068. 赤い船とつばめ - 小川未明
赤い 船 と つばめ - 小川 未明
ある 日 の 晩方 、赤い 船 が 、浜辺 に つきました 。 その 船 は 、南 の 国 から きた ので 、つばめ を 迎え に 、王さま が 、 よこさ れた もの です 。
長い 間 、北 の 青い 海 の 上 を 飛んだり 、電信柱 の 上 に とまって 、さえずっていました つばめたち は 、秋風 が そよそよ と 吹いて 、木 の 葉 が 色づく ころ に なる と 、もはや 、南 の 方 の お家 へ 帰ら なければ なりませんでした 。 寒さ に 弱い 、この 小鳥 は 、あたたかな ところ に 育つ ように 生まれ ついた から です 。
王さま は 、もう つばめ ら の 帰る 時分 だ と 思う と 、赤い 船 を 迎え に よこさ れました 。 つばめ たち も 、船 に 乗りおくれて は ならぬ と 思って 、その 時分 に は 、海岸 の 近く に きて 、気 を つけて いました 。 そして 、波間 に 、赤い 船 が 見える と 、
「 キイ 、 キイ ……。」 と いって 、喜んで 鳴いた のです 。
早く 見つけた つばめ は 、それ を まだ 知ら ない 友だち に 告げる ため に 、空 高く 舞い上がって 、紺色 の 美しい 翼 を ひるがえし ながら 、
「赤い 船 が きました よ 。 さあ 、もう 私 たち は 、立つ とき です 。 どうか 、遠方 に いる お 友だち に 知らせて ください 。」 と いいました 。 なか に は 遠い ところ に いて 、まだ 知らず に いる もの も ありました 。 そういう つばめ は 、村 に 他 の いい お 友だち が できて 、「まあ 、まあ 、そんなに 急いで 、お帰り なさる こと は ない 。」 と いわれて 、引きとめられて いる つばめ たち であった のでした 。 赤い 船 は 、浜辺 に 四日 、五日 、と まって いました 。 そして 、四方 から 、毎日 の ように 集まって くる つばめ を 待って いました 。 もう 、たくさん つばめ が 船 に 乗って 、最後に は 、ほばしら の 上 まで 止まって 、まったく 、は いる 席 が なくなった 時分 、静かに 海岸 を はなれた のです 。
たいてい は 、月 の いい 晩 を 見はからって 、出発しました 。 なぜなら 、長い 海 の 上 を ゆく に は 、景色 が 見えなければ 、退屈である し 、また 途中 から 、船 を たよって 、飛んで きて 加わる もの が ない とは かぎらなかった からです 。
ある とき 、一羽 の つばめ は 、船 に 乗ろう と 思って 、遠い ところ から 、急いで 飛んで きました が 、すでに 船の 立ってしまった 後 でした 。 その つばめ は 、ひじょうに がっかり しました 。 しかたなく 、木 の 葉 を 船 と して 、これ に 乗って ゆこう と 決心 しました 。 それ より 海 の かなた へ 、渡る 途 は なかった のです 。
昼間 は 、木 の 葉 を くわえて 飛んで 、夜 に なる と 葉 を 船 に して 、その 上 で 休みました 。 その つばめ は 、こうして 、旅 を して いる うち に 、一夜 、ひじょうな 暴風 に 出あいました 。 驚いて 、木 の 葉 を しっかり と くわえて 暗い 空 に 舞い上がり 、死にもの狂い で 夜 の 間 を 暴風 と 戦い ながら かけりました 。 夜 が 明ける と 、はるか 目 の 下 の 波間 に 、赤い 船 が 、暴風 の ため に 、くつがえっている のを 見ました 。 それ は 、王さま の お迎え に 出さ れた 赤い 船 です 。 つばめ は 、急いで 帰って 、この こと を 王さま に 申し上げました 。 ――王さま は 、ここ に はじめて 、自ら の 力 を たよる こと の いちばん 安心な の を 悟られ 、あくる 年 から 、赤い 船 を 出す こと を 見合わせられた ので あります 。 ――一九二六 ・九 ――