三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 02
2 家庭 教師
「──でも 、妙な 話 だ ね 」
と 、夕里子 が 言った 。
「その 男の子 、超能力 を 持って んじゃ ない の ? 「未来 を 予知 する 能力 ね 。
あったら 便利 だろう な 」
と 、珠美 が ちょっと 考えて 、「そう !
私 なら 、まず 、宝くじ の 当り 番号 を 教えて もらっちゃう ! 「あんた らしい わ 」
と 、夕里子 が 呆れて 、「でも 、ともかく その 子 の おかげ で 助かった んだ から 」
「そう ね ……」
三人 は 無事 を 祝って ──かつ 、代り に 亡くなった あの 太った おばさん と 、運転手 の 冥福 を 祈って (?
)──ホテル で 食事 を して いた 。
「だけど 、そんな こと って ある の かしら ?
と 、綾子 は 言った 。
「偶然 かも しれない わ 」
「でも 、それ に しちゃ でき すぎ てる よ !
珠美 は 、断固と して 、「絶対に 超能力 よ !
と 、主張 した 。
「どっち で も いい けど 、ともかく 食べ なさい 。
高い の よ 、残さ ないで 」
「は あい 。
──夕 里子 姉ちゃん 、すっかり 世帯 じみて 来た ね 」
と 、珠美 が からかう 。
「あんまり 世帯 じ みる と 、国友 さん に 嫌わ れる よ 」
「何 よ !
夕 里子 が むき に なって 珠美 を にらむ 。
「よし なさい よ 」
と 、綾子 は 言った 。
国 友 という の は 、夕里子 の 恋人 で 、 M 署 の 若き 刑事 である 。
当然 独身 。
男 まさり と 定評 の ある (?
)夕 里子 が 、国友 の 前 で はぐっと 女らしく なる ──と いう の は 当人 のみ の 意見 で 、はた目 に は 、ちっとも 変ら ない と いう 評判 だった 。
「ねえ 、それ は ともかく さ 」
と 、珠美 が 言った 。
「年末 年始 は どう する の ? 「どう って ?
食事 が 終って 、デザート が 来る の を 待って いる ところ である 。
夕 里子 は 、
「何も 計画 して ない んだ もの 。
今 から どこ か 行こう った って 、無理 よ 」
「そう か あ ……。
つまんない な 」
と 、珠美 は ふくれっつら で 、「クラス の 子 、みんな スキー とか スケート 、温泉 とか 、行く んだ よ 」
「お 風呂 なら 、うち で 入れる じゃない の 」
と 、綾子 が 夢 の ない こと を 言い出した 。
「たまに は 三 人 で 旅行 し ない ?
ねえ 」
珠美 の 意見 も 、もっとも で は ある 。
何しろ 珠美 だって もう 来年 は 高校生 だ 。
別に 迷子 に なる 心配 を する 年齢 で は ない 。
ただ 、問題 は 長女 の 綾子 が 、いとも 出不精 と いう 点 に ある 。
「あんた たち 、行って くれば 。
私 、うち で 寝てる 」
──と 、こういう 具合 。
「全く もう !
それ でも 二十 歳 ? 「一応 ね 。
あんた も 逆の 意味 で 十五 に は 思え ない わ よ 」
と 、綾子 が 珍しく やり 返した 。
「ええ と …… 。
じゃ 、コーヒー ね 」
夕 里子 は 、ウェイター を 呼んで 注文 する と 、「ともかく 、パパ に 言われてる でしょ 。
パパ が 留守 の 間 は 、三 人 一緒に 行動 する ように 、って 」
「じゃ 、夕里子 姉ちゃん 、ハネムーン に も みんな で 行く つもり ?
「あんた 、極端な の 、言う こと が 」
夕 里子 と 珠美 が やり 合って いる と 、五十 がらみ の 紳士 が 、三 人 の テーブル の そば を 通ろう と して 、ふと 足 を 止め 、
「おお 、何 だ 、佐々本 君 じゃない か 」
と 言った 。
「 は ──?
声 を かけ られた 綾子 は 、ポカン と して 、「あの ──私 、佐々本 綾子 で ございます が 」
その 紳士 、笑い 出して 、
「いや 、君 は 、大学 で 取って いる ゼミ の 教授 の 顔 も 憶え とらん の か ?
「 あ 、 先生 ── す 、 すみません !
綾子 は 、あわてて 立ち上った ので 、椅子 を 引っくり返して 、また 、「キャッ !
と 、悲鳴 を 上げる 始末 。
夕 里子 は ため息 を ついた 。
「妹 の 夕里子 です 」
と 、自己 紹介 して 、「これ が 一番 下 の 珠美 です 。
姉 を どうか 落第 させ ないで 下さい 」
と 挨拶 した 。
「 なるほど 。
君 ら が 有名 な 佐々本 の 三人 姉妹 か 。 私 は 教授 の 沼 淵 だ 」
あ 、そう だった 。
綾子 も やっと 名前 が 分って 、 ホッと した 。
「 あの ──」
と 、夕里子 が 言った 。
「私 たち の こと 、どういう 風 に 有名 な んです か ? 「いや 、まあ 風 の 便り に ね ……」
と 、沼 淵 は とぼけた 。
「じゃ 、大学 、無 試験 で 入れて 下さい 」
と 、珠美 が 言い出して 、夕里子 に つつかれた 。
「── そうだ 」
と 、沼 淵 は 何 か 思い 付いた 様子 で 、「佐々本 君 、この 年末 年始 は 予定 が ある の か ?
「 はい 」
と 、綾子 は 答えた 。
「そう か 。
残念 だ な 」
「ずっと うち に いる 予定 です 」
綾子 は 、別に ふざけて いる わけで は ない のである 。
「そう か 」
沼 淵 は 笑い を こらえ ながら 、「いや 、実は 、いい 家庭教師 は い ない か と 頼まれ ていて な 」
「家庭 教師 です か ?
「そう な んだ 。
君 、ヒマ なら 、やって みちゃ どう だ ? 姉さん が 家庭 教師 ね 。
── 夕 里子 は 、 この 先生 、 お 姉さん の こと 、 全然 分ってない ね 、 と 思った 。 一 日 で 断ら れて 来る こと 、必至である 。
「でも ──それ は 学生 課 の 方 の 仕事 じゃ ありませ ん か ?
と 、綾子 が 珍しく まともな こと を 言った 。
「休み に 入って から 、話 が 来た の さ 」
と 、沼 淵 が 言った 。
「それ も 、個人 的に 、私 の 所 へ 来た んだ 」
「先生 の ご存知 の 方 なんです か ?
「大分 昔 の 教え子 なんだ よ 。
そこ の 子 が 十三 歳 な んだ そうだ 」
「十三 です か 」
「男の子 で 、決して 頭 の 悪い 子 じゃない らしい が 、少し 病気がち で 、学校 も 一 年 遅れて いる 。
その分 を 、何とか 取り戻し たい 、と いう こと なんだ 。 ──どう だ ね ? 「私 に つとまる でしょう か 」
「大丈夫 さ 。
相手 は 十三 だ ぞ 。 ──ただ 、この 暮れ から 、という こと な ので 、なかなか 、見付ける のは 容易じゃない 、と 言って おいた よ 」
「は あ 。
でも ──もし 、私 が やる と したら ──」
「やって くれる か ?
と 、沼 淵 が 訊いた 。
「いや 、もし 引き受けて くれる と ありがたい 。 石垣 も 喜ぶ だろう 」
「石垣 さん と おっしゃる んです か 」
「 うん 。
父親 も 母親 も 私 の 教え子 で ね 。 二 人 とも 、なかなか ユニーク な 学生 だった 」
ユニークな 点 じゃ 、綾子 も 負け ない 。
「──本当に やって くれる か ?
沼 淵 に 訊かれて 、綾子 は 夕 里子 の 方 を 向いて 、
「どう する ?
妹 に 訊いて りゃ 世話 は ない 。
「一日 いくら いただける んです か ?
と 、夕里子 が 訊いた 。
「 うん 。
一日 に 一万 円 出す と 言う んだ 」
珠美 の 目 が 輝いた 。
「お 姉ちゃん !
絶対 に 引き受け な よ ! 「あんた は 黙って て 」
と 、夕里子 が つつく 。
「実は 、場所 が 不便 な んだ よ 」
と 、沼 淵 が 言った 。
「子供 の 健康 の こと を 考えて 山 の 中 に 住んで いる 」
「エベレスト か どこ か です か ?
「 珠美 。
──じゃ 、泊り 込み です ね 」
「 うん 。
ただし 、そこ は ホテル な んだ 。 夏 の 間 の 山荘 と いう か な 。 だから 、いくら でも 部屋 は ある 」
「経営 して いる んです か 」
「そう らしい 。
──ま 、私 も ここ しばらく 会って いない から 、詳しい こと は 知らん が 、電話 の 話 で は 、冬 の 間 は 閉めて いる ので 、ヒマ だ そうだ 。 一 人 で 来る の が 心細ければ 、友だち と でも いい 、と いう こと だった よ 」
「姉妹 じゃ どう でしょう ?
「 珠美 !
図 々 し いわ よ 」
「いや 、構わん と も 」
と 、沼 淵 は 首 を 振って 、「向う は 、にぎやかな 方 が ありがたい と 言っていた よ 。
──どう だ ね 、君 ら 三人 で 行ったら ? 私 の 方 から 連絡 して おく 。 きれいな 山荘 で 、温泉 も 出る らしい ぞ 」
珠美 が 、身 を 乗り出す ように して 、
「みんな タダ です か ?
「あんた は 図々しい の !
「もちろん さ 。
向う は 、何でも 親 の 遺産 で 悠々と 暮している らしい 。 そんな こと に 気 を つかう 必要 は ない よ 」
──夕里子 は 、少し 迷って いた 。
いや 、もちろん 、家庭教師 として 頼まれた の は 綾子 だが 、一人 で そんな 所 へ 行かせる わけに は いかない 。
しかし 、三人 とも で 、みんな タダ で いい 、と いう の は ……。
少し 話 が うま すぎる ような 気 が した のである 。
珠美 の 方 は 、もう すっかり 行く 気 だ 。
そして 当の 綾子 は ──この 人 は 、夕里子 が 決めたら その 通り に する 。
「──じゃ 、引き受けて くれる な ?
沼 淵 も 、三人 の 様子 を 見ていて 、マネージャー 的 存在 が 夕里子 である こと を 察した らしく 、直接 夕里子 に 訊いた 。
夕 里子 は 、少し 考えて から 、
「──結構 です 」
と 、答えた 。
「じゃ 、いつ から お邪魔 すれば ? 「早ければ 早い ほど いい らしい 。
君 ら の うち へ 電話 させる よ 」
「分 り まし た 」
夕 里子 は そう 言って から 、「それ と 、もう 一 つ ── 」
「何 だ ね ?
「もしかしたら 、あと 一人 、ふえる かも しれません けど ……」
珠美 が 夕 里子 を つついて 、
「国 友 さん でしょ !
お姉ちゃん の 方が 、よっぽど 図々しい ! と 言った 。
そういう 勘 に かけて は 、珠美 も 超 能力 に 近い もの を 持って いる のである …… 。
さて ──佐々 本家 の 三 姉妹 が 、のんびり と 食後 の デザート 、コーヒー を 楽しみ ながら 、突然 舞い込んだ 「うまい 話 」に 、それぞれ 思い を はせている ころ ……。
その ホテル の 、レストラン の 照明 を 、恨めしげ に 見上げて いた 男 が 、ふと 呟いて いた 。
「 やれやれ ……。
あんな 高い レストラン で 、ぬくぬく と 晩 飯 を 食ってる 奴 も いる のに 、どうして こっち は 空っ風 に 吹かれ て なきゃ ならない んだ ? 独り言 の つもり だった のに 、聞か れたく ない 人間 の 耳 に は 、よく 入る もの で 、
「そう グチ を 言う な 。
ここ で 死体 に なってる よりゃ いい だろ 」
その 声 に 振り返った 国 友 は 、
「 あ !
三崎 さん 」
と 、あわてて 言った 。
「何 だ 、いつ 来た んです ? 一言 声 を かけて くれりゃ いい のに 」
国 友 の ボス に 当る 三崎 刑事 は 、この 寒空 でも 、いつ に 変らぬ 、とぼけた 顔つき である 。
「お前 が 何だか 物思い に 耽ってる から 、邪魔 しちゃ 悪い と 思って な 」
と 、真面目 くさった 顔 で 、「例 の 可愛い 高校生 の 娘 の こと でも 考えてる の か ?
「冷やかさ ないで 下さい よ 。
ただ で さえ 寒くて しょうがない のに 」
と 、国 友 は コート の 襟 を 立てて 、マフラー を 引張り上げた 。
「へえ 、国友 君 は 、そんなに 大きな 娘 が いる の か ?
と 、やって 来た 検死 官 、三崎 の 言葉 を 小耳 に 挟んだ らしい 。
「見かけ に よらず トシ なんだ な 」
「よして 下さい 。
娘 じゃ ない 、恋人 です よ 」
国 友 は 少々 ふくれて 、「それ より 、どう です 、被害者 の 方 は ?
風 が 吹こう が 槍 が 降ろう が 、殺人 事件 と なれば 、刑事 として は 出て 来ない わけに は いかない 。
昨日 が クリスマス だった から って 、何の 関係 も ない のである 。
ここ は 、高速 道路 の 下 。
昼 なお 薄暗い 、寂しい 空間 である 。 ただ 、昼間 は 子供 の 遊び場 に して ある らしく 、周囲 に 金網 が めぐらして あって 、ブランコ や シーソー 、砂場 、と いった 、えらく クラシックな 遊具 が 並んでいた 。
しかし 、昼間 だって 、ほんの 短時間 を 除けば 陽 が 当る とは 思えない この 場所 で 、この 真冬 に 果して 遊ぶ 子 が いる のかしら 、と 国友 は 首 を かしげた のだった ……。
「死んで る よ 」
と 、検死 官 は 言った 。
「そりゃ 分 って ます けど 」
「まだ 若い のに な 。
気の毒 だ 」
と 、検死 官 は 首 を 振った 。
「死因 は ?
「絞殺 だ な 。
首 の 周囲 に 、くっきり と 跡 が ある 。 しかし 、現場 は ここ じゃ ない ぞ 」
「それ は 分 っと る よ 」
と 、三崎 が 肯く 。
「死後 、大分 たって いる か ? 「そう だ な 、たぶん 半日 は ──」
「 半日 ?
と 、国 友 は 思わず 訊き返した 。
「十二 時間 、と いう こと です か ? 「 そう 。
少なくとも それ 以上 だ 。 運んで 帰って 調べれば 、もっと 詳しい こと が 分る だろう がね 」
「今 が ──午後 の 九時 か 」
と 、三崎 が 腕時計 を 見る 。
「して みる と 、殺した 直後 に ここ へ 置かれた の なら 、昼間 の 間 、ずっと 放って あった こと に なる 」
国 友 と 三崎 は 、風 で かすかに 揺れて いる ブランコ の そば に 歩み寄った 。
──キッ 、キッ 、と 、金具 が きしむ 。
ブランコ の 一 つ に 、その 娘 は 座って いた 。
──もちろん 、死んで 、と いう こと だ が 。
板 を 渡した だけ の ブランコ なら 、落ちて しまって いる だろう 。
小さな 椅子 を 鎖 で 下げた ような 形 の ブランコ な ので 、こうして 、一見 した ところ 、ただ 居眠り している ように 見える のである 。
「しかし 、三崎 さん ── 」
と 、国 友 は 言った 。
「こう やって 暗い 所 で 見ている と 、よく 分らない けど 、もし ずっと 昼間 、ここ に 放って あった の なら 、やはり 誰か 気が付きます よ 」
「うん 、それ は そう だ な 」
「つまり 、どこ か で 殺さ れて 、暗く なって から 、ここ へ 運ばれた んでしょう 。
でも 今 の 時期 は 、夕方 、暗く なる の が 早い です から ね 」
「目撃者 が いる と 助かる が な 」
三崎 は 、周囲 を 見 回した 。
片側 は 普通の 道路 、反対側 は アパート が 並んでいる 。
窓 が こっち へ 開いて いる が 、たぶん 昼間 も 高架 の 高速 道路 の せい で 、ほとんど 光 が 当る まい 。 今 は 当然 、カーテン が 引かれていた 。
「──あの 辺 を 聞き込み に 回る こと に なりそうだ な 」
と 、三崎 が 言った 。
風 が 、更に 強まって 、国友 は 、思わず 声 を 上げ そうに なる 。
── 畜生 ! 何て 寒い んだ 。
殺さ れた 娘 の 顔 を 、国友 は こわごわ 覗き 込んだ 。
首 を 絞め られた に しては 、そう 苦悶 の 跡 が 残って いない ので 、少し ホッ と する 。
まだ 若い ──せいぜい 二十 歳 そこそこ で は ない か 。
服装 も 悪く ない 。
セーター の 上 に 、かなり 暖か そうな ハーフコート 。 スカート は チェック の 模様 。
「なかなか 美人 だ ぞ 」
と 、三崎 が 言った 。
「男 です か ね 」
「かもしれん な 。
靴下 を はいて ない 」
三崎 に 言わ れて 、目 を 下 へ やる と 、なるほど 、靴 は ちゃんと はいて いる が 、靴下 なし である 。
「殺して から 服 を 着せた の かも しれん な 。
靴下 を はかせる の を 忘れた 、と いう こと も あり得る 」
「そう です ね 」
と 、国 友 は 肯いた 。
「何 か 所持品 は ?
「何も あり ませ ん 」
と 、国 友 が 首 を 振って 、「たぶん 犯人 が 捨てた か 隠した か 、でしょう 」
「──三崎 さん 、こんな もの が 」
と 、警官 が 何やら ビニール 袋 に 入れて 持って 来る 。
「何 だ ?
明り の 方 へ かざして 見る と 、十字架 である 。
鎖 が ついて いて 、首 から 下げて いた もの らしい 。 その 鎖 が 切れて いた 。
「オモチャ に しちゃ 妙 です ね 」
と 、国 友 が それ を じっと 見て 、「何か 関係 が ある の か な ?
「さあ ね 」
と 、三崎 は 肩 を すくめた 。
「他 に は 何も ない ようだ 。 ──おい 、本庁 から は まだ か 」
殺人 事件 と なる と 、M署だけの担当ではなく、警視庁の捜査一課も乗り出して来る。
「今 、連絡 が ありました 」
と 、パトカー の 警官 が 声 を かけて 来た 。
「事故 の 渋滞 に 巻き込まれて 、いくら サイレン を 鳴らしても 進めない んだ そうです 」
「 やれやれ 」
と 、三崎 は ため息 を ついた 。
「三十 分 ほど で 着く だろう と ──」
「 分った 」
と 、三崎 は 手 を 上げて 見せた 。
国 友 は 、その 娘 の 顔 に 、明り を 当てた 。
確かに 、なかなか の 美人 だ 。 イメージ から する と 、どこ か の 女子 大生 と いう ところ 。
化粧 っ 気 が ほとんど ない ので 、学生 っぽく 見える のだろう 。
手 も 白くて ふっくら と して 、どうも あまり 労働 に は 縁 の ない 様子 である 。
「──寒い 所 に いたんじゃ ない か な 」
と 、検死 官 が 、いつの間にやら 、そば へ 来て いる 。
「どうして です ?
「 指 の 先 さ 。
──少し 赤く なってる だろ 。 しもやけ だ よ 」
「 しもやけ ……」
なるほど 、言わ れて よく 見る と 、そう らしい 。
都会 に いる と 、今どき あまり しもやけ が できる こと は ない が ……。
「柔らかい 手 です ね 」
と 、国 友 は 、死体 の 手 を 、そっと 持ち上げた 。
もちろん 、冷たく 、こわばって いる が 、生きて いる とき は 、本当に 柔らかい 手 だったろう 。
寒風 が 吹けば 、つい 両手 で 包み込んで 守って やりたく なる ような 。
国 友 は 、袖 を 少し 押し上げて 、手首 の 方 まで 見る と 、ギョッ と した 。
「これ は ──」
「何 だ ?
と 、検死 官 が 覗く 。
手首 に 、こすれた ような 、痛々しい 傷 が ある のだ 。
「縛られ て いた らしい な 」
と 、検死 官 が 言った 。
「これ は 縄 の 跡 だ 」
「ひどい こと を する !
国 友 は カッ と して 思わず 言った 。
「よく 調べて みよう 。
他 に も 跡 が ない か どう か 、な 」
検死 官 は そう 言う と 、少し 離れて 、金網 の 破れ目 を 見ている 三崎 の 方 へ と 歩いて 行った 。
国 友 は 、ブランコ に 座った 死体 の 前 に しゃがみ込んだ 。
左手 の 手首 に も 、同じ 跡 を 見付けた 。
この 娘 は 、理由 は 分らない が 手首 を 縛られ 、どこか に 監禁 されていた の かもしれない 。
誘拐 と いう こと も 考え られる 。
もちろん 、届 は 出て いない が 、親 が 、警察 へ 届け ないで 解決 しよう と する こと も ある のだ から 、それ は あり得ない こと で は ない 。
しかし ──いずれ に しても 、何とも むごい 傷跡 である 。
「ひどい 奴 だ ……」
国 友 は 、寒さ も 忘れて 、激しい 怒り で 胸 を 熱く していた 。
「必ず 犯人 を 捕まえて やる から な 」
そう 言って 、国友 は 、がっくり と 前 に 垂れた 娘 の 顔 に 、下 から 明り を 当てた 。
する と ──娘 が 、パチッ と 目 を 開き 、ニッコリ 笑った 。