099. 花かごとたいこ - 小川未明
花 かご と たいこ -小川 未明 --
ある 日 たけ お は 、 お となり の おじさん と 、 釣り に いきました 。 おじさん は 、釣り の 名人 でした 。 いつも 、どこか の 川 で たくさん 魚 を 釣って こられました 。 ・・
たけ お は 、こんど ぜひ いっしょに つれて いって ください と おねがいした ところ 、ついに 、その のぞみ を たっした のでした 。 ・・
電車 を おりて 、すこし 歩く と 、さびしい いなか 町 に 出ました 。 ・・
それ を 通りぬけて から 、道 は 、田んぼ の 方 へ と まがる のです 。 この 角 の ところ に 、小さな 店 が ありました 。 ・・
「ちょっと まって て 。」 と 、いって おじさん は 、その 家 へ はいり 、たばこ を お 買い に なりました 。 また そこ に は 、いろいろ と 釣り の 道具 も 売って いた ので 、おじさん は 針 や 浮き など を 見て いらっしゃいました 。 ・・
たけ お は 、ぼんやり と 前 に 立って 、あちら の 高い 木 の 若葉 が 、大空 に けむっている のを 、心から 、美しい と 思って 、ながめていました 。 ・・
その うち 、ふと 気づく と 、店 の ちょっと した かざり まど の ところ へ 、二つ ならんだ お人形 が 、目 に はいりました 。 かわいらしい 女の子 と 、ぼうし を かぶった 男の子 で 、女の子 は 、花 かご を もち 、男の子 は 、たいこ を たたいて いる のでした 。 日本 の 子ども らしくない 、西洋 の 子ども の ふう を していました 。 ・・
「船 できた 、お 人形 か しらん 。」 と 、 考えて いる と 、 ちょうど 、 おじさん が 出て い らしって 、「 お まち ど お さま 。」 と 、たばこ を くわえて 、にこにこ しながら おっしゃいました 。 そして 、先 に 立って お 歩き に なった ので 、たけ おも あと に ついて 、かげろう の あがる 田んぼ 道 を いきました 。 そこ ここ に 、つみ草 を する 人 たち が ありました 。 ・・
やっと 川 の そば へ 出る と 、なみなみ とした 水 が 、ゆったり と うごいて 、日の 光 を みなぎらせて いました 。 ・・
そして 、わすれて いた なつかしい に おい を 、記憶 に よみがえらせました 。 ・・
それ から 二人 が 、草 の 上 へ こし を おろしました 。 じっと 、川 の おもて を みつめている と 、青い 水 の 上 へ 、緑色 の 空 が うつりました 。 ・・
いつしか たけ お は 、まだ 自分 の 知ら ない 、遠い 外国 の こと など 空想 しました 。 すると 、さっき の かわいらしい 人形 の ような 子ども が 、そこ で あそんでいる の が 、目 に うかびました 。 また 自分 が いけば 、いつでも お 友だち に なって くれる ような 気 が しました 。 たけ お は 、そう 思う だけ で 、うれしさ と はずかしさ で 、顔 が あつく なる のでした 。 ・・
パチパチ と 水 の はねる 音 が して 、銀色 の 魚 が さお の 先 で おどって 空想 は 、やぶられました 。 この とき おじさん が 大きな ふな を 釣られた のでした 。 ・・
この 日 おじさん は 、釣られた 魚 を 、みんな たけ お のび くに 入れて くださいました 。 たけ お は 、自分 は 釣れ なかった けれど 、大漁 な ので 、大よろこびでした 。 ・・
帰り に もう 一度 あの 人形 を 見られる と思った のが 、道 が ちがって 、ほか の 場所 から 電車 に のった ので 、ついに 、人形 の ある 店 の 前 を 通らなかった のです 。 ・・
電車 に のって から おじさん に 、たばこ を 買った 店 で 、舶来 の 人形 を 見た こと を 話す と 、・・
「なあ に あれ は 、ざらに ある 安物 だ 。」 と 、おじさん は 、気 に も とめられません でした 。 ・・
物知り の おじさん の ことば だけ に 、たけ おは 、じき あの 人形 を 、ほしい と 思う のを あきらめて しまった が 、どこ か 遠い 花 の さく 野原 を 、花かご を もった 美しい 少女 と 、たいこ を たたく 男の子 が 、いま でも 歩いている ような 気 が して 、そう 思う だけ でも 、なんとなく 自分 は 、たのしかった のであります 。