三 姉妹 探偵 団 (2)Chapter11(1)
11綾子 、危機一髪
「 まあ 。
それ じゃ 、無料 で 出て くれる の ? と 、水口 恭子 が 言った 。
「 ええ 。
そう だ そうです 」
と 、綾子 は 肯いた 。
「 どうして な の か 、 よく 分 りません けど ……」 「 助かる わ ! 大分 、他の 予算 が 不足 して た の 。 赤字 が 大分 減る わ 。 よく やって くれた わ ね 、佐々本 さん 」
と 、水口 恭子 は 、綾子 の 肩 を 叩いた 。
「 どうも ……」
綾子 は 、まるで 訳 が 分らない のである 。
しかし 、ともかく いい こと を した の は 、間違い ない ようだ …… 。
「いよいよ あさって よ 、文化 祭 は 」
と 、水口 恭子 は 言った 。
どことなく 浮き浮きして いる 感じ だった 。
「でも 、何だか 縁起 の 悪い 文化祭 です ね 」
と 、綾子 は 言った 。
「あの 黒木 って マネージャー は 殺さ れる し 、梨山 先生 の 奥さん も ……」「そう ね 。 でも 、だからこそ 、却って 、その 暗さ を 吹き飛ばして やらなくちゃ 。 分 る でしょ ? と 、水口 恭子 は 強い 口調 で 言った 。
もう 、お 昼 休み も 終り に 近い 。
何しろ 、綾子 としては 、ゆうべ ほとんど 寝 なかった のだ 。 お 昼 ごろ 、やっと 起き出して 、今 、大学 へ と やって 来た のである 。
ボディガード ──もちろん 、夕里子 の こと だ ──は 、ついて いなかった 。
いくら 何でも 、そう 学校 を サボれ ない と いう ので 、今日 は 高校 に 行って いた 。
綾子 が どうせ 夕方 まで は 眠って いる だろう と 思った のである 。
「午後 から 、講堂 の 方 へ 来て ちょうだい 」
と 、恭子 が 言った 。
「 もう 、 準備 に かかって も いいって 、 警察 の 方 から 許可 が 出てる の よ 」 「 分 りました 」 「 じゃ 、 また 後 で ね 。 私 、ちょっと 用事 が ある から 」
恭子 は 、足早に 立ち去った 。
残った 綾子 は 、芝生 に ペタン と 座りこんだ 。
──まだ 少し お尻 が 痛む 。
「あー あ 」
と 、綾子 は ため息 を ついた 。
ともかく 、あまり 深く ものごと を 考える たち で は ない ので 、今 の 状況 は 、すでに 綾子 の 判断力 を 超える もの だった 。
殺人 が 二 つ 。
しかも 、太田 は 自殺 し かけて 、まだ 意識 不明 。
神山 田 タカシ を 文化 祭 に 呼んだ の は いい が 、石原 茂子 を 、三 年 前 に 手ごめ に している のだ 。
それ に は 、まだ こだわり を 覚えて いた 。
一体 、何 が どう なっちゃってる んだろう ? ──他 に も 何 か あったっけ ? 綾子 は 、自分 が 爆弾 で 狙わ れた こと を 忘れて いた のである 。
いかにも 綾子 らしい 呑気 さ だ 。
「あ 、そう だ 」
何 か 忘れてる と 思った んだ 。
──お 昼 を 食べて なかった わ 。
綾子 は 、ノコノコ と 、学生 食堂 の 方 へ 歩いて 行った 。
そろそろ 空き 始める ころ で 、立って 食べる という 状態 で は なかった のだが 、その代り 、あまり 食べる もの が 残って いなかった 。
「カレー ない んです か ?
じゃ 、サンドイッチ は ? 「ええ と ──あと 一 つ だけ だ ね 」
と 、カウンター の 向う の おばさん が 言った 。
「じゃ 、それ で ──」
と 、綾子 が 言い かけた とき 、
「サンドイッチ 一 つ !
と 、凄い 勢い で 声 を かけ 、ワッ と カウンター に 飛び込んで 来た 女の子 が いる 。
「あい よ 。
──じゃ 、これ で 売り切れ 」
綾子 は ポカン と して いた 。
ともかく 、こういう とき に は 、トロい のである 。
要領 が 悪い と いう の か 。
「あの ……何か 食べる もの 、残ってません か ? と 、 おずおず と 訊 く 。
「そう ねえ 。
──ただ の パン なら ある わ よ 。 バター か ジャム でも 塗って 」
ひどい こと に なった が 、いくら 呑気 な 綾子 でも 、お腹 は 人並 に 空く 。
仕方なく 、パン に ピーナツバター を つけて もらって 、コーヒー を 自動 販売機 で 買い 、テーブル に ついた 。
どうにも おいしい と は 言い難い パン を かじっている と 、
「 ごめん !
と 、隣 に 座った の は ……。
「私 が サンドイッチ 、取っちゃった から 、そんな もん 食べて ん の ? 悪かった わ ねえ 。 一つ 食べて 」
「いい の よ 」
「私 、ダイエット してっから 、食べて くれた 方 が 助かる んだ 」綾子 は 感動 した 。 ──人間 、時に は 、実に ささいな こと で 感動 する もの である 。
「 ありがとう 。
じゃあ …… 」
綾子 は 、ハムサンド を 一 つ もらって 、ゆっくり と 食べた 。
「おいしい わ 、とっても 」
「 そう ?
私 、ちっとも 旨い なんて 思わない けど 」
と 、その 女の子 は 言って 、タバコ を 取り出し 、火 を 点けた 。
「──あら 、あなた 」
と 、綾子 は 、やっと 気付いた 。
「 え ?
「あの とき の 人 ね 」
「あの とき って ? 「ほら 、梨山 先生 の 部屋 に いた じゃない の 。
先生 の 膝 に 腰かけて 」
「や あだ !
見て た の ? と ケラケラ 笑って 、「だって 、全然 、あの 先生 の 授業 に 出て なかった んだ もの 。
ああ で も しなきゃ 、単位 くれない わ 」
「ちょうど いい わ 」
と 、綾子 は 言った 。
「あなた 、何て いう の 、名前 ? 「 私 ?
大津 和子 よ 。 どうして ? 「あの ね 、刑事 さん が 、あなた の こと 、捜してる の 」
「 ケイジ ?
そんな 男の子 、知らない けど なあ 」
「いやだ 、警察 の 刑事 よ 」
「 刑事 ?
どうして 刑事 が 私 を ? と 、真顔 に なる 。
「話 が 聞きたい んだって 。 ほら 、ゆうべ 、あの 梨 山 先生 の 奥さん が ──」
「知って る わ 、それ なら 。
それ が どうかした の ? 「あなた 、大学 に いた じゃない 、夜 遅く 」
「私 が ?
大津 和子 は 、目 を そらした 。
「 そう 。
私 も ね 、用事 が あって 、大学 に 来た の 。 ちょうど あなた が 出て 来る ところ で 。 ──ほら 、あなた 、門 を 乗り越えて 出て 来た でしょ 」
「そ 、そう だった ?
「私 、真似 したら 、尻もち ついちゃった 。 だめな の よ ね 。 まだ お尻 が 痛い の 」
と 、綾子 は 笑った 。
「 あなた ──」
「あ 、いけない !
と 、綾子 は 言った 。
「講堂 に 行か なきゃ 。 ──もう あさって です もの ね 、文化 祭 。 早い わ ねえ 」
「ね 、警察 の 人 は ……」
「あ 、そう か 。
あなた 、自分 で 言い に 行って くれる ? 国友 って 刑事 さん な の 。 たぶん 、ゆうべ の 現場 に いる と 思う わ 。 私 、ちょっと 急いで 講堂 に 行か なきゃ ならない から 」
「ええ 、いい わ 」
と 、大津 和子 は 肯 いた 。
「じゃ 、お 願い ね 」
綾子 は 、立ち上って 歩き かけた が 、「あ 、そう だ 」
「まだ 何 か ある の ?
大津 和子 は ギクリ と した ように 言った 。
「サンドイッチ を ありがとう 」
そう 言って 、綾子 は 歩いて 行った 。
残った 大津 和子 は 、自分 の コーラ を ぐい と 飲んで 、むせ返った 。
梨 山 教授 は 、怒った ように 言った 。
「妻 が 他の 男 に ? とんでもない こと です 」
「 なるほど 」
国友 は 肯 いた 。
梨 山 の 妻 ──敏子 が 殺さ れた 現場 である 。
もちろん 、死体 は なかった が 、まだ 鑑識 の 人間 が 残って いて 、事件 の 跡 は 生々しい 。
「一体 誰 が そんな こと を ──」
と 、梨 山 が 言い かける の を 、国友 は 、
「まあ 、それ は ともかく です ね 」
と 抑えた 。
「奥さん を 恨んで いた 人間 の 心当り は ありません か 」「見当 も つきません 」梨山 は 、考え も せず に 即座に 答えた 。 「あれ は 人 に 恨まれる ような 性格 では ありません でした 。 おとなしく 、欲 が なくて 、善良でした 」
「は は あ 」
国友 は 、聞いて いて 、何だか シラケて しまった 。
「犯人 は あの 太田 と いう ガードマン だった のでしょう ?
と 、梨 山 は 訊いた 。
「一応 、容疑者 の 一人 です が 、何分 に も 、まだ 意識 不明 でして 」
「犯人 だ から こそ 、良心 が とがめて 、自殺 を 図った のだ 。
それ が 真相 です よ 」
「何 か 動機 は 考えられます か ? 「 そりゃ ──」
と 言い かけて 、梨 山 は 詰り 、「まあ ──たぶん 、何か わけ が あった んでしょう 」
当り前 の こと を 言って いる 。
「ゆうべ 、奥さん が ここ へ みえて いた こと は 、ご存知 でした か ?
「いや 、知りません でした 。 私 は 夜 に なる と 忙しくて 」
「 ほう 。
夜 に なって 忙しい と いう の は ? 「色々 、研究書 とか 、学術 雑誌 を 読む んです よ 。
時間 が なかなか 取れ ない もの で 」
これ だけ 図々しく なる と 、あまり 腹 も 立たない 。
「何か 、いつも と 変った 様子 でした か ?
「 さあ 。
──特に 気付きません でした が 」そんなに いい 妻 だったら 、失って 、もっと 悲しんで も いい ような もの だが 、梨山 は 至って 平然と している 。 「お宅 は 、何 人 家族 です か ?
と 、国友 が 訊く 。
「妻 と 二人 でした 。
子供 が ほしかった のです が 、残念 ながら ──」
「する と 、ゆうべ は 一人 で ?
「そう です 」
「 ふむ 」
国友 は 、少し 考えて から 、言った 。
「では 、アリバイ は ない わけです ね 」
梨 山 は 、ちょっと 当惑 顔 だった が 、見る見る 頰 を 紅潮 さ せて 、
「それ は どういう 意味 です か !
と 食って かかった 。
「私 が 妻 を 殺した と でも ? 「可能性 の 問題 です よ 」
「失敬 な !
私 が どうして 妻 を 殺す んです か ? 「そう です ね 、たとえば 水口 恭子 ……」
梨 山 は 青く なった 。
「そ 、それ は ……」
「それ に 、膝 に 乗って いた 一 年生 の 女の子 も いた そうです な 」
「いや 、それ は ほんの 冗談 で ……」
「水口 恭子 と は 、かなり 本気 の ようで 」
梨 山 は 、どう 言い抜けよう か と 迷っている 様子 だった が 、やがて 、諦めた ように 、肩 を すくめた 。
「 分 りました 」 と 、 投げやりな 調子 で 、「 確かに 水口 君 と は ── その ── 友人 です 」 「 愛人 です ね 」 「 そう も 言えます 」 国友 は 苦笑 した 。 「奥さん は 、水口 恭子 の こと を 知っていた んですか ?
「 さあ ……。
もしかすると 知っていた かも ──」
「 もしかすると ?
「いや 、この ところ 、ちょっと 妻 の 様子 が 変だった んです 。
どうも よそよそしい と いう か ……」
「する と 、何 か 具体的に ?
「いや 、あくまで 、私 の 印象 です 」
と 、梨 山 は 言った 。
「一 年生 の 子 の 方 は どう です ?
「あれ は 本当に 、ちょっと ふざけて いた だけ です よ 」
と 、梨 山 は 強調 した 。
「一応 、その 子 の 名前 を 聞かせて いただきましょう 」「あれ は ──ええと 、大津 君 です 。 大津 和子 だった と 思います が 」「今日 は 来て います ね 」「どう ですか ね 」と 、梨山 は 首 を 振った 。 「ともかく 、年中 サボって る 子 でして 。 それ で 、私 に 、単位 を くれ と 言い に 来た んです 」
「何 と 引き換え に です か ?
「いや 、別に ……。
あれ は 本当に 、遊び です よ 」
梨 山 は 、ハンカチ を 出して 、額 の 汗 を 拭った 。
「今日 は 暑い です ね 」
「少し 寒い ぐらい です よ 」
「ああ 、いや 全く 。
それ で 汗 が 出る んです ね 、きっと 」
かなり 焦って いる ようだ 。
「ゆうべ 、本当に お宅 に 一人 で いた んですか ?
「本当 です よ 。
そりゃ あ ──証人 は いない けど 、確かに 一人 で いたんです 」「分りました 」近所 を 当って みよう 、と 国友 は 思った 。 「──もう 、いい です か ?
と 、梨 山 が 不安 そうに 訊く 。
「結構 です 」
と 肯 いて から 、国友 は 、梨山 が 歩いて 行き かける のに 声 を かけた 。
「遠出 される とき は 、連絡 して 下さい 」
梨 山 は 渋い 顔 で 、ちょっと 国友 の 方 を 振り向いて 、それから 、足早に 立ち去った 。
「 大津 和子 、 か ……」
国友 は 、メモ を 見て 呟いた 。
「 よし 」
国友 は 、手近な 内線 電話 を 捜して 、交換台 を 呼んだ 。
二 、三 分 後 、大学 の キャンパス の 中 に 、アナウンス が 流れた 。
「一 年 の 大津 和子 さん 。
一 年 の 大津 和子 さん 。
学生 部 の 会議室 へ いらして 下さい 」
これ なら 、捜す 手間 が かかる わけ も ない のだ 。
「遅い なあ ……」
と 、呟いて 、入口 の 方 を 見る 。
呑気 な 綾子 が 「遅い 」と 言う のだ から 、相当な もの だ 。
いや 、実際 、もう ここ へ 綾子 が 座って 、二十 分 に も なる のに 、水口 恭子 は 一向に やって 来ない のである 。
だからといって 、呼び に 行く とか 、捜し に 行く という こと を しない のが 、綾子 らしい ところ だ 。
ただ ひたすら 待つ のである 。
講堂 の 中 は 、シン と 静まり返って ──綾子 一人 しか いない のだ から 、当り前だが ──少し 寒い くらい だった 。 そう いえば 、あの 黒木 って 人 が 殺さ れた とき も 、私 、ここ に 座って いたんだ わ 、と 綾子 は 思った 。 そう 。
ここ は 殺人 現場 だった んだ 。 ──そう 思う と 、あまり いい 気持 は しない 。
でも 、大丈夫 。
私 は 、人 に 恨まれる ような こと 、して ない んだ から 、殺される なんて わけ は ない わ 。
綾子 は 、本気 で そう 信じて いた 。
「あ 、そう か 」
と 、例の 爆弾 事件 の こと を 思い出す 。
でも 、あれ は 何も 私 を 殺そう と した んじゃ ない かも ……。
しかし 、その 点 だけ は 、いかに 綾子 が そう 思い たくて も 、無理 が あり すぎた 。
ま 、いい や 。
──世の中 、そう 何でも 思う 通り に は 行かない もの だ 。
殺人 ね 。
世の中 に は 、どうして 、そんな 恐ろしい こと が 存在 する んだろう ?
綾子 に は 、到底 理解 でき ない こと だった 。
その とき ──ふと 、足音 らしい もの を 耳 に して 、綾子 は 周囲 を 見回した 。
しかし 、周囲 に は 誰 も いない 。