100. 京都のごりの茶漬け - 北大路魯山人
京都 の ごり の 茶漬け -北 大路 魯山人
京都 の ごり は 加茂川 に 多く いた が 、今 は よほど 上流 に さかのぼら ない と いない ようである 。 桂川 で は 今 でも たくさん 獲れ る 。 ご り は 浅瀬 の 美しい 、水 の 流れる 河原 に 棲息する 身長 一寸 ばかり の 小ざかな である 。 ・・
ご り と いっても 分らない 人 は 、はぜ の ような 形 の さかな と 思えば いい 。 腹 に 鰭 で できた ような 吸盤 が ついていて 、早瀬 に 流されぬ よう 河底 の 石 に 吸いついている 。 ・・
ごり に は 大小 さまざま の 種類 が ある が 、ここ に 登場 する ごり は 小さな ごり で 、一寸 以上 に 大きく ならぬ ようである 。 それ が 証拠 に 、小さな くせに 卵 を 持っている 。 身 は 短小 なれ ど 非常に 美味い さかな である 。 ・・
京都 の 川 肴 料理 で は 、赤 だし (味噌汁 )椀 に 、七尾 入れる こと を 通例 としている 。 こんな 小さな もの を 七尾 入れて 、立派な 京 名物 が 出来る のだ から 、その 美味さ が 想像 できる だろう 。 従って 値段 も 高い 。 たくさん 獲 れ ない から である 。 とても 、佃煮 なんか に して 食べる ほど 獲れ ない のだ 。 にもかかわらず 、佃煮 に して 食べよう と いう のである から 、ごり 茶漬け は 天下一品 の ぜいたく と いわれる のである 。 ・・
今では 、生きた の が 一 升 二千 円 見当 も する だろう 。 これ を 佃煮 に する と 、かさ が 減る から 、ぜいたくに おいて 随一 の 佃煮 である 。 ・・
ご り の 佃煮 と は 要するに 、高い ご り を 生 醤油 で 煮る のである 。 それ を 十 尾 ばかり 熱 飯 の 上 に 載せて 、茶 を かけて 食べる のである 。 ・・
昔 から ごり の 茶 潰け は 有名な もの だが 、おそらく 京都 でも 食べた こと の ある 人 は 少ない であろう 。 京都 以外 の 人 で は 、名前 も 存在 も 知ら ぬ 人 が 多い かも 知れ ない 。 ・・
食 通 間 で は 、ごり の 茶漬け を 茶漬け の 王者 と 称して 珍重 している 。 しかし 、食べて みよう と 思えば 、大して ぜいたくな もの で は ない 。 なぜなら 、高い と いった ところ で 、一 椀 十 尾 ばかり で すむ こと である から 、金 に すれば なんでもない 。 ただ 五 尾 か 七 尾 で 、名物 吸いもの に している の を 目前 に 見ている ので 、思い切って 佃煮 に する 勇気 が しぶる だけの こと である 。 もったいない が 先 に 立って 、やっぱり 味噌汁 に して 、平凡に 食べて しまう ように なる 。 ・・
この ご り は 、どこ の 川 に でも いる ようだ が 、京都 の は 小さくて 、粒 が 揃っている 。 ・・
篤志 の 方 は 、京都 に 行かれた 節 に でも 、料理屋 に 命じて 、醤油 で 煮つめさせ 、一つ 試みられて はいかが 。 これ さえ 食べれば 、一躍 茶漬け の 天下 取り に なれる わけである 。 ・・
ついでに 茶 漬け と は 別な 話 である が 、京都 に は 「鷺 知らず 」と いう 美味い 小ざかな が ある 。