三 姉妹 探偵 団 01chapter04(2)
止まる 。
相手 も 止まる 。 また 歩く 。 相手 も 歩く 。
夕 里子 の 心臓 が 早鐘 の ように 鳴り出した 。
足 を 早める 。 だが 、一向に 背後 の 足音 は 、離れ ない 。 振り向いて 見る 気 は し なかった 。
いつの間にか 、住宅 密集 地 を 外れて 、どこか 工場 の 裏手 らしい 道 へ 出て しまった 。
左側 は 長い のっぺり した 塀 が 続く 。 右手 は 私鉄 の 線路 。
最悪の 場所 じゃ ない の !
全く もう 、馬鹿 !
救い 難い 馬鹿 !
夕里子 は 、線路 へ 目 を やった 。
別に 、金網 も 何も ない 。 少し 道 から 高く なって いる が 、線路 へ 入る のは 簡単 だった 。
向う 側 に は アパート など が 立ち並んでいる 。
──線路 を 越え て 向う へ 渡って しまえば ?
しかし 、当然 、尾けて 来る 方 も 線路 を 渡る の は 容易 である 。
電車 の 音 が した 。
少し 先 で 、カーブ している ので 、姿 は まだ 見え ない 。 警笛 が 何度 か 鳴った 。 見通し が 悪い のである 。
あの 電車 が 来る 直前 に 線路 を 横切ったら ?
尾行 して いる 人間 は 、ちょっと 面食らう だろう 。
ほんの 二 、三 秒 でも ためらえば 、もう 電車 が 二人 の 間 を 遮って くれる 。 電車 が 通り過ぎる 間 に 、走って 逃げれば 、もう 追って は 来 られ まい 。
いささか の 危険 は ある 。
しかし 、線路 を 駆け抜ける なんて 、アッという間 だ 。
よし 、やって やれ 、と 決心 した 。
電車 が 近付いて 来る 。
夕里子 は 足 を 止める と 、編上靴 の 紐 を 結び直そう と する ように 、かがみ込んだ 。
電車 が レール を 鳴らす 音 が 腹 の 底 に 響いて 来た 。
今 だ !
夕里子 は 飛び上る ように 立って 、線路 へ 向って 駆け上った 。
手前 の 線路 を 飛び越え 、向う の 線路 を ──次の 瞬間 、夕里子 は 見えない 手 に 足首 を つかまえられた ように 、前のめり に 倒れた 。 いや というほど 額 を 打つ 。 起き上って 、足 を 見る 。 靴 の かかと が 、枕木 の 割れ目 に 挟まって いる 。
電車 は この 線路 を やって 来る のだ 。
夕里子 は 必死 で 足 を 引張った 。 靴 を 脱ぐ に は 、この ややこしい 紐 を 解か ねば ならない 。
ゴーッという轟音が、まるで大波のようにのしかかって来る。
「 エイッ !
力 を こめて 引張る が 、靴 は びくとも しない 。
このまま じゃ 、ひき 殺さ れ る !
その とき 、誰か の 腕 が 、夕里子 を かかえ上げた 。
凄い 力 で 、バリッ という 音 と 共に 、靴 の かかと が もぎ取られた 。 次の 瞬間 に は 、夕里子 は 、反対側 の 斜面 に 投げ出されていた 。 二 、三 回転 して 、やっと 止まった と 思う と 、何か が ドサッと 上 に かぶさって 来る 。
電車 が 頭上 を 通って 行く 。
──助かった のだ !
電車 が 通り過ぎて しまう まで 、夕里子 は 喘ぎ喘ぎ 、頭 を かかえて いた 。
何だか 電車 が 自分 の 上 に 落っこちて 来そうな 気 が した のだ 。
轟音 が 、遠のく 。
やっと 、夕里子 は 顔 を 上げる 。
いきなり 、頰 を ひっぱたかれた 。
「何て こと を する んだ !
夕 里子 は 、面食らって 、
「あなた は ……」
ひっぱ たかれ た 痛み も 忘れて いた 。
──あの 若い 刑事 、国友 だった 。 「当り前 でしょ !
夕 里子 は かみつき そうな 声 を 出した 。
「あなた が 後 を 尾けて 来る から よ ! 「しかし ──君 か どう か 、はっきり 分ら なかった んだ 。
一 度 ぐらい 振り向いて くれりゃ よかった のに 」
「無茶 言わ ないで よ 。
どんな 悪党 かも しれ ない のに 。 顔合わせ たら 、終り じゃ ない の 」
夕 里子 は プーッ と ふくれて いた 。
「まあ ……早とちり は 悪かった けど 、君 も あんな 無茶 を する から ……」
国友 として は 、公平 に 言って 、夕里子 の 命 を 助けて やった のだ から 、本当 は 感謝 されて 然るべき である が 、そこ が 女の子 を 間違えて ひっぱたいた という 弱味 で 、総て 帳消し に されてしまっている のである 。
「それ に この 靴 ……友だち の 借り物 な の よ 。
どう する の ? と 、グスン 、と 鼻 を すすれば 、
「 分った !
弁償 する 。 新しい の を 買う から 。 泣か ないで くれよ 、頼む から 」
と 、靴 まで 買わさ れる は めに なった 。
──靴 は 新品 、食堂 で 昼 を 食べ 、全部 国友 に 払わせて 、やっと 夕 里子 は ご機嫌 が 直った 。
「額 の 傷 は 目立たない ?
と 、それ でも あてつけがましく 訊いて やる 。
「う 、うん ……目立たない よ 」
「女 は 顔 が 命 だ もの ね 。
傷つけ られたら 、お 嫁 に も 行け なく なる し ……」
と 、キズテープ の 上 から さすって 、「そう なったら 、国友 さん 、責任 取って くれる ?
「 君 !
「 冗談 、 冗談 」
と 、夕里子 は 笑った 。
「──どうも 、命 を 助けて いただいて 」
「 いやいや ……」
すっかり 、国友 の 方 は 申し訳ない 気分 に させられている のである 。
何とも 割 の 合わない 話 だ 。
「じゃ 、君 は 、水口 淳子 の 家 を 捜して た の ?
「 ええ 。
国友 さん は どうして あんな 所 を ウロついてた の ? 「うろつく は ひどい なあ 。
僕 も 水口 淳子 の 家 へ 行く 途中 だった んだ よ 」
「じゃ 、やっぱり あの 辺 で 良かった の ね 」
「ちょっと 入り組んで て 、分りにくい 所 な んだ 。
連れて 行って あげる よ 。 しかし ……」
「何 か ?
「君 の こと を 、あの 父親 が 歓迎 する とは 思え ない よ 。
やめ といたら ? 「パパ が 人殺し に さ れてる の よ 。
パパ の 気持 を 考えたら 、そんな こと 平気 ! と 、夕里子 は 強い 口調 で 言い切った 。
国友 は 、しばらく 夕 里子 を 眺めて いた が 、
「君 は 強い 子 だ なあ 」
と 、静かに 言った 。
夕 里子 も ──多少 ──恥じ入った 。
「 ごめんなさい 。
あなた に どうこう 言って も 仕方ない のに ね 。 ──そう だ 、刑事 さん 」
「急に 優しく なる と 気持 悪い ね 」
「まあ 、失礼 ね 」
と 、夕里子 は 笑った 。
「お 願い が ある の 。 筆蹟 を 調べて もらえ ない かしら ? 「筆 蹟 ?
誰 の ? 夕里子 は 、二 枚 の 伝票 を 取り出して 、国友 に 事情 を 説明 した 。
「──へえ 、君 も ずいぶん 頑張ってる んだ ねえ 」
「そう です よ 。
警察 が やって くれ ない んだ もの 」
国友 は 笑い 出した 。
「 分った 。
それ じゃ 調べて おく よ 。 でも 、親分 に は 内緒 だ よ 」
「 親分って ?
「あ 、三崎 さん の こと さ 」
もう 一人 の 年長の 方 の 刑事 だ 。
「やっぱり 、パパ が 犯人 って こと に なってる んでしょ ?
「 そう 。
──姿 を 消し ちまった の が 決定的 だった な 」
国友 は 伝票 を 内 ポケット へ し まい込む と 、
「ともかく 、これ は 調べて みる 。
結果 次第 じゃ 、捜査 方針 も 変って 来る かも しれない もの ね 」
国友 の 言葉 は 、夕里子 を 多少 元気付けて くれた 。
「さて 、出かける か ね 、豆 探偵 君 」
と 国友 は 立ち上った 。