126. 赤い蝋燭 - 新美南吉
赤い 蝋燭 -新美 南 吉
山 から 里 の 方 へ 遊び に いった 猿 が 一本 の 赤い 蝋燭 を 拾いました 。 赤い 蝋燭 は 沢山 ある もの では ありません 。 それ で 猿 は 赤い 蝋燭 を 花火 だ と 思い込んで しまいました 。 ・・
猿 は 拾った 赤い 蝋燭 を 大事に 山 へ 持って 帰りました 。 ・・
山 で は 大へん な 騒 に なりました 。 何しろ 花火 など という もの は 、鹿 に しても 猪 に しても 兎 に しても 、亀 に しても 、鼬 に しても 、狸 に しても 、狐 に しても 、まだ 一度 も 見たことがありません 。 その 花火 を 猿 が 拾って 来た と いう ので あります 。 ・・
「ほう 、すばらしい 」・・
「これ は 、すてきな もの だ 」・・
鹿 や 猪 や 兎 や 亀 や 鼬 や 狸 や 狐 が 押合い へ しあい して 赤い 蝋燭 を 覗きました 。 すると 猿 が 、・・
「 危 い 危 い 。 そんなに 近よって は いけない 。 爆発 する から 」と いいました 。 ・・
みんな は 驚いて 後 込 しました 。 ・・
そこ で 猿 は 花火 と いう もの が 、どんなに 大きな 音 を して 飛出す か 、そして どんなに 美しく 空 に ひろがる か 、みんな に 話して 聞かせました 。 そんなに 美しい もの なら 見たい もの だ と みんな は 思いました 。 ・・
「それ なら 、今晩 山 の 頂上 に 行って あそこ で 打上げて 見よう 」と 猿 が いいました 。 みんな は 大へん 喜びました 。 夜 の 空 に 星 を ふりまく ように ぱあっと ひろがる 花火 を 眼 に 浮べて みんな は うっとり しました 。 ・・
さて 夜 に なりました 。 みんな は 胸 を おどらせて 山 の 頂上 に やって行きました 。 猿 は もう 赤い 蝋燭 を 木 の 枝 に くくりつけて みんな の 来る の を 待って いました 。 ・・
いよいよ これ から 花火 を 打上げる こと に なりました 。 しかし 困った こと が 出来ました 。 と 申します の は 、誰 も 花火 に 火 を つけよう と しなかった から です 。 みんな 花火 を 見る こと は 好きでした が 火 を つけ に いく こと は 、好きでなかった のであります 。 ・・
これ で は 花火 は あがりません 。 そこ で くじ を ひいて 、火 を つけ に 行く もの を 決める こと に なりました 。 第 一 に あたった もの は 亀 で ありました 。 ・・
亀 は 元気 を 出して 花火 の 方 へ やって行きました 。 だが うまく 火 を つける こと が 出来た でしょうか 。 いえ 、いえ 。 亀 は 花火 の そば まで 来る と 首 が 自然に 引込んで しまって 出て 来なかった ので ありました 。 ・・
そこ で くじ が また ひかれて 、こんど は 鼬 が 行く こと に なりました 。 鼬 は 亀 より は 幾分 ましでした 。 という の は 首 を 引込めて しまわなかった から であります 。 しかし 鼬 は ひどい 近眼 で ありました 。 だから 蝋燭 の まわり を きょろきょろ と うろついて いる ばかりでありました 。 ・・
遂々 猪 が 飛出しました 。 猪 は 全く 勇しい 獣 でした 。 猪 は ほんとうに やっていって 火 を つけて しまいました 。 ・・
みんな は びっくり して 草むら に 飛込み 耳 を 固く ふさぎました 。 耳 ばかり でなく 眼 も ふさいで しまいました 。 ・・
しかし 蝋燭 は ぽん と も いわず に 静かに 燃えている ばかりでした 。