6.19 と 3/4 番線 からの 旅 (2)
「手伝おう か ? 」さっき 、先に 改札口 を 通過 して いった 、赤毛 の 双子 の どちらか だった 。 「うん 。 お 願い 」ハリー は ゼイゼイ して いた 。
「おい 、フレッド ! こっち 来て 手伝え よ 」
双子 の おかげで ハリー の トランク は やっと 客室 の 隅 に おさまった 。
「ありがとう 」と 言い ながら 、ハリー は 目 に かぶさった 汗 びっしょり の 髪 を 掻き上げた 。
「それ 、なんだい ? 」双子 の 一人 が 急に ハリー の 稲妻型 の 傷跡 を 指さして 言った 。 「驚いた な 。 君 は …… ? 」もう 一人 が 言った 。
「彼 だ 。 君 、違う かい ? 」最初の 一 人 が 言った 。
「何が ? 」と ハリー 。
「ハリー・ポッターさ」双子 が 同時に言った。
「ああ 、その こと 。 うん 、そう だ よ 。 僕 は ハリー ・ ポッター だ 」
双子 が ポカン と ハリー に 見とれて いる ので 、ハリー は 顔 が 赤らむ の を 感じた 。 その 時 、ありがたい ことに 、開け放された 汽車 の 窓 から 声 が 流れ込んできた 。
「フレッド ? ジョージ ? どこ に いる の ? 」「ママ 、今 行く よ 」 もう 一度 ハリー を 見つめる と 、双子 は 列車 から 飛び降りた 。
ハリー は 窓際 に 座った 。 そこ から だ と 、半分 隠れて 、プラットホーム の 赤毛 一家 を 眺める こと が できた し 、話し声 も 聞こえた 。 お母さん が ハンカチ を 取り出した ところだった 。 「ロン 。 お鼻 に なんか ついてる わよ 」
すっ飛んで 逃げよう と する 末 息子 を 、母親 が がっちり 捕まえて 、鼻 の 先 を 擦り はじめた 。 「ママ 、やめて 」
ロン は もがいて 逃れた 。
「あらあら 、ロニー 坊や 、お鼻 に なんか ちゅいてまちゅ か ? 」と 双子 の 一人 が はやしたてた 。
「うるさい ! 」と ロン 。
「パーシー は どこ ? 」と ママ が 聞いた 。
「こっち に 歩いて くる よ 」
一番 年上 の 少年 が 大股 で 歩いて きた 。 もう 黒い ヒラヒラ する ホグワーツ の 制服 に 着替えて いた 。 ハリー は 、少年 の 胸 に P の 字 が 入った 銀色 の バッジ が 輝いている の に 気づいた 。
「母さん 、あんまり 長く は いられない よ 。 僕 、前 の 方 なんだ 。 Pバッジ の 監督生 は コンパートメント 二つ 、指定席 に なってる んだ ……」
「おお 、パーシー 、君 、監督生 に なった の かい ? 」双子 の 一人 が わざと 驚いた ように 言った 。 「そう 言って くれれば いい のに 。 知ら なかった じゃ ない か 」
「まてよ 、そういえば 、なんか 以前 に 一回 、そんな こと を 言ってた な 」と もう 一人 の 双子 。
「二 回 かな ……」
「一 分間 に 一 、二 回 かな ……」
「夏 中 言って いた ような ……」
「だまれ 」と 監督 生 パーシー が 言った 。
「どうして 、パーシーは 新しい 洋服 着てる んだろう ? 」双子の 一人が 聞いた 。
「監督 生 だから よ 」母親 が 嫁 しそうに 言った 。
「さあ 、みんな 。 楽しく 過ごしなさい ね 。 着いたら ふくろう 便 を ちょうだい ね 」
母親 は パーシー の 頬 に さよなら の キス を した 。 パーシーが いなくなる と 、次に 母親は 双子に 言った 。
「さて 、あなたたち ……今年は お行儀 よく する んです よ 。 もしも 、また ふくろう 便 が 来て 、あなたたち が ……あなたたち が トイレ を 吹き飛ばした とか 何とか いったら ……」
「 トイレ を 吹っ飛ば す だって ? 僕たち そんな こと した ことない よ 」
「すげえ アイデア だ ぜ 。 ママ 、 あり が と さ ん 」
「バカな こと 言わ ないで 。 ロン の 面倒 見て あげて ね 」
「心配 御 無用 。 はなたれ ロニー 坊や は 、僕たち に まかせて 」
「うるさい 」
と ロン が また 言った 。 もう 双子 と 同じ ぐらい 背が 高い のに 、お母さん に 擦られた ロン の 鼻先 は まだ ピンク 色 だった 。 「ねえ 、ママ 。 誰 に 会った と 思う ? 今 列車 の 中 で 会った 人 、だーれ だ ? 」 ハリー は 自分 が 見て いる こと に みんな が 気 が つか ない よう 、 あわてて 身 を ひいた 。 「駅 で そばに いた 黒い髪 の 子 、覚えてる ? あの 子は だーれ だ ? 」「 だ あれ ? 」「ハリー ・ポッター ! 」ハリー の 耳 に 女の子 の 声 が 聞こえた 。 「ねえ 、ママ 。 汽車 に 乗って 、見て きて も いい ? ねえ 、ママ 、お願い ……」
「ジニー 、もう あの 子 を 見た でしょ ? 動物園 じゃ ない んだ から 、ジロジロ 見たら かわいそう でしょう 。 でも 、 フレッド 、 ほんと な の ? なぜ そう だ と わかった の ? 」「本人 に 聞いた 。 傷跡 を 見た んだ 。 ほんとに あった んだ よ ……稲妻 の ような の が 」
「かわいそうな 子 ……どうりで 一人 だった んだ わ 。 どうして かしら って 思った のよ 。 どうやって プラットホーム に 行く のか って 聞いた 時 、本当に お行儀 が よかった 」「そんな こと は どうでもいい よ 。 『例の あの 人 』が どんな だった か 覚えてる と 思う ? 」母親 は 急に 厳しい 顔 を した 。 「フレッド 、聞いたり しては だめ よ 、絶対に いけません 。 入学 の 最初の 日 に その こと を 思い出させる なんて 、かわいそう でしょう 」
「大丈夫 だよ 。 そんなに ムキ に なら ないで よ 」
笛 が 鳴った 。
「急いで ! 」母親 に せかされて 、三人 の 男の子 は 汽車 に よじ登って 乗り込んだ 。 みんな 窓 から 身 を 乗り出して 母親 の お別れ の キス を 受けた 。 妹 の ジニー が 泣き出した 。
「泣く な よ 、ジニー 。 ふくろう 便 を ドッサリ 送って あげる よ 」
「ホグワーツ の トイレ の 便座 を 送って やる よ 」
「ジョージ ったら ! 」「冗談 だ よ 、ママ 」 汽車 が 滑り 出した 。 母親 が 子供 たち に 手 を 振っている の を ハリー は 見ていた 。 妹 は 半 べそ の 泣き笑い 顔 で 、汽車 を 追いかけて 走って きた が 、追いつけない 速度 に なった 時 、立ち止まって 手 を 振る の が 見えた 。
汽車 が カーブ を 曲がって 、女の子 と 母親 の 姿 が 見えなく なる まで ハリー は 見ていた 。 家々 が 窓 の 外 を 飛ぶ ように 過ぎて いった 。 ハリー の 心 は 躍った 。 何 が 待ち構えて いる か は わからない ……でも 、置いてきた これまで の 暮らし より は 絶対 ましに 違いない 。
コンパートメント の 戸 が 開いて 、一番 年下 の 赤毛 の 男の子 が 入ってきた 。
「ここ 空いてる ? 」ハリー の 向かい 側 の 席 を 指さして 尋ねた 。 「他 は どこ も いっぱい な んだ 」
ハリー が うなずいた ので 、男の子 は 席 に 腰掛け 、チラリ と ハリー を 見た が 、何も 見なかった ような 振り を して 、すぐに 窓 の 外 に 目 を 移した 。 ハリー は その 子 の 鼻 の 頭 が まだ 汚れた まま な のに 気づいた 。
「おい 、ロン 」
双子 が 戻って きた 。
「なあ 、俺たち 、真ん中 の 車両 あたり まで 行く ぜ ……リー・ジョーダン が でっかい タランチュラ を 持ってるんだ」「わかった」ロンは モゴモゴ 言った。 「ハリー 」双子 の もう一人 が 言った 。
「自己紹介 したっけ ? 僕たち 、フレッド と ジョージ ・ウィーズリー だ 。 こいつ は 弟 の ロン 。 じゃ 、また あとで な 」
「バイバイ 」ハリー と ロン が 答えた 。
双子 は コンパートメント の 戸 を 閉めて 出ていった 。
「君 、ほんとに ハリー ・ポッター な の ? 」ロン が ポロリ と 言った 。
ハリー は こっくり した 。 「ふーん ……そう 。 僕 、フレッド と ジョージ が また ふざけてる んだ と 思った 。 じゃ 、君 、ほんとうに ある の ……ほら ……」
ロン は ハリー の 額 を 指さした 。
ハリー は 前髪 を 掻き上げて 稲妻 の 傷跡 を 見せた 。 ロン はじーっと 見た 。 「 それ じゃ 、 これ が 『 例の あの人 』 の ……? 」「うん 。 でも なんにも 覚えてない ん だ 」
「なんにも ? 」ロンが 熱っぽく 聞いた 。
「そうだ な ……緑色 の 光 が いっぱい だった の を 覚えてる けど 、それ だけ 」
「うわー 」
ロン は じっと 座った まま 、しばらく ハリー を 見つめて いた が 、ハッと 我に返って あわてて 窓 の 外 に 目を やった 。
「君 の 家族 は みんな 魔法使い な の ? 」ロンが ハリーに 興味を 待った と 同じ ぐらい 、ハリーも ロンに 関心を 持った 。 「あぁ ……うん 、そうだと 思う 」ロンが 答えた 。
「ママの はとこ だけが 会計士 だけど 、僕たち その 人の ことを 話題に しない ことに してる し 」
「じゃ 、君なんか 、もう 魔法を いっぱい 知ってる んだろう な 」
ウィーズリー 家 が 、ダイアゴン 横丁 で あの 青白い 男の子 が 話して いた 由緒正しい 「魔法使い の 旧家 」の 一つ である こと は 明らか だった 。
「君 は マグル と 暮らして たって 聞いた よ 。 どんな 感じ なんだい ? 」と ロン 。
「ひどい もん さ ……みんな が そう だって わけじゃない けど 。 おじさん 、おばさん 、僕 の いとこ は そう だった 。 僕 に も 魔法使い の 兄弟 が 三 人 も いれば いい のに な 」
「五 人 だ よ 」ロン の 顔 が なぜ か 曇った 。
「ホグワーツ に 入学 する の は 僕 が 六 人 め な んだ 。 期待 に 沿う の は 大変 だ よ 。 ビル と チャーリー は もう 卒業 した んだ けど ……ビル は 首席 だった し 、チャーリー は クィディッチ の キャプテン だった 。 今度 は パーシー が 監督 生 だ 。 フレッド と ジョージ は いたずら ばっかり やってる けど 成績 は いい んだ 。 みんな 二人 は おもしろい やつ だって 思って る 。 僕 も みんな と 同じ ように 優秀 だって 期待 されてる んだ けど 、もし 僕 が 期待 に 応える ような こと を したって 、みんな と 同じ こと を した だけ だから 、たいした こと じゃない って ことに なっちまう 。 それ に 、五人 も 上 に いる もんだ から 、なんにも 新しい 物 が もらえない んだ 。 僕 の 制服 の ローブ は ビル の お古 だ し 、杖 は チャーリー の だし 、ペット だって パーシー の お下がり の ねずみ を もらった んだ よ 」
ロン は 上着 の ポケット に 手 を 突っ込んで 太った ねずみ を 引っ張り出した 。 ねずみ は グッスリ 眠って いる 。
「スキャバーズ って 名前 だ けど 、役立たず なんだ 。 寝て ばっかり いる し 。 パーシー は 監督 生 に なった から 、パパ に ふくろう を 買って もらった 。 だけど 、僕 ん ち は それ 以上 の 余裕 が ……だから 、僕 に は お下がり の スキャバーズ さ 」
ロン は 耳 もと を 赤らめた 。 しゃべりすぎた と 思った らしく 、また 窓 の 外 に 目 を 移した 。
ふくろう を 買う 余裕 が なく たって 、何も 恥ずかしい こと は ない 。 自分 だって 一 ケ 月 前 まで は 文無し だった 。 ハリー は ロン に その 話 を した 。 ダドリー の お古 を 着せられて 、誕生日 に は ろくな プレゼント を もらった こと が ない ……などなど 。 ロン は それで 少し 元気 に なった ようだった 。
「── それ に 、ハグリッド が 教えて くれる まで は 、僕 、自分 が 魔法使い だって こと 全然 知らなかった し 、両親 の こと も 、ヴォルデモート の こと も ……」
ロン が 息 を のんだ 。
「どうん 、たの ? 」「 君 、『 例の あの人 』 の 名前 を 言った ! 」 ロン は 驚き と 称賛 の 入り交じった 声 を 上げた 。 「 君 の 、 君 の 口 から その 名 を ……」
「僕 、名前 を 口 に する こと で 、勇敢な とこ を 見せよう って いう つもり じゃない んだ 。 名前 を 言っちゃ いけない なんて 知ら なかった だけ な んだ 。 わかる ? 僕 、学ば なくちゃ いけない こと ばっかり なんだ ──きっと …… 」
ハリー は 、ずっと 気 に かかっていた ことを 初めて 口 に した 。
「きっと 、僕 、クラス で びり だ よ 」
「そんな こと は ない さ 。 マグル 出身 の 子 は たくさん いる し 、そういう 子 でも ちゃんと やってる よ 」
話して いる うちに 汽車は ロンドンを 後にして 、スピードを 上げ 、牛や 羊の いる 牧場の そばを 走り抜けて いった 。 二人は しばらく 黙って 、通り過ぎて ゆく 野原や 小道を 眺めて いた 。