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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 007. 谷崎潤一郎氏 - 芥川龍之介 – Text to read

Aozora Bunko Readings (4-5mins), 007. 谷崎潤一郎氏 - 芥川龍之介

고급2 일본어의 lesson to practice reading

지금 본 레슨 학습 시작

007. 谷崎潤一郎氏 - 芥川龍之介

僕 は 或 初夏 の 午後 、谷崎 氏 と 神田 を ひやかし に 出かけた 。 谷崎 氏 は その 日 も 黒 背広 に 赤い 襟飾り を 結んで ゐた 。 僕 は この 壮大なる 襟 飾り に 、象徴 せられたる ロマンティシズム を 感じた 。 尤も これ は 僕 ばかり で はない 。 往来 の 人 も 男女 を 問はず 、僕 と 同じ 印象 を 受けた ので あらう 。 すれ違 ふ 度 に 谷崎 氏 の 顔 を じろじろ 見ない もの は 一人 も なかつた 。 しかし 谷崎 氏 は 何と 云つて も さう 云ふ 事実 を 認め なかつた 。

「あり や 君 を 見る ん だ よ 。 そんな 道 行き な ん ぞ 着て ゐる から 。」

僕 は 成程 夏 外套 の 代り に 親父 の 道 行き を 借用 して ゐた 。 が 、道 行き は 茶の湯 の 師匠 も 菩提寺 の 和尚 も 着る もの である 。 衆 俗 の 目 を 駭かす こと は 到底 一 輪 の 紅 薔薇 に 似た 、非凡なる 襟 飾り に 及ぶ 筈 は ない 。 けれども 谷崎 氏 は 僕 の やうに ロヂック を 尊敬 しない 詩人 だから 、僕 も 亦 強ひて この 真理 を 呑みこま せよう と も 思は なかつた 。

その 内 に 僕等 は 裏 神保町 の 或 カッフエ へ 腰 を 下した 。 何でも 喉 の 渇いた ため 、炭酸水 か 何 か 飲み に は ひ つた のである 。 僕 は 飲みもの を 註文 した 後 も 、つらつら 谷崎 氏 の 喉もと に 燃えた ロマンティシズム の 烽火 を 眺めて ゐた 。 すると 白 粉 の 剥げた 女 給 が 一人 、両手 に コツプ を 持ち ながら 、僕等 の テエブル へ 近づいて 来た 。 コツプ は 真理 の やう に 澄んだ 水 に 細かい 泡 を 躍らせて ゐた 。 女 給 は その コツプ を 一 つづつ 、僕等 の 前 へ 立て 並べた 。 それ から 、――僕 は まだ 鮮か に あの 女 給 の 言葉 を 覚えて ゐる ! 女 給 は 立ち去り 難い や うに テエブル へ 片手 を 残した なり 、しけ じけ と 谷崎 氏 の 胸 を 覗きこんだ 。

「 まあ 、 好 い 色 の ネクタイ を して い ら つ し やる わ ねえ 。」

十分 の 後 、僕 は テエブル を 離れる 時 に 五十 銭 の ティップ を 渡さう と した 。 谷崎 氏 は あらゆる 東京人 の やう に 無用の ティップ を やる こと に 軽蔑 を 感ずる 一人 である 。 この 時 も 勿論 五十 銭 の ティップ は 谷崎 氏 の 冷笑 を 免れ なか つた 。

「何にも 君 、世話 に は ならない ぢやない か ?

僕 は この 先輩 の 冷笑 に も 羞ぢず 、皺 だらけ の 札 を 女 給 へ 渡した 。 女 給 は 何も 僕等 の 為 に 炭酸水 を 運んだ ばかりで はない 。 又 実に 僕 の 為に は 赤い 襟飾り に 関する 真理 を 天下 に 挙揚して くれた のである 。 僕 は まだ この 時 の 五十 銭 位 誠意 の ある ティップ を やつ たこ と は ない 。

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