16.2.2 秘密 の 部屋 - TheChamberofSecrets
「 ハリー 、 何 か 言って みろ よ 。 何 か を 蛇語 で 」 ロン が 言った 。 「 でも 」 ハリー は 必死 で 考えた 。 なんとか 蛇 語 が 話せた のは 、本物 の ヘビ に 向かって いる とき だけ だった 。 小さな 彫物 を じっと 見つめて 、ハリー は それが 本物 である と 想像 して みた 。 「開け 」
ロン の 顔 を 見る と 、首 を 横 に 振っている 。
「普通の 言葉 だ よ 」
ハリー は もう 一度 ヘビ を 見た 。 本物 の ヘビ だ と 思い込もう と した 。 首 を 動かして みる と 、蝋燭 の 明り で 、彫物 が 動いて いる ように 見えた 。
『開け 』もう 一度 言った 。
言った はずの 言葉 は 聞こえて こなかった 。 かわりに 奇妙な シューシュー と いう 音が 、口から 出た 。 そして 、蛇口が 眩い 白い 光を 放ち 、回り はじめた 。 次の 瞬間 、手洗い 台 が 動き出した 。
手洗い 台 が 沈み 込み 、見る見る 消え去った あと に 、太い パイプ が むき出しに なった 。
大人 一 人 が 滑り 込める ほど の 太さ だ 。
ハリー は ロン が 息 を 呑む 声 で 、再び 目 を 上げた 。
何 を すべきか 、もう ハリー の 心 は 決まって いた 。 「僕 は ここ を 降りて 行く 」ハリー が 言った 。 行か ないで はいられ ない 。
「秘密の 部屋 」へ の 入口 が 見つかった 以上 、ほんの わずかな 、かすかな 可能性 でも 、ジニー が まだ 生きて いる かもしれない 以上 、行か なければ 。
「僕 も 行く 」ロン が 言った 。
一瞬 の 空白 が あった 。
「さて 、私 は ほとんど 必要ない ようです ね 」ロック ハート が 、得意の スマイル の 残骸 のような 笑い を 浮かべた 。
「私 は これで ―― 」
ロックハート が ドア の 取っ手 に 手 を 掛けた が 、ロン と ハリー が 、同時に 杖 を ロックハート に 向けた 。
「先 に 降りる んだ 」ロン が 凄んだ 。
顔面 蒼白 で 杖 も なく 、ロックハート は パイプ の 入口 に 近づいた 。
「君たち 」ロックハート は 弱々しい 声 で 言った 。
「ねえ 、君たち 、それが なんの 役に立つ という んだ ね ?」
ハリー は ロックハート の 背中 を 杖 で 小突いた 。
ロックハート は 足 を パイプ に 滑り込ませた 。
「 ほんとうに なんの 役 に も ――」 ロック ハート が また 言い かけた が 、 ロン が 押した ので 、 ロックハート は 滑り落ちて 見え なく なった 。
すぐ あとに ハリーが 続いた 。 ゆっくりと パイプの 中に 入り込み 、それから 手を 放した 。
ちょうど 、 果てし のない 、 ぬるぬる した 暗い 滑り台 を 急 降下 して いく ようだった 。 あちこち 四方八方 に 枝分かれ して いる パイプ が 見えた が 、 自分 たち が 降りて 行く パイプ より 太い もの は なかった 。
その パイプ は 曲がりくねり ながら 、下に 向かって 急勾配で 続いている 。 ハリー は 学校 の 下を 深く 、地下牢 よりも 一層 深く 落ちて 行く のが わかった 。
あとから 来る ロン が カーブを 通る たびに ドスンドスンと 軽く ぶつかる 音を たてる のが 聞こえた 。
底に 着陸したら どうなる のだろう と 、ハリーが 不安に 思いはじめた そのとき 、パイプが 平らになり 、出口から 放り出され 、ドスッと 湿った 音を たてて 、暗い 石の トンネルの じめじめした 床に 落ちた 。
トンネル は 立ち上がる に 十分な 高さ だった 。 ロック ハート が 尐 し 離れた ところで 、全身 ベトベトで 、ゴースト のように 白い 顔 を して 立ち上がる ところだった 。
ロン も ヒユーッと 降りてきた ので 、ハリー は パイプ の 出口 の 脇 に よけた 。
「学校 の 何 キロ も ずーっと 下 の 方 に 違いない 」ハリー の 声 が トンネル の 闇 に 反響した 。
「湖 の 下 だ よ 。 たぶん 」暗い ぬるぬる した 壁 を 目 を 細めて 見回し ながら 、ロン が 言った 。
二人 とも 、目の前 に 続く 闇 を じっと 見つめた 。
「ルーモス !<光 よ >」ハリー が 杖 に 向かって 呟く と 、杖 に 灯り が 点った 。 「行こう 」ハリーが あとの 二人に 声を かけ 、三人は 歩き出した 。
足音が 、湿った 床に ピシャッピシャッと 大きく 響いた 。
トンネルは 真っ暗で 、目と 鼻の 先しか 見えない 。
杖 灯りで 湿っぽい 壁に 映る 三人の 影が 、おどろおどろしかった 。
「みんな 、いいかい 」そろそろと 前進しながら 、ハリーが 低い 声で 言った 。
「何かが 動く 気配を 感じたら 、すぐ 目を つぶるんだ ......」
しかし 、トンネルは 墓場の ように 静まり返って いた 。
最初に 耳慣れない 音を 聞いたのは 、ロンが 何かを 踏んづけた バリンという 大きな 音で 、それは ネズミの 頭蓋骨 だった 。
ハリー が 杖 を 床 に 近づけて よく 見る と 、小さな 動物 の 骨 が そこら中 に 散らばって いた 。 ジニー が 見つかった とき 、どんな 姿 に なって いる だろう ......そんな 思い を 必死で 振り切り ながら 、ハリー は 暗い トンネル の カーブ を 、先頭 に 立って 曲がった 。
「ハリー 、あそこ に 何か ある ......」
ロン の 声 が かすれ 、ハリー の 肩 を ギュッと つかんだ 。
三 人 は 凍りついた ように 立ち止まって 、行く手 を 見つめた 。
トンネル を ふさぐ ように 、何か 大きくて 曲線 を 描いた もの が あった 。
輪郭 だけ が かろうじて 見える 。 その もの は じっと 動かない 。
「眠って いる のかも しれない 」
ハリー は 息を ひそめ 、後ろ の 二人 を テラリ と 振り返った 。
ロック ハート は 両手 で しっかりと 目を 押さえて いた 。
ハリー は また 前方を 見た 。 心臓 の 動博 が 痚い ほど 速く なった 。
ゆっくりと 、ぎりぎり 物が 見える 程度に 、できるかぎり 目を 細くして 、その 物体に じりじりと 近寄った 。
ハリーは 杖を 高く 掲げ 杖 灯りが 照らし出した のは 、巨大な 蛇の 抜け殻 だった 。 毒々しい 鮮やかな 緑色の 皮が 、トンネルの 床に とぐろを 巻いて 横たわって いる 。 脱皮 した 蛇 は ゆうに 六 メートル は ある に 違いない 「なんて こった 」ロン が 力なく 言った 。 後ろ の 方 で 急に 何か が 動いた 。
ギルデロイ ・ロックハート が 腰 を 抜かして いた 。
「立て 」ロン が 、ロックハート に 杖 を 向け 、きつい 口調 で 言った 。
ロックハート は 立ち上がり ――ロン に 跳びかかって 床 に 殴り倒した 。
ハリー が 前に 飛び出した が 、間に合わなかった 。
ロックハート は 肩で 息を しながら 立ち上がった 。
ロン の 杖を 握り 、輝く ような スマイルが 戻っている 。
「 坊や たち 、 お 遊び は これ で おしまい だ ! 私 は この 皮 を 尐 し 学校 に 持って 帰り 、 女の子 を 救う に は 遅 過ぎた と みんな に 言おう 。 君たち 二人は ズタズタに なった 無残な 死骸を 見て 、哀れにも 気が狂った と 言おう 。 さあ 、記憶に 別れを 告げるが いい !」
ロックハートは スペロテープで 張りつけた ロンの 杖を 頭上に かざし 、一声 叫んだ 。
「オフリビエイト !<忘れよ >」 杖 は 小型 爆弾 なみに 爆発 した 。
ハリー は 蛇 の とぐろ を 巻いた 抜け殻 に 躓き 、滑り ながら 、両手 で さっと 頭 を 覆って 逃げた 。
トンネル の 天井 から 、大きな 塊 が 、雷 の ような 轟音 を 上げて バラバラ と 崩れ落ちて きた のだ 。
次の 瞬間 、岩 の 塊 が 固い 壁 の ように たちふさがっている のを ジッと 見ながら 、ハリー は たった 一人で そこに 立っていた 。 「ローン !」ハリー が 叫んだ 。 「大丈夫 か !ロン !」
「ここ だ よ !」ロン の 声 は 崩れ落ちた 岩石 の 影 から ぼんやりと 聞こえた 。
「僕 は 大丈夫 だ 。 でも こっち の バカ は ダメ だ - 杖 で 吹っ飛ば された 」
ドン と 鈍い 音 に 続いて 「アイタッ !」と 言う 大きな 声 が 聞こえた 。
ロン が ロック ハート の むこう 脛 を 蹴飛ばした ような 音 だった 。
「さあ 、どう する !」ロン の 声 は 必死 だった 。
「こっち から は 行け ない よ 。 何 年 も かかって しまう ...... 」
ハリー は トンネル の 天井 を 見上げた 。
巨大な 割れ目 が できて いる 。 ハリー は これまで 、こんな 岩石 の 山 の ような 大きな もの を 、魔法 で 砕いて みた こと が なかった 。 初めて それに 挑戦する には 、タイミング が よい とは 言えない ――トンネル 全体 が 潰れたら どうする ?
岩 の むこう から 、また 「ドン 」が 聞こえ 、「アイタッ !」が 聞こえた 。 時間 が むだに 過ぎて 行く 。
ジニー が 『秘密の 部屋 』に 連れ去られて から 何時間 も たっている ――ハリー に は 道 は 一つ しか ない こと が わかっていた 。 「そこで 待ってて 」ハリー は ロン に 呼びかけた 。
「ロックハート と 一緒に 待って いて 。 僕 が 先に 進む 。 一時間 たって 戻ら なかったら ...... 」
もの言い たげな 沈黙 が あった 。
「僕 は 尐し でも ここ の 岩石 を 取り崩して みる よ 」ロン は 、懸命に 落ち着いた 声 を 出そう と している ようだった 。
「そうすれば 君が ――帰り に ここを 通れる 。 だ から ハリー ――」
「それじゃ 、また あとで ね 」ハリーは 震える 声に 、なんとか 自信を 叩きこむ ように 言った 。
そして 、ハリーは たった 一人 、巨大な 蛇の 皮を 越えて 先に 進んだ 。
ロンが 力を 振りしぼって 、岩石を 動かそうと している 音も やがて 遠くなり 、聞こえなく なった 。 トンネルは くねくねと 何度も 曲がった 。 体中の 神経が きりきりと 不快に 痚んだ 。
ハリーは トンネルの 終わりが 来れば よいと 思いながらも 、そのときに 何が 見つかるか を 思うと 、恐ろしくも あった 。
また もう 一 つ の 曲り角 を そっと 曲がった 途端 、 遂に 前方 に 固い 壁 が 見えた 。
二匹の ヘビが 絡み合った 彫刻が 施して あり 、ヘビの 目には 輝く 大粒の エメラルドが 嵌め込んで あった 。
ハリーは 近づいて 行った 。 喉が カラカラだ 。 今度 は 石 の ヘビ を 本物 だ と 思い込む 必要 は なかった 。
ヘビ の 目 が 妙に 生き生き している 。 何 を すべき か 、ハリー に は 想像 が ついた 。 咳払い を した 。
すると エメラルド の 目 が チラチラ と 輝いた ようだった 。
『開け 』低く 幽かな シュー シュー という 音 だった 。
壁 が 二 つ に 裂け 、絡み合って いた ヘビ が 分かれ 、両側 の 壁 が 、スルスル と 滑る ように 見えなく なった 。
ハリー は 頭 の てっぺん から 足 の つま先 まで 震え ながら その 中 に 入って 行った 。