9.2 真 夜中 の 決闘
「 まさか 」
夕食 時 だった 。 マクゴナガル 先生 に 連れられて グラウンド を 離れて から 何 が あった か 、 ハリー は ロン に 話して 聞か せた 。 ロン は ステーキ ・キドニーパイ を 口に 入れよう とした ところだった が 、そんな ことは すっかり 忘れて 叫んだ 。
「シーカー だって ? だけど 一 年生 は 絶対 ダメだ と …… なら 、 君 は 最 年少 の 寮 代表 選手 だ よ 。 ここ 何 年 来 かな ……」
「……百 年 ぶり だって 。 ウッド が そう 言ってた よ 」
ハリー は パイ を 掻き込む ように 食べていた 。 大 興奮 の 午後 だった ので 、ひどく お腹 が 空いて いた 。
あまりに 驚いて 、感動して 、ロン は ただ ボーッと ハリー を 見つめる ばかりだった 。
「来週 から 練習 が 始まる んだ 。 でも 誰にも 言う なよ 。 ウッド は 秘密に しておきたい んだって 」その時 、双子 の ウィーズリー が ホール に 入ってきて 、ハリー を 見つける と 足早 に やってきた 。 「すごい な 」ジョージ が 低い 声 で 言った 。 「ウッド から 聞いた よ 。 僕たち も 選手 だ ── ビーター だ 」
「今年 の クィディッチ ・カップ は いただきだぜ 」と フレッド が 言った 。 「チャーリー が いなく なって から 、一度 も 取って ない んだ よ 。 だけど 今年 は 抜群 の チーム に なりそうだ 。 ハリー 、君 は よっぽど すごい んだ ね 。 ウッド と きたら 小躍りしてた ぜ 」
「じゃあな 、僕たち 行かなくちゃ 。 リー ・ ジョーダン が 学校 を 出る 秘密 の 抜け道 を 見つけたって 言う ん だ 」「 それって 僕たち が 最初 の 週 に 見つけ ち まった やつ だ と 思う けど ね 。 きっと 『おべんちゃら の グレゴリー 』の 銅像 の 裏 に ある ヤツ さ 。 じゃ 、また な 」
フレッド と ジョージ が 消える やいなや 、会いたく も ない 顔 が 現れた 。 クラップ と ゴイル を 従えた マルフォイ だ 。
「ポッター 、最後 の 食事 かい ? マグル の ところ に 帰る 汽車 に いつ 乗る ん だい ? 」「地上 では やけに 元気 だ ね 。 小さな お友達 も いる し ね 」
ハリー は 冷ややか に 言った 。 クラップ も ゴイル も どう 見た って 小さく は ない が 、上座 の テーブル に は 先生 が ズラリ と 座っている ので 、二人 とも 握り拳 を ボキボキ 鳴らし 、にらみつける こと しか できなかった 。 「僕 一人 で いつだって 相手 に なろう じゃないか 。 ご所望 なら 今夜 だって いい 。 魔法使い の 決闘 だ 。 杖 だけだ ──相手 に は 触れない 。 どうしたんだい ? 魔法使い の 決闘 なんて 聞いた ことも ない んじゃないの ? 」マルフォイ が 言った 。
「もちろん ある さ 。 僕 が 介添人 を する 。 お前 の は 誰 だい ? 」ロン が 口 を はさんだ 。
マルフォイ は クラップ と ゴイル の 大きさ を 比べる ように 二人 を 見た 。
「クラップ だ 。 真夜中 で いいね ? トロフィー 室 に しよう 。 いつも 鍵 が 開いてる んで ね 」
マルフォイ が いなく なる と 、二人 は 顔 を 見合わせた 。
「魔法使い の 決闘 って 何 だい ? 君 が 僕 の 介添人 って どういう こと ? 」「介添人 って いう の は 、君 が 死んだら かわりに 僕 が 戦う と いう 意味 さ 」すっかり 冷めて しまった 食べかけ の パイ を ようやく 口 に 入れながら 、ロン は 気軽に 言った 。 ハリー の 顔色 が 変わった の を 見て 、ロン は あわてて つけ加えた 。
「死ぬ の は 、本当の 魔法使い 同士 の 本格的な 決闘 の 場合 だけ だ よ 。 君 と マルフォイ だったら せいぜい 火花 を ぶつけ合う 程度 だ よ 。 二人 とも 、まだ 相手 に 本当の ダメージ を 与える ような 魔法 なんて 使えない 。 マルフォイ は きっと 君 が 断る と 思っていた んだ よ 」
「もし 僕 が 杖 を 振って も 何も 起こら なかったら ? 」「杖 なんか 捨てちゃえ 。 鼻 に パンチ を 食らわせろ 」ロン の 意見 だ 。
「ちょっと 、失礼 」
二人 が 見上げる と 、今度 は ハーマイオニー ・グレンジャー だった 。
「まったく 、ここじゃ 落ち着いて 食べる ことも できない んですかね ? 」と ロン が 言う 。
ハーマイオニー は ロン を 無視 して 、ハリー に 話しかけた 。
「聞く つもり は なかった ん だけど 、あなた と マルフォイ の 話 が 聞こえちゃった の ……」「聞く つもり が あった んじゃない の 」ロン が つぶやいた 。 「……夜 、校内 を ウロウロ する の は 絶対 ダメ 。 もし 捕まったら グリフィンドール が 何 点 減点 される か 考えて よ 。 それに 捕まる に 決まってる わ 。 まったく なんて 自分勝手な の 」
「まったく 大きな お世話 だよ 」ハリー が 言い返した 。
「バイバイ 」ロン が とどめ を 刺した 。
いずれ に して も 、「終わり よければ すべて よし 」の 一 日 に は ならなかった な と 考えながら 、ハリー は その 夜 遅く 、ベッド に 横 に なり 、ディーン と シェーマス の 寝息 を 聞いていた (ネビル は まだ 医務室 から 帰ってきていない )。 ロン は 夕食後 つききり で ハリー に 知恵 を つけてくれた 。
「呪い を 防ぐ 方法 は 忘れちゃった から 、もし 呪い を かけられたら 身 を かわせ 」などなど 。 フィルチ や ミセス ・ノリス に 見つかる 恐れ も 大いに あった 。 同じ 日 に 二度 も 校則 を 破る なんて 、あぶない 運試し だ と いう 気がした 。 しかし 、せせら笑う ような マルフォイ の 顔 が 暗闇 の 中 に 浮かび上がってくる ──今 こそ マルフォイ を 一対一 で やっつける またとない チャンス だ 。 逃して なる ものか 。
「十一時 半 だ 。 そろそろ 行く か 」ロン が ささやいた 。
二人 は パジャマ の 上 に ガウン を 引っ掛け 、杖 を 手 に 、寝室 を はって 横切り 、塔 の らせん階段 を 下り 、グリフィンドール の 談話室 に 下りてきた 。 暖炉 に は まだ わずかに 残り火 が 燃え 、ひじかけ椅子 が 弓なり の 黒い 影 に 見えた 。 出口 の 肖像画 の 穴 に 入ろうとした 時 、一番 近く の 椅子 から 声 が した 。
「ハリー 、まさか あなたが こんな こと する とは 思わなかった わ 」
ランプ が ポッ と 現れた 。 ハーマイオニー だ 。 ピンク の ガウン を 着て しかめ面 を している 。
「また 君 か ! ベッド に 戻れ よ ! 」ロン が カンカンに なって 言った 。
「本当は あんた の お兄さん に 言おうか と 思った のよ 。 パーシー に 。 監督 生 だ から 、絶対 に 止め させる わ 」ハーマイオニー は 容赦なく 言った 。
ハリー は ここ まで お節介 な の が 世の中 に いる なんて 信じられ なかった 。 「行く ぞ 」と ロン に 声 を かける と 、ハリー は 「太った 婦人 の 肖像画 」を 押し開け 、その 穴 を 乗り越えた 。
そんな こと で あきらめる ハーマイオニー では ない 。 ロン に 続いて 肖像画 の 穴 を 乗り越え 、二人 に 向かって 怒った アヒル の ように 、ガーガー 言い続けた 。
「グリフィンドール が どう なる か 気に ならない の ? 自分 の こと ばっかり 気 に して 。 スリザリン が 寮 杯 を 取る なんて 私 は いや よ 。 私 が 変身 呪文 を 知ってた おかげで マクゴナガル 先生 が くださった 点数 を 、あなたたち が ご破算 に する んだ わ 」
「あっち へ 行け よ 」「いい わ 。 ちゃん と 忠告しました から ね 。 明日 家 に 帰る 汽車 の 中 で 私 の 言った こと を 思い出す でしょう よ 。 あなたたち は 本当に ……」
本当に 何 なの か 、その あと は 聞けず じまい だった 。 ハーマイオニー が 中 に 戻ろう と 後ろ を 向く と 、肖像画 が なかった 。 太った 婦人 は 夜 の お出かけ で 、ハーマイオニー は グリフィンドール 塔 から 締め出されて しまった のだ 。 「さあ 、どうして くれる の ? 」ハーマイオニー は けたたましい 声 で 問い詰めた 。
「知った こと か 」と ロン が 言った 。 「僕たち は もう 行かなきや 。 遅れちゃ うよ 」
廊下 の 入口 に さえ たどり着か ない うちに 、ハーマイオニー が 追いついた 。
「一緒に 行く わ 」
「ダメ 。 来る なよ 」
「ここ に 突っ立って フィルチ に 捕まる の を 待ってろ って いう の ? 二人 とも 見つかったら 、私 、フィルチ に 本当の ことを 言う わ 。 私 は あなたたち を 止めよう と したって 。 あなたたち 、わたし の 証人 に なる の よ 」
「君 、相当 の 神経 してる ぜ ……」ロン が 大声 を 出した 。
「シッ 。 二人とも 静かに 。 なんか 聞こえる ぞ 」
ハリー が 短く 言った 。 喚き回っている ような 音だ 。
「 ミセス ・ノリス か ? 」暗がり を 透かし 見 ながら 、ロン が ヒソヒソ 声 で 言った 。 ミセス ・ノリス で は ない 。 ネビル だった 。 床 に 丸まって グッスリと 眠っていた が 、三人 が 忍び寄る と ビクッと 目を覚ました 。
「ああ よかった ! 見つけて くれて 。 もう 何時間も ここに いる んだよ 。 ベッド に 行こうとしたら 新しい 合言葉 を 忘れちゃった んだ 」「小さい 声 で 話せ よ 、ネビル 。 合言葉 は 『 豚 の 鼻 』 だけど 、 今 は 役 に 立ちゃ しない 。 太った 婦人 は どっか へ 行っち まった 」「 腕 の 具合 は どう ? 」 と ハリー が 問い た 。
「大丈夫 。 マダム ・ポンフリー が あっという間に 治してくれた よ 」
「よかったね ──悪い けど 、ネビル 、僕たち は これから 行く ところ が あるんだ 。 また後でね 」
「そんな 、置いていかないで ! 」ネビル は あわてて 立ちあがった 。
「ここに 一人で いるのは いやだ よ 。 『血みどろ男爵 』が もう 二度 も ここ を 通った んだよ 」
ロン は 腕時計 に 目 を やり 、それから ものすごい 顔 で ネビル と ハーマイオニー を にらんだ 。
「もし 君たち の せいで 、僕たち が 捕まる ような ことに なったら 、クィレル が 言ってた 『悪霊 の 呪い 』を 覚えて 君たち に かける まで は 、僕 、絶対に 許さない 」
ハーマイオニー は 口 を 開き かけた 。 「悪霊 の 呪い 」の 使い方 を きっちり ロン に 教えよう と した の かもしれない 。 でも ハリー は シーッ と 黙らせ 、目配せ で みんな に 進め と 言った 。
高 窓 から の 月 の 光 が 廊下 に 縞模様 を 作っていた 。 その 中 を 四人 は すばやく 移動した 。 曲がり角 に 来る たび 、ハリー は フィルチ か ミセス ・ノリス に 出くわす ような 気 が した が 、出会わず に すんだ のは ラッキー だった 。 大急ぎで 四 階 へ の 階段 を 上がり 、抜き足差し足で トロフィー 室 に 向かった 。
マルフォイ も クラップ も まだ 来て いなかった 。 トロフィー 棚 の ガラス が ところどころ 月 の 光 を 受けて キラキラと 輝き 、カップ 、盾 、賞杯 、像 など が 、暗がり の 中 で 時々 瞬くように 金銀 に きらめいた 。
四 人 は 部屋 の 両端 に ある ドア から 目 を 離さ ない ように しながら 、壁 を 伝って 歩いた 。 マルフォイ が 飛びこんで きて 不意打ち を 食らわす かも しれない と 、ハリー は 杖 を 取りだした 。 数 分 の 時間 な のに 長く 感じられる 。 「遅い な 、たぶん 怖気づいた んだ よ 」と ロン が ささやいた 。
その 時 、隣 の 部屋 で 物音 が して 、四人 は 飛び上がった 。 ハリー が 杖 を 振り上げよう と した 時 、誰か の 声 が 聞こえた ──マルフォイ では ない 。
「 いい 子 だ 。 しっかり 嗅ぐ んだ ぞ 。 隅 の 方 に 潜んで いる かも しれない から な 」
フィルチ が ミセス ・ノリス に 話しかけている 。 心臓 が 凍る 思い で 、ハリー は メチャメチャに 三人 を 手招き し 、急いで 自分 に ついてくる よう 合図 した 。 四 人 は 音 を 立てずに 、フィルチ の 声 とは 反対 側 の ドア へ と 急いだ 。 ネビル の 服 が 曲り角 から ヒョイ と 消えた とたん 、間一髪 、フィルチ が トロフィー 室 に 入ってくる の が 聞こえた 。
「どこか この へん に いる ぞ 。 隠れて いる に 違いない 」フィルチ が ブツブツ 言う 声 が する 。
「こっち だ よ ! 」 ハリー が 他の 三人 に 耳打ち した 。 鎧 が たくさん 飾って ある 長い 回廊 を 、四人 は 石 の ように こわばって は い 進んだ 。 フィルチ が どんどん 近づいて 来る の が わかる 。 ネビル が 恐怖 の あまり 突然 悲鳴 を 上げ 、やみくもに 走り出した ──つまずいて ロン の 腰 に 抱きつき 、二人 揃って まともに 鎧 に ぶつかって 倒れ込んだ 。
ガラガラ ガッシャーン 、城 中 の 人 を 起こして しまい そうな すさまじい 音 が した 。
「逃げろ ! 」ハリー が 声 を 張り上げ 、四人 は 回廊 を 疾走した 。 フィルチ が 追いかけて くる か どうか 振り向き も せず ──全速力 で ドア を 通り 、次 から 次 へ と 廊下 を かけ抜け 、今 どこ な の か 、どこ へ 向かって いる か 、先頭 を 走っている ハリー に も 全然 わからない ──タペストリー の 裂け目 から 隠れた 抜け道 を 見つけ 、矢 の ように そこ を 抜け 、出てきた ところ が 「妖精 の 魔法 」の 教室 の 近く だった 。 そこは トロフィー 室から だいぶ 離れている ことが わかっていた 。
「フィルチ を 巻いた と 思う よ 」
冷たい 壁 に 寄りかかり 、額 の 汗 を 拭い ながら ハリー は 息 を はずませて いた 。 ネビル は 体 を 二つ 折り に して ゼイゼイ 咳き込んで いた 。
「だから ──そう ──言った じゃない 」
ハーマイオニー は 胸 を 押さえて 、あえぎあえぎ 言った 。
「グリフィンドール 塔 に 戻ら なくちゃ 、できる だけ 早く 」と ロン 。
「マルフォイ に はめられた の よ 。 ハリー 、あなた も わかって る んでしょう ? はじめから 来る 気 なんか なかった んだ わ ──マルフォイが 告げ口した のよ ね 。 だから フィルチ は 誰か が トロフィー室 に 来るって 知ってた のよ 」ハリー も たぶん そうだ と 思った が 、ハーマイオニー の 前 では そうだ と 言いたくなかった 。 「行こう 」
そうは 問屋 が おろさなかった 。 ほんの 十 歩 と 進まない うちに 、ドア の 取っ手 が ガチャガチャ 鳴り 、教室 から 何か が 飛びだしてきた 。
ピーブズ だ 。 四 人 を 見る と 歓声 を 上げた 。
「黙れ 、ピーブズ ……お願い だから ──じゃない と 僕たち 退学 に なっちゃう 」
ピーブズ は ケラケラ 笑っている 。
「真夜中 に フラフラ してる の かい ? 一年生 ちゃん 。 チッ 、チッ 、チッ 、悪い 子 、悪い 子 、捕まる ぞ 」
「黙っててくれたら 捕まらずにすむ よ 。 お願いだ 。 ピーブズ 」
「フィルチ に 言おう 。 言わ なくちゃ 。 君 たち の ため に なる こと だ もの ね 」
ピーブズ は 聖人 君子 の ような 声 を 出した が 、目 は 意地悪く 光っていた 。
「ど いて くれよ 」
と ロン が 怒鳴って ピーブズ を 払いのけようとした ──これ が 大間違い だった 。
「生徒 が ベッド から 抜け出した ! ──「妖精 の 魔法 」教室 の 廊下 に いる ぞ ! 」ピーブズ は 大声 で 叫んだ 。 ピーブズ の 下 を すり抜け 、四人 は 命からがら 逃げ出した 。 廊下 の 突き当たり で ドア に ぶち当たった ──鍵 が 掛かっている 。
「もう ダメ だ ! 」と ロン が うめいた 。 みんな で ドア を 押した が どうにも ならない 。
「おしまい だ ! 一巻 の 終わり だ ! 」足音 が 聞こえた 。 ピーブズ の 声 を 聞きつけ 、フィルチ が 全速力 で 走って くる 。
「ちょっと どいて 」
ハーマイオニー は 押し殺した ような 声 で そう 言う と 、ハリー の 杖 を ひったくり 、鍵 を 杖 で 軽く 叩き 、つぶやいた 。
「アロホモラ ! 」カチッ と 鍵 が 開き 、ドア が パッと 開いた ──四人 は 折り重なって なだれ込み 、いそいで ドア を 閉めた 。 みんな ドア に 耳 を ピッタリ つけて 、耳 を 澄ました 。
「どっち に 行った ? 早く 言え 、ピーブズ 」フィルチ の 声 だ 。
「『どうぞ 』と 言い な 」
「ゴチャゴチャ 言う な 。 さあ 連中 は どっち に 行った ? 」「どうぞ と 言わない なーら 、なーんに も 言わない よ 」 ピーブズ は いつも の 変な 抑揚 の ある カン に さわる 声 で 言った 。
「しかたがない ────どうぞ 」
「なー んにも ! ははは 。 言った だろう 。 『どうぞ 』と 言わ なけりゃ 『なーんに も 』言わない って 。 はっは の はー だ ! 」ピーブズ が ヒューッ と 消える 音 と 、フィルチ が 怒り狂って 悪態 を つく 声 が 聞こえた 。 「フィルチ は この ドア に 鍵 が 掛かってる と 思ってる 。 もう オーケー だ ──ネビル 、離して くれよ ! 」ハリー が ヒソヒソ 声 で 言った 。 ネビル は さっき から ハリー の ガウン の 袖 を 引っ張って いた のだ 。
「え ? なに ? 」ハリー は 振り返った ──そして はっきり と 見た 。 「なに 」を 。 しばらく の 間 、ハリー は 自分 が 悪夢 に うなされて いる に 違いない と 思った ──あんまり だ 。 今日は もう 、嫌というほど いろいろ あった のに 。
そこ は ハリー が 思って いた ような 部屋 では なく 、廊下 だった 。 しかも 四 階 の 『禁じられた 廊下 』だ 。 今こそ 、なぜ 立ち入り禁止 なのか 納得した 。
四人 が 真正面 に 見た の は 、怪獣 の ような 犬 の 目 だった ──床 から 天井 まで の 空間 全部 が その 犬 で 埋まっている 。 頭が 三つ 。 血走った 三組 の ギョロ目 。 三つ の 鼻 が それぞれ の 方向 に ヒクヒク 、ピクピク している 。 三つ の 口 から 黄色い 牙 を むきだし 、その 間 から ヌメヌメ と した 縄 の ように 、ダラリ と よだれ が 垂れ下がって いた 。
怪物犬 は じっと 立った まま 、その 六つ の 目 全部 で ハリー たち を じっと 見ている 。 まだ 四 人 の 命 が あった の は 、ハリー たち が 急に 現れた ので 怪物 犬 が フイ を 突かれて 戸惑った から だ 。 もう その 戸惑い も 消えた らしい 。 雷 の ような うなり 声 が 間違いなく そう 言って いる 。
ハリー は ドア の 取っ手 を まさぐった ──フィルチ か 死 か ──フィルチ の 方 が ましだ 。
四 人 は さっき とは 反対 方向 に 倒れこんだ 。 ハリー は ドア を 後ろ で バタン と 閉め 、みんな 飛ぶ ように さっき 来た 廊下 を 走った 。 フィルチ の 姿 は ない 。 急いで 別の 場所 を 探し に いっている らしい 。 そんな こと は もう どうでも よかった ──とにかく あの 怪獣 犬 から 少し でも 遠く に 離れたい 一心 だ 。 かけに かけ 続けて 、やっと 七階 の 太った 婦人 の 肖像画 まで たどり着いた 。
「まあ いったい どこに 行って た の ? 」ガウン は 肩 から ズレ落ち そうだ し 、顔 は 紅潮 して 汗だくだし 、婦人 は その 様子 を 見て 驚いた 。 「何でもない よ ──豚 の 鼻 、豚 の 鼻 」
息 も 絶え絶え に ハリー が そう 言う と 、肖像画 が パッと 前に 開いた 。 四人 は やっと の 思いで 談話室 に 入り 、ワナワナ 震えながら ひじかけ 椅子 に へたりこんだ 。 口 が きける ように なる までに しばらく かかった 。 ネビル と きたら 二度と 口 が きけない んじゃないか とさえ 思えた 。
「あんな 怪物 を 学校 の 中 に 閉じ込めて おく なんて 、連中 は いったい 何 を 考えて いる んだろう 」
やっと ロン が 口 を 開いた 。 「世の中 に 運動不足 の 犬 が いる と したら 、まさに あの 犬 だ ね 」
ハーマイオニー は 息 も 不機嫌さ も 同時に 戻って きた 。
「 あなた たち 、どこ に 目 を つけてる の ? 」ハーマイオニー が つっかかる ように 言った 。
「あの 犬 が 何 の 上 に 立ってた か 、見なかった の ? 」「床 の 上 じゃない ? 」ハリー が 一応 意見 を 述べた 。 「僕 、足 なんか 見てなかった 。 頭 を 三 つ 見る だけ で 精一杯 だった よ 」
ハーマイオニー は 立ち上がって みんな を にらみつけた 。
「ちがう 。 床 じゃ ない 。 仕掛け 扉 の 上 に 立ってた の よ 。 何か を 守ってる のに 違いない わ 」
「あなたたち 、さぞかし ご満足 でしょう よ 。 もしかしたら みんな 殺されて た かも しれない のに ──もっと 悪い ことに 、退学 に なった かも しれない のよ 。 では 、みなさん 、おさしつかえなければ 、休ませて いただく わ 」
ロン は ポカンと 口 を あけて ハーマイオニー を 見送った 。
「おさしつかえ なんか ある わけない よ な 。 あれ じゃ 、まるで 僕たち が あいつ を 引っ張り込んだ みたいに 聞こえる じゃないか 、ねえ ? 」ハーマイオニー の 言った こと が ハリー に は 別の 意味 で ひっかかった 。 ベッド に 入って から それ を 考えていた 。 犬 が 何か を 守っている ……ハグリッド が 何て 言った っけ ? 「グリンゴッツ は 何か を 隠す に は 世界 で 一番 安全な 場所 だ ──たぶん ホグワーツ 以外 で は ……」
七一三 番 金庫 から 持ってきた あの 汚い 小さな 包み が 、今 どこ に ある の か 、ハリー は それ が わかった ような 気 が した 。