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銀河英雄伝説 01黎明篇, 第三章 帝国の残照 (3)

第 三 章 帝国 の 残照 (3)

「 全 人類 の 支配 者 に して 全 宇宙 の 統治 者 、 天 界 を 統べる 秩序 と 法則 の 保護 者 、 神聖に して 不可侵 なる 銀河 帝国 フリードリヒ 四 世 陛下 の ご 入来 ! 」 語尾 に 帝国 国歌 の 荘重な 旋律 が おおいかぶさる 。 それ に 首すじ を おさえつけられる ように 、 一同 は 深々と 頭 を たれた 。 幾 人 か は 口 の なか で 数 を かぞえて いた かも しれ ない 。 ゆっくり と 頭 を あげる と 、 黄金 張り の 豪 奢 な 椅子 に 彼ら の 皇帝 が すわって いた 。

銀河 帝国 第 三六 代 皇帝 フリードリヒ 四 世 。 六三 歳 の 、 奇妙に 困憊 した 印象 を あたえる 男 である 。 老人 と いう 年齢 で は ない のに 、 老人 と 形容 し たく なる ところ が ある 。 国 事 に は ほとんど 関心 が ない 。 絶対 的な その 権力 を 積極 的に 行使 する 能力 も 意思 も な さ そうに みえる 。 強烈 を きわめた 先祖 ルドルフ の 残 光 を 背負った 、 先祖 と は 正反対の ひ弱な 男 、 皇帝 フリードリヒ 四 世 。

皇帝 は 一〇 年 前 に 皇后 を 失った 。 難病 と は 言え ない 。 風邪 を こじら せて 肺炎 に かかった のである 。 ガン は はるか 昔 に 克服 さ れた が 、 風邪 を 病名 の リスト から 追放 する こと は 、 同盟 の 歴史 家 が 悪意 を こめて 記述 した ように 、〝 偉大なる ルドルフ の 威光 を もって して も 〟 不可能だった のだ 。

以後 、 皇帝 は 皇后 を たて ず 、 寵姫 の ひと り に グリューネワル 卜 伯爵 夫人 の 称号 を 贈り 、 事実 上 の 妻 の 座 を あたえて いる 。 しかし その 寵姫 は 大 貴族 の 出身 で は ない ため 、 公式 の 国 事 に 参列 する こと を 遠慮 し 、 この 夜 も 美しい 姿 を 人々 の 前 に あらわさ なかった 。 グリューネワルト 伯爵 夫人 、 本名 は アンネローゼ である 。

「 ローエングラム 伯 ラインハルト どの ! 」 式部 官 が 朗々と 式典 の 主人公 の 名 を 呼んだ 。 一同 は 、 今度 は 最 敬礼 する 必要 も なく 、 絨毯 を 踏んで 歩みよって くる 若い 武官 に 視線 を 送った 。

貴婦人 たち の あいだ から 歎声 が 洩 れる 。 ラインハルト に 反感 を 有して いる 者 ―― つまり 参列 者 の 大部分 ―― も 、 彼 の たぐい まれな 美貌 を 認め ない わけに は いか なかった 。

最 上質の 白磁 で 造ら れた 人形 の ように 端 麗 な 、 だが 人形 に して は 眼光 が するどく 、 表情 が 勁烈 に すぎる 。 彼 の 姉 アンネローゼ にたいする 皇帝 の 耽溺 と 、 彼 自身 の この 表情 が なかったら 、 この 君 臣 にたいして 男 色 に かんする 陰口 が たたか れる こと は 必至であったろう 。 参列 者 たち の さまざまな 感情 が いり乱れる なか を 、 武官 らしく きびきび した 歩調 で とおりぬける と 、 ラインハルト は 玉 座 の 前 に 立ち 、 心 に も なく うやうやしく 片 膝 を ついた 。

その 姿勢 で 、 皇帝 が 玉音 を 下 賜 さ れる の を 待つ 。 公式 の 場 に おいて 、 皇帝 に さき に 話しかける こと など 、 臣下 に は 許されて いない のだ 。 「 ローエングラム 伯 、 このたび の 武 勲 、 まことに みごとであった 」

およそ 個性 の ない 発言 であった 。

「 おそれいります 、 ひとえに 陛下 の 御 威光 の たまもの で ございます 」 ラインハルト の 応答 に も 個性 が ない が 、 これ は 計算 と 自制 の 結果 である 。 気 の きいた こと を 言って も 理解 できる 相手 で は ない し 、 参列 者 の 反感 をます だけ の こと だ 。 彼 に とって は 、 皇帝 が 式部 官 から 手わたされて 読みあげる 一 枚 の 紙片 の ほう が よほど 重要であった 。 「 アスターテ 星 域 に おける 叛乱 軍 討伐 の 功績 に より 、 汝 、 ローエングラム 伯 ラインハルト を 帝国 元帥 に 任ず 。 また 、 帝国 宇宙 艦隊 副 司令 長官 に 任じ 、 宇宙 艦隊 の 半数 を 汝 の 指揮 下 に おく もの と す 。 帝国 暦 四八七 年 三 月 一九 日 、 銀河 帝国 皇帝 フリードリヒ 四 世 」

ラインハルト は たちあがって 階 を のぼり 、 最 敬礼 と ともに その 辞令 を うけとった 。 ついで 元帥 杖 を さずけられる 。 この 瞬間 、 ローエングラム 伯 ラインハルト は 帝国 元帥 と なった 。

華やかな ほど の 微笑 を たたえ ながら 、 内心 で は けっして 満足 して は いない 。 これ は 彼 の 歩む べき 道程 の 、 ほんの 第 一 歩 に すぎ ない のだ 。 権力 に まかせて 彼 から 姉 を 奪った 無能 者 に とってかわる のだ 。

「 ふん 、 二〇 歳 の 元帥 か 」

低く つぶやいた の は 装甲 擲 弾 兵 総監 オフレッサー 上級 大将 だった 。 四〇 代 後半 の 筋骨 たくましい 巨漢 で 、 同盟 軍兵 士 の 放った レーザー 光線 で 截 られた 左 頰骨 の 傷跡 が 生々しい 紫色 を して いる 。 わざと 完治 さ せ ず 、 歴戦 の 猛 将 である こと を 誇示 して いる のだ 。

「 光輝 ある 帝国 宇宙 艦隊 は 、 いつ から 幼児 の 玩具 に なりさがった のです 。 閣下 ? 」 煽 動 する ように 彼 が ささやき かけた 相手 は 、 ラインハルト に 麾下 の 部隊 の 半数 を 奪わ れる 男 だった 。 宇宙 艦隊 司令 長官 ミュッケンベルガー 元帥 は 半 白 の 眉 を 微妙な 角度 に まげた 。

「 卿 は そう 言う が な 、 あの 金髪 の 孺子 に 用 兵 の 才能 が ある こと は 否定 でき ぬ 。 現に 叛乱 軍 を 撃破 して おる し 、 その 手腕 に は 百 戦 錬磨 の メルカッツ で さえ 舌 を まいて おる のだ 」

「 牙 を 抜か れた と みえます な 、 たしかに 」 武官 の 列 中 に 黙 然 と たたずむ メルカッツ 大将 の 姿 に 視線 を 投げて 、 オフレッサー は 容赦 なく 評した 。

「 勝った と は いえ 、 一 度 だけ で は 偶然 と いう こと も ありましょう 。 小 官 に 言わ せれば 、 敵 が 無能 すぎた と しか 思えません 。 勝敗 と は けっきょく 、 相対 的な もの です から な 」

「 声 が 高い 」

たしなめ は した が 、 元帥 は 上級 大将 の 発言 の 内容 そのもの を 否定 した わけで は なかった 。 ラインハルト の 功績 を なんら 心理 的 抵抗 なく 受容 する の は 、 大 貴族 出身 者 や 古参 の 将官 たち に とって 容易で は ない のだ 。 しかし 場所 が 場所 であり 、 元帥 は 話題 を 転じる 必要 を 感じた ようだった 。

「 ところで 、 その 敵 だ が な 、 ヤン と か いう 指揮 官 の 名 を 卿 は 知って おる か 」

「 さて …… 記憶 に ありません な 。 その 人物 が なに か ? 」 エル ・ ファシル の 件 を オフレッサー は 思いだせ なかった 。 「 今度 の 会戦 で 叛乱 軍 の 全面 崩壊 を 防ぎ 、 エルラッハ 少将 を 戦死 さ せた 男 だ 」

「 ほう 」

「 相当な 将 才 の 持ち主 らしい 。 さすが の 金髪 の 孺子 も 鼻 を へし折ら れた と いう 情報 で な 」

「 それ は 愉快 では ありません か 」 「 ラインハルト ひと り の こと であれば な 。 しかし 先方 は 戦う に あたって 敵 を えらぶ と 思う か ? 」 元帥 の 声 は さすが に にがにがし さ を おび 、 オフレッサー は 分厚い 肩 を 無器用に すくめた 。 〝 黒 真珠 の 間 〟 に ふたたび 音楽 が 流れ はじめた 。 勲 功 ある 武官 を たたえる 歌 、「 ワルキューレ は 汝 の 勇気 を 愛 せり 」 である 。

大 貴族 たち に とって 不愉快な 式典 は 終幕 に ちかづき つつ あった 。

ジークフリード ・ キルヒアイス 大佐 は 、 ほか の 佐官 級 の 軍人 たち と ともに 、 式場 から 幅広 の 廊下 ひと つ を 隔てた 〝 紫 水晶 の 間 〟 に ひかえて いた 。

貴族 でも 将官 で も ない キルヒアイス に は 、〝 黒 真珠 の 間 〟 に 入室 する 資格 が あたえ られて いない 。 しかし ここ 両日 中 に 彼 は 准将 を とびこして 少将 に 昇進 し 、〝 閣下 〟 と 呼ば れる 地位 を あたえられる こと が 確定 して いた 。 そうなれば 、 華麗な 式典 から 排除 さ れる こと も なくなる のだろう 。

ラインハルト さま が 階 梯 を ひと つ のぼる たび に 、 自分 も ひきずり あげられる …… キルヒアイス は かるく 身 慄 い した 。 自分 に 才 幹 が ない と は 思わ ない が 、 栄達 の 速度 が 普通で ない こと は たしかであり 、 それ が 自分 の 実力 ばかり に よる もの だ と 思ったらたいへんな こと に なる であろう 。 「 ジークフリード ・ キルヒアイス 大佐 です な 」

静かな 声 が 傍 から かけ られた 。

三〇 代 前半 と お ぼ しい 将校 が 、 キルヒアイス の 視線 の さき に 立って いた 。 階級 章 は 大佐 である 。 キルヒアイス に は およば ない が かなり の 長身 で 若 白髪 の 多い 黒っぽい 頭髪 に 薄い 茶色 の 目 を して おり 、 皮膚 は 青白い 。

「 そう です が 、 貴 官 は どなた です ? 」 「 パウル ・ フォン ・ オーベルシュタイン 大佐 です 。 お初 に お目にかかる 」

そう 言った とき 、 オーベルシュタイン と 名のった 男 の 両眼 に 、 異様な 光 が 浮かび 、 キルヒアイス を 驚かせた 。

「 失礼 ……」

オーベルシュタイン は つぶやいた 。 キルヒアイス の 表情 に 気づいた のであろう 。

「 義 眼 の 調子 が すこし 悪い ようだ 。 驚かせた ようで 申しわけない 。 明日 に でも とりかえる こと に しましょう 」 「 義 眼 を なさって いる のです か 、 いや 、 これ は こちら こそ 失礼な こと を ……」

「 なん の 、 お 気 に なさる な 。 光 コンピューター を くみこんで あって 、 こいつ の おかげ で まったく 不自由 せ ず に すんで います 。 ただ 、 どうも 寿命 が 短くて ね 」

「 戦傷 を うけ られた のです か ? 」 「 いや 、 生来 の もの です 。 もし 私 が ルドルフ 大帝 の 時代 に 生まれて いたら 、〝 劣悪 遺伝子 排除 法 〟 に ひっかかって 処分 されて いた でしょう な 」 その 声 は 、 空気 の 振動 が 音 と なって 人間 の 耳 に 聴 こえる 、 かろうじて その 下限 に あった が 、 キルヒアイス に 息 を の ませる に 充分だった 。 ルドルフ 大帝 にたいする 批判 めいた 発言 は 、 当然 、 不敬罪 の 対象 に なる のだ 。 「 貴 官 は よい 上官 を お もち だ 、 キルヒアイス 大佐 」

やや 声 を 大きく して オーベルシュタイン は 言った が 、 それ でも ささやき 以上 の もの に は なら なかった 。

「 よい 上官 と は 部下 の 才 幹 を 生かせる 人 を いう のです 。 現在 の 帝国 軍 に は いたって すくない 。 だが ローエングラム 伯 は ちがう 。 お 若い に 似 ず 、たいした お方 です な 。 門 閥 意識 ばかり 強い 大 貴族 ども に は 理解 し がたい でしょう が ……」

罠 にたいする 警告 信号 が 、 キルヒアイス の 脳裏 に 点滅 した 。 この オーベルシュタイン なる 男 が 、 ラインハルト の 失脚 を のぞむ 連中 の 操り 人形 で ない と 、 どうして 断言 できる だろう 。

「 貴 官 は 、 どこ の 部隊 に 所属 して おいで です ? 」 さりげなく 話題 を 転じる 。 「 いま まで は 統帥 本部 の 情報 処理 課 に い ました が 、 今度 、 イゼルローン 要塞 駐留 艦隊 の 幕僚 を 拝 命 し ました 」

答えて から 、 オーベルシュタイン は 薄く 笑った 。

「 用心 して おら れる ようだ 、 貴 官 は 」

一瞬 、 鼻 白んだ キルヒアイス が 、 なに か 言おう と した とき 、 入室 して くる ラインハルト の 姿 が 彼 の 視界 に 映った 。 式典 が 終了 した らしい 。

「 キルヒアイス 、 明日 ……」

声 を かけて 、 部下 の 傍 に いる 青白い 顔 の 男 に 気づいた 。

オーベルシュタイン は 敬礼 して 名のり 、 かたどおりの 短い 祝辞 を 述べる と 、 背 を むけて 去った 。

ラインハルト と キルヒアイス は 廊下 に でた 。 その 夜 は 彼ら は 宮殿 の 一隅 に ある 小さな 客 用 の 館 に 宿泊 する こと に なって いた 。 その 場所 まで 、 庭園 の 内部 を 一五 分 は 歩か なければ なら ない 。

「 キルヒアイス 、 明日 姉 上 に 会う 、 お前 も 来る だろう 」

夜空 の 下 に でた ところ で 、 ラインハルト が 言った 。

「 私 が 同行 して も よろしい のです か ? 」 「 なに を いまさら 、 遠慮 する 。 おれたち は 家族 だ ぞ 」

ラインハルト は 少年 の 笑顔 に なった が 、 それ を ひっこめる と やや 声 を 低めた 。

「 ところで 先刻 の 男 は 何者 だ ? 多少 、 気 に かかる な 」

キルヒアイス は 簡単に 事情 を 説明 し 、

「 どうも 得体の知れない 人 です 」

と 感想 を つけくわえた 。 ラインハルト は 描いた ように かたち の よい 眉 を かるく しかめて 聞いて いた が 、

「 たしかに 得体の知れない 男 だ な 」

と キルヒアイス の 意見 に 賛同 した 。

「 どういう つもり で お前 に ちかづいた か 知ら ない が 、 用心 して おく に こした こと は ない 。 もっとも こう 敵 が 多い と 、 用心 も なかなか 難しい か 」

ふた り は 同時に 笑った 。

Ⅲ グリューネワルト 伯爵 夫人 アンネローゼ の 館 は やはり 新 無 憂宮 の 一隅 に あった が 、 訪れる に は はでに 装飾 さ れた 宮廷 用 の 地上 車 で 一〇 分 も 走る 必要 が あった 。


第 三 章 帝国 の 残照 (3) だい|みっ|しょう|ていこく||ざんしょう

「 全 人類 の 支配 者 に して 全 宇宙 の 統治 者 、 天 界 を 統べる 秩序 と 法則 の 保護 者 、 神聖に して 不可侵 なる 銀河 帝国 フリードリヒ 四 世 陛下 の ご 入来 ! ぜん|じんるい||しはい|もの|||ぜん|うちゅう||とうち|もの|てん|かい||すべる|ちつじょ||ほうそく||ほご|もの|しんせいに||ふかしん||ぎんが|ていこく||よっ|よ|へいか|||いりき "The ruler of the whole universe as the ruler of all mankind, the guardian of the order and the law that governs the heavens, the sacred and inviolable Galactic Empire, His Majesty Friedrich IV! 」 語尾 に 帝国 国歌 の 荘重な 旋律 が おおいかぶさる 。 ごび||ていこく|こっか||そうちょうな|せんりつ|| The majestic melody of the imperial national anthem is overlaid at the end of the word. それ に 首すじ を おさえつけられる ように 、 一同 は 深々と 頭 を たれた 。 ||くびすじ|||よう に|いちどう||しんしんと|あたま|| 幾 人 か は 口 の なか で 数 を かぞえて いた かも しれ ない 。 いく|じん|||くち||||すう|||||| Some may have counted the numbers in their mouths. ゆっくり と 頭 を あげる と 、 黄金 張り の 豪 奢 な 椅子 に 彼ら の 皇帝 が すわって いた 。 ||あたま||||おうごん|はり||たけし|しゃ||いす||かれら||こうてい|||

銀河 帝国 第 三六 代 皇帝 フリードリヒ 四 世 。 ぎんが|ていこく|だい|さんろく|だい|こうてい||よっ|よ Galactic Empire The 36th Emperor Friedrich IV. 六三 歳 の 、 奇妙に 困憊 した 印象 を あたえる 男 である 。 ろくさん|さい||きみょうに|こんぱい||いんしょう|||おとこ| A 63-year-old man who gives a strangely embarrassed impression. 老人 と いう 年齢 で は ない のに 、 老人 と 形容 し たく なる ところ が ある 。 ろうじん|||ねんれい|||||ろうじん||けいよう|||||| 国 事 に は ほとんど 関心 が ない 。 くに|こと||||かんしん|| 絶対 的な その 権力 を 積極 的に 行使 する 能力 も 意思 も な さ そうに みえる 。 ぜったい|てきな||けんりょく||せっきょく|てきに|こうし||のうりょく||いし||||そう に| It seems that he has neither the ability nor the will to actively exercise that absolute power. 強烈 を きわめた 先祖 ルドルフ の 残 光 を 背負った 、 先祖 と は 正反対の ひ弱な 男 、 皇帝 フリードリヒ 四 世 。 きょうれつ|||せんぞ|||ざん|ひかり||せおった|せんぞ|||せいはんたいの|ひよわな|おとこ|こうてい||よっ|よ Emperor Friedrich IV, a weak man who was the exact opposite of his ancestors, carried the afterglow of his ancestor Rudolph.

皇帝 は 一〇 年 前 に 皇后 を 失った 。 こうてい||ひと|とし|ぜん||こうごう||うしなった The emperor lost the empress ten years ago. 難病 と は 言え ない 。 なんびょう|||いえ| It cannot be said to be an intractable disease. 風邪 を こじら せて 肺炎 に かかった のである 。 かぜ||||はいえん||| I had a cold and had pneumonia. ガン は はるか 昔 に 克服 さ れた が 、 風邪 を 病名 の リスト から 追放 する こと は 、 同盟 の 歴史 家 が 悪意 を こめて 記述 した ように 、〝 偉大なる ルドルフ の 威光 を もって して も 〟 不可能だった のだ 。 がん|||むかし||こくふく||||かぜ||びょうめい||りすと||ついほう||||どうめい||れきし|いえ||あくい|||きじゅつ||よう に|いだいなる|||いこう|||||ふかのうだった| Although cancer was overcome long ago, it is impossible to expel a cold from the list of disease names, even with the majesty of the great Rudolph, as historians of the Alliance maliciously described it. It was .

以後 、 皇帝 は 皇后 を たて ず 、 寵姫 の ひと り に グリューネワル 卜 伯爵 夫人 の 称号 を 贈り 、 事実 上 の 妻 の 座 を あたえて いる 。 いご|こうてい||こうごう||||ちょうき||||||ぼく|はくしゃく|ふじん||しょうごう||おくり|じじつ|うえ||つま||ざ||| Since then, the emperor has not appointed an empress, but has given the title of Countess Grunewal to one of the princesses, giving him the title of de facto wife. しかし その 寵姫 は 大 貴族 の 出身 で は ない ため 、 公式 の 国 事 に 参列 する こと を 遠慮 し 、 この 夜 も 美しい 姿 を 人々 の 前 に あらわさ なかった 。 ||ちょうき||だい|きぞく||しゅっしん|||||こうしき||くに|こと||さんれつ||||えんりょ|||よ||うつくしい|すがた||ひとびと||ぜん||あらわ さ| グリューネワルト 伯爵 夫人 、 本名 は アンネローゼ である 。 |はくしゃく|ふじん|ほんみょう||| Countess Grunewald, whose real name is Annerose.

「 ローエングラム 伯 ラインハルト どの ! |はく|| "Which is Reinhardt, Count of Lohengram! 」 式部 官 が 朗々と 式典 の 主人公 の 名 を 呼んだ 。 しきぶ|かん||ろうろうと|しきてん||しゅじんこう||な||よんだ The official of the ceremony cheerfully called the name of the main character of the ceremony. 一同 は 、 今度 は 最 敬礼 する 必要 も なく 、 絨毯 を 踏んで 歩みよって くる 若い 武官 に 視線 を 送った 。 いちどう||こんど||さい|けいれい||ひつよう|||じゅうたん||ふんで|あゆみよって||わかい|ぶかん||しせん||おくった They, this time without the need for the most salute, sent their eyes to the young military attaché who stepped on the carpet and walked.

貴婦人 たち の あいだ から 歎声 が 洩 れる 。 きふじん|||||たんこえ||えい| A cry is leaked between the ladies. ラインハルト に 反感 を 有して いる 者 ―― つまり 参列 者 の 大部分 ―― も 、 彼 の たぐい まれな 美貌 を 認め ない わけに は いか なかった 。 ||はんかん||ゆうして||もの||さんれつ|もの||だいぶぶん||かれ||||びぼう||みとめ|||||

最 上質の 白磁 で 造ら れた 人形 の ように 端 麗 な 、 だが 人形 に して は 眼光 が するどく 、 表情 が 勁烈 に すぎる 。 さい|じょうしつの|はくじ||つくら||にんぎょう||よう に|はし|うらら|||にんぎょう||||がんこう|||ひょうじょう||けいれつ|| It is as beautiful as a doll made of the finest white porcelain, but for a doll, the eyes are shining and the expression is too violent. 彼 の 姉 アンネローゼ にたいする 皇帝 の 耽溺 と 、 彼 自身 の この 表情 が なかったら 、 この 君 臣 にたいして 男 色 に かんする 陰口 が たたか れる こと は 必至であったろう 。 かれ||あね|||こうてい||たんでき||かれ|じしん|||ひょうじょう||||きみ|しん||おとこ|いろ|||かげぐち||たた か||||ひっしであったろう 参列 者 たち の さまざまな 感情 が いり乱れる なか を 、 武官 らしく きびきび した 歩調 で とおりぬける と 、 ラインハルト は 玉 座 の 前 に 立ち 、 心 に も なく うやうやしく 片 膝 を ついた 。 さんれつ|もの||||かんじょう||いりみだれる|||ぶかん||||ほちょう||||||たま|ざ||ぜん||たち|こころ|||||かた|ひざ||

その 姿勢 で 、 皇帝 が 玉音 を 下 賜 さ れる の を 待つ 。 |しせい||こうてい||ぎょくいん||した|たま|||||まつ In that position, wait for the emperor to give a jewel. 公式 の 場 に おいて 、 皇帝 に さき に 話しかける こと など 、 臣下 に は 許されて いない のだ 。 こうしき||じょう|||こうてい||||はなしかける|||しんか|||ゆるされて|| It is not allowed for his vassals to speak to the emperor earlier in the official arena. 「 ローエングラム 伯 、 このたび の 武 勲 、 まことに みごとであった 」 |はく|||ぶ|いさお|| "Count Loengram, this time's martial arts, it was truly wonderful."

およそ 個性 の ない 発言 であった 。 |こせい|||はつげん| It was a statement with almost no individuality.

「 おそれいります 、 ひとえに 陛下 の 御 威光 の たまもの で ございます 」 ||へいか||ご|いこう|||| "I'm afraid, it's just a tribute to His Majesty's majesty." ラインハルト の 応答 に も 個性 が ない が 、 これ は 計算 と 自制 の 結果 である 。 ||おうとう|||こせい||||||けいさん||じせい||けっか| 気 の きいた こと を 言って も 理解 できる 相手 で は ない し 、 参列 者 の 反感 をます だけ の こと だ 。 き|||||いって||りかい||あいて|||||さんれつ|もの||はんかん||||| 彼 に とって は 、 皇帝 が 式部 官 から 手わたされて 読みあげる 一 枚 の 紙片 の ほう が よほど 重要であった 。 かれ||||こうてい||しきぶ|かん||てわたされて|よみあげる|ひと|まい||しへん|||||じゅうようであった 「 アスターテ 星 域 に おける 叛乱 軍 討伐 の 功績 に より 、 汝 、 ローエングラム 伯 ラインハルト を 帝国 元帥 に 任ず 。 |ほし|いき|||はんらん|ぐん|とうばつ||こうせき|||なんじ||はく|||ていこく|げんすい||にんず また 、 帝国 宇宙 艦隊 副 司令 長官 に 任じ 、 宇宙 艦隊 の 半数 を 汝 の 指揮 下 に おく もの と す 。 |ていこく|うちゅう|かんたい|ふく|しれい|ちょうかん||にんじ|うちゅう|かんたい||はんすう||なんじ||しき|した||||| 帝国 暦 四八七 年 三 月 一九 日 、 銀河 帝国 皇帝 フリードリヒ 四 世 」 ていこく|こよみ|しはちしち|とし|みっ|つき|いちきゅう|ひ|ぎんが|ていこく|こうてい||よっ|よ

ラインハルト は たちあがって 階 を のぼり 、 最 敬礼 と ともに その 辞令 を うけとった 。 |||かい|||さい|けいれい||||じれい|| Reinhardt went upstairs and received his resignation with the highest salute. ついで 元帥 杖 を さずけられる 。 |げんすい|つえ|| この 瞬間 、 ローエングラム 伯 ラインハルト は 帝国 元帥 と なった 。 |しゅんかん||はく|||ていこく|げんすい||

華やかな ほど の 微笑 を たたえ ながら 、 内心 で は けっして 満足 して は いない 。 はなやかな|||びしょう||||ないしん||||まんぞく||| これ は 彼 の 歩む べき 道程 の 、 ほんの 第 一 歩 に すぎ ない のだ 。 ||かれ||あゆむ||どうてい|||だい|ひと|ふ|||| 権力 に まかせて 彼 から 姉 を 奪った 無能 者 に とってかわる のだ 。 けんりょく|||かれ||あね||うばった|むのう|もの||| It replaces the incompetent who robbed him of his sister in power.

「 ふん 、 二〇 歳 の 元帥 か 」 |ふた|さい||げんすい|

低く つぶやいた の は 装甲 擲 弾 兵 総監 オフレッサー 上級 大将 だった 。 ひくく||||そうこう|なげう|たま|つわもの|そうかん||じょうきゅう|たいしょう| The one who muttered low was Colonel General Offlesser, General Manager of Armored Ammunition. 四〇 代 後半 の 筋骨 たくましい 巨漢 で 、 同盟 軍兵 士 の 放った レーザー 光線 で 截 られた 左 頰骨 の 傷跡 が 生々しい 紫色 を して いる 。 よっ|だい|こうはん||きんこつ||きょかん||どうめい|ぐんぴょう|し||はなった|れーざー|こうせん||せつ||ひだり|頰ほね||きずあと||なまなましい|むらさきいろ||| わざと 完治 さ せ ず 、 歴戦 の 猛 将 である こと を 誇示 して いる のだ 。 |かんち||||れきせん||もう|すすむ||||こじ||| Instead of being completely cured, he is showing off that he is a veteran warlord.

「 光輝 ある 帝国 宇宙 艦隊 は 、 いつ から 幼児 の 玩具 に なりさがった のです 。 みつてる||ていこく|うちゅう|かんたい||||ようじ||がんぐ|||の です 閣下 ? かっか 」 煽 動 する ように 彼 が ささやき かけた 相手 は 、 ラインハルト に 麾下 の 部隊 の 半数 を 奪わ れる 男 だった 。 あお|どう||よう に|かれ||||あいて||||きか||ぶたい||はんすう||うばわ||おとこ| 宇宙 艦隊 司令 長官 ミュッケンベルガー 元帥 は 半 白 の 眉 を 微妙な 角度 に まげた 。 うちゅう|かんたい|しれい|ちょうかん||げんすい||はん|しろ||まゆ||びみょうな|かくど|| Marshal Muckenberger, Commander-in-Chief of the Space Fleet, turned his half-white eyebrows to a subtle angle.

「 卿 は そう 言う が な 、 あの 金髪 の 孺子 に 用 兵 の 才能 が ある こと は 否定 でき ぬ 。 きょう|||いう||||きんぱつ||じゅし||よう|つわもの||さいのう|||||ひてい|| "Sir says so, but I can't deny that the blonde 孺 子 has the talent of a soldier. 現に 叛乱 軍 を 撃破 して おる し 、 その 手腕 に は 百 戦 錬磨 の メルカッツ で さえ 舌 を まいて おる のだ 」 げんに|はんらん|ぐん||げきは|||||しゅわん|||ひゃく|いくさ|れんま|||||した||||

「 牙 を 抜か れた と みえます な 、 たしかに 」 きば||ぬか||||| 武官 の 列 中 に 黙 然 と たたずむ メルカッツ 大将 の 姿 に 視線 を 投げて 、 オフレッサー は 容赦 なく 評した 。 ぶかん||れつ|なか||もく|ぜん||||たいしょう||すがた||しせん||なげて|||ようしゃ||ひょうした

「 勝った と は いえ 、 一 度 だけ で は 偶然 と いう こと も ありましょう 。 かった||||ひと|たび||||ぐうぜん||||| 小 官 に 言わ せれば 、 敵 が 無能 すぎた と しか 思えません 。 しょう|かん||いわ||てき||むのう||||おもえません 勝敗 と は けっきょく 、 相対 的な もの です から な 」 しょうはい||||そうたい|てきな||||

「 声 が 高い 」 こえ||たかい

たしなめ は した が 、 元帥 は 上級 大将 の 発言 の 内容 そのもの を 否定 した わけで は なかった 。 ||||げんすい||じょうきゅう|たいしょう||はつげん||ないよう|その もの||ひてい|||| Although he did, the Marshal did not deny the content of the Colonel General's remarks. ラインハルト の 功績 を なんら 心理 的 抵抗 なく 受容 する の は 、 大 貴族 出身 者 や 古参 の 将官 たち に とって 容易で は ない のだ 。 ||こうせき|||しんり|てき|ていこう||じゅよう||||だい|きぞく|しゅっしん|もの||こさん||しょうかん||||よういで||| Accepting Reinhardt's achievements without any psychological resistance is not easy for aristocrats and veteran generals. しかし 場所 が 場所 であり 、 元帥 は 話題 を 転じる 必要 を 感じた ようだった 。 |ばしょ||ばしょ||げんすい||わだい||てんじる|ひつよう||かんじた|

「 ところで 、 その 敵 だ が な 、 ヤン と か いう 指揮 官 の 名 を 卿 は 知って おる か 」 ||てき||||||||しき|かん||な||きょう||しって||

「 さて …… 記憶 に ありません な 。 |きおく||| その 人物 が なに か ? |じんぶつ||| What is that person? 」 エル ・ ファシル の 件 を オフレッサー は 思いだせ なかった 。 |||けん||||おもいだせ| 「 今度 の 会戦 で 叛乱 軍 の 全面 崩壊 を 防ぎ 、 エルラッハ 少将 を 戦死 さ せた 男 だ 」 こんど||かいせん||はんらん|ぐん||ぜんめん|ほうかい||ふせぎ||しょうしょう||せんし|||おとこ| "The man who prevented the rebellion from collapsing in the upcoming battle and killed Maj. Gen. Ellach."

「 ほう 」

「 相当な 将 才 の 持ち主 らしい 。 そうとうな|すすむ|さい||もちぬし| さすが の 金髪 の 孺子 も 鼻 を へし折ら れた と いう 情報 で な 」 ||きんぱつ||じゅし||はな||へしおら||||じょうほう|| It's not the information that the blonde, Keiko, had her nose broken. "

「 それ は 愉快 では ありません か 」 ||ゆかい||| 「 ラインハルト ひと り の こと であれば な 。 しかし 先方 は 戦う に あたって 敵 を えらぶ と 思う か ? |せんぽう||たたかう|||てき||||おもう| 」 元帥 の 声 は さすが に にがにがし さ を おび 、 オフレッサー は 分厚い 肩 を 無器用に すくめた 。 げんすい||こえ||||||||||ぶあつい|かた||ぶきよう に| 〝 黒 真珠 の 間 〟 に ふたたび 音楽 が 流れ はじめた 。 くろ|しんじゅ||あいだ|||おんがく||ながれ| 勲 功 ある 武官 を たたえる 歌 、「 ワルキューレ は 汝 の 勇気 を 愛 せり 」 である 。 いさお|いさお||ぶかん|||うた|||なんじ||ゆうき||あい||

大 貴族 たち に とって 不愉快な 式典 は 終幕 に ちかづき つつ あった 。 だい|きぞく||||ふゆかいな|しきてん||しゅうまく||||

ジークフリード ・ キルヒアイス 大佐 は 、 ほか の 佐官 級 の 軍人 たち と ともに 、 式場 から 幅広 の 廊下 ひと つ を 隔てた 〝 紫 水晶 の 間 〟 に ひかえて いた 。 ||たいさ||||さかん|きゅう||ぐんじん||||しきじょう||はばひろ||ろうか||||へだてた|むらさき|すいしょう||あいだ|||

貴族 でも 将官 で も ない キルヒアイス に は 、〝 黒 真珠 の 間 〟 に 入室 する 資格 が あたえ られて いない 。 きぞく||しょうかん|||||||くろ|しんじゅ||あいだ||にゅうしつ||しかく|||| しかし ここ 両日 中 に 彼 は 准将 を とびこして 少将 に 昇進 し 、〝 閣下 〟 と 呼ば れる 地位 を あたえられる こと が 確定 して いた 。 ||りょうじつ|なか||かれ||じゅんしょう|||しょうしょう||しょうしん||かっか||よば||ちい|||||かくてい|| そうなれば 、 華麗な 式典 から 排除 さ れる こと も なくなる のだろう 。 そう なれば|かれいな|しきてん||はいじょ||||||

ラインハルト さま が 階 梯 を ひと つ のぼる たび に 、 自分 も ひきずり あげられる …… キルヒアイス は かるく 身 慄 い した 。 |||かい|はしご|||||||じぶん|||||||み|りつ|| 自分 に 才 幹 が ない と は 思わ ない が 、 栄達 の 速度 が 普通で ない こと は たしかであり 、 それ が 自分 の 実力 ばかり に よる もの だ と 思ったらたいへんな こと に なる であろう 。 じぶん||さい|みき|||||おもわ|||えいたつ||そくど||ふつうで|||||||じぶん||じつりょく|||||||おもったらたいへんな|||| 「 ジークフリード ・ キルヒアイス 大佐 です な 」 ||たいさ||

静かな 声 が 傍 から かけ られた 。 しずかな|こえ||そば|||

三〇 代 前半 と お ぼ しい 将校 が 、 キルヒアイス の 視線 の さき に 立って いた 。 みっ|だい|ぜんはん|||||しょうこう||||しせん||||たって| 階級 章 は 大佐 である 。 かいきゅう|しょう||たいさ| キルヒアイス に は およば ない が かなり の 長身 で 若 白髪 の 多い 黒っぽい 頭髪 に 薄い 茶色 の 目 を して おり 、 皮膚 は 青白い 。 ||||||||ちょうしん||わか|しらが||おおい|くろっぽい|とうはつ||うすい|ちゃいろ||め||||ひふ||あおじろい

「 そう です が 、 貴 官 は どなた です ? |||とうと|かん||| 」 「 パウル ・ フォン ・ オーベルシュタイン 大佐 です 。 |||たいさ| お初 に お目にかかる 」 おはつ||おめにかかる

そう 言った とき 、 オーベルシュタイン と 名のった 男 の 両眼 に 、 異様な 光 が 浮かび 、 キルヒアイス を 驚かせた 。 |いった||||なのった|おとこ||りょうがん||いような|ひかり||うかび|||おどろかせた

「 失礼 ……」 しつれい

オーベルシュタイン は つぶやいた 。 キルヒアイス の 表情 に 気づいた のであろう 。 ||ひょうじょう||きづいた|

「 義 眼 の 調子 が すこし 悪い ようだ 。 ただし|がん||ちょうし|||わるい| 驚かせた ようで 申しわけない 。 おどろかせた||もうし わけない 明日 に でも とりかえる こと に しましょう 」 あした|||||| 「 義 眼 を なさって いる のです か 、 いや 、 これ は こちら こそ 失礼な こと を ……」 ただし|がん||||の です|||||||しつれいな||

「 なん の 、 お 気 に なさる な 。 |||き||| 光 コンピューター を くみこんで あって 、 こいつ の おかげ で まったく 不自由 せ ず に すんで います 。 ひかり|こんぴゅーたー|||||||||ふじゆう||||| ただ 、 どうも 寿命 が 短くて ね 」 ||じゅみょう||みじかくて|

「 戦傷 を うけ られた のです か ? せんしょう||||の です| 」 「 いや 、 生来 の もの です 。 |せいらい||| もし 私 が ルドルフ 大帝 の 時代 に 生まれて いたら 、〝 劣悪 遺伝子 排除 法 〟 に ひっかかって 処分 されて いた でしょう な 」 |わたくし|||たいてい||じだい||うまれて||れつあく|いでんし|はいじょ|ほう|||しょぶん|||| その 声 は 、 空気 の 振動 が 音 と なって 人間 の 耳 に 聴 こえる 、 かろうじて その 下限 に あった が 、 キルヒアイス に 息 を の ませる に 充分だった 。 |こえ||くうき||しんどう||おと|||にんげん||みみ||き||||かげん||||||いき|||||じゅうぶんだった ルドルフ 大帝 にたいする 批判 めいた 発言 は 、 当然 、 不敬罪 の 対象 に なる のだ 。 |たいてい||ひはん||はつげん||とうぜん|ふけいざい||たいしょう||| 「 貴 官 は よい 上官 を お もち だ 、 キルヒアイス 大佐 」 とうと|かん|||じょうかん||||||たいさ

やや 声 を 大きく して オーベルシュタイン は 言った が 、 それ でも ささやき 以上 の もの に は なら なかった 。 |こえ||おおきく||||いった|||||いじょう||||||

「 よい 上官 と は 部下 の 才 幹 を 生かせる 人 を いう のです 。 |じょうかん|||ぶか||さい|みき||いかせる|じん|||の です 現在 の 帝国 軍 に は いたって すくない 。 げんざい||ていこく|ぐん|||| だが ローエングラム 伯 は ちがう 。 ||はく|| お 若い に 似 ず 、たいした お方 です な 。 |わかい||に|||おかた|| 門 閥 意識 ばかり 強い 大 貴族 ども に は 理解 し がたい でしょう が ……」 もん|ばつ|いしき||つよい|だい|きぞく||||りかい||||

罠 にたいする 警告 信号 が 、 キルヒアイス の 脳裏 に 点滅 した 。 わな||けいこく|しんごう||||のうり||てんめつ| この オーベルシュタイン なる 男 が 、 ラインハルト の 失脚 を のぞむ 連中 の 操り 人形 で ない と 、 どうして 断言 できる だろう 。 |||おとこ||||しっきゃく|||れんちゅう||あやつり|にんぎょう|||||だんげん||

「 貴 官 は 、 どこ の 部隊 に 所属 して おいで です ? とうと|かん||||ぶたい||しょぞく||| 」 さりげなく 話題 を 転じる 。 |わだい||てんじる 「 いま まで は 統帥 本部 の 情報 処理 課 に い ました が 、 今度 、 イゼルローン 要塞 駐留 艦隊 の 幕僚 を 拝 命 し ました 」 |||とうすい|ほんぶ||じょうほう|しょり|か|||||こんど||ようさい|ちゅうりゅう|かんたい||ばくりょう||おが|いのち||

答えて から 、 オーベルシュタイン は 薄く 笑った 。 こたえて||||うすく|わらった

「 用心 して おら れる ようだ 、 貴 官 は 」 ようじん|||||とうと|かん|

一瞬 、 鼻 白んだ キルヒアイス が 、 なに か 言おう と した とき 、 入室 して くる ラインハルト の 姿 が 彼 の 視界 に 映った 。 いっしゅん|はな|しらんだ|||||いおう||||にゅうしつ|||||すがた||かれ||しかい||うつった 式典 が 終了 した らしい 。 しきてん||しゅうりょう||

「 キルヒアイス 、 明日 ……」 |あした

声 を かけて 、 部下 の 傍 に いる 青白い 顔 の 男 に 気づいた 。 こえ|||ぶか||そば|||あおじろい|かお||おとこ||きづいた

オーベルシュタイン は 敬礼 して 名のり 、 かたどおりの 短い 祝辞 を 述べる と 、 背 を むけて 去った 。 ||けいれい||なのり||みじかい|しゅくじ||のべる||せ|||さった

ラインハルト と キルヒアイス は 廊下 に でた 。 ||||ろうか|| その 夜 は 彼ら は 宮殿 の 一隅 に ある 小さな 客 用 の 館 に 宿泊 する こと に なって いた 。 |よ||かれら||きゅうでん||いちぐう|||ちいさな|きゃく|よう||かん||しゅくはく||||| その 場所 まで 、 庭園 の 内部 を 一五 分 は 歩か なければ なら ない 。 |ばしょ||ていえん||ないぶ||いちご|ぶん||あるか|||

「 キルヒアイス 、 明日 姉 上 に 会う 、 お前 も 来る だろう 」 |あした|あね|うえ||あう|おまえ||くる|

夜空 の 下 に でた ところ で 、 ラインハルト が 言った 。 よぞら||した|||||||いった

「 私 が 同行 して も よろしい のです か ? わたくし||どうこう||||の です| 」 「 なに を いまさら 、 遠慮 する 。 |||えんりょ| おれたち は 家族 だ ぞ 」 ||かぞく||

ラインハルト は 少年 の 笑顔 に なった が 、 それ を ひっこめる と やや 声 を 低めた 。 ||しょうねん||えがお|||||||||こえ||ひくめた

「 ところで 先刻 の 男 は 何者 だ ? |せんこく||おとこ||なにもの| 多少 、 気 に かかる な 」 たしょう|き|||

キルヒアイス は 簡単に 事情 を 説明 し 、 ||かんたんに|じじょう||せつめい|

「 どうも 得体の知れない 人 です 」 |えたいのしれない|じん|

と 感想 を つけくわえた 。 |かんそう|| ラインハルト は 描いた ように かたち の よい 眉 を かるく しかめて 聞いて いた が 、 ||えがいた|よう に||||まゆ||||きいて||

「 たしかに 得体の知れない 男 だ な 」 |えたいのしれない|おとこ||

と キルヒアイス の 意見 に 賛同 した 。 |||いけん||さんどう|

「 どういう つもり で お前 に ちかづいた か 知ら ない が 、 用心 して おく に こした こと は ない 。 |||おまえ||||しら|||ようじん||||||| もっとも こう 敵 が 多い と 、 用心 も なかなか 難しい か 」 ||てき||おおい||ようじん|||むずかしい|

ふた り は 同時に 笑った 。 |||どうじに|わらった

Ⅲ グリューネワルト 伯爵 夫人 アンネローゼ の 館 は やはり 新 無 憂宮 の 一隅 に あった が 、 訪れる に は はでに 装飾 さ れた 宮廷 用 の 地上 車 で 一〇 分 も 走る 必要 が あった 。 |はくしゃく|ふじん|||かん|||しん|む|ゆうみや||いちぐう||||おとずれる||||そうしょく|||きゅうてい|よう||ちじょう|くるま||ひと|ぶん||はしる|ひつよう||