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Readings (6-7mins), 3. あり と きのこ - 宮沢 賢治

3. あり と きのこ - 宮沢 賢治

あり と きのこ - 宮沢 賢治

苔 いちめん に 、 霧 が ぽしゃぽしゃ 降って 、 蟻 の 歩哨 は 鉄 の 帽子 の ひさし の 下 から 、 するどい ひとみ で あたり を にらみ 、 青く 大きな 羊歯 の 森 の 前 を あちこち 行ったり 来たり して います 。

向こう から ぷる ぷる ぷる ぷる 一 ぴき の 蟻 の 兵隊 が 走って 来ます 。 ・・

「 停 まれ 、 誰 か ッ 」・・

「 第 百二十八 聯隊 の 伝令 ! 」・・

「 どこ へ 行く か 」・・

「 第 五十 聯隊 聯隊 本部 」・・

歩 哨 は スナイドル 式 の 銃剣 を 、 向こう の 胸 に 斜めに つきつけた まま 、 その 眼 の 光り よう や 顎 の かたち 、 それ から 上着 の 袖 の 模様 や 靴 の ぐあい 、 いちいち 詳しく 調べます 。 ・・

「 よし 、 通れ 」・・

伝令 は いそがしく 羊歯 の 森 の なか へ は いって 行きました 。 ・・

霧 の 粒 は だんだん 小さく 小さく なって 、 いま は もう 、 うすい 乳 いろ の けむり に 変わり 、 草 や 木 の 水 を 吸いあげる 音 は 、 あっち に も こっち に も 忙しく 聞こえ だしました 。 さすが の 歩 哨 も とうとう ねむ さ に ふらっと します 。 ・・

二 疋 の 蟻 の 子供 ら が 、 手 を ひいて 、 何 か ひどく 笑い ながら やって 来ました 。 そして にわかに 向こう の 楢 の 木 の 下 を 見て びっくり して 立ちどまります 。 ・・

「 あっ、 あれ なんだろう 。 あんな ところ に まっ白 な 家 が できた 」・・

「 家 じゃ ない 山 だ 」・・

「 昨日 は なかった ぞ 」・・

「 兵隊 さん に きいて みよう 」・・

「 よし 」・・

二 疋 の 蟻 は 走ります 。 ・・

「 兵隊 さん 、 あす こ に ある のな に ? 」・・

「 なんだ うるさい 、 帰れ 」・・

「 兵隊 さん 、 いねむり して ん だい 。 あす こ に ある のな に ? 」・・

「 うるさい なあ 、 どれ だい 、 おや ! 」・・

「 昨日 は あんな もの なかった よ 」・・

「 おい 、 大変だ 。 おい 。 おまえたち は こども だ けれども 、 こういう とき に は 立派に みんな の お 役 に たつ だろう なあ 。 いい か 。 おまえ は ね 、 この 森 を はいって 行って アルキル 中佐 どの に お目にかかる 。 それ から おまえ は うんと 走って 陸地 測量 部 まで 行く んだ 。 そして 二 人 と も こう 言う んだ 。 北緯 二十五 度 東経 六 厘 の 処 に 、 目的 の わから ない 大きな 工事 が できました と な 。 二 人 と も 言って ごらん 」・・

「 北緯 二十五 度 東経 六 厘 の 処 に 目的 の わから ない 大きな 工事 が できました 」・・

「 そうだ 。 では 早く 。 その うち 私 は 決して ここ を 離れ ない から 」・・

蟻 の 子供 ら は いちもくさんに かけて 行きます 。 ・・

歩 哨 は 剣 を かまえて 、 じっと その まっしろな 太い 柱 の 、 大きな 屋根 の ある 工事 を にらみつけて います 。 ・・

それ は だんだん 大きく なる ようです 。 だいいち 輪 廓 の ぼんやり 白く 光って ぶるぶる ぶるぶる ふるえて いる こと で も わかります 。 ・・

にわかに ぱっと 暗く なり 、 そこら の 苔 は ぐらぐら ゆれ 、 蟻 の 歩 哨 は 夢中で 頭 を かかえました 。 眼 を ひらいて また 見ます と 、 あの まっ白 な 建物 は 、 柱 が 折れて すっかり 引っくり返って います 。 ・・

蟻 の 子供 ら が 両方 から 帰って きました 。 ・・

「 兵隊 さん 。 かまわ ない そうだ よ 。 あれ は きのこ と いう もの だって 。 なんでもないって 。 アルキル 中佐 は うんと 笑った よ 。 それ から ぼく を ほめた よ 」・・

「 あの ね 、 すぐ なくなるって 。 地図 に 入れ なくて も いいって 。 あんな もの 地図 に 入れたり 消したり して いたら 、 陸地 測量 部 など 百 あって も 足りないって 。 おや ! 引っくりかえって ら あ 」・・

「 たったいま 倒れた んだ 」 歩 哨 は 少し きまり 悪 そうに 言いました 。 ・・

「 な あんだ 。 あっ。 あんな やつ も 出て 来た ぞ 」・・

向こう に 魚 の 骨 の 形 を した 灰 いろ の おかしな きのこ が 、 とぼけた ように 光り ながら 、 枝 が ついたり 手 が 出たり だんだん 地面 から のびあがって きます 。 二 疋 の 蟻 の 子供 ら は 、 それ を 指さして 、 笑って 笑って 笑います 。 ・・

その とき 霧 の 向こう から 、 大きな 赤い 日 が のぼり 、 羊歯 も すぎ ご け も にわかに ぱっと 青く なり 、 蟻 の 歩 哨 は 、 また いかめしく スナイドル 式 銃剣 を 南 の 方 へ 構えました 。


3. あり と きのこ - 宮沢 賢治 |||みやさわ|けんじ 3. ant and mushroom - Kenji Miyazawa

あり と きのこ - 宮沢 賢治 |||みやさわ|けんじ Ari and Mushrooms-Kenji Miyazawa

苔 いちめん に 、 霧 が ぽしゃぽしゃ 降って 、 蟻 の 歩哨 は 鉄 の 帽子 の ひさし の 下 から 、 するどい ひとみ で あたり を にらみ 、 青く 大きな 羊歯 の 森 の 前 を あちこち 行ったり 来たり して います 。 こけ|||きり||ぽし ゃぽ しゃ|ふって|あり||ふ しょう||くろがね||ぼうし||||した||||||||あおく|おおきな|しだ||しげる||ぜん|||おこなったり|きたり|| On the moss, the fog was pouring down, and the ant sentry was from under the eaves of the iron hat, glaring at the area with a sharp pupil, and coming and going in front of the large blue sheep-toothed forest. I have.

向こう から ぷる ぷる ぷる ぷる 一 ぴき の 蟻 の 兵隊 が 走って 来ます 。 むこう||||||ひと|||あり||へいたい||はしって|きます From the other side, Puru Puru Puru Puru Ippiki's ant soldiers are running. ・・

「 停 まれ 、 誰 か ッ 」・・ てい||だれ|| "Stop, who is it?" ...

「 第 百二十八 聯隊 の 伝令 ! だい|ひゃくにじゅうはち|れんたい||でんれい "The messenger of the 128th Regiment! 」・・

「 どこ へ 行く か 」・・ ||いく| "Where are you going?"

「 第 五十 聯隊 聯隊 本部 」・・ だい|ごじゅう|れんたい|れんたい|ほんぶ "Fifty Regimental Regiment Headquarters" ...

歩 哨 は スナイドル 式 の 銃剣 を 、 向こう の 胸 に 斜めに つきつけた まま 、 その 眼 の 光り よう や 顎 の かたち 、 それ から 上着 の 袖 の 模様 や 靴 の ぐあい 、 いちいち 詳しく 調べます 。 ふ|しょう|||しき||じゅうけん||むこう||むね||ななめに||||がん||ひかり|||あご|||||うわぎ||そで||もよう||くつ||||くわしく|しらべます With the Snider-Enfield bayonet attached diagonally to the chest over there, the sentry examines the glow of its eyes, the shape of its chin, and the pattern on the sleeves of its jacket and the fit of its shoes. ・・

「 よし 、 通れ 」・・ |とおれ "OK, let's go" ...

伝令 は いそがしく 羊歯 の 森 の なか へ は いって 行きました 。 でんれい|||しだ||しげる||||||いきました The messenger was busy going into the fern forest. ・・

霧 の 粒 は だんだん 小さく 小さく なって 、 いま は もう 、 うすい 乳 いろ の けむり に 変わり 、 草 や 木 の 水 を 吸いあげる 音 は 、 あっち に も こっち に も 忙しく 聞こえ だしました 。 きり||つぶ|||ちいさく|ちいさく||||||ちち|||||かわり|くさ||き||すい||すいあげる|おと||||||||いそがしく|きこえ| The particles of fog became smaller and smaller, and now they have turned into thin milk shavings, and the sound of sucking up the water of grass and trees has been heard busy here and there. さすが の 歩 哨 も とうとう ねむ さ に ふらっと します 。 ||ふ|しょう||||||| As expected, the sentry is finally fluttering at sleep. ・・

二 疋 の 蟻 の 子供 ら が 、 手 を ひいて 、 何 か ひどく 笑い ながら やって 来ました 。 ふた|ひき||あり||こども|||て|||なん|||わらい|||きました The children of the two ants came by pulling their hands and laughing awfully. そして にわかに 向こう の 楢 の 木 の 下 を 見て びっくり して 立ちどまります 。 ||むこう||なら||き||した||みて|||たちどまります Suddenly, I was surprised to see the bottom of the oak tree over there and stopped. ・・

「 あっ、 あれ なんだろう 。 "Oh, what is that? あんな ところ に まっ白 な 家 が できた 」・・ |||まっしろ||いえ|| A pure white house was built in such a place. "

「 家 じゃ ない 山 だ 」・・ いえ|||やま| "It's a mountain, not a house."

「 昨日 は なかった ぞ 」・・ きのう||| "I didn't have it yesterday."

「 兵隊 さん に きいて みよう 」・・ へいたい|||| "Let's ask the soldiers" ...

「 よし 」・・

二 疋 の 蟻 は 走ります 。 ふた|ひき||あり||はしります The two ants run. ・・

「 兵隊 さん 、 あす こ に ある のな に ? へいたい||||||| "Soldier, what's in here tomorrow? 」・・

「 なんだ うるさい 、 帰れ 」・・ ||かえれ "What a noisy, go home" ...

「 兵隊 さん 、 いねむり して ん だい 。 へいたい||||| "Soldier, please sleep. あす こ に ある のな に ? What's in Asuko? 」・・

「 うるさい なあ 、 どれ だい 、 おや ! "Noisy, which one, oh! 」・・

「 昨日 は あんな もの なかった よ 」・・ きのう||||| "There was nothing like that yesterday."

「 おい 、 大変だ 。 |たいへんだ "Hey, it's hard. おい 。 おまえたち は こども だ けれども 、 こういう とき に は 立派に みんな の お 役 に たつ だろう なあ 。 |||||||||りっぱに||||やく|||| You are children, but in such a case, it will be useful for everyone. いい か 。 Is that okay? おまえ は ね 、 この 森 を はいって 行って アルキル 中佐 どの に お目にかかる 。 ||||しげる|||おこなって||ちゅうさ|||おめにかかる You guys, go through this forest and see Lieutenant Colonel Alkyl. それ から おまえ は うんと 走って 陸地 測量 部 まで 行く んだ 。 |||||はしって|りくち|そくりょう|ぶ||いく| Then you run yeah and go to the Japanese Imperial Land Survey. そして 二 人 と も こう 言う んだ 。 |ふた|じん||||いう| And they also say this. 北緯 二十五 度 東経 六 厘 の 処 に 、 目的 の わから ない 大きな 工事 が できました と な 。 ほくい|にじゅうご|たび|とうけい|むっ|りん||しょ||もくてき||||おおきな|こうじ|||| At 25 degrees north latitude and 6 east longitude, a large construction was completed for which the purpose was unknown. 二 人 と も 言って ごらん 」・・ ふた|じん|||いって| Please say two people. "

「 北緯 二十五 度 東経 六 厘 の 処 に 目的 の わから ない 大きな 工事 が できました 」・・ ほくい|にじゅうご|たび|とうけい|むっ|りん||しょ||もくてき||||おおきな|こうじ|| "A large construction was completed at the location of 25 degrees north latitude and 6 east longitude, for which the purpose was unknown."

「 そうだ 。 そう だ では 早く 。 |はやく See you soon. その うち 私 は 決して ここ を 離れ ない から 」・・ ||わたくし||けっして|||はなれ|| Of those, I will never leave here. "

蟻 の 子供 ら は いちもくさんに かけて 行きます 。 あり||こども|||||いきます The ant children go to Ichimoku-san. ・・

歩 哨 は 剣 を かまえて 、 じっと その まっしろな 太い 柱 の 、 大きな 屋根 の ある 工事 を にらみつけて います 。 ふ|しょう||けん||||||ふとい|ちゅう||おおきな|やね|||こうじ||| The sentry is holding a sword and staring at the construction work with its large, thick pillars and large roof. ・・

それ は だんだん 大きく なる ようです 。 |||おおきく|| It seems to get bigger and bigger. だいいち 輪 廓 の ぼんやり 白く 光って ぶるぶる ぶるぶる ふるえて いる こと で も わかります 。 |りん|かく|||しろく|ひかって|||||||| You can also tell by the vague white glow of the Yukaku and the swaying swaying. ・・

にわかに ぱっと 暗く なり 、 そこら の 苔 は ぐらぐら ゆれ 、 蟻 の 歩 哨 は 夢中で 頭 を かかえました 。 ||くらく||||こけ||||あり||ふ|しょう||むちゅうで|あたま|| It suddenly became dark, the moss was swaying, and the ant sentry was crazy about it. 眼 を ひらいて また 見ます と 、 あの まっ白 な 建物 は 、 柱 が 折れて すっかり 引っくり返って います 。 がん||||みます|||まっしろ||たてもの||ちゅう||おれて||ひっくりかえって| If you open your eyes and look again, that white building has its pillars broken and completely turned over. ・・

蟻 の 子供 ら が 両方 から 帰って きました 。 あり||こども|||りょうほう||かえって| The ant children have returned from both. ・・

「 兵隊 さん 。 へいたい| "Soldier. かまわ ない そうだ よ 。 ||そう だ| It doesn't matter. あれ は きのこ と いう もの だって 。 That is a mushroom. なんでもないって 。 It's nothing. アルキル 中佐 は うんと 笑った よ 。 |ちゅうさ|||わらった| Lieutenant Colonel Alkyl laughed a lot. それ から ぼく を ほめた よ 」・・ Then I praised me. "

「 あの ね 、 すぐ なくなるって 。 "Hey, it's going to be gone soon. 地図 に 入れ なくて も いいって 。 ちず||いれ|||い いって You don't have to put it on the map. あんな もの 地図 に 入れたり 消したり して いたら 、 陸地 測量 部 など 百 あって も 足りないって 。 ||ちず||いれたり|けしたり|||りくち|そくりょう|ぶ||ひゃく|||たりないって If I put it on or off the map like that, it wouldn't be enough to have a hundred land survey departments. おや ! Oh! 引っくりかえって ら あ 」・・ ひっくりかえって|| If you turn it over "...

「 たったいま 倒れた んだ 」 歩 哨 は 少し きまり 悪 そうに 言いました 。 |たおれた||ふ|しょう||すこし||あく|そう に|いいました "I just fell down," the sentry said a bit ill-mannered. ・・

「 な あんだ 。 "What? あっ。 あんな やつ も 出て 来た ぞ 」・・ |||でて|きた| That guy has come out too. "

向こう に 魚 の 骨 の 形 を した 灰 いろ の おかしな きのこ が 、 とぼけた ように 光り ながら 、 枝 が ついたり 手 が 出たり だんだん 地面 から のびあがって きます 。 むこう||ぎょ||こつ||かた|||はい|||||||よう に|ひかり||えだ|||て||でたり||じめん||| Beyond that, a strange ash-colored mushroom in the shape of a fish bone shines like a blur, with branches and hands coming out and gradually rising from the ground. 二 疋 の 蟻 の 子供 ら は 、 それ を 指さして 、 笑って 笑って 笑います 。 ふた|ひき||あり||こども|||||ゆびさして|わらって|わらって|わらいます The children of the two ants point to it, laugh, laugh, and laugh. ・・

その とき 霧 の 向こう から 、 大きな 赤い 日 が のぼり 、 羊歯 も すぎ ご け も にわかに ぱっと 青く なり 、 蟻 の 歩 哨 は 、 また いかめしく スナイドル 式 銃剣 を 南 の 方 へ 構えました 。 ||きり||むこう||おおきな|あかい|ひ|||しだ||||||||あおく||あり||ふ|しょう|||||しき|じゅうけん||みなみ||かた||かまえました At that time, from the other side of the fog, a big red sun rose, the fern teeth passed, and the picket suddenly turned blue, and the ant sentry also held the Snider-Enfield bayonet to the south.