44. 二ひきの蛙 - 新美南吉
二 ひき の 蛙 - 新美 南 吉
緑 の 蛙 と 黄色 の 蛙 が 、 はたけ の まんなか で ばったり ゆきあいました 。 「 や あ 、 きみ は 黄色 だ ね 。 きたない 色 だ 。」
と 緑 の 蛙 が いいました 。 「 きみ は 緑 だ ね 。 きみ は じぶん を 美しい と 思って いる の か ね 。」
と 黄色 の 蛙 が いいました 。 こんなふうに 話しあって いる と 、 よい こと は 起こりません 。 二 ひき の 蛙 は とうとう けんか を はじめました 。 緑 の 蛙 は 黄色 の 蛙 の 上 に とびかかって いきました 。 この 蛙 は とびかかる の が 得意で ありました 。 黄色 の 蛙 は あとあし で 砂 を けとばしました ので 、 あいて は たびたび 目玉 から 砂 を はらわ ねば なりません でした 。 する と その とき 、 寒い 風 が ふいて きました 。 二 ひき の 蛙 は 、 もう すぐ 冬 の やってくる こと を おもいだしました 。 蛙 たち は 土 の 中 に もぐって 寒い 冬 を こさ ねば なら ない のです 。
「 春 に なったら 、 この けんか の 勝負 を つける 。」
と いって 、 緑 の 蛙 は 土 に もぐりました 。 「 いま いった こと を わすれる な 。」
と いって 、 黄色 の 蛙 も もぐりこみました 。 寒い 冬 が やってきました 。 蛙 たち の もぐって いる 土 の 上 に 、 び ゅう び ゅう と 北風 が ふいたり 、 霜柱 が 立ったり しました 。 そして それ から 、 春 が めぐって きました 。 土 の 中 に ねむって いた 蛙 たち は 、 せなか の 上 の 土 が あたたかく なって きた ので わかりました 。 さいしょに 、 緑 の 蛙 が 目 を さましました 。 土 の 上 に 出て みました 。 まだ ほか の 蛙 は 出て いません 。 「 おいおい 、 おきた まえ 。 もう 春 だ ぞ 。」
と 土 の 中 に むかって よびました 。 する と 、 黄色 の 蛙 が 、
「 やれやれ 、 春 に なった か 。」
と いって 、 土 から 出て きました 。 「 去年 の けんか 、 わすれた か 。」
と 緑 の 蛙 が いいました 。 「 待て 待て 。 からだ の 土 を あらい おとして から に しよう ぜ 。」
と 黄色 の 蛙 が いいました 。 二 ひき の 蛙 は 、 から だ から 泥 土 を おとす ため に 、 池 の ほう に いきました 。 池 に は 新しく わきでて 、 ラムネ の ように すがすがしい 水 が いっぱいに たたえられて ありました 。 その なか へ 蛙 たち は 、 と ぶん と ぶん と とびこみました 。 からだ を あらって から 緑 の 蛙 が 目 を ぱち くり させて 、
「 や あ 、 きみの 黄色 は 美しい 。」
と いいました 。 「 そう いえば 、 きみの 緑 だって すばらしい よ 。」
と 黄色 の 蛙 が いいました 。 そこ で 二 ひき の 蛙 は 、
「 もう けんか は よそう 。」
と いいあいました 。 よく ねむった あと で は 、 人間 でも 蛙 でも 、 きげん が よく なる もの であります 。