、その 画 塾 の 近く の 、蓬莱 ほうらい 町 の カフエ に 引っぱって 行か れた の が 、彼 と の 交友 の はじまり でした。

「前 から 、お前 に 眼 を つけて いた んだ。 それ それ 、その はにかむ ような 微笑 、それ が 見込み の ある 芸術 家 特有の 表情 な んだ。 お 近づき の しるし に 、乾杯! キヌ さん 、こいつ は 美男 子 だろう? 惚れちゃ いけない ぜ。 こいつ が 塾 へ 来た おかげ で 、残念 ながら おれ は 、第 二 番 の 美男 子 と いう 事 に なった」

堀木 は 、色 が 浅黒く 端正な 顔 を して いて 、画 学生 に は 珍 らしく 、ちゃんと した 脊広 せびろ を 着て 、ネクタイ の 好み も 地味で 、そうして 頭髪 も ポマード を つけて まん 中 から ぺったり と わけて いました。

自分 は 馴 れ ぬ 場所 で も あり 、ただ もう おそろしく 、腕 を 組んだり ほどいたり して 、それ こそ 、はにかむ ような 微笑 ばかり して いました が 、ビイル を 二 、三 杯 飲んで いる うち に 、妙に 解放 せられた ような 軽 さ を 感じて 来た のです。

「僕 は 、美術 学校 に はいろう と 思って いた んです けど、……」

「いや 、つまら ん。 あんな ところ は 、つまら ん。 学校 は 、つまら ん。 われら の 教師 は 、自然の 中 に あり! 自然 に 対する パアトス!

しかし 、自分 は 、彼 の 言う 事 に 一向に 敬意 を 感じません でした。 馬鹿な ひと だ 、絵 も 下手に ちがいない 、しかし 、遊ぶ の に は 、いい 相手 かも 知れ ない と 考えました。 つまり 、自分 は その 時 、生れて はじめて 、ほんもの の 都会 の 与 太 者 を 見た のでした。 それ は 、自分 と 形 は 違って いて も 、やはり 、この世 の 人間 の 営み から 完全に 遊離 して しまって 、戸 迷い して いる 点 に 於 いて だけ は 、たしかに 同類 な のでした。 そうして 、彼 は その お 道化 を 意識 せ ず に 行い 、しかも 、その お 道化 の 悲惨に 全く 気 が ついて いない の が 、自分 と 本質 的に 異色 の ところ でした。

ただ 遊ぶ だけ だ 、遊び の 相手 と して 附 合って いる だけ だ 、と つねに 彼 を 軽蔑 けいべつ し 、時に は 彼 と の 交友 を 恥ずかしく さえ 思い ながら 、彼 と 連れ立って 歩いて いる うち に 、結局 、自分 は 、この 男 に さえ 打ち破ら れました。

しかし 、はじめ は 、この 男 を 好 人物 、まれに 見る 好 人物 と ばかり 思い込み 、さすが 人間 恐怖 の 自分 も 全く 油断 を して 、東京 の よい 案内 者 が 出来た 、くらい に 思って いました。 自分 は 、実は 、ひと り で は 、電車 に 乗る と 車掌 が おそろしく 、歌舞伎 座 へ はいり たくて も 、あの 正面 玄関 の 緋 ひ の 絨緞 じゅうたん が 敷かれて ある 階段 の 両側 に 並んで 立って いる 案内 嬢 たち が おそろしく 、レストラン へ は いる と 、自分 の 背後 に ひっそり 立って 、皿 の あく の を 待って いる 給仕 の ボーイ が おそろしく 、殊に も 勘定 を 払う 時 、ああ 、ぎ ご ち ない 自分 の 手つき 、自分 は 買い物 を して お 金 を 手渡す 時 に は 、吝嗇 りん しょく ゆえ で なく 、あまり の 緊張 、あまり の 恥ずかし さ 、あまり の 不安 、恐怖 に 、くらく ら 目 まい して 、世界 が 真 暗 に なり 、ほとんど 半 狂乱 の 気持 に なって しまって 、値切る どころ か 、お釣 を 受け取る の を 忘れる ばかりで なく 、買った 品物 を 持ち帰る の を 忘れた 事 さえ 、しばしば あった ほど な ので 、とても 、ひと り で 東京 の まち を 歩け ず 、それ で 仕方なく 、一 日 一 ぱい 家 の 中 で 、ごろごろ して いた と いう 内情 も あった のでした。

それ が 、堀木 に 財布 を 渡して 一緒に 歩く と 、堀木 は 大いに 値切って 、しかも 遊び 上手 と いう の か 、わずかな お 金 で 最大 の 効果 の ある ような 支払い 振り を 発揮 し 、また 、高い 円 タク は 敬遠 して 、電車 、バス 、ポンポン 蒸気 など 、それぞれ 利用 し分けて 、最短 時間 で 目的 地 へ 着く と いう 手腕 を も 示し 、淫売 婦 の ところ から 朝 帰る 途中 に は 、何 々 と いう 料亭 に 立ち寄って 朝 風呂 へ はいり 、湯豆腐 で 軽く お 酒 を 飲む の が 、安い 割に 、ぜいたくな 気分 に なれる もの だ と 実地 教育 を して くれたり 、その他 、屋台 の 牛 め し 焼 とり の 安価に して 滋養 に 富む もの たる 事 を 説き 、酔い の 早く 発する の は 、電気 ブラン の 右 に 出る もの は ない と 保証 し 、とにかく その 勘定 に 就いて は 自分 に 、一 つ も 不安 、恐怖 を 覚え させた 事 が ありません でした。

さらに また 、堀木 と 附合って 救わ れる の は 、堀木 が 聞き手 の 思惑 など を てんで 無視 して 、その 所 謂 情熱 パトス の 噴出 する が まま に 、(或いは 、情熱 と は 、相手 の 立場 を 無視 する 事 かも 知れません が )四六時中 、くだらない おしゃべり を 続け 、あの 、二 人 で 歩いて 疲れ 、気まずい 沈黙 に おちいる 危懼 きく が 、全く 無い と いう 事 でした。 人 に 接し 、あの おそろしい 沈黙 が その 場 に あらわれる 事 を 警戒 して 、もともと 口 の 重い 自分 が 、ここ を 先 途 せんど と 必死の お 道化 を 言って 来た もの です が 、いま この 堀木 の 馬鹿 が 、意識 せ ず に 、その お 道化 役 を みずから すすんで やって くれて いる ので 、自分 は 、返事 も ろくに せ ず に 、ただ 聞き流し 、時折 、まさか 、など と 言って 笑って おれば 、いい のでした。

酒 、煙草 、淫売 婦 、それ は 皆 、人間 恐怖 を 、た とい 一 時 でも 、まぎらす 事 の 出来る ずいぶん よい 手段 である 事 が 、やがて 自分 に も わかって 来ました。 それ ら の 手段 を 求める ため に は 、自分 の 持ち物 全部 を 売却 して も 悔い ない 気持 さえ 、抱く ように なりました。

自分 に は 、淫売 婦 と いう もの が 、人間 でも 、女性 で も ない 、白 痴 か 狂 人 の ように 見え 、その ふところ の 中 で 、自分 は かえって 全く 安心 して 、ぐっすり 眠る 事 が 出来ました。 みんな 、哀しい くらい 、実に みじんも 慾 と いう もの が 無い のでした。 そうして 、自分 に 、同類 の 親和 感 と でも いった ような もの を 覚える の か 、自分 は 、いつも 、その 淫売 婦 たち から 、窮屈で ない 程度 の 自然の 好意 を 示さ れました。 何の 打算 も 無い 好意 、押し売り で は 無い 好意 、二度と 来 ない かも 知れ ぬ ひと へ の 好意 、自分 に は 、その 白 痴 か 狂 人 の 淫売 婦 たち に 、マリヤ の 円 光 を 現実 に 見た 夜 も あった のです。

しかし 、自分 は 、人間 へ の 恐怖 から のがれ 、幽 かな 一夜 の 休養 を 求める ため に 、そこ へ 行き 、それ こそ 自分 と 「同類 」の 淫売 婦 たち と 遊んで いる うち に 、いつのまに やら 無意識 の 、或る いまわしい 雰囲気 を 身辺 に いつも ただよわせる ように なった 様子 で 、これ は 自分 に も 全く 思い 設け なかった 所 謂 「おまけ の 附録 」でした が 、次第に その 「附録 」が 、鮮明に 表面 に 浮き上って 来て 、堀木 に それ を 指摘 せられ 、愕然 がくぜんと して 、そうして 、いやな 気 が 致しました。 はた から 見て 、俗な 言い 方 を すれば 、自分 は 、淫売 婦 に 依って 女 の 修行 を して 、しかも 、最近 めっきり 腕 を あげ 、女 の 修行 は 、淫売 婦 に 依る の が 一ばん 厳しく 、また それだけに 効果 の あがる もの だ そうで 、既に 自分 に は 、あの 、「女 達者 」と いう 匂い が つきまとい 、女性 は 、(淫売 婦 に 限ら ず )本能 に 依って それ を 嗅ぎ 当て 寄り添って 来る 、そのような 、卑猥 ひわ い で 不名誉な 雰囲気 を 、「おまけ の 附録 」と して もらって 、そうして その ほう が 、自分 の 休養 など より も 、ひどく 目立って しまって いる らしい のでした。

堀木 は それ を 半分 は お世辞 で 言った のでしょう が 、しかし 、自分 に も 、重苦しく 思い当る 事 が あり 、たとえば 、喫茶 店 の 女 から 稚拙な 手紙 を もらった 覚え も ある し 、桜木 町 の 家 の 隣り の 将軍 の はたち くらい の 娘 が 、毎朝 、自分 の 登校 の 時刻 に は 、用 も 無 さ そうな のに 、ご 自分 の 家 の 門 を 薄化粧 して 出たり は いったり して いた し 、牛肉 を 食い に 行く と 、自分 が 黙って いて も 、そこ の 女 中 が 、……また 、いつも 買いつけ の 煙草 屋 の 娘 から 手渡さ れた 煙草 の 箱 の 中 に 、……また 、歌舞伎 を 見 に 行って 隣り の 席 の ひと に 、……また 、深夜 の 市電 で 自分 が 酔って 眠って いて 、……また 、思いがけなく 故郷 の 親戚 の 娘 から 、思いつめた ような 手紙 が 来て 、……また 、誰 か わから ぬ 娘 が 、自分 の 留守 中 に お 手製 らしい 人形 を 、……自分 が 極度に 消極 的な ので 、いずれ も 、それっきり の 話 で 、ただ 断片 、それ 以上 の 進展 は 一 つ も ありません でした が 、何 か 女 に 夢 を 見 させる 雰囲気 が 、自分 の どこ か に つきまとって いる 事 は 、それ は 、のろ け だ の 何 だの と いう いい加減な 冗談 で なく 、否定 でき ない ので ありました。 自分 は 、それ を 堀木 ごとき 者 に 指摘 せられ 、屈辱 に 似た 苦 にが さ を 感ずる と 共に 、淫売 婦 と 遊ぶ 事 に も 、にわかに 興 が 覚めました。

堀木 は 、また 、その 見栄坊 みえぼう の モダニティ から 、(堀木 の 場合 、それ 以外 の 理由 は 、自分 に は 今もって 考えられません のです が )或る 日 、自分 を 共産 主義 の 読書 会 と か いう (R ・S と か いって いた か 、記憶 が はっきり 致しません )そんな 、秘密の 研究 会 に 連れて 行きました。 堀木 など と いう 人物 に とって は 、共産 主義 の 秘密 会合 も 、れいの 「東京 案内 」の 一 つ くらい の もの だった の かも 知れません。 自分 は 所 謂 「同志 」に 紹介 せられ 、パンフレット を 一部 買わさ れ 、そうして 上座 の ひどい 醜い 顔 の 青年 から 、マルクス 経済 学 の 講義 を 受けました。 しかし 、自分 に は 、それ は わかり切って いる 事 の ように 思わ れました。 それ は 、そう に 違いない だろう けれども 、人間 の 心 に は 、もっと わけ の わから ない 、おそろしい もの が ある。 慾 、と 言って も 、言い たりない 、ヴァニティ 、と 言って も 、言い たりない 、色 と 慾 、と こう 二 つ 並べて も 、言い たりない 、何だか 自分 に も わから ぬ が 、人間 の 世 の 底 に 、経済 だけ で ない 、へんに 怪談 じみ たも の が ある ような 気 が して 、その 怪談 に おびえ 切って いる 自分 に は 、所 謂唯 物 論 を 、水 の 低き に 流れる ように 自然に 肯定 し ながら も 、しかし 、それ に 依って 、人間 に 対する 恐怖 から 解放 せられ 、青葉 に 向って 眼 を ひらき 、希望 の よろこび を 感ずる など と いう 事 は 出来 ない のでした。 けれども 、自分 は 、いち ども 欠席 せ ず に 、その R ・S (と 言った か と 思います が 、間違って いる かも 知れません )なる もの に 出席 し 、「同志 」たち が 、いやに 一大事 の 如く 、こわばった 顔 を して 、一 プラス 一 は 二 、と いう ような 、ほとんど 初等 の 算 術 めいた 理論 の 研究 に ふけって いる の が 滑稽に 見えて たまら ず 、れいの 自分 の お 道化 で 、会合 を くつろが せる 事 に 努め 、その ため か 、次第に 研究 会 の 窮屈な 気配 も ほぐれ 、自分 は その 会合 に 無くて かなわ ぬ 人気者 と いう 形 に さえ なって 来た ようでした。 この 、単純 そうな 人 たち は 、自分 の 事 を 、やはり この 人 たち と 同じ 様 に 単純で 、そうして 、楽天 的な おどけ者 の 「同志 」くらい に 考えて いた かも 知れません が 、もし 、そう だったら 、自分 は 、この 人 たち を 一 から 十 まで 、あざむいて いた わけです。 自分 は 、同志 で は 無かった んです。 けれども 、その 会合 に 、いつも 欠かさ ず 出席 して 、皆 に お 道化 の サーヴィス を して 来ました。


第 二 の 手記 (3) だい|ふた||しゅき Konten aus zweiter Hand (3) Second Memorandum (3) Cuentas de segunda mano (3) 두 번째 수기 (3) 第二注 (3) 第二注 (3)

自分 は 、やがて 画 塾 で 、或る 画 学生 から 、酒 と 煙草 と 淫売 婦 い ん ばい ふと 質屋 と 左翼 思想 と を 知ら さ れました。 じぶん|||が|じゅく||ある|が|がくせい||さけ||たばこ||いんばい|ふ|||||しちや||さよく|しそう|||しら||れ ました Eventually, at a gajuku school, a student informed me of sake, cigarettes, a lewd woman, a pawn shop, and left-wing ideas. 最终,在一所艺术学校,一名艺术学生向我介绍了酒精、香烟、妓女、当铺和左翼意识形态。 妙な 取合 せ でした が 、しかし 、それ は 事実 でした。 みょうな|とりあ|||||||じじつ| It was a strange deal, but it was a fact. 这是一个奇怪的组合,但这是事实。

その 画 学生 は 、堀木 正雄 と いって 、東京 の 下町 に 生れ 、自分 より 六 つ 年 長者 で 、私立 の 美術 学校 を 卒業 して 、家 に アトリエ が 無い ので 、この 画 塾 に 通い 、洋画 の 勉強 を つづけて いる のだ そうです。 |が|がくせい||ほりき|まさお|||とうきょう||したまち||うまれ|じぶん||むっ||とし|ちょうじゃ||しりつ||びじゅつ|がっこう||そつぎょう||いえ||あとりえ||ない|||が|じゅく||かよい|ようが||べんきょう|||||そう です The painting student, Masao Horiki, was born in downtown Tokyo, six years older than me, graduated from a private art school, and has no atelier at home, so I went to this painting school to study Western painting. It seems that it continues.

「五 円 、貸して くれ ない か」 いつ|えん|かして||| "Can you lend me five yen?"

お互い ただ 顔 を 見 知っている だけ で 、それ まで 一言 も 話 合った 事 が 無かった のです。 おたがい||かお||み|しっている|||||いちげん||はなし|あった|こと||なかった| We had only known each other by looking at each other's faces, and had never spoken a single word to each other until then. 我们只是看着对方就认识了,在此之前我们从未说过一句话。 自分 は 、へ ど もどして 五 円 差し出しました。 じぶん|||||いつ|えん|さしだし ました I returned and handed over the five yen.

「よし 、飲もう。 |のもう "Okay, let's drink. おれ が 、お前 に おごる んだ。 ||おまえ||| I treated you. よか チゴ じゃ のう」 Yoka chigo ja nou"

自分 は 拒否 し 切れ ず 、その 画 塾 の 近く の 、蓬莱 ほうらい 町 の カフエ に 引っぱって 行か れた の が 、彼 と の 交友 の はじまり でした。 じぶん||きょひ||きれ|||が|じゅく||ちかく||ほうらい||まち||||ひっぱって|いか||||かれ|||こうゆう|||

「前 から 、お前 に 眼 を つけて いた んだ。 ぜん||おまえ||がん|||| "I've had my eye on you from before. それ それ 、その はにかむ ような 微笑 、それ が 見込み の ある 芸術 家 特有の 表情 な んだ。 |||||びしょう|||みこみ|||げいじゅつ|いえ|とくゆうの|ひょうじょう|| お 近づき の しるし に 、乾杯! |ちかづき||||かんぱい Cheers to the sign of your approach! キヌ さん 、こいつ は 美男 子 だろう? きぬ||||びなん|こ| Kinu-san, isn't this guy a handsome boy? 惚れちゃ いけない ぜ。 ほれちゃ|| Don't fall in love. こいつ が 塾 へ 来た おかげ で 、残念 ながら おれ は 、第 二 番 の 美男 子 と いう 事 に なった」 ||じゅく||きた|||ざんねん||||だい|ふた|ばん||びなん|こ|||こと|| Unfortunately, thanks to him coming to cram school, I ended up being the second most handsome boy."

堀木 は 、色 が 浅黒く 端正な 顔 を して いて 、画 学生 に は 珍 らしく 、ちゃんと した 脊広 せびろ を 着て 、ネクタイ の 好み も 地味で 、そうして 頭髪 も ポマード を つけて まん 中 から ぺったり と わけて いました。 ほりき||いろ||あさぐろく|たんせいな|かお||||が|がくせい|||ちん||||せきこう|||きて|ねくたい||よしみ||じみで||とうはつ||||||なか||ぺっ たり|||い ました Horiki has a swarthy and neat face, which is unusual for an art student, he wears a proper broad-sleeved robe, his taste in a necktie is plain, and his hair is pomade and flat from the middle. It was separated.

自分 は 馴 れ ぬ 場所 で も あり 、ただ もう おそろしく 、腕 を 組んだり ほどいたり して 、それ こそ 、はにかむ ような 微笑 ばかり して いました が 、ビイル を 二 、三 杯 飲んで いる うち に 、妙に 解放 せられた ような 軽 さ を 感じて 来た のです。 じぶん||じゅん|||ばしょ|||||||うで||くんだり|||||||びしょう|||い ました||||ふた|みっ|さかずき|のんで||||みょうに|かいほう|せら れた||けい|||かんじて|きた|

「僕 は 、美術 学校 に はいろう と 思って いた んです けど、……」 ぼく||びじゅつ|がっこう||||おもって|||

「いや 、つまら ん。 あんな ところ は 、つまら ん。 Such a place is boring. 学校 は 、つまら ん。 がっこう||| われら の 教師 は 、自然の 中 に あり! ||きょうし||しぜんの|なか|| 自然 に 対する パアトス! しぜん||たいする|

しかし 、自分 は 、彼 の 言う 事 に 一向に 敬意 を 感じません でした。 |じぶん||かれ||いう|こと||いっこうに|けいい||かんじ ませ ん| 馬鹿な ひと だ 、絵 も 下手に ちがいない 、しかし 、遊ぶ の に は 、いい 相手 かも 知れ ない と 考えました。 ばかな|||え||へたに|||あそぶ|||||あいて||しれ|||かんがえ ました He's a stupid person, and he must be bad at drawing, but I thought he might be a good partner to play with. つまり 、自分 は その 時 、生れて はじめて 、ほんもの の 都会 の 与 太 者 を 見た のでした。 |じぶん|||じ|うまれて||||とかい||あずか|ふと|もの||みた| In other words, at that time, for the first time in my life, I saw a real urban giver. それ は 、自分 と 形 は 違って いて も 、やはり 、この世 の 人間 の 営み から 完全に 遊離 して しまって 、戸 迷い して いる 点 に 於 いて だけ は 、たしかに 同類 な のでした。 ||じぶん||かた||ちがって||||このよ||にんげん||いとなみ||かんぜんに|ゆうり|||と|まよい|||てん||お|||||どうるい|| Although they were different in appearance, they were certainly of the same kind in that they were completely separated from the activities of humans in this world and lost their way. そうして 、彼 は その お 道化 を 意識 せ ず に 行い 、しかも 、その お 道化 の 悲惨に 全く 気 が ついて いない の が 、自分 と 本質 的に 異色 の ところ でした。 |かれ||||どうけ||いしき||||おこない||||どうけ||ひさんに|まったく|き||||||じぶん||ほんしつ|てきに|いしょく|||

ただ 遊ぶ だけ だ 、遊び の 相手 と して 附 合って いる だけ だ 、と つねに 彼 を 軽蔑 けいべつ し 、時に は 彼 と の 交友 を 恥ずかしく さえ 思い ながら 、彼 と 連れ立って 歩いて いる うち に 、結局 、自分 は 、この 男 に さえ 打ち破ら れました。 |あそぶ|||あそび||あいて|||ふ|あって||||||かれ||けいべつ|||ときに||かれ|||こうゆう||はずかしく||おもい||かれ||つれだって|あるいて||||けっきょく|じぶん|||おとこ|||うちやぶら|れ ました I always looked down on him, saying that I was just playing around with him, that I was just hanging out with him as a play partner, and sometimes even felt ashamed of my friendship with him. Even this man broke me down.

しかし 、はじめ は 、この 男 を 好 人物 、まれに 見る 好 人物 と ばかり 思い込み 、さすが 人間 恐怖 の 自分 も 全く 油断 を して 、東京 の よい 案内 者 が 出来た 、くらい に 思って いました。 ||||おとこ||よしみ|じんぶつ||みる|よしみ|じんぶつ|||おもいこみ||にんげん|きょうふ||じぶん||まったく|ゆだん|||とうきょう|||あんない|もの||できた|||おもって|い ました At first, however, I was convinced that this man was a good person, a good person that I rarely see, and even I, who had a fear of people, let my guard down and thought that I had become a good guide in Tokyo. 自分 は 、実は 、ひと り で は 、電車 に 乗る と 車掌 が おそろしく 、歌舞伎 座 へ はいり たくて も 、あの 正面 玄関 の 緋 ひ の 絨緞 じゅうたん が 敷かれて ある 階段 の 両側 に 並んで 立って いる 案内 嬢 たち が おそろしく 、レストラン へ は いる と 、自分 の 背後 に ひっそり 立って 、皿 の あく の を 待って いる 給仕 の ボーイ が おそろしく 、殊に も 勘定 を 払う 時 、ああ 、ぎ ご ち ない 自分 の 手つき 、自分 は 買い物 を して お 金 を 手渡す 時 に は 、吝嗇 りん しょく ゆえ で なく 、あまり の 緊張 、あまり の 恥ずかし さ 、あまり の 不安 、恐怖 に 、くらく ら 目 まい して 、世界 が 真 暗 に なり 、ほとんど 半 狂乱 の 気持 に なって しまって 、値切る どころ か 、お釣 を 受け取る の を 忘れる ばかりで なく 、買った 品物 を 持ち帰る の を 忘れた 事 さえ 、しばしば あった ほど な ので 、とても 、ひと り で 東京 の まち を 歩け ず 、それ で 仕方なく 、一 日 一 ぱい 家 の 中 で 、ごろごろ して いた と いう 内情 も あった のでした。 じぶん||じつは|||||でんしゃ||のる||しゃしょう|||かぶき|ざ||||||しょうめん|げんかん||ひ|||じゅうたん|||しか れて||かいだん||りょうがわ||ならんで|たって||あんない|じょう||||れすとらん|||||じぶん||はいご|||たって|さら|||||まって||きゅうじ||ぼーい|||ことに||かんじょう||はらう|じ||||||じぶん||てつき|じぶん||かいもの||||きむ||てわたす|じ|||りんしょく||||||||きんちょう|||はずかし||||ふあん|きょうふ||||め|||せかい||まこと|あん||||はん|きょうらん||きもち||||ねぎる|||おつり||うけとる|||わすれる|||かった|しなもの||もちかえる|||わすれた|こと|||||||||||とうきょう||||あるけ||||しかたなく|ひと|ひ|ひと||いえ||なか|||||||ないじょう||| The truth is, when I get on the train by myself, I'm afraid of the conductor, and even if I wanted to enter the Kabukiza, I would be standing side by side on both sides of that main entrance's stairs covered with a scarlet carpet. When the ushers dreadfully enter the restaurant, the wait boy standing quietly behind me waiting for the plates to be opened dreadfully, especially when I pay the bill, oh my awkward self. When I go shopping and hand over the money, it's not because I'm stingy, but because I'm too nervous, too embarrassed, too much anxiety, and fear, I feel dizzy and the world is pitch black. I became so frantic that I often forgot to take my change, let alone bargain, and even forgot to bring back the items I bought. I couldn't walk the streets of Tokyo because of the road, so I had no choice but to sit around at home all day.

それ が 、堀木 に 財布 を 渡して 一緒に 歩く と 、堀木 は 大いに 値切って 、しかも 遊び 上手 と いう の か 、わずかな お 金 で 最大 の 効果 の ある ような 支払い 振り を 発揮 し 、また 、高い 円 タク は 敬遠 して 、電車 、バス 、ポンポン 蒸気 など 、それぞれ 利用 し分けて 、最短 時間 で 目的 地 へ 着く と いう 手腕 を も 示し 、淫売 婦 の ところ から 朝 帰る 途中 に は 、何 々 と いう 料亭 に 立ち寄って 朝 風呂 へ はいり 、湯豆腐 で 軽く お 酒 を 飲む の が 、安い 割に 、ぜいたくな 気分 に なれる もの だ と 実地 教育 を して くれたり 、その他 、屋台 の 牛 め し 焼 とり の 安価に して 滋養 に 富む もの たる 事 を 説き 、酔い の 早く 発する の は 、電気 ブラン の 右 に 出る もの は ない と 保証 し 、とにかく その 勘定 に 就いて は 自分 に 、一 つ も 不安 、恐怖 を 覚え させた 事 が ありません でした。 ||ほりき||さいふ||わたして|いっしょに|あるく||ほりき||おおいに|ねぎって||あそび|じょうず|||||||きむ||さいだい||こうか||||しはらい|ふり||はっき|||たかい|えん|||けいえん||でんしゃ|ばす|ぽんぽん|じょうき|||りよう|しわけて|さいたん|じかん||もくてき|ち||つく|||しゅわん|||しめし|いんばい|ふ||||あさ|かえる|とちゅう|||なん||||りょうてい||たちよって|あさ|ふろ|||ゆどうふ||かるく||さけ||のむ|||やすい|わりに||きぶん||||||じっち|きょういく||||そのほか|やたい||うし|||や|||あんかに||じよう||とむ|||こと||とき|よい||はやく|はっする|||でんき|||みぎ||でる|||||ほしょう||||かんじょう||ついて||じぶん||ひと|||ふあん|きょうふ||おぼえ|さ せた|こと||あり ませ ん| However, when I handed my wallet to Horiki and walked with him, Horiki bargained a lot, and perhaps because he was good at playing, he showed how to pay with a small amount of money to get the maximum effect. Taku shy away from it, instead using trains, buses, pon-pon steam, etc., showing his ability to reach his destination in the shortest possible time. He gave me a hands-on education on how to stop by the ryokan, take a bath in the morning, and drink lightly with yudofu (boiled tofu), which is cheap and can make you feel luxurious. He preached that it was rich in nutrition, and assured that there was nothing better than Denki Bran for quick onset of intoxication. I've never had a problem.

さらに また 、堀木 と 附合って 救わ れる の は 、堀木 が 聞き手 の 思惑 など を てんで 無視 して 、その 所 謂 情熱 パトス の 噴出 する が まま に 、(或いは 、情熱 と は 、相手 の 立場 を 無視 する 事 かも 知れません が )四六時中 、くだらない おしゃべり を 続け 、あの 、二 人 で 歩いて 疲れ 、気まずい 沈黙 に おちいる 危懼 きく が 、全く 無い と いう 事 でした。 ||ほりき||ふごう って|すくわ||||ほりき||ききて||おもわく||||むし|||しょ|い|じょうねつ|||ふんしゅつ|||||あるいは|じょうねつ|||あいて||たちば||むし||こと||しれ ませ ん||しろくじちゅう||||つづけ||ふた|じん||あるいて|つかれ|きまずい|ちんもく|||きく|||まったく|ない|||こと| 人 に 接し 、あの おそろしい 沈黙 が その 場 に あらわれる 事 を 警戒 して 、もともと 口 の 重い 自分 が 、ここ を 先 途 せんど と 必死の お 道化 を 言って 来た もの です が 、いま この 堀木 の 馬鹿 が 、意識 せ ず に 、その お 道化 役 を みずから すすんで やって くれて いる ので 、自分 は 、返事 も ろくに せ ず に 、ただ 聞き流し 、時折 、まさか 、など と 言って 笑って おれば 、いい のでした。 じん||せっし|||ちんもく|||じょう|||こと||けいかい|||くち||おもい|じぶん||||さき|と|||ひっしの||どうけ||いって|きた||||||ほりき||ばか||いしき||||||どうけ|やく||||||||じぶん||へんじ|||||||ききながし|ときおり||||いって|わらって||| I've always been a tight-lipped person, being wary of dealing with people and the fearful silence that would appear on the spot. The idiot is unconsciously taking on the role of a clown, so I don't care about replying, just ignore it, occasionally saying "no way" and laughing. It was good.

酒 、煙草 、淫売 婦 、それ は 皆 、人間 恐怖 を 、た とい 一 時 でも 、まぎらす 事 の 出来る ずいぶん よい 手段 である 事 が 、やがて 自分 に も わかって 来ました。 さけ|たばこ|いんばい|ふ|||みな|にんげん|きょうふ||||ひと|じ|||こと||できる|||しゅだん||こと|||じぶん||||き ました I soon came to realize that alcohol, cigarettes, and prostitutes were all very good ways to cover up, even for a moment, my fear of mankind. それ ら の 手段 を 求める ため に は 、自分 の 持ち物 全部 を 売却 して も 悔い ない 気持 さえ 、抱く ように なりました。 |||しゅだん||もとめる||||じぶん||もちもの|ぜんぶ||ばいきゃく|||くい||きもち||いだく||なり ました In order to seek those means, I even came to have the feeling that I would have no regrets even if I sold all my belongings.

自分 に は 、淫売 婦 と いう もの が 、人間 でも 、女性 で も ない 、白 痴 か 狂 人 の ように 見え 、その ふところ の 中 で 、自分 は かえって 全く 安心 して 、ぐっすり 眠る 事 が 出来ました。 じぶん|||いんばい|ふ|||||にんげん||じょせい||||しろ|ち||くる|じん|||みえ||||なか||じぶん|||まったく|あんしん|||ねむる|こと||でき ました To me, prostitutes looked like idiots or lunatics, neither human nor female. . みんな 、哀しい くらい 、実に みじんも 慾 と いう もの が 無い のでした。 |かなしい||じつに||よく|||||ない| Everyone, sadly, there was no such thing as a soul. そうして 、自分 に 、同類 の 親和 感 と でも いった ような もの を 覚える の か 、自分 は 、いつも 、その 淫売 婦 たち から 、窮屈で ない 程度 の 自然の 好意 を 示さ れました。 |じぶん||どうるい||しんわ|かん|||||||おぼえる|||じぶん||||いんばい|ふ|||きゅうくつで||ていど||しぜんの|こうい||しめさ|れ ました As if I felt a sort of kinship with myself, I was always shown the kindness of nature by those prostitutes to the extent that I wasn't cramped. 何の 打算 も 無い 好意 、押し売り で は 無い 好意 、二度と 来 ない かも 知れ ぬ ひと へ の 好意 、自分 に は 、その 白 痴 か 狂 人 の 淫売 婦 たち に 、マリヤ の 円 光 を 現実 に 見た 夜 も あった のです。 なんの|ださん||ない|こうい|おしうり|||ない|こうい|にどと|らい|||しれ|||||こうい|じぶん||||しろ|ち||くる|じん||いんばい|ふ|||まりや||えん|ひかり||げんじつ||みた|よ|||

しかし 、自分 は 、人間 へ の 恐怖 から のがれ 、幽 かな 一夜 の 休養 を 求める ため に 、そこ へ 行き 、それ こそ 自分 と 「同類 」の 淫売 婦 たち と 遊んで いる うち に 、いつのまに やら 無意識 の 、或る いまわしい 雰囲気 を 身辺 に いつも ただよわせる ように なった 様子 で 、これ は 自分 に も 全く 思い 設け なかった 所 謂 「おまけ の 附録 」でした が 、次第に その 「附録 」が 、鮮明に 表面 に 浮き上って 来て 、堀木 に それ を 指摘 せられ 、愕然 がくぜんと して 、そうして 、いやな 気 が 致しました。 |じぶん||にんげん|||きょうふ|||ゆう||いちや||きゅうよう||もとめる|||||いき|||じぶん||どうるい||いんばい|ふ|||あそんで||||||むいしき||ある||ふんいき||しんぺん||||||ようす||||じぶん|||まったく|おもい|もうけ||しょ|い|||ふろく|||しだいに||ふろく||せんめいに|ひょうめん||うきあがって|きて|ほりき||||してき|せら れ|がくぜん|||||き||いたし ました However, I went there to escape from my fear of humans and seek a quiet night's rest. It seemed that a certain disgusting atmosphere had always flowed around him, and this was a so-called "extra appendix" that he had never thought of, but gradually that "additional appendix" began to appear clearly on the surface. When I came to the surface and had Horiki point it out, I was stunned, and then I felt bad. はた から 見て 、俗な 言い 方 を すれば 、自分 は 、淫売 婦 に 依って 女 の 修行 を して 、しかも 、最近 めっきり 腕 を あげ 、女 の 修行 は 、淫売 婦 に 依る の が 一ばん 厳しく 、また それだけに 効果 の あがる もの だ そうで 、既に 自分 に は 、あの 、「女 達者 」と いう 匂い が つきまとい 、女性 は 、(淫売 婦 に 限ら ず )本能 に 依って それ を 嗅ぎ 当て 寄り添って 来る 、そのような 、卑猥 ひわ い で 不名誉な 雰囲気 を 、「おまけ の 附録 」と して もらって 、そうして その ほう が 、自分 の 休養 など より も 、ひどく 目立って しまって いる らしい のでした。 ||みて|ぞくな|いい|かた|||じぶん||いんばい|ふ||よって|おんな||しゅぎょう||||さいきん||うで|||おんな||しゅぎょう||いんばい|ふ||よる|||ひとばん|きびしく|||こうか|||||そう で|すでに|じぶん||||おんな|たっしゃ|||におい|||じょせい||いんばい|ふ||かぎら||ほんのう||よって|||かぎ|あて|よりそって|くる||ひわい||||ふめいよな|ふんいき||||ふろく||||||||じぶん||きゅうよう|||||めだって|||| From the outside, to put it bluntly, I used a prostitute to train myself as a woman, and recently I've improved my skills a lot. It's strict, and that's what makes it so effective. I already have that smell of a ``woman,'' and women (not just prostitutes) sniff it out by instinct and come close to me. It seemed that he had taken such an obscene and dishonorable atmosphere as a "bonus appendix," and that it had become more conspicuous than his own rest.

堀木 は それ を 半分 は お世辞 で 言った のでしょう が 、しかし 、自分 に も 、重苦しく 思い当る 事 が あり 、たとえば 、喫茶 店 の 女 から 稚拙な 手紙 を もらった 覚え も ある し 、桜木 町 の 家 の 隣り の 将軍 の はたち くらい の 娘 が 、毎朝 、自分 の 登校 の 時刻 に は 、用 も 無 さ そうな のに 、ご 自分 の 家 の 門 を 薄化粧 して 出たり は いったり して いた し 、牛肉 を 食い に 行く と 、自分 が 黙って いて も 、そこ の 女 中 が 、……また 、いつも 買いつけ の 煙草 屋 の 娘 から 手渡さ れた 煙草 の 箱 の 中 に 、……また 、歌舞伎 を 見 に 行って 隣り の 席 の ひと に 、……また 、深夜 の 市電 で 自分 が 酔って 眠って いて 、……また 、思いがけなく 故郷 の 親戚 の 娘 から 、思いつめた ような 手紙 が 来て 、……また 、誰 か わから ぬ 娘 が 、自分 の 留守 中 に お 手製 らしい 人形 を 、……自分 が 極度に 消極 的な ので 、いずれ も 、それっきり の 話 で 、ただ 断片 、それ 以上 の 進展 は 一 つ も ありません でした が 、何 か 女 に 夢 を 見 させる 雰囲気 が 、自分 の どこ か に つきまとって いる 事 は 、それ は 、のろ け だ の 何 だの と いう いい加減な 冗談 で なく 、否定 でき ない ので ありました。 ほりき||||はんぶん||おせじ||いった||||じぶん|||おもくるしく|おもいあたる|こと||||きっさ|てん||おんな||ちせつな|てがみ|||おぼえ||||さくらぎ|まち||いえ||となり||しょうぐん|||||むすめ||まいあさ|じぶん||とうこう||じこく|||よう||む||そう な|||じぶん||いえ||もん||うすげしょう||でたり||||||ぎゅうにく||くい||いく||じぶん||だまって|||||おんな|なか||||かいつけ||たばこ|や||むすめ||てわたさ||たばこ||はこ||なか|||かぶき||み||おこなって|となり||せき|||||しんや||しでん||じぶん||よって|ねむって|||おもいがけなく|こきょう||しんせき||むすめ||おもいつめた||てがみ||きて||だれ||||むすめ||じぶん||るす|なか|||てせい||にんぎょう||じぶん||きょくどに|しょうきょく|てきな||||||はなし|||だんぺん||いじょう||しんてん||ひと|||あり ませ ん|||なん||おんな||ゆめ||み|さ せる|ふんいき||じぶん|||||||こと||||||||なん||||いいかげんな|じょうだん|||ひてい||||あり ました Horiki must have said it half as flattering, but he too has some somber thoughts. The daughter of the shogun next door was walking in and out of the gate of his house every morning when he was supposed to go to school, dressed in light makeup, even though he didn't seem to have anything to do. When I went out to eat beef, even though I was silent, the maid there... And in the cigarette box handed to me by the daughter of the tobacco shop I always bought,... again, Kabuki. I went to see it, and the person sitting next to me... I found myself drunk and asleep on the streetcar late at night... And then, unexpectedly, I received a thoughtful letter from a relative's daughter in my hometown... Also, a daughter I don't know who made a homemade doll while I was away. I didn't know what to do, but I couldn't deny that somewhere in me, I was haunted by an atmosphere that made women dream. It was there because it wasn't. 自分 は 、それ を 堀木 ごとき 者 に 指摘 せられ 、屈辱 に 似た 苦 にが さ を 感ずる と 共に 、淫売 婦 と 遊ぶ 事 に も 、にわかに 興 が 覚めました。 じぶん||||ほりき||もの||してき|せら れ|くつじょく||にた|く||||かんずる||ともに|いんばい|ふ||あそぶ|こと||||きょう||さめ ました When someone like Horiki pointed this out to me, I felt a bitterness akin to humiliation.

堀木 は 、また 、その 見栄坊 みえぼう の モダニティ から 、(堀木 の 場合 、それ 以外 の 理由 は 、自分 に は 今もって 考えられません のです が )或る 日 、自分 を 共産 主義 の 読書 会 と か いう (R ・S と か いって いた か 、記憶 が はっきり 致しません )そんな 、秘密の 研究 会 に 連れて 行きました。 ほりき||||みえぼう|||||ほりき||ばあい||いがい||りゆう||じぶん|||いまもって|かんがえ られ ませ ん|||ある|ひ|じぶん||きょうさん|しゅぎ||どくしょ|かい||||r|s||||||きおく|||いたし ませ ん||ひみつの|けんきゅう|かい||つれて|いき ました In Horiki's showy modernity, one day (in Horiki's case, I can't think of any other reason yet), one day he decided to join a communist book club. I took him to a secret study group like that (I don't remember if he said R.S.). 堀木 など と いう 人物 に とって は 、共産 主義 の 秘密 会合 も 、れいの 「東京 案内 」の 一 つ くらい の もの だった の かも 知れません。 ほりき||||じんぶつ||||きょうさん|しゅぎ||ひみつ|かいごう|||とうきょう|あんない||ひと||||||||しれ ませ ん For someone like Horiki, the communist secret meetings may have been just another part of Rei's 'guide to Tokyo'. 自分 は 所 謂 「同志 」に 紹介 せられ 、パンフレット を 一部 買わさ れ 、そうして 上座 の ひどい 醜い 顔 の 青年 から 、マルクス 経済 学 の 講義 を 受けました。 じぶん||しょ|い|どうし||しょうかい|せら れ|ぱんふれっと||いちぶ|かわさ|||かみざ|||みにくい|かお||せいねん|||けいざい|まな||こうぎ||うけ ました しかし 、自分 に は 、それ は わかり切って いる 事 の ように 思わ れました。 |じぶん|||||わかりきって||こと|||おもわ|れ ました However, it seemed to me that it was all too clear. それ は 、そう に 違いない だろう けれども 、人間 の 心 に は 、もっと わけ の わから ない 、おそろしい もの が ある。 ||||ちがいない|||にんげん||こころ||||||||||| That must be so, but there is something more incomprehensible and frightening in the human heart. 慾 、と 言って も 、言い たりない 、ヴァニティ 、と 言って も 、言い たりない 、色 と 慾 、と こう 二 つ 並べて も 、言い たりない 、何だか 自分 に も わから ぬ が 、人間 の 世 の 底 に 、経済 だけ で ない 、へんに 怪談 じみ たも の が ある ような 気 が して 、その 怪談 に おびえ 切って いる 自分 に は 、所 謂唯 物 論 を 、水 の 低き に 流れる ように 自然に 肯定 し ながら も 、しかし 、それ に 依って 、人間 に 対する 恐怖 から 解放 せられ 、青葉 に 向って 眼 を ひらき 、希望 の よろこび を 感ずる など と いう 事 は 出来 ない のでした。 よく||いって||いい||||いって||いい||いろ||よく|||ふた||ならべて||いい||なんだか|じぶん||||||にんげん||よ||そこ||けいざい|||||かいだん|||||||き||||かいだん|||きって||じぶん|||しょ|いただ|ぶつ|ろん||すい||ひくき||ながれる||しぜんに|こうてい|||||||よって|にんげん||たいする|きょうふ||かいほう|せら れ|あおば||むかい って|がん|||きぼう||||かんずる||||こと||でき|| Even if I say desire, I won't say it, even if I say vanity, I won't say it even if I put the two together, color and desire. In addition, I feel that there is something strange about the ghost story that is not only about the economy. Although he affirmed this, he was unable to free himself from his fear of humans, open his eyes to Aoba, and feel the joy of hope. けれども 、自分 は 、いち ども 欠席 せ ず に 、その R ・S (と 言った か と 思います が 、間違って いる かも 知れません )なる もの に 出席 し 、「同志 」たち が 、いやに 一大事 の 如く 、こわばった 顔 を して 、一 プラス 一 は 二 、と いう ような 、ほとんど 初等 の 算 術 めいた 理論 の 研究 に ふけって いる の が 滑稽に 見えて たまら ず 、れいの 自分 の お 道化 で 、会合 を くつろが せる 事 に 努め 、その ため か 、次第に 研究 会 の 窮屈な 気配 も ほぐれ 、自分 は その 会合 に 無くて かなわ ぬ 人気者 と いう 形 に さえ なって 来た ようでした。 |じぶん||||けっせき|||||r|s||いった|||おもい ます||まちがって|||しれ ませ ん||||しゅっせき||どうし||||いちだいじ||ごとく||かお|||ひと|ぷらす|ひと||ふた|||||しょとう||さん|じゅつ||りろん||けんきゅう||ふけ って||||こっけいに|みえて||||じぶん|||どうけ||かいごう||||こと||つとめ||||しだいに|けんきゅう|かい||きゅうくつな|けはい|||じぶん|||かいごう||なくて|||にんきもの|||かた||||きた| However, I never missed one, attended the R.S. I couldn't help but find it funny that I was absorbed in the study of almost elementary arithmetic theory, such as one plus one equals two, with a stiffened face on my face. So, I tried to make the meeting feel comfortable, and perhaps because of that, the feeling of tightness in the study group gradually loosened, and I even seemed to come to be a popular person at the meeting. この 、単純 そうな 人 たち は 、自分 の 事 を 、やはり この 人 たち と 同じ 様 に 単純で 、そうして 、楽天 的な おどけ者 の 「同志 」くらい に 考えて いた かも 知れません が 、もし 、そう だったら 、自分 は 、この 人 たち を 一 から 十 まで 、あざむいて いた わけです。 |たんじゅん|そう な|じん|||じぶん||こと||||じん|||おなじ|さま||たんじゅんで||らくてん|てきな|おどけもの||どうし|||かんがえて|||しれ ませ ん|||||じぶん|||じん|||ひと||じゅう|||| These simple-looking people might have thought of themselves as simple as they were, and perhaps thought of themselves as "comrades" in the optimistic antics. If so, I would have deceived these people one to ten times. 自分 は 、同志 で は 無かった んです。 じぶん||どうし|||なかった| I was not a comrade. けれども 、その 会合 に 、いつも 欠かさ ず 出席 して 、皆 に お 道化 の サーヴィス を して 来ました。 ||かいごう|||かかさ||しゅっせき||みな|||どうけ|||||き ました