三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 03
3 嘆き の 恋人 たち
「あら 、パトカー 」
と 、綾子 が 言った 。
「本当 だ 。
──何 か あった の か なあ 」
珠美 は 、たちまち 野次馬 根性 を 発揮 して いる 。
もちろん 夕 里子 の 方 だって 、好奇心 で は 負けない が 、パトカー が 夜 、自分たち の 住んでいる マンション の 前 に 停っている 、と なると 、ただ 面白がって はいられない のである 。
三 人 、ホテル で の 夕食 を 済ませて 、帰って 来た ところ だった 。
タクシー の 中 で は 、専ら 例 の 「家庭教師 」の 話 ばかり 。
夕 里子 が 、
「何だか 話 が うま すぎて 心配 」
と 言えば 、珠美 が 、
「考え 過ぎ よ !
世の中 にゃ 、金持ち って の が いる もん な んだ から 」
と 、自分 は 金持ち で は ない くせに 、知ったかぶり 。
一 人 、綾子 だけ が 、
「私 に 家庭教師 なんて 、つとまる かしら 」
と 、真剣に 悩んで いた のである 。
「──でも 、事件 じゃ ない みたい 」
と 、夕里子 は 、タクシー が 停る と 、両手 に 荷物 を 下げて 、外 へ 出た 。
「── あれ ? パトカー から 、誰 か が 降りて 来る 。
いや 、二人 だ 。 何だか 、一人 が もう 一人 の 男 を 、かかえ上げる ように して …… 。
「国 友 さん !
夕 里子 は 、思わず 叫んだ 。
「や あ 、ちょうど 良かった 」
と 、夕里子 を 見て ホッと した ように 言った の は 、夕里子 も 前 に 他の 事件 で 会った こと の ある 三崎 刑事 だった 。
国 友 は 、具合 でも 悪い の か 、半ば 意識 が ない 様子 で 、三崎 に 支え られて 、やっと 立って いる 。
「国 友 さん !
どうした の ? と 、夕里子 が 駆け寄る 。
「いや 、急に 気絶 しちまったん だ 」
と 、三崎 が 言った 。
「それ に 、何だか うわごと を 言ったり な 。 ──過労 かも しれん 。 ともかく 、す まんが ちょっと こいつ を 休ま せて くれ ん か 」
「ええ 、もちろん !
──じゃ 、ともかく 部屋 へ 」
夕 里子 は エレベーター の 方 へ 飛んで 行く 。
「お 姉ちゃん たら ……」
珠美 が ため息 を ついた 。
──無理 も ない 。 夕 里子 は 、持って いた 荷物 、全部 放り 出して 行った のである 。
──ま 、綾子 と 珠美 が 四苦八苦 して 荷物 を 運んだ 苦労 話 は 、ここ で は 省略 する こと に して (二人 に は 悪い が )、ともかく 十五分 ほど 後 に は 、国友 は 佐々本家 の 居間 の ソファ で 引っくり返って おり 、夕里子 が せっせと 熱い おしぼり で 顔 を 拭いて やったり した かい あって か 、ほぼ 、まともな 状態 に 戻って いた のである 。
「──すま ない ね 、びっくり させて 」
と 、国 友 は 、息 を ついて 言った 。
「本当 よ 。
びっくり しちゃ った 」
と 、夕里子 は 、笑顔 で 言った 。
「三崎 さん 、ゆっくり 休め と 言って た わ 。 今夜 、ここ に 泊って 行けば ? 「いや …… 。
殺人 事件 の 捜査 だ 。 のんびり 寝ちゃ い られ ない よ 」
と は 言い ながら 、まだ 起き上る 気 に は なれ ない 様子 。
「今 、お姉さん が スープ を 作ってる わ 。
お腹 も 空いて たんじゃ ない の ? 「おい 、欠食児童 みたいな こと 言わないで くれよ 」
と 、国 友 が 苦笑 する 。
「あ 、笑った 。
──うん 、その 元気 なら 大丈夫 だ 」
と 、夕里子 は 言って 、「そのまま 寝てて ね 、スープ できたら 、持って 来る 」
「悪い ね 、世話 かけて ……」
「変な 遠慮 し ないで よ 」
と 、夕里子 は 台所 へ と 立って 行った 。
「──どう 、国 友 さん ?
と 、綾子 が 、小さな 鍋 で 、スープ を あたため ながら 言った 。
「 うん 。
もう 大分 いい みたい 。 少し 青い 顔 してる けど 、寒い せい も ある んでしょ 」
「──お 姉ちゃん 」
と 、珠美 が そば に 来て 、夕里子 を つつく 。
「何 よ ?
「 聞いた ?
三崎 さん が 言って た こと 」
「 ああ 。
──聞いた わ よ 。 それ が どうした の ? と 、夕里子 は そっけなく 言った 。
「死体 が 目 を 開いて ニッコリ 笑った 、って 言ってる ん だって 、国友 さん 。
──凄かった ん だって よ 、大声 上げて 引っくり返って 、口 から 泡 ふいて ──」
「オーバー ねえ 」
「幻覚 じゃ ない の ?
と 、綾子 が 言った 。
「きっと 働き 過ぎて くたびれて た の よ 」
「そう かなあ 」
と 、珠美 が 腕組み を する 。
「じゃ 、あんた 、何 だって いう の ?
と 、夕里子 が 訊く と 、
「 うん ……。
まあ 、色々 考え られる けど さ 、やっぱ 、死体 が おメメパッチリ 、ニッコリ 笑って コンニチハ 、なんて こと 、考え られない じゃない 」
「でも ね 」
と 、綾子 が 、のんびり と 言った 。
「この 世の中 に は 、人間 に は 分らない 、不思議な こと って ある もん な の よ ……」
「どうでも いい わ よ 」
と 、夕里子 が ため息 を ついて 、「ともかく 、珠美 、お 風呂 に 入って 寝たら ?
「まだ こんなに 早い のに ?
休み に なった ばっかりで 」
「じゃ 、起きて れば ?
ともかく ──」
「は いはい 。
国 友 さん と お姉ちゃん の 邪魔 は いたしません 、と 」
「何 言って ん の 」
と 、夕里子 が にらむ と 、珠美 は 、ちょっと 舌 を 出して 、口笛 など 吹き ながら 台所 を 出て 行った 。
「──夕里子 、スープ できた わ よ 」
と 、綾子 が スープ 皿 へ あけ ながら 言った 。
「 サンキュー 。
さすが お 姉ちゃん 」
「缶詰 の スープ 、あっ ためる ぐらい の こと 、私 だって できる わ よ 」
と 、綾子 は 、心外 と いう 様子 で 言った 。
「スプーン を 出して 、と ……」
夕 里子 が 、スープ 皿 を 手 に 、居間 の 方 へ と 行きかける と 、玄関 の チャイム が 鳴った 。
「あら 、誰 かしら ?
と 、綾子 が 言った 。
「私 、出る わ 」
夕里子 は 、スープ 皿 を 綾子 へ 渡して 、「これ 、国友 さん に 持って って 」
「 うん ……」
夕 里子 は インタホン の ボタン を 押した 。
何しろ 、綾子 は 、人 を 疑う と いう こと を 、まるで 知ら ない 人 だ 。
こんな 時間 に 誰 が 来よう と 、すぐ ドア を 開けて しまう 可能性 が ある 。
「どなた です か ?
と 、夕里子 が インタホン に 呼びかける 声 を 聞きながら 、綾子 は 居間 の 中 へ と 、スープ 皿 を 手 に 入って 行った 。
国 友 は ──部屋 が ポカポカ あったかい し 、それに 夕里子 の 顔 を 見て 安心 した せい も ある の か 、少し 眠く なって 来て いた 。
全く 、一人前 の 刑事 が 、十八 の 女の子 に 元気づけられる と いうんだ から 、情 ない 話 で は ある が …… 。
しかし 、本当に あれ は ショック だった のだ 。
分 ら ない 。
──一体 何 だった のだろう ?
本当に 、国友 は 、あの 殺された 娘 が 目 を 開き 、ニコッ と 笑う の を 見た ── と思った のである 。
もちろん ──そんな こと が ある わけ は ない !
そんな 馬鹿 な !
やっぱり 疲れて る の か な 。
若い 若い と は いって も 、 無理 を すれば ガタ が 来る の は 当り前だ ……。
三崎 さん の 言う 通り 、少し 休んだ 方が いい の かも しれない 。
考えて みりゃ 、のんびり 旅行 なんて した の は いつ の こと だったろう ?
そう だ なあ 。
夕 里子 君 と 二人 で 旅行 ──なんて の も 、悪く ない …… 。
そりゃ 、年齢 は 少々 離れて いる が 、夕里子 は 、年齢 の 割に しっかり した 子 だ 。
大学 を 出る まで 待って も いい 。 ただ ──それ まで こうして 、何だか 物騒な 事件 の とき に ばかり 会ってる と いう の は ……。
そう だ 。
大学 へ 行けば 、もっと 若くて (当然 夕里子 と 同い年 の )カッコイイ 男の子 だって いる だろう 。 ──短大 へ 行く の か な ? それ なら 女の子 ばっかり で 、心配 ない 。
でも 、ボーイフレンド の 一人 や 二人 、できない わけ が ない 。
ここ は やはり 、「恋人 」である こと を 、何か の 形 で 宣言 して おかない と ──。
半ば 、まどろみ ながら 、そんな こと を 考えている と 、ふと 、スープ の 匂い が した 。
夕 里子 が スープ を 持って 来て くれた のだ 。
そう 思う と 、国 友 の 胸 が ジン と 熱く なった 。
──何 と 可愛い 、優しい 子 な んだ !
いつ に なく 、国 友 は 感じ やすく なって いた の かも しれない 。
「国 友 さん ……」
そっと 囁く 声 。
── そうだ ! 俺 の 恋人 は この 子 しか い ない !
誰 に も 渡して なる もんか !
国 友 は 、夕 里子 の 顔 が 間近 に 迫って 、その 吐息 が かかる の を 感じた 。
国 友 は 、とっさに 、頭 を 上げる と 、両手 で 夕里子 を かき抱き 、ギュッと 唇 を 押しつけた 。
夕里子 は 、ちょっと 体 を 固く した が 、逆らう でも なく 、じっと キス される まま になって 動かない ……。
熱い 熱い キス が 続いて ──
「 お 姉ちゃん 、 お 客 さん が ──」
と 、夕里子 の 声 が した 。
夕 里子 の 声 ?
国 友 は 、そっと 、キス した 相手 から 離れた 。
「──綾子 君 」
綾子 が 、ポカン と した 顔 で 、国 友 を 見つめて いる 。
「国 友 さん ……」
「すま ない !
僕 は てっきり ──」
「いえ 、いい んです 」
と 、綾子 は 首 を 振って 、「ね 、夕里子 」
と 夕 里子 の 方 を 見る と ……。
夕 里子 は 、顔 を 破裂 しそうな ほど 真赤 に して 、じっと 国友 を にらみつけている 。
「夕里子 君 ……」
国 友 の 方 は 、夕里子 が 赤く なった 分 、青く なった 。
「ね 、これ は 誤解 な んだ 。 僕 は うっかり して ──」
「相手 も 確かめ ず に キス する の ね 。
そういう 人 な の ね 。 分った わ 」
「夕里子 ──いい じゃない の 、私 と 間違えた だけ で ──」
「 悪かった !
国 友 が 拝む ように して 、「殴る なり 、蹴る なり 、好きに して くれ !
「じゃ 、好きな ように する わ 」
夕 里子 は 、台所 へ 飛び 込む と 、包丁 を 手 に 戻って 来た 。
「 夕 里子 、 あんた 何 を ──」
「 放っといて !
夕 里子 は 包丁 を 構えて 国 友 へ と 大股 に 歩み寄る と 、「お姉ちゃん に キス した 責任 は どう する の !
と 、詰め寄った 。
「いや 、だから 僕 は ──」
国 友 が あわてて 後 ず さる 。
「お姉ちゃん は 純情 な んだ から ね !
間違って キス した なんて 、 そんな ひどい こと 、 許さ れる と 思ってる の ? 「夕里子 ったら ……」
「お姉ちゃん は 黙って て !
夕 里子 は 包丁 を ぐいと 国友 の 胸 もと へ 突きつけた 。
「夕里子 君 !
「今度 、こんな こと を したら 、生かしちゃ おか ない から !
「 わ 、 分った ……」
「 よく 分った ?
夕 里子 は サッと 包丁 を 下げる と 、「お 姉ちゃん 、お 客 さん よ 」
「 え ?
「お 客 。
──私 、ご 案内 する から 、お 茶 いれて 」
夕里子 は サッサ と 玄関 の 方 へ 歩いて 行く 。
「夕里子 ったら ……」
綾子 が ポカン と している と 、また 夕里子 が 現われて 、パッと 包丁 を 差し出す 。
「 キャーッ !
綾子 は 飛び上った 。
「何 して ん の 。
これ 、しま っと いて 」
「あ ──は いはい 」
「お 茶 よ 」
夕 里子 は 、玄関 へ と 出て 行った 。
「石垣 と 申し ます 」
と 、その 婦人 は 言った 。
「石垣 園子 」
「 どうも 」
と 、夕里子 は 頭 を 下げた 。
「ちょうど 、今日 、こちら の 方 に 用事 が ございまして ね 、東京 へ 出た もの です から 、とても 無理 とは 思って いた のです が 、沼淵 先生 に お電話 して みた のです 。
そう しましたら 、偶然 、今日 、引き受けて 下さる 方 が 見付かった という お話 で …… 。 で 、突然 で 失礼 と は 存じ ました が 、こうして うかがった わけです 」
「そう です か 」
夕 里子 は 、誤解 さ れ ない 内 に 、と 、「あの ──これ が 姉 の 綾子 です 。
私 は 次女 の 夕里子 、もう 一人 は 下 に おり ます けど 」
「沼淵 先生 から うかがい ました わ 。
あなた が マネージャー だ と か 」
「 マネージャー ?
芸能 人 じゃ ある まいし 。
夕里子 は 、しかし あの 沼 淵 という 教授 、なかなか ユーモア の センス が ある わ 、など と 考えて いた 。
「ご 姉妹 三人 で おいで に なる と の こと でした けど ──」
「でも 、そんな 図々しい こと を ……」
「いえ 、一向に 構い ませ ん の 。
私 ども 、親子 三人 で 、そりゃ あ 退屈 して おり ます もの 。 ぜひ 大勢 で おいで 下さい な 。 一流 ホテル 並み と は いきま せん けれど 、主人 は なかなか 料理 の 腕 も 確かな んです よ 」
「じゃ 、遠慮 なく ──」
と 、珠美 が いつの間に やら 、居間 へ 入って 来て 、話 に 加わる 。
夕 里子 は 、ちょっと 珠美 を にらんで やった 。
しかし ──正直な ところ 、夕里子 は ホッ と して いた のである 。
もちろん 、さっき の 、国友 が 綾子 に キス した 一件 で は 、まだ 頭 に 来ていた のだが 、それ は さておき 、石垣 という 一家 、そんな 山 の 中 に 住んでる なんて 、少々 変り者 揃い なのじゃないかしら 、と 思っていた 。
しかし 、こうして 突然 やって 来た 母親 、石垣 園子 は 、多少 神経質 そうに は 見える ものの 、至って 穏やかな 、知的な ムード の ある 上品な 婦人 だった 。
ただ 、十三 歳 の 子供 が いる と いう 割に は 、少し 老けて いて 、たぶん ──四十五 、六 だろう と 思えた 。
それだけに 、落ちつき が ある の も 確かだった が 。
「 あの ……」
さすが に 、 仕事 を 頼まれて いる の は 自分 だ と いう 思い の せい か 、 綾子 も 口 を 開いて 、「 お 子 さん の お 名前 は ……」
「石垣 秀 哉 と 申し ます 」
「秀 哉 君 ……です か 」
「どうか よろしく 」
と 、石垣 園子 に 頭 を 下げ られ 、綾子 は あわてて 、
「は 、はい !
と 、床 に ぶつかっちまう んじゃないか という 勢い で 頭 を 下げた 。
「それ で ──いつ から おい で いただけ ます かしら ?
と 、石垣 園子 が 訊く と 、すかさず 、
「そりゃ もう いつ から でも 。
何 でしたら 、今日 から でも ──」
と 、珠美 が 応じる 。
「まあ 、それ でしたら 、好都合 だ わ 」
と 、石垣 園子 は 微笑んで 、「私 、今夜 、車 で 山荘 へ 戻り ます の 。
じゃ 、それ に お 乗り に なって いただければ ──」
「今夜 です か ?
夕 里子 は 面食らった 。
「でも ──何の 仕度 も ──」
「あら 、一応 、うち は 小さい ながら ホテル です もの 。
何の お 仕度 も 必要 あり ませ ん わ 。 着替え だけ お 持ち くだされば 」
と は 言わ れて も ……。
「どう する ?
夕 里子 は 、綾子 を 見た 。
「私 ──どっち でも 」
訊 いた 方 が 間違い だった 。
夕里子 は 突然の こと に びっくり は した が 、といって 、今夜 と 明日 で 、どう 違う という こと も ない 。 今夜 で いけない と いう 理由 は 、特に 見出せ なかった ……。
「── 失礼 」
と 、居間 へ 国 友 が 顔 を 出した 。
「あの ──僕 は もう 失礼 する よ 」
「あら 、国友 さん も 行く んじゃ なかった の ?
と 、珠美 が 言った 。
「ありがたい けど ね 、仕事 が ある 」
台所 へ 追いやられて いた 国友 は 、大分 ショック から 立ち直った 様子 だった 。
「あ 、そう 」
と 、夕里子 は 澄まして 、「お姉さん 、送って 行けば ?
「夕里子 ったら ──」
そこ へ 電話 が 鳴り 出し 、立って いた 国友 が 、受話器 を 取った 。
「 はい 。
──あ 、三崎 さん 。 ──ご 心配 かけて すみません 。 もう 大丈夫 です 。 ──ええ 、今 から 、そっち へ 戻って ──は あ ? 国 友 が 目 を 丸く している 。
「しかし ──こんな とき に ? ── は あ 、 それ は よく 分ってます が 。 ──ええ 、まあ 。 ── よく 分 りました 。 ──いえ 、ありがとう ございます 」
終り の 方 に なる に つれ 、徐々に デクレッシェンド して 行った 。
「どうした の 、国友 さん ?
と 、夕里子 が 言った 。
「うん 、三崎 さん が ……」
「クビ だって ?
「 珠美 !
「いや 、休み を 取れ 、と 言う んだ 。
年 内 は 休養 する ように 、と ……」
「へえ 、良かった じゃん 」
と 、珠美 は 呑気 に 言った 。
「何で ガッカリ して る わけ ? 「いや ……ホッと した ような ガックリ 来た ような 、妙な 気分 さ 」
「じゃ 、一緒に 行けば ?
珠美 は 、石垣 園子 の 方 へ 向いて 、「この 人 、お姉ちゃん の 恋人 な んです 。
顔 は ともかく 人 は いい んです 」
「 珠美 !
何 よ 、その 言い方 」
「正直な 感想 よ 」
石垣 園子 は 、笑い声 を 上げて 、
「ああ 、本当に 面白い ご 姉妹 ね !
声 を 出して 笑った なんて 、久しぶりだ わ 」
と 言った 。
「そちら の 国 ──友 さん でした ? ぜひ ご 一緒に 」
「は 、しかし ──」
「車 の 運転 、私 一人 で は 、少し 心細かった んです の 。
もし お 手伝い いただける と 、とても 助かり ます わ 」
国 友 は 、少し 迷って いた が 、
「──分 り ました 。
僕 でも 力 仕事 ぐらい は お 役 に 立てる でしょう 」
と 、思い切った ように 言った 。
「決 った !
じゃ 、全員 十五 分 以内 に 仕度 ! 珠美 は 真 先 に 居間 から 飛び出して 行く 。
「じゃ 、私たち も 失礼 して 。
──お姉さん 、手伝って あげる 」
夕 里子 は 綾子 を 促した 。
何しろ 、綾子 一人 に やらせて おいたら 、十五分 どころか 、十五時間 かかっても 、仕度 なんて 終りっこない のだ 。
三 姉妹 が 居間 を 出て 行き 、国友 と 石垣 園子 が 残さ れた 。
「──すみません 、図々しく 」
と 、国 友 が 恐縮 する 。
「 いいえ 。
でも 、とても 魅力 の ある 方 たち です ね 」
「ええ 、全く 、珍しい です よ 。
つまり ──何と 言う か 、個性 的 で 」
「 羨 し いわ 、 お 若いって いう こと は 」
と 、石垣 園子 は 、ため息 を ついて 、「国友 さん も 、とても お 若くて いらっしゃる の ね 」
「いえ 、それほど でも ……」
と 、国 友 は 照れて 赤く なった 。
「とても お 似合い だ と 思い ます わ 、国友 さん と 、あの 夕里子 さん という 方 ……」
「は あ 」
「年齢 の 違い なんて 、長い 目 で 見れば 、ほんの 小さな こと で しか ありませ ん わ 。
本当に ……」
石垣 園子 は 、ほとんど 独り言 の ように 呟いた 。
「おい 、何 だ 、一体 」
三崎 は 渋い 顔 で 、「もう 帰って 寝よう と 思って た んだ ぞ 」
「分 って る よ 」
検死 官 は 、先 に 立って 歩いて 行く 。
「しかし 、見せて おきたくて な 」
「何 を ?
「さっき の 女の子 さ 」
「もう 見た よ 。
それとも 国 友 みたいに 、また 、目 を 開いた と でも 言う の か ? 「いや 、そう じゃ ない 」
検死 官 は 、冗談 を 言う 雰囲気 で は ない ようだった 。
重い 扉 を 開ける 。
──冷たい 台 の 上 に 、あの 娘 が 、横たえ られて いた 。 首 まで 、布 で 覆わ れて いる 。
「──こういう ところ で 見る と 、別もの の ようだ な 」
と 、三崎 は 言った 。
「国 友 君 は 大丈夫 だった か ?
「 うん 。
休み を 取ら せた 」
「それ が いい 。
──若い から って 、無理 を しちゃ いかん 」
検死 官 は 布 を ゆっくり と まくった 。
──今 は 、全裸 で 横たわっている 。 三崎 は サッと 眺めて 、
「変わった ところ は ない ような 気 が する ね 」
「背中 を 見てくれ 」
検死 官 が 死体 を 抱き 起こす ように した 。
三崎 は 、娘 の 背中 を 覗き込んで ハッと 息 を のんだ 。
三崎 が 青ざめた のだ 。 珍しい こと だった 。
「これ は ……」
娘 の 、青白い 背中 に 、何十 も の 筋 が 走っていた 。
「鞭 で 打たれた んだろう な 。
──むごい こと を する 」
死体 を 元通り に して 、検死 官 は 布 で 覆った 。
「──どう だ ?
「 うん 」
三崎 は 言葉 が ない 様子 だった 。
「わけ が 分らん な 」
「それ は 犯人 から 聞く 」
三崎 の 声 は 少し 震えて いた 。
「この 俺 が 、聞き出して やる ! ──それ きり 、二人 は 口 を きかず に 、その 部屋 を 出た 。
足音 が 、冷たい 廊下 に 響く 。
「──国 友 が 見たら 、さぞ ショック だったろう な 」
と 、三崎 が 言った 。
「見 なくて 良かった かも しれん 」
「そう だ な 。
しかし ──」
と 言い かけて 、三崎 は 足 を 止め 、振り向いた 。
「 どうした ?
「いや ──何だか 、笑い声 が した ような 気 が したんだ 」
「あそこ から か ?
三崎 は 首 を 振って 、
「気のせい だ な 」
と 言って 、また 歩き 出した 。
二人 の 足音 だけ が 、響いて いる ……。