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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 108. 薄どろどろ - 尾上梅幸

108. 薄どろどろ - 尾上梅幸

薄 どろどろ -尾上 梅 幸

▲幽霊 の 家柄 で いて 、幽霊 種 が ない と いう の は ちと 妙 な もの です が 、実際 私 の 経験 と いう 方 から いって は 、幽霊 談 皆無 と いっても 可 いの です 、尤も これ は 幽霊 でない 、夢 の 事 です が 、私 を 育てて くれた 乳母 が 名古屋 に 居 まして 、私 が 子供 の 内 に 銀杏 が 好 で 仕様がない もの だ から 、東京 へ 来て も 、わざわざ 心 に かけて 贈って くれる 。 ああ 乳母 の 厚意 だ と 思って 、いつも おいしく 喰べている と 、ある 年 の 事 、乳母 が 病気 で 、今度 は 助からない かも 知れない と 言って 来た 。 すると これ が 夢 に 来て 、私 に 銀杏 を 持って 来て 、くれた と 思う と 目 を 覚ました が 、やがて 銀杏 が 小包 で 届いて 来た 、遅れ 走 に また 乳母 の 死んだ という 知らせ が 、そこ へ 来た ので 、夢 の 事 を 思って 、慄然とした 事 が ありました 。 ・・

▲それ から 、故人 の 芙雀 が 、亡父 菊五郎 の ところ へ 尋ねて 来た 事 、これ は 都 新聞 の 人 に 話しました から 、彼方 へ 出た のを 、また お話しする のも おかしい から 止します 。 ・・

▲死んだ 亡父 は 、御 承知 の 通 、随分 幽霊 もの を しました が 、ある 時 大磯 の 海岸 を 、夜 歩いて 行く と 、あの ザアザア という 波 の 音 が 何となく 凄い ので 、今までに 浜辺 の 幽霊 という もの を やった 事 が ない から いつか 遣って みたい もの だ と 言って いました 。 その 事 を 、その後 不 図 御 贔負 を 蒙る 三井 養之助 さん に お話 する と 、や 、それ は いけない 、幽霊 の 陰 に 対して は 、相手 は 陽 の もの で なくて は いけない 、夜 の 海 は 陰 の もの だ から 、そこ へ 幽霊 を 出して は 却て 凄み が ない と 仰いました 。 亡父 は なるほど と 思って 、浜辺 の 幽霊 は おくら に なって しまいました 。 ・・

▲ 話 は 一 向 纏まらない が 堪忍 して 下さい 。 御 承知 の 通 、私 共 は 団蔵 さん を 頭 に 、高麗蔵 さん や 市村 (羽左衛門 )と 東京座 で 『四谷怪談 』を いたします 。 これ まで 祖父 の 梅壽さん が した 時 から 、亡父 の 時 と も 、この 四谷 を する とは 、屹度 怪しい 事 が ある と いう ので 、いつでも いつでも その 芝居 に 関係 の ある 者 は 、皆 おっかなびっくり で おります ので 、中 に は 随分 『正躰 見たり 枯尾花 』と いう ような の も あります 。 しかし 実際 を いう と 私 も 憶病な ので 、丁度 前月 の 三十日 の 晩 です 、十時 頃 『四谷 』の お岩様 の 役 の 書抜 を 読み ながら 、弟子 や 家内 など と 一所 に 座敷 に 居ます と 、時々 に 頭上 の 電気 が ポウ と 消える 。 おかしい な と 思って 、誰 か 立って ホヤ の 工合 を 見よう と する と 、手 を 付けない 内に 、また ポウ と つく 。 それでいて 、茶の間 や 他の 間 の 電気 は そんな 事 は ない ので 、はじめ 怪しい と 思った の も 、二 度 目 、三 度 目 に は 怖気 が ついて 、オイ もう 止そう 、何だか 薄気味 が 悪い から と 止した くらい でした 。 ・・

▲『四谷 』の 芝居 と いえば 、十三 年 前 に 亡父 が 歌舞伎座 でした 時 の 、伊右衛門 は 八百蔵 さん でした が 、お岩様 の 罰 だ と 言って 、足 に 腫物 が 出来た 事 が ありました 。 今度 私 に 突 合って 、 伊 右 衛 門 を する の は 、 高麗 蔵 さん です が 、 自分 は 何ともない が 、 妻君 の 目 の 下 に 腫物 が 出来て 、 これ が 少し 膨れて いる ところ へ 、 藍 が かった 色 の 膏薬 を 張って いる ので 、 折から 何だか 、 気味 を 好く 思って いない ところ へ 、 ある 晩 高麗 蔵 さん が 、 二 階 へ 行こう と 、 梯子 段 へ かかる 、 妻君 は また 威かす 気 でも 何でもなく 、 上 から 下りて 来る 、 その 顔 に 薄く 燈 が 映して 、 例の 腫物 が 見えた ので 、 さすが の 高麗 蔵 さん も 、 一 寸 慄然と した と いう 事 です 。 ・・

▲また 東京 座 も 、初日 に なる と 、そのような 意味 の 怪談 (? )も ありましょう けれども 、まあまあ 今 申し上げる お 話 は この くらい な もの です 。

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