102. 生まれ変った赤坂離宮 - 中井正一
生まれ 変った 赤坂 離宮 - 中井 正一
二 つ の 足 で 立つ ように なる ため に 、 人間 は 二十万 年 も ころんで は 立ち 、 ころんで は 立ち した んだろう 。 そして 、 手 が 自由に なった とき 、 どんな 気持ち が した だろう 。 ・・
もの を つかんで 、 土 の 上 に 立った 人間 の すがた 。 今 は あたりまえの こと だ が 、 この あたりまえの こと を 、 何 十万 年 も 努力 した 人間 の 勝利 の 記録 である こと を 思って みる 人 が 、 今 地球 上 で 何 人 いる だろう 。 ・・
言葉 だって 同じ こと だ 。 ・・
手 が 自由に なり 言葉 を 発見 した から 、 数字 も でき 、 物ごと の 中 に 法則 が ある こと を 見つけだし 、 人間 の 関係 の 中 に も 、 法則 らしい もの が ある こと を さぐり だした こと は 、 実は 大変な こと な のだ 。 ・・
五千 年 前 から 奴隷 制 や 封建 制 が 、 つぎつぎ に できて 、 人間 が すこし ま が ぬけて 、 とんでもなく おこりっぽく なったり 、 おくびょうに なった からって 、 人間 を 馬鹿 と ばかり 思いこむ の は 早 すぎる 。 ・・
人間 は すばらしい 宇宙 の ただ 一 つ の 存在 だ 。 その 証拠 に 、 言葉 を 語りあって いる 。 そして 、 法則 を さがしもとめて いる 。 ・・
人間 が 人間 の 間 の 法則 を 、 たがいに さぐり あえたら 、 人間 と 人間 と の 争い は なく なる 。 ・・
人間 が けんか を する とき 、 人々 は 声 を あげて 言葉 で 争う 。 それ が つきて 、 手 が でる のだ 。 ・・
戦争 も 同じだ 。 何 カ年 も つづいた 大 戦争 も 、 いずれ 、 数 ページ の 講和 条約 で おわる 。 もし 、 この 数 ページ の 条約 の 言葉 を 、 戦い の 前 に 、 おたがいに あみだす こと が できたら 、 どんなに たくさんの 戦争 が おこら ず に すんだ かも しれ ない 。 ・・
言葉 は いつも 、 戦争 と 戦争 して いる 。 ・・
アレクサンダー が 戦争 して いる 間 に も 、 言葉 は 、 彼 の 名前 を つけた アレクサンドリア 図書 館 と なって 、 彼 の 三十 年 の 生涯 の 百 倍 も の 間 、 今 、 なお 戦い を つづけて いる 。 ・・
赤坂 離宮 に できた 国立 国会 図書 館 も 、 遠い 遠い 、 人間 の 血 汐 の なか に そだって きた 、 言葉 の もつ 大きな つとめ を せおって 、 日本 の 戦い へ の かぎりない 悔い の しるし と して 立ちあがった のである 。 ・・
この 図書 館 は 、 日本 民族 が 、 戦争 の はて に 立ちあがって ゆく に あたって 、 その 新しい 生き かた の 法則 を さぐり もとめる ため に 、 あらゆる 材料 を のがす まい と 、 ここ に あつめた 一 つ の 巨大な 新しい 夢 の 殿堂 である 。 ・・
これ まで は 、 法律 は 官庁 で つくられて いた 。 これ から は 、 国会 の 手 で 、 法律 を つくろう と して 、 その 材料 を あつめて 、 整理 を し 、 その 材料 から 要求 さ れた 法律 の 下ごしらえ の 調査 を する の が 、 この 図書 館 の 任務 である 。 ・・
法律 が 、 人民 の ため に 、 人民 自身 が つくる もの だ と いう こと を 、 目の前 に みせよう と して 、 この 図書 館 は できあがった 。 ・・
その ため に は 、 行政 、 司法 各省 に 支部 図書 館 を おいて 、 おたがいに 材料 を 見せ あい 、 利用 し あって 、 分裂 し ない ように する こと と なって いる 。 また 、 一般 人民 から の 問い合わせ に は 、 葉書 でも 、 電話 でも 、 すぐに まにあう ように 準備 しなければ なら ない 。 だから 本 を 読ま せる だけ で なく 、 調査 が 大切な のである 。 新聞 も 雑誌 も 、 その ため に 全部 きりぬき 、 整理 保存 さ れる のである 。 ・・
ちょうど 、 中央 気象 台 へ 直結 する 気象 電話 の ように 、 毎日 の 新聞 雑誌 は この 図書 館 に 集まって くる 。 館 は それ を 連絡 整理 する 。 そして 一 つ の 表 が できあがって みる と 、 毎日 の 天気 図 の ように 、 日本 の 政治 経済 の 低 気圧 が 、 どこ に ある か が わかる 。 時 を うつさ ず 議員 、 行政 各 官庁 、 一般 国民 の ため に 、 適切な 警報 を 用意 する 。 これ が この 美しい 殿堂 の 中 に 動いて いる 新しい 組織 な のである 。 この 組織 は 、 目 に みえ ない が 、 豪華な この 殿堂 より も 幾 十 倍 も 美しい もの である と いえる 。 ・・
それ は 両足 で 立ち 、 言葉 を つくり 、 そして 人間 の 法則 を 自分 で 発見 できる こと を 、 二十万 年 の 歴史 の はて に 今 、 実証 し 、 きらめく 星 も が 持た ない 新しい 秩序 を 自分 の 手 で たしかめ 、 完成 しよう と して いる のである 。