17.3 二つ の 顔 を 持つ 男
その 夜 は グッスリ 寝た ので 、ハリー は ほとんど 回復 した ように 感じた 。
「パーティー に 出たい んです けど 。 行って も いい でしょう か 」
山 の ような 菓子 の 箱 を 片づけている マダム ・ポンフリー に ハリー は 頼んだ 。
「ダンブルドア 先生 が 行かせて あげる ように と おっしゃいました 」マダム ・ポンフリー は 鼻 を フン と 鳴らした 。 ダンブルドア 先生 は パーティー の 危険 性 を ご存知 ない と でも 言い たげ だった 。
「ああ それ から 、また 面会 の 人 が 来てます よ 」「うれしい なぁ 。 誰 ? 」 ハリー の 言葉 が 終わらない うち に 、 ハグリッド が ドア から 体 を 斜めに して 入って きた 。 部屋 の 中 で は 、 ハグリッド は いつも 場違いな ほど 大きく 見える 。 ハリー の 隣 に 座って チラッ と 顔 を 見る なり 、 ハグリッド は オン オン と 泣き出して しまった 。
「みんな ……俺 の ……バカな ……しくじり の せい だ ! 」手 で 顔 を おおい 、しゃくり上げた 。 「 悪い や つら に 、 フラッフィー を 出し抜く 方法 を しゃべ くって しもう た 。 俺 が ヤツ に 話した んだ ! ヤツ は これ だけ は 知ら ん かった のに 、 しゃべ くって しも うた ! あんた は 死ぬ とこ だった ! たかが ドラゴン の 卵 の せい で 。 もう 酒 は やら ん ! 俺 なんか 、つまみ出されて 、マグル として 生きろ と 言われて も しょうがない ! 」悲しみ と 後悔 に 体 を 振るわせ 、ハグリッド の あごひげ に 大粒 の 涙 が ポロポロ と 流れ落ちている 。 「ハグリッド ! 」ハリー は その 姿 に 驚いて 呼びかけた 。 「ハグリッド 。 あいつ は どうせ 見つけ出して いた よ 。 相手 は ヴォルデモート だ もん 。 ハグリッド が 何も 言わ なく たって 、どうせ 見つけて いた さ 」
「おまえ さん は 死ぬ とこ だった んだ 」と ハグリッド が しゃくり上げた 。
「それ に 、その 名前 を 言う な 」
「ヴォルデモート 」
ハリー は 大声 で 怒鳴った 。 ハグリッド は 驚いて 泣きやんだ 。
「僕 は 彼 に 会った し 、あいつ を 名前 で 呼ぶ んだ 。 さあ 、ハグリッド 。 元気 を 出して 。 僕たち 、『石 』は 守った んだ 。 もう なくなって しまった から 、あいつ は 『石 』を 使う こと は できない よ 。 さあ 、蛙 チョコレート を 食べて 。 山ほど ある から ……」
ハグリッド は 手の甲 で グイッ と 鼻 を 拭った 。
「お ぉ 、それで 思い出した 。 俺 も プレゼント が ある んだ 」
「イタチ ・サンドイッチ じゃ ない だろう ね 」
と ハリー が 心配 そうに 言う と 、やっと ハグリッド が クスッ と 笑った 。
「いん や 。 これ を 作る んで 、きのう ダンブルドア 先生 が 俺 に 休み を くれた 。 あの 方 に 首 に されて 当然 な のに ……とにかく 、はい 、これ 」こぎれいな 皮 表紙 の 本 の ようだった 。 いったい なんだろう と ハリー が 開けて みる と 、そこ に は 魔法使い の 写真 が ギッシリ と 貼って あった 。 どの ページ でも ハリー に 笑い かけ 、手 を 振って いる 。 お 父さん 、お 母さん だ 。 「あんた の ご両親 の 学友 たち に ふくろう を 送って 、写真 を 集めた んだ 。 だって お前 さん は 一枚 も 持って いない し ……気に入った か ? 」ハリー は 言葉 が 出 なかった 。 でも ハグリッド に は よく わかった 。
その 夜 ハリー は 一人 で 学年度末 パーティー に 行った 。 マダム ・ポンフリー が もう 一度 最終 診察 を する と うるさかった ので 、大広間 に 着いた 時 に は もう 広間 は いっぱい だった 。 スリザリン が 七 年 連続 で 寮 対抗 杯 を 獲得 した お祝い に 、広間 は グリーン と シルバー の スリザリン ・カラー で 飾られていた 。 スリザリン の ヘビ を 描いた 巨大な 横断幕 が 、ハイテーブル の 後ろ の 壁 を おおっていた 。
ハリー が 入って いく と 突然 シーン と なり 、その後 全員 が いっせいに 大声 で 話し はじめた 。 ハリー は グリフィンドール の テーブル で 、ロン と ハーマイオニー の 間 に 座り 、みんな が ハリー を 見よう と 立ち上がって いる の を 無視 しよう と した 。
運良く ダンブルドア が すぐ 後 に 現れ 、ガヤガヤ 声 が 静かに なった 。
「また 一 年 が 過ぎた ! 」ダンブルドア が ほがらかに 言った 。 「一同 、ごちそう に かぶりつく 前 に 、老いぼれ の たわごと を お聞き願おう 。 何 という 一年 だったろう 。 君たち の 頭 も 以前に 比べて 少し 何かが 詰まっていれば いい のじゃが ……新 学年 を 迎える 前に 君たちの 頭が きれいさっぱり 空っぽに なる 夏休みが やってくる 。
それでは ここで 寮対抗杯 の 表彰 を 行う ことに なっとる 。 点数 は 次の とおり じや 。 四 位 グリフィンドール 三 一 二 点 。 三 位 ハッフルパフ 三 五 二 点 。 レイプンタロー は 四 二 六 点 。 そして スリザリン 四七二 点 」
スリザリン の テーブル から 嵐 の ような 歓声 と 足 を 踏み鳴らす 音 が 上がった 。 ドラコ ・マルフォイ が ゴブレット で テーブル を 叩いて いる の が 見えた 。 胸 の 悪く なる ような 光景 だった 。
「よし 、よし 、スリザリン 。 よく やった 。 しかし 、つい 最近 の 出来事 も 勘定 に 入れなくては なる まいて 」と ダンブルドア が 言った 。
部屋 全体 が シーン と なった 。 スリザリン 寮生 の 笑い が 少し 消えた 。
「え へん 」
ダンブルドア が 咳払い を した 。
「かけ込み の 点数 を いくつか 与えよう 。 えーと 、そうそう ……まず 最初は 、ロナルド ・ウィーズリー 君 」
ロン の 顔 が 赤く なった 。 まるで ひどく 日焼け した 赤かぶ みたいだった 。
「この 何年間か 、ホグワーツ で 見る ことが できなかった ような 、最高の チェス・ゲームを 見せて くれたことを 称え、グリフィンドールに 五十点を 与える」
グリフィンドール の 歓声 は 、魔法 を かけられた 天井 を 吹き飛ばし かねない くらい だった 。 頭上 の 星 が ダラダラ 揺れた ようだ 。
「僕 の 兄弟 さ ! 二番 下 の 弟 だ よ 。 マクゴナガル の 巨大 チェス を 破った んだ 」パーシー が 他の 監督 生 に こう 言う の が 聞こえてきた 。 広間 は やっと 静かに なった 。
「次に ……ハーマイオニー ・グレンジャー 嬢 に ……火 に 囲まれながら 、冷静な 論理 を 用いて 対処した こと を 称え 、グリフィンドール に 五十 点 を 与える 」
ハーマイオニー は 腕 に 顔 を 埋めた 。 きっと うれし泣き して いる に 違いない と ハリー は 思った 。
グリフィンドール の 寮生 が 、テーブル の あちこち で 我 を 忘れて 狂喜 している ……一〇〇 点 も 増えた 。
「三番目 は ハリー ・ポッター 君 ……」
部屋 中 が 水 を 打った ように シーン と なった 。
「……その 完璧な 精神力 と 、並はずれた 勇気を 称え 、グリフィンドールに 六十点を 与える 」
耳を つんざく 大騒音 だった 。 声 がかすれる ほど 叫び ながら 足し算 が できた人 が いた なら 、 グリフィンドール が 四七二 点 に なった こと が わかったろう …… スリザリン と 全く 同点 だ 。 寮杯は 引き分けだ ……ダンブルドアが ハリーに もう一点 多く 与えてくれたら よかったのに 。
ダンブルドア が 手 を 上げた 。 広間 の 中 が 少しずつ 静かに なった 。
「勇気 に も いろいろ ある 」
ダンブルドア は ほほえんだ 。
「敵 に 立ち向かって いく のに も 大いなる 勇気 が いる 。 しかし 、味方 の 友人 に 立ち向かって いく のに も 同じ くらい 勇気 が 必要 じゃ 。 そこで 、わし は ネビル・ロングボトム 君 に 十 点 を 与えたい 」大広間 の 外 に 誰か いたら 爆発 が 起こった 、と 思った かも しれない 。 それほど 大きな 歓声 が グリフィンドール の テーブル から 湧き上がった 。 ハリー 、ロン 、ハーマイオニー は 立ち上がって 叫び 、 歓声 を 上げた 。 ネビル は 驚いて 青白く なった が 、 みんな に 抱きつかれ 、 人 に 埋もれて 姿 が 見えなく なった 。 ネビル は 、 これ まで グリフィンドール の ため に 一点 も 稼いだ こと は なかった 。 ハリー は 歓声 を 上げながら ロン の 脇腹 を つついて マルフォイ を 指さした 。 マルフォイ は 、「金縛り の 術 」を かけられた より も もっと 、驚き 、恐れおののいた 顔 を していた 。 レイブンクロー も ハッフルパフ も 、スリザリン が トップ から 滑り落ちた こと を 祝って 、喝采 に 加わって いた 。 嵐 の ような 喝采 の 中 で 、ダンブルドア が 声 を 掛り上げた 。
「したがって 、飾りつけ を ちょいと 変え ねば ならん のう 」
ダンブルドア が 手 を たたいた 。 次の 瞬間 グリーン の 垂れ幕 が 真 紅 に 、 銀色 が 金色 に 変わった 。
巨大な スリザリン の ヘビ が 消えて グリフィンドール の そびえ立つ ような ライオン が 現れた 。
スネイプ が 苦々しげな 作り笑い で マクゴナガル 教授 と 握手 を していた 。 スネイプ の 目 が ハリー を とらえた 。 スネイプ の 自分 に 対する 感情 が 、まったく 変わって いない の が ハリー に は すぐ わかった が 、気 に ならなかった 。 来年 は また これ まで と 変わらない 毎日 が 戻ってくる だけの 話 だ 。
──ホグワーツ らしい 「正常な 」毎日 が 。
その 夜 は ハリー にとって 、今まで で 一番 素晴らしい 夜 だった 。 クィディッチ に 勝った 時 より も 、クリスマス より も 、野生 の トロール を やっつけた 時 より も 素敵 だった ……。 今夜 の こと は ずーっと 忘れ ない だろう 。
ハリー は 試験 の 結果 が まだ 出て いない こと を ほとんど 忘れて いた が 、結果 が 発表 された 。 驚いた ことに 、ハリー も ロン も よい 成績 だった 。 もちろん ハーマイオニー は 学年 で トップ だった 。 ネビル は スレスレ だった が 、薬草学 の 成績 が よくて 魔法薬 の どん底 の 成績 を 補って いた 。
意地悪な ばかりか バカな ゴイル が 退校 に なれば いい のに と 、みんな が 期待していた が 、彼 も パスした 。 残念だったが 、ロンに 言わせれば 、人生って そう いいこと ばかりでは ない 。 そして 、あっという間に 洋服だんすは 空になり 、旅行かばんは いっぱいになった 。 ネビルの ヒキガエルは トイレの 隅に 隠れている ところを 見つかってしまった 。 「休暇中 魔法を 使わないように 」という 注意書が 全生徒に 配られた 。 (「こんな 注意書 、配る のを 忘れりゃ いい のに って 、いつも 思う んだ 」と フレッド ・ウィーズリー が 悲しそうに 言った )ハグリッド が 湖 を 渡る 船 に 生徒たち を 乗せ 、そして 全員 ホグワーツ 特急 に 乗り込んだ 。 しゃべったり 笑ったり して いる うちに 、車窓 の 田園 の 緑 が 濃く なり 、こぎれいに なって いった 。 バーティー ・ボッツ の 百 味 ビーンズ を 食べている うちに 、汽車 は マグル の 町々 を 通り過ぎた 。 みんな は 魔法 の マント を 脱ぎ 、上着 と コート に 着替えた 。 そして キングズ ・クロス 駅 の 9 3/4 番線 ホーム に 到着した 。
プラットフォーム を 出る のに 少し 時間が かかった 。 年寄りの しわくちゃな 駅員が 改札口に 立っていて 、ゲートから 数人ずつ バラバラに 外に 送り出していた 。 堅い 壁の 中から 、いっぺんに たくさんの 生徒が 飛び出すと 、マグルが びっくりする からだ 。
「夏休み に 二人 とも 家 に 泊まり に きて よ 。 ふくろう 便 を 送る よ 」と ロン が 言った 。
「ありがとう 。 僕 も 楽しみに 待って いられる ような もの が 何 か なくちゃ ……」と ハリー が 言った 。 人の 波に 押されながら 三人は ゲートへ 、マグルの 世界へ と 進んでいった 。 何人かが 声を かけていく 。
「ハリー 、バイバイ 」
「またね 。 ポッター 」
「今 だに 有名人 だね 」と ロン が ハリー に 向かって ニヤッ と した 。
「これ から 帰る ところ で は 違う よ 」と ハリー 。
ハリー と ロン と ハーマイオニー は 一緒に 改札口 を 出た 。
「まあ 、彼 だ わ 。 ねえ 、ママ 、見て 」
ロン の 妹 の ジニー ・ウィーズリー だった 。 が 、指さして いる の は ロン で は なかった 。
「ハリー ・ポッター よ 。 ママ 、見て ! 私 、見える わ 」
と ジニー は 金切り声 を あげた 。
「ジニー 、お黙り 。 指さす なんて 失礼 ですよ 」
ウィーズリー おばさん が 三人 に 笑いかけた 。
「忙しい 一年 だった ? 」「ええ 、とても 。 お菓子 と セーター 、ありがとう ございました 。 ウィーズリー おばさん 」
と ハリー が 答えた 。
「まあ 、どう いたしまして 」
「準備 は いい か 」
バーノン おじさん だった 。 相変わらず 赤ら顔 で 、相変わらず 口ひげ を はやし 、相変わらず ハリー の こと を 普通でない と 腹を立てている ようだった 。 そもそも 普通の 人で あふれている 駅で 、ふくろうの 鳥籠を ぶら下げている なんて 、どんな 神経を してるんだ と 怒っている 。 その 後ろに は ペチュニア おばさんと ダドリーが 、ハリーの 姿を 見る のさえも 恐ろしい と いう 様子で 立っていた 。
「ハリーの ご家族 ですね 」と ウィーズリー おばさんが 言った 。
「まあ 、そうとも 言える でしょう 」と バーノン おじさんは 言うと 「小僧 、さっさと しろ 。 お前 の ため に 一 日 を つぶす わけに は いかん 」 と 、 とっとと 歩いて いって しまった 。
ハリー は 少し の 間 、ロン や ハーマイオニー と 最後 の 挨拶 を 交わした 。
「じゃあ 夏休み に 会おう 」
「楽しい 夏休み ……あの ……そうなれば いい けど 」
ハーマイオニー は 、あんな 嫌な 人間 が いる なんて 、と ショック を 受けて 、バーノン おじさん の 後 姿 を 不安げに 見送りながら 言った 。
「もちろん さ 」
ハリー が 、うれしそうに 顔 中 ほころばせて いる ので 、二人 は 驚いた 。
「僕たち が 家 で 魔法 を 使っちゃ いけない こと を 、あの 連中 は 知ら ない んだ 。 この 夏休み は 、ダドリー と 大いに 楽しく やれる さ …… 」