ローザ と ジバル
ローザ と ジバル
むかし むかし 、 ある ところ に 、 三人 の 娘 を 持った お 金持ち の 商人 ( しょうにん ) が いました 。 上 の 二 人 は わがままで 、一 日 中 、おしゃれ を する 事 ばかり 考えて い ました 。 けれども 一 番 下 の ローザ は 、 気 だて の やさしい お 父さん 思い の 娘 でした 。
お 父さん は 運 の 悪い 事 が 続いて 、財産 を すっかり なくして しまい ました 。 でも わずかです が 、まだ 遠く の 町 に お 金 が あずけて あり ます 。 そこ で お 父さん は 、 お 金 を 取り に 旅 に 出かける こと に し ました 。 ところが 上 の 娘 たち は 、お父さん が 貧乏に なった って そんな 事 は おかまいなしです 。 「お父さん 。 お みやげ に は 、 絹 ( きぬ ) の 着物 と 宝石 を 買って 来て ね 」 と 、 ねだりました 。 お父さん は 、だまって いる 下 の 娘 に 尋ねました 。 「ローザ 。 お前 は 、何 が 欲しい か ね ? 」「・・・小さな バラ の 花 を 、一 本 ください 。 ほか の 物 は 、何も いりません わ 」と 、ローザ は 答えました 。 お 父さん は 、遠く の 町 まで 出かけ ました 。 その 帰り に お 父さん は 道 に 迷って 、いつの間にか 深い 森 の 中 へ 入って しまい ました 。 あいにくの 大雨 で 、びしょぬれ です 。 しかも 運 の 悪い 事 は 続く もの で 、 強盗 ( ごうとう ) に あって お 金 も ウマ も 荷物 も そっくり 取られて しまった の です 。 お 父さん は 、雨 の 森 を あて も なく トボトボ と 歩いて いき ました 。 ふと 見る と 、遠く の 方 に 明かり が 見え ます 。 お 父さん は 、その 明かり を めざして 歩いて 行き ました 。 そして 、ご殿 の ように 立派 な 家 の 前 に 出 ました 。 お 父さん は ヘトヘトに 疲れて おり 、しかも お腹 は ペコペコ です 。 思い切って 、中 へ 入って みました 。 そこ は 台所 で 、誰 も いない のに かまど が 赤々と 燃えて いました 。 お 父さん は ぬれた 着物 を かわかす と 、次の 部屋 へ 入って みました 。 そこ は 、食堂 でした 。 誰 も いない のに テーブル に は 食事 の 支度 が して あって 、スープ が おいし そうな に おい を たてて いました 。 お父さん は もう たまらなく なって 、スープ を 飲みはじめました 。 すると 驚いた 事 に 、スープ を 飲み終える と いつの間にか お皿 が かわって 肉 が 出てきました 。 こうして お 皿 は 次々 と かわって 、最後に は コーヒー まで 出た のです 。 お腹 が いっぱいに なった ので 、お 父さん は となり の 部屋 へ 入って み ました 。 そこ に は 立派な ベット が あって 、いつでも 寝 られる ように なって い ました 。 お 父さん は 絹 の ふとん に くるまって 、朝 まで グッスリ と 眠り ました 。
あくる 朝 、お父さん が 起きる と 食堂 に は 朝 の 食事 が 出来て いました 。 お父さん は 食事 を すまして から 、庭 に 出て みました 。 そこ は 今 まで 見た 事 もない ほど 美しい 庭 で 、 ありとあらゆる 果物 ( くだもの ) が なり 、 美しい 花 が 咲いて いました 。 バラ の 花 を 見た 時 、お父さん は ローザ と の 約束 を 思い出し ました 。 「そうだ 。 一 本 だけ 、もらって いこう 」お 父さん が 一 本 の バラ を 折った とたん 、突然 恐ろしい 物音 が して 、恐ろしい 姿 の 魔物 が 現れ ました 。 「わし の 家 に だまって 入って 、大切な バラ を 盗む と は 何事 だ ! お前 の 首 を ヘ し 折って やる ぞ ! 」 お 父さん は 驚いて 、自分 の 不幸せな 旅 の 話 や ローザ と の 約束 の 事 を 話し ました 。 すると 魔物 は 、怖い 声 で 言い ました 。 「 では 、わし の 大切な バラ を 折った かわり に 、お前 の 一 番 大事な 物 を よこせ 。 下 の 娘 の ローザ を 、連れて こい 。 わし の 妻 に する 。 それ が いや なら 、今 すぐ お前 の 首 を へし折って やる ! 」仕方 が あり ませ ん 。 お 父さん は 魔物 に 娘 を 連れてくる と 約束 して 、やっと 家 へ 帰して もらい ました 。
お 父さん は 家 に 帰る と 、むかえ に 出た ローザ に バラ を 渡して さめざめ と 泣き ました 。 「 お 父さま 。 どう なさった の ? どんなに 貧乏に なって も 、いい じゃ あり ませ ん か 。 みんな で 仲良く 、やって いけ ます わ 」と 、ローザ は お父さん を なぐさめ ました 。 「ああ 、ローザ 。 えらい 事 に 、なって しまった んだ よ 。 わたし の 命 より も 、大切な お前 が ・・・。 そう だ ! 可愛い お前 を やる くらい なら 、わたし の 命 を 取ら れた 方 が ましだ 」 お 父さん は 泣き ながら 、魔物 と の 約束 を ローザ に 話し ました 。 「 お 父さん も 、 泣か ないで ください 。 わたし は お 嫁 に いく だけ で 、死ぬ わけで は ない のでしょう 。 ・・・それ に きっと 、神さま が 守って ください ます わ 」
あくる 日 、 お 父さん は ローザ を 連れて 、 魔物 の ご殿 へ 出かけました 。 ご殿 で は 、二人 分 の 食事 が 用意 して ありました 。 お 父さん は 娘 と 別れ の 食事 を して 、 ションボリ と 帰って いきました 。
さて 、一人 残された ローザは 、いつ 魔物が 出てくるか と ビクビクしながら ご殿の 中を 見てまわりました 。 魔物の ご殿ですが 、どの 部屋も どの 部屋も 美しく かざられており 、若い 娘の 喜びそうな 物が いっぱい ありました 。 ご殿中を 探しても 、魔物は どこにも いませんでした 。 魔物 だけ で なく 、 召使い の 姿 も 見えません 。 けれども どこ か で 見て いる の か 、 ローザ が し たい と 思う 事 は 何でも して くれ ました 。 ローザ は どこ から と も なく 聞こえて くる 音楽 を 聞き ながら 、 夕食 を 食べて 美しい 部屋 で 眠り ました 。 ローザ が 魔物 に 会った の は 、次の 日 の 朝 でした 。 ローザ は 世界 中 の 花 を 集めた ような 、すばらしい 花だん を さんぽ して い ました 。 する と ものすごい 地ひびき が して 、むこう から 恐ろしい 姿 を した 魔物 が 、わめき ながら やって来た のです 。 ローザ は 怖くて 怖くて 、気が 遠く なりそうでした 。 けれども 魔物 は ローザ に 気がつく と 、急に 静かに なって ローザ に 優しく 言いました 。 「怖がらないで おくれ 。 わし は 、悪い 者 で は ない 。 どうか この ご殿 で 、幸せに 暮らし ておくれ 」そして 魔物 は 、そっと 言い ました 。 「ローザ 、わし に キス して くれ ない か ? 」ローザ は 、真っ青に なり ました 。 どうして 、こんな 恐ろしい 魔物 に キス が 出来る で しよう 。 怖がる ローザ を 見る と 、魔物 は 悲しそうに 言いました 。 「いや 、いいんだよ 。 嫌なら 、仕方がない 。 ビックリ させて 、すまなかった 。 ・・・お前 が 心から キス して くれる まで 、わし は いつまでも 待って いる よ 」こうして ローザ は 、魔物 の ご殿 で 暮らし はじめました 。
魔物 は 、ジバル と いいました 。 ジバル に 会う の は 、毎朝 八 時 から 九 時 の 間 だけ でした 。 毎朝 会って 話し を する うちに 、だんだん ジバル が 怖く なく なりました 。 いいえ 、それどころか 、ジバル に 会う のが 待ち遠しく なって きた のです 。 けれども キス を する 気持ち には 、どうしても なれません 。
いつの間にか 、 一 年 が 過ぎました 。 ローザ は 、家 が 恋しく なり ました 。 (お 父さん たち は 、どうして いる かしら ? )そう 思う と 、もう たまらなく お 父さん の 顔 が 見たく なり ました 。 ローザ の 願い を 、ジバル は 聞いて くれ ました 。 「そんなに 会いたい のなら 、行かせてあげよう 。 今夜 は いつものように 、寝なさい 。 明日 の 朝 は 、お父さん の 家 で 目を覚ます だろう 。 そして 帰る 時 は 、寝る 前 に ここ に 帰りたい と 言えば いい 。 だが 、あさって は 必ず 帰って き ておくれ 。 でないと お前 も わし も 、とんでもない こと に なる 。 どうか それ だけ は 、忘れ ないで おくれ 」
あくる 朝 、目 を 覚ました ローザ は 、なつかしい お父さん の 家 に いました 。 お 父さん は 夢 か と ばかり 喜んで 、ローザ を 抱きしめ ます 。 ローザ は 魔物 の ご殿 で の 暮らし を 話して 、 お 父さん を 安心 さ せ ました 。 「 お 父さん 、心配 し ないで ください 。 欲しい 物 は 何でも もらえ ます し 、ジバル は 見た ところ は 恐ろしい 魔物 です が 、とても やさしい のです 。 わたくし を 、 それ は 大事に して くれます の 」 二人 の 姉さん は ローザ の 幸せ そうな ようす を 見て 、 しゃくに さわりました 。 魔物 に ひどい 目 に あわされて いる と 思った のに 、 ローザ は まるで お姫さま の よう に 立派な 着物 を 着て 、 ますます 美しく かがやいて いる から です 。 姉さん たち は 、 妹 を 不幸せな 目 に 会わ せて やろう と 思いました 。 妹が 約束の 時間に 帰らない と 大変な 事に なる と 言うと 、いかにも 悲しそうに こう 言いました 。 「たった 一 日 で 帰る なんて 、じょうだん じゃ ない わ 。 まさか 、そんな 親不孝な 事 は し ない でしょう ね 。 お 父さん と 魔物 と 、どっち が 大事な の ? わたし たち だって 、悲しい わ 」心 の 優しい ローザ は 魔物 と の 約束 が 気 に なり ました が 、つい 一 日 、帰り を のばして しまい ました 。
次の 日 の 夜 、ローザ は ジバル の 顔 を 思い浮かべて 、「明日 の 朝 、ジバル の ところ へ 帰り ます 」と 、言い ながら 目 を つぶり ました 。
次の 日 の 朝 、ローザ は 魔物 の ご殿 の しんだい の 上 で 目 を 覚まし ました 。 ローザ は 、すぐ に 庭 に 出 ました 。 でも いつも の 八 時 に なって も 、ジバル は 現れ ませ ん 。 「ジバル 、ジバル 。 ジバル は 、どこ な の ? 」ローザ は 大声 で 呼び ながら 、庭 中 を 探し まわり ました 。 すると ジバル は 庭 の すみ の しげみ の かげ に 、死んだ ように 倒れて い ました 。 ローザ の 目 から 、どっと 涙 が あふれ出 ました 。 「ああ 、ジバル 、許して 。 わたし の 大事な ジバル 」ローザ は 泣きながら 、ジバル の そば に ひざまずいて キス を し ました 。 する と 突然 、 ジバル の みにくい 魔物 の 皮 が おちて 、 世にも 美しい 立派な 若者 が 立ち あがった の です 。 若者 は ローザ を 、しっかりと 抱きしめました 。 ジバル は 遠く の 国 の 王子 で 、 もう 七 年 の 間 、 魔法 を かけられて いた の です 。 そして ローザ と いう 名 の 娘 に 心から キス を して もらわ なければ 、 元 の 姿 に 戻れ なかった の です 。 ジバル 王子 と ローザ は 、お父さん と 二 人 の 姉さん と 一緒に 王子 の 国 ヘ 戻りました 。 王子 の 魔法 が とけた と いう 知らせ に 、国 中 の 人々 が 喜び ました 。 ジバル 王子 と 心 の 優しい ローザ は 結婚 して 、いつまでも 幸せに 暮らし ました 。
この お 話 は 、有名な 『美女 と 野獣 』の 類話 です 。
おしまい