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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 110. ごわごわごむ靴 - 櫻間中庸

110. ごわごわごむ靴 - 櫻間中庸

ごわごわ ご む 靴 -櫻 間中 庸

山 と 山 と の 間 に 小さい 川 が あります 。 川 に は 、澄み きつた 水 が 流れて ゐま す 。 川 の 底 に は 白くて 丸い 石 が 卵 の や う に 重なり 合 つて ゐて 、 水 が 小 石 にぶ つつ かつて 、 こ ぽり 、 こ ぽり と 音 を たてて ゐま す 。 ・・

「 ぽつ ち や り 」 と 何だか 黒い かたまり が 水 の 中 に 入 つて きました 。 ・・

ゆ ら 、 ゆら 、 ゆら 、・・

黒い ごわごわした かたまり は 川 の 底 まで ゆきました 。 ・・

こ ぽり 、 こ ぽり 、 こ ぽり 。 ・・

流れ が はやい ので 、ごわごわ は 、くるり くるり と お腹 を 見せたり 背中 を 見せたり こぽり こぽり と 流れて ゆきました 。 ・・

大きな 石 の ところ で 、ごわごわ は やつ と とまりました 。 ・・

大きな 口 を あいて 水 を 飮 ん で ゐま す 。 背中 は 太い 紐 で しば つて あります 。 ・・

黒い ごわごわ は 何 で せう 。 ・・

ああ 。 正雄 君 の ご む 靴 です 。 さ う です 。 今 さつき 正雄 君 が 栗 の 木 に 昇る とき 、靴 を はいて ゐて は うまく 昇れ ない ので 栗 の 木 の 根もと で ぬいだ とき 、ころころ 轉んで 、ぽつちやり と 水 の 中 に 落ちた のです 。 ・・

正雄 君 は 知りません 。 ・・

栗 の 木 に は 、とても 澤山 、栗 が 實 つて ゐま す 。 いがい が の 中 から 、 い ゝ 色 の 栗 の 實 が 、 いく つ も いく つ も のぞいて ゐま す 。 ・・

正雄 君 は 一生懸命 、栗 の 木 に 昇つて ゐま す 。 ・・

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黒い ご わご わ ご む 靴 は 、 大きな 口 を あいて お腹 一 ぱい 水 を 飮 みました 。 ・・

めだか の 子供 が 友達 と 大ぜい で 寄つてきました 。 めだか は 小さい 口 で ツイツイ と つついて みました 。 ・・

「お 菓子 ぢや ない ね 」・・

「つまらない な 」・・

めだか の 子供 は みんな 、 ちよ つ と つついて みて 、 ツイツイ と あちら へ 泳いで ゆきました 。 ・・

どん この を ぢ さん が 眼 を 、きよ と きよ と さ せて 、小石 と 小石 の 間 から 出て きました 。 ・・

「へんな もの が ゐる ぞ 」・・

さ う 言つて 、大きな 口 で 、ぶう 、と ごわごわ ごむ 靴 に ぶつつかりました 。 ・・

ぽこ ん 、と ご む 靴 は はね か へりました 。 どん この を ぢ さん は 驚いて どこ か へ 逃げて ゆきました 。 ・・

しばらく 誰 も きません でした 。 ・・

お 日 樣 が 、水 の あちら に ぼんやり と うるんで 見えました 。 水 の 上 を 木 の 葉 が いくつも いくつも 流れて ゆく の が 見えました 。 ・・

ご む 靴 は 、 お しり の 所 に 何 が [#「 何 が 」 は ママ ] つきあた つた や う に 思 ひました 。 ・・

する と ・・

「おや 、何で せう 。 まあ 。 い ゝ お家 が ある わ 」 と 言 ふ 聲 が 聞こえました 。 ・・

鮒 の を ば さん でした 。 鮒 の を ば さん は 、ごわごわ ご む 靴 の お 口 から 入らう と しました けれど 、からだ が 大きい ので 入れません でした 。 ・・

「おや 、わたし は 入れ ない 」・・

さ う 言つて 、すう いと 行つて しまひました 。 その 聲 を 聞いて いた ど ぢよ うの を ぢいさん が 石 の 下 から 、ぬつと 顏 を 出しました 。 ・・

「 わし なら 大丈夫 入れる だ ら う 」 と 長い から だ を ぴんぴん 動かして ご む 靴 の 中 に 入 つて きました 。 ・・

「これ は い ゝ 。 今夜 は よく 眠れる ぞ 」 とい つて 、 お ひげ を 動かしました 。 ・・

ごわごわ ご む 靴 は とうた うど ぢ よう の を ぢいさん の お家 に なりました 。 ・・

夜 が 來ました 。 お 月 樣 が 出た ので せ う 。 栗 が 金色 に 光りました 。 ころん 、ころん 、と ピアノ を たたく やうに 音 を たてて 栗 が 流れて ゐま した 。 どこ から か 、ころころ と 何 か 轉んで くる 音 が して 、ぽん と ご む 靴 に つきあたりました 。 ご む 靴 の 中 に 眠つて ゐた どぢ よう の を ぢいさん は 驚いて 、とび出しました 。 ・・

「 おそろしい 家 だ 、 おそろしい 家 だ 」 と ぶつぶつ 言 ひ ながら 、 お 月 樣 の 光 で 明るい 川 の 中 を どこ か へ 行 つて 見え なく なりました 。 ・・

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ご む 靴 に ぶつ つか つたの は 栗 の 實 でした 。 ・・

ご む 靴 は 正雄 君 の こと を 思ひました 。 正雄 君 は きつ と 、どの ポケツト も どの ポケツト も 栗 の 實 で ふくらま せて 、片方 の ご む 靴 を はいて 山 から 降りて お家 へ 歸つた でせう 。

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