人工 知能 は 人間 を 超える か Chapter01(2)
したがって 、人工 知能 研究者 は 、長い 間 、知能 を 実現 する という 夢 を 持って 研究 しながら 、それ が ずっと 実現 できない 人 たち な のだ 。
悲しい 現実 を ずっと 背負って きた せい か 、人工 知能 研究者 は 、明るく 、楽観的で 、権威 や 形式 を 嫌い 、知的な 刺激 を 愛する 。
人工 知能 学会 と いう 学者 の コミュニティ は 、日本 一 リベラル な 学会 で はない か と 思う ほど である 。 人工 知能 学会 の 元 会長 で 北陸 先端 科学 技術 大学院 大学 の 溝口 理一郎 氏 は 「永遠 の 青年 学会 」と 呼んだ が 、それほど フロンティア 性 の 高い 領域 な のである 。
長い 歴史 の 中 で 、人工 知能 は これ まで 紆余曲折 を 経て きた 。
人工 知能 自体 は まだ 実現 して いない が 、その ため の 試行錯誤 の 副産物 として 、さまざまな もの を 生み出して きた 。 たとえば 、「音声認識 」「文字認識 」「自然言語処理 (かな 漢字 変換 や 翻訳 )」「ゲーム (将棋 や 囲碁 )」「検索エンジン 」など は 、すでに 現実 社会 に 大きな インパクト を 与えて いる し 、日常的に 使われている 。 これら は かつて 人工 知能 と 呼ばれて いた が 、実用 化 され 、ひとつ の 分野 を 構成する と 、人工知能 と 呼ばれなくなる 。 これ は 「 AI 効果 」 と 呼ば れる 興味深い 現象 だ (* 注 13)。 多く の 人 は 、その 原理 が わかって しまう と 、「これ は 知能 で はない 」と 思う のである 。
人工 知能 は いまだ 実現 でき ない ので 、「知能 の 秘訣 」は 、われわれ が まだ 見 ぬ もの の 中 に ある はずである 。
これ が 、「 まだ 見 ぬ 世界 が ある かも 」 と 旅 を 続ける 、 人工 知能 と いう 研究 分野 の 青年 性 であり 、 いつまでも フロンティア で あり 続ける 理由 である 。
最近 、あちこち で 人工 知能 と いう 言葉 が 聞かれる 。
「人工 知能 を 搭載 した 製品 を 発売 」と か 、「人工 知能 を 使った システム を 開発 」と いった 言葉 が 踊っている 。 本書 の 冒頭 でも 例 に 出した 通り である 。
先ほど 説明 した 、「知能 の 実現 を 構成 論的に 目指す 学問 領域 」と は 、だいぶ 毛色 が 違う ようである 。
この 違い は どう 考えれば よい だろう か 。
「ある 製品 に 知能 が ある 」という とき に 、最も イメージ しやすい のが 、「その 製品 が 何 か 考えて いる ように 見える 」こと であろう 。
掃除 ロボット の 「ルンバ 」であれば 、部屋 の 形 と ゴミ の 状況 に よって 動き が 変わる 。 人工 知能 内蔵 の 洗濯機 であれば 、洗濯物 の 量 や 温度 、湿度 など に よって 洗濯 の しかた が 変わる 。 状況 に 応じて 、どのように 動作 すれば よい か を 考え 、より 「賢い 」振る舞い を する 。 つまり 、入力 (人間 の 五感 に 相当する 「センサー 」により 観測した 周囲 の 環境 や 状況 )に応じて 、出力 (運動器官 に相当する 「アクチュエーター 」による 動作 )が 変わる という こと である 。
人工 知能 の 有名な 教科書 である スチュワート ・ラッセル 氏 の 『エージェント アプローチ 』で は 、まさに 入力 に よって 出力 が 変わる 「エージェント 」(ソフトウェア の プログラム )として 人工 知能 を とらえ 、賢く 振る舞う ための 人工 知能 の さまざまな 方法 を 解説 している (*注 14 )。
生物 に 知能 が ある の も 、人間 に 知能 が ある の も 、「行動 が 賢く なる と 、生き延びる 確率 が 上がる 」と いう 進化的 意義 に よる もの であろう から 、「入力 に 応じて 適切な 出力 を する (行動 を する )」という のは 、知能 を 外部 から 観測した ときの 定義 として 有力 といえる 。
人工 知能 を エージェント と 考え 、その 入力 と 出力 の 関係 から 考える と 、世の中 で 語られて いる 人工 知能 も 理解 し やすい 。 世の中 で 人工 知能 と 呼ばれる もの を 整理する と 、次 の ような レベル 1 から レベル 4 の 4 段階 に 分ける こと が できそうである 。
エアコン や 掃除機 、洗濯機 、最近 で は 電動 シェーバー に 至る まで 、世間 に は 「人工 知能 」を 名乗る 商品 が あふれている 。
こういった 技術 は 、「制御 工学 」や 「システム 工学 」と いう 名前 ですでに 長い 歴史 の ある 分野 であり 、これら を 人工 知能 と 称する のは 、その 分野 の 研究者 や 技術 に も 若干 失礼だ と 思う 。 本書 で は 、これら を レベル 1 の 人工 知能 と 呼ぶ こと に しよう 。 将棋 の プログラム や 掃除 ロボット 、あるいは 質問 に 答える 人工 知能 など が 対応 する 。
いわゆる 古典 的 人工 知能 であり 、入力 と 出力 を 関係づける 方法 が 洗練 されて おり 、入力 と 出力 の 組み合わせ の 数 が 極端に 多い もの である 。 その 理由 は 、推論 ・探索 を 行って いたり (第 2 章 )、知識 ベース を 入れて いたり (第 3 章 )する こと に よる 。 古典 的 な パズル を 解く プログラム や 診断 プログラム は これ に 当たる 。 推論 の 仕組み や 知識 ベース が 、データ を もと に 学習 されている もの で 、典型的に は 機械学習 (第 4 章 )の アルゴリズム が 利用される 場合 が 多い 。 機械 学習 と いう の は 、サンプル と なる データ を もと に 、ルール や 知識 を 自ら 学習する もの である 。
これら の 技術 は 、パターン認識 と いう 古くから の 研究 を ベース に 1990年代から進展し、2000年代に入り、ビッグデータの時代を迎えてさらに進化している。 最近 の 人工 知能 と いう と 、この レベル 3 の もの を 指す こと が 多い 。 昔 は レベル 2 であった もの も 、機械 学習 を 取り入れ 、レベル 3 に 上がって きている のが いま の 状況 だ 。 第 5章で紹介するディープラーニングがこれに当たり、本書では「特徴表現学習」と呼ぶ。
序章 でも 触れた ように 、米国 で は 、ディープラーニング 関連 分野 の 投資 合戦 ・技術 開発 合戦 ・人材 獲得 合戦 が 熾烈 を 極めて いる 。
いま 、最も ホットな 領域 である 。 たくさんの 荷物 が 積まれた 流通 倉庫 を 例 に 説明 しよう 。
レベル 1 の AI (制御 )は 、縦 何 センチ 以上 、横 何 センチ 以上 、高さ 何 センチ 以上 の 荷物 は 「大 」の ところ に 移動 する 、何 センチ から 何 センチ まで は 「中 」、それ 未満 は 「小 」といった ように 、もれなく 厳格な ルール を 定め 、その 通り に 動く だけ である 。
レベル 2 の AI (探索 ・推論 、あるいは 知識 を 使った もの )は 、同じく 荷物 の 縦 ・横 ・高さ ・重さ など の 情報 で 仕分ける ように 指示されて いる が 、荷物 の 種類 に 応じて たくさんの 知識 が 入れられている 。 たとえば 、「割れ物 注意 」の タグ が ついて いれば 丁寧に 扱う 、天地無用 であれば 上下 を 入れ替えない 、ゴルフ バッグ であれば 縦 に 置く 、生鮮 食品 は 冷蔵 扱い と する 、など である 。
レベル 3 の AI (機械 学習 )は 、最初 から 厳格な ルール 、あるいは 知識 を 与えられている わけで は ない 。 いくつか の サンプル が 与えられて 、「これ は 大 」「これ は 中 」「これ は 小 」という ルール を 学んだら 、次 から は 自分 で 「これ は 大 だ な 」「これ は 中 だ な 」「これ は どこ にも 当てはまらない 」と 判別 して 、自分 で 仕分け できる ように なる 。 一方 、レベル 4 の AI (特徴 表現 学習 )は 特徴量 を 自分 で 発見 する ので 、たとえば ゴルフ バッグ を いくつか 束ねて 、「この タイプ の 荷物 は 、サイズ 的に は 「大 」かも しれない が 、ほか と は 明らかに 異なる 形状 な ので 、別 扱い したほうが いい 」と 気づき 、そういった 「ゴルフ バッグ など の 荷物 に ついて 」の ルール を 自分 で つくる かも しれない 。 時間 が たつ ほど 、 一 番 効率 的 な 仕分け の しかた を 学んで いく の が レベル 4 の AI だ 。
4つ の レベル の 仕分け 作業員 に 指示書 を 出した と する と 、レベル 1 で は ごく 簡単な 仕分け 作業 しか できない 反面 、指示書 は 数 枚 で 済む のに 対して 、レベル 2 は モレ なく ダブリ の ない 分厚い 指示書 の 束 が 必要で 、レベル 3 は 学習用 の 荷物 サンプル と 、荷物 の どこ に 注目 する か を 教えて やる 必要 が ある 。
レベル 4 は 何 に 注目 する かも 自分 で 学ぶ ので 、学習 用 の 荷物 サンプル を 与える だけ で よい 。 自分 で 作業 する 中 で 新たな 特徴量 に 気づいて 、さらに ルール が 進化 して いく 。
言わ れた こと だけ を こなす レベル 1 は アルバイト 、たくさんの ルール を 理解 し 判断 する レベル 2 は 一般 社員 、決められた チェック 項目 に 従って 業務 を よくしていく レベル 3 は 課長 クラス 、チェック 項目 まで 自分 で 発見する レベル 4 が マネジャー クラス 、と いう 言い方 も できる だろう か 。 みなさん も 、ニュース や 製品 情報 に 出てくる 「人工知能 」や 「 AI 」が 、この 4つ の うち の どの レベル を 指している か 、考えて みる と 面白い かも しれない 。
もともと は 哲学者 の ジョン・サール 氏 が 言った もの で 、「正しい 入力 と 出力 を 備え 、適切に プログラムされた コンピュータ は 、人間 が 心 を 持つ の と まったく 同じ 意味 で 、心 を 持つ 」と する 立場 を 「強い AI 」と した 。
人間 の 心 あるいは 脳 の 働き は 情報 処理 であり 、思考 は 計算 である と する もの である 。 本書 の 立場 は 、人間 の 知能 の 原理 を 解明 し 、それ を 工学的に 実現 できる と する ので 、「強い AI 」の 立場 と 言って よい だろう 。
それ に 対して 、「弱い AI 」と は 、心 を 持つ 必要 は なく 、限定された 知能 に よって 一見 知的な 問題 解決 が 行えれば よい と する 立場 である 。
よく 引き合い に 出さ れる の が 、「中国 語 の 部屋 」の たとえ 話 である 。
中国語 が わからない 人 が 膨大な マニュアル に 従って 入力された 文字 を 確認し 、決められた 返答 を 出力する こと に よって 会話 が 成立した ように 見えても 、その 人 は 中国語 を 理解していない で はない か と いう 議論 だ 。 さらに は 、コンピュータ が 意識 を 持ち うる か とか 、人間 の 思考 が すべて 計算 なのだ と したら 自由 意思 は 存在 する か (「自由 」である こと が 介在 する 余地 が ない )といった 議論 も よく 行わ れる 。
こうした 議論 は 楽しい もの で は ある が 、人工 知能 全体 を 概観 するとき には 、あまり 多く 語る 必要 は ない と 思う 。
私 の 考え で は 、特徴量 を 生成 して いく 段階 で 思考する 必要 が あり 、その 中 で 自分自身 の 状態 を 再帰的に 認識する こと 、つまり 自分 が 考えている という こと を 自分で わかっている という 「入れ子構造 」が 無限に 続く こと 、その際 、それ を 「意識 」と 呼んで も いい ような 状態 が 出現する ので は ないか と 思う 。
ただし 、いずれ に しても 技術 の 発達 に より 工学的に 解明されていく 類の もの であって 、ここ で 長々と 説明する つもり は ない 。 一部 の 認知 心理学 ・脳科学 の 近年 の 知見 を 踏まえて の 議論 を 除けば 、現段階 で 議論しても 、昔 の 哲学者 以上 の 答え が 出せる とは 思えない 。
さて 、人工 知能 と は 何か と いう 議論 を 少し 整理 した ところ で 、次 章 から いよいよ 人工 知能 の 研究 で 何 が 起きて きた のか 、何 が 起こって いる のか を 見て いこう 。
(* 注 8) ロジャー ・ ペンローズ 『 皇帝 の 新しい 心 コンピュータ ・ 心 ・ 物理 法則 』( み すず 書房 、1994 年 )
(* 注 9) ヒューバート ・ L ・ ドレイファス 『 コンピュータ に は 何 が できない か 哲学 的人工 知能 批判 』( 産業 図書 、1992 年 )
(* 注 10) もちろん 、 脳 科学者 の 中 に も 構成 論 的 アプローチ を とる人 も いる 。
計算 論 的 神経 科学 で 著名な 甘利 俊一 氏 は 、「脳 を 創る 」ため の 研究 を さまざまな 角度 から 行った 。
(* 注 11) たとえば 、 ブライアン ・ クリスチャン 『 機械 より人間 らしく なれる か ?
AI と の 対話 が 、 人間 で いる こと の 意味 を 教えて くれる 』( 草 思 社 、2012 年 ) など 。
(* 注 12) 学会 で いう と 、 ロボット は 「 日本 ロボット 学会 」、 人工 知能 は 「 人工 知能 学会 」 である 。
もちろん 、両方 に またがって 研究 して いる 人 も いる 。