第一章 彼女 は 誰 に 会いたかった か ?1
263 号 線 は 福岡市 と 佐賀市 を 結ぶ 全長 48 キロ の 国道 で 、南北 に 脊振山地 の 三瀬峠 を 跨いで いる 。
起点 は 福岡 市 早良 区 荒江 交差点 。取り立てて 珍しい 交差点 で は ない が 、昭和 四十 年代 から 福岡 市 の ベッド タウン と して 発展してきた 土地柄 に ふさわしく 、周囲 に は 中 高層 の マンション が 建ち並び 、東側 に は 巨大な 荒江 団地 が ひかえている 。
また この 早良 区 は 福岡 の 文教地区 で も あり 、荒江 交差点 から 半径 三 キロ 内 に は 福岡 大学 、西南 学院 大学 、中村 学園 大学 など の 有名校 が 点在し 、その 学生たち が 多く 暮らしている せいか 、交差点 を 行き交う 人々 や 停留所 で バス を 待つ 人々 に は 、たとえ 年配 の 人 で あろう と 、どこか 若やいだ 印象 が ある 。
この 荒江 交差点 を 起点 に 早良 街道 と も 呼ばれる 263 号線 が 真っすぐに 南下する 。
街道 沿い には ダイエー が あり 、モスバーガー が あり 、セブンイレブン が あり 、「本 」と 大きく 書かれた 郊外型 の 書店 など が 並ぶ 。
ただ 、何 店舗 が ある コンビニ だけ を 注意して 見ていく と 、荒江 交差点 を 出て しばらく は 通り に 面して 直接 店舗 の 入口 が ある のだ が 、それ が 野芥 の 交差点 を 過ぎた 辺り から 、店先 に 一 、二 台 分 の 駐車場 が つく ように なり 、その 次の コンビニ で は 五 、六 台 分 、その また 次の コンビニ で は 十 数 台 分 と 駐車場 の 規模 が 広がって 、室見 川 と 交わる 辺り まで くる と 、いよいよ 大型 トラック も 楽に 数 台 停められる 広大な 敷地 の 中 に 、小箱 の ような コンビニ の 店舗 が 、ぽつんと 置かれた ように なって しまう 。
そして この 界隈 から 平坦 だった 道 が 緩やかに 傾斜 して いき 須賀神社 の 前 で 道 が 大きく 右 へ カーブする と 街道沿い の 民家 は 減り 真新しい アスファルト と 白い ガードレール だけ に 導かれる ように 三瀬 の 峠道 が 始まる 。ここ 三瀬 峠 には 昔 から 霊的 な 噂話 が 絶えない 。 古く は 山賊 の 住処 が あった と いう 江戸 時代 初期 、佐賀 の 北方 町 で 七人 の 女性 を 殺害した 犯人 が ここ へ 逃げ込んだ と の 噂 が ある 昭和 の 怪事件 、そして 一番 新しく 、この 峠 に 肝試し 気分 で ドライブ に 訪れる 若者 たち に 有名な の は 、以前 この 峠 に あった チロル 村 と いう 宿泊施設 で 、泊まり客 の 一人 が 発狂し 、同宿していた 他 の 客 を 殺害した と いう 噂話 だ 。
実際 に 霊 を 見た という 証言 も 胡散臭い ながら あり 、その 目撃 地点 として 福岡 と 佐賀 の 県境 に ある 三瀬 トンネル 出口 付近 が よく 挙げられる 。
この 三瀬トンネル は 「やまびこロード 」と 呼ばれる 有料道路 で 、冬季 、急カーブ や 急勾配 の 多い 峠道 の 交通難 を 解消する ために 、一九七九 年 に 事業化 、七年 後 の 一九八六 年 に 開通した 。
普通車 が 片道 250 円 、特大車 でも 870 円 である ため 、長崎 ―福岡 間 を 走る 運転手 の 間 では 、金 と 時間 を 天秤 に かけて 、高速 を 使わず に この 峠越え を する 者 も 少なくない 。
そして この 東西 に 走る 長崎 自動車 道 が 、ここ 「佐賀 大和 」の インター 付近 で 交差する のが 、福岡 市 早良 区 を 起点 に 、三瀬 峠 を 越えて きた 国道 263 号線 に なる 。
二〇〇二 年 一月 六日 まで は 、三瀬 峠 と 言えば 、高速 の 開通 で 遠い 昔 に 見捨てられた 峠道 で しか なかった 。
敢えて 特徴づける と しても 、トラック 運転手 に とって の 節約 の 峠道 、暇 を 持て余した 若者たち に とって の 胡散臭い 心霊 スポット の ある 峠道 、そして 地元 の 人 に とって は 、事業 費 五十億円 を 投じた 巨大 トンネル が 開通した 県境 の 峠道 で しか なかった のだ 。
しかし 、九州 北部 で 珍しく 積雪 の あった この 年 の 一月 初旬 、血脈 の ように 全国 に 張り巡らされた 無数 の 道路 の 中 、この 福岡 と 佐賀 を 結ぶ 国道 263 号線 、そして 佐賀 と 長崎 と を 結ぶ 高速 ・長崎 自動車 道 が 、まるで 皮膚 に 浮き出した 血管 の ように 道路 地図 から 浮かび上がった 。
この 日 、長崎 市 郊外 に 住む 若い 土木 作業員 が 、福岡 市内 に 暮らす 保険 外交員 の 石橋 佳乃 を 絞殺 し 、その 死体 を 遺棄 した 容疑 で 、長崎 県 警察 に 逮捕 された のだ 。
九州 には 珍しい 積雪 の あった 日 で 、三瀬 峠 が 閉鎖された 真冬 の 夜 の こと だった 。
◇ JR 久留米駅 から ほど 近い 場所 に ある 理容 イシバシ の 店主 、石橋 佳男 は その日 、二〇〇一年 十二月 九日 の 日曜日 、休日 だ という のに 朝 から 一人 も 来ない 客 を 捕まえよう と でも する かのように 、白衣 の まま 店先 に 出て 、北風 の 吹きつける 通り を 窺っていた 。 すでに 妻 、里子 の 作った 昼食 を 店 の 奥 で 済ませて 一時間 が 経つ のに 、店 の 外 に も まだ その カレー の 匂い が 漂って いた 。
店 の 前 の 通り から 遠くに JR 久留米駅 が 見えた 。
閑散 と した 駅前 の ロータリー には 、もう 一時間 も 前 から 客待ち の タクシー が 二台 停まっている 。
この 閑散 と した 駅前広場 を 見るたびに 、もしも 自分 の 店が JR ではなく 、西鉄久留米駅 前に あれば 、客の入りも 少し は 違った のではないか と 佳男 は 思う 。
実際 、福岡 市内 と ここ 久留米 を 結ぶ 両 路線 は 、ほとんど 平行 に 走っている のだが 、JR 特急 が 片道 1320円 で 26分 なのに 対し、西鉄 の 急行 なら 42分と時間はかかるが、半額 以下 の600円 で 福岡 市内 へ 行ける のだ。
16分 という 時間 を 取る か 、720円 の 金 を 取る か 。
佳男 は 年々 寂しく なって くる この JR 久留米 駅前 を 店先 から 眺める たび に 、人 と いう の は 16 分 と いう 時間 を 、簡単に 720円で売ってしまえるのだなと思う。
もちろん みんな が みんな とは 言わない 。
たとえば 、同じ 石橋 という 苗字 でも 、ここ 久留米 が 世界に 誇る ブリヂストン の 創業 者 、石橋 家 の 人々 なら 貴重な 時間 を 、そんな はした金 に 換える わけがない 。
ただ 、そういう 人 は この 街 には ほんの 一握り で 、師走 の 日曜日 の 昼下がり 、店先 で 客 が 来る のを 待っている 自分 と 同じく 、ほとんど の 住民 が 多少 駅 まで 遠く ても 、福岡 へ 出る ときに は 安い 西鉄駅 へと 向かう のだ 。
一度 、佳男 は JR と 西鉄 の 差 で 、ある 計算 を した ことがある 。
16 分 を 720 円 と して 、 七十 歳 まで 生きた と する と 、 いったい 人間 の 値段 と いう の は いくら ぐらい に なる の か と 考えた のだ 。
計算機 片手 に 計算 して みる と 、最初 、はじき出された 金額 を 見て 、計算 間違い でも した か と 思った 。
出てきた のが 、十六億 に 達する 金額 だった のだ 。
ただ 、慌てて 計算 し直して みて も 、やはり 同じ 金額 しか 出てこない 。
人 の 一生 が 十六億 。 俺の 一生 、十六億 。
暇潰し で 叩いた 電卓 上 の 金額 で 、何の 意味 も ない 数字 とは いえ 、この 値段 は 客足 が 遠のく ばかりの 理容店 店主 、石橋 佳男 を 一瞬 幸福な 気持ち に してくれた 。
佳男 には 今年 の 春 、短大 を 卒業 し 、福岡市内 で 保険 の 外交員 を 始めた 佳乃 という 一人娘 が いた 。
同じ 県内 である し 、歩合制 の 給料 も 当て に できない のだ から 、短大 の とき のように 自宅 から 西鉄 で 通え と 二週間 かけて 反対 した のだが 、「家賃 補助 も ある し 、それに 自宅 やったら 、仕事 を がんばらん ように なる けん 」と 言い張って 、結局 、職場 に 近い 会社 の 借り上げ アパート に 引っ越して しまった 。
それが 原因 と いう わけ も ない のだろう が 、佳乃 は 博多 に 引っ越して 以来 、ほとんど 家 に 寄りつかない 。
土日 に 戻れ と 電話 を して も 、顧客 の 接待 が 入っている から 駄目だ と つれなく 、さすがに 今度 の 正月 くらい は 帰ってくる だろう と 思っている と 、つい 先日 、妻 から 、「今度 の 年末年始 ね 、佳乃 、会社 の 同期 の 人たち と 大阪 に 行く けん 、こっち には 戻らん って よ 」と 教えられた 。
「大阪 に ?
何 しに か ! 」と 佳男 は 妻 を 怒鳴った 。
ただ 、妻 も それを 見越して いた ようで 、「私に 怒鳴って も 知らん よ 。
女の子 たち で ユニバーサル なん ちゃ ら に 行く らし か 」 と 答え 、 さっさと 台所 で 二人 分 の 夕食 の 支度 を 始めた 。
「お前 、そぎゃん 大事な こと 、なんで 今まで 俺に 言わん か ?
」その 背中 に 佳男 は また 怒鳴った が 、妻 は 鍋 に 醤油 を 垂らし ながら 、「佳乃 だって 社会人 に なった と よ 。 いっちょん 休み も 取れん と に 、休み くらい 自由に させとったら よかやん ね 」と 静かに 言う 。
出会った ころ は 、 それ こそ ミス 久留米 に 選出 される ような 女 だった が 、 佳乃 を 出産 して 以来 、 体 に ついた 脂肪 の せい で 、 今 は 見る 影 もない 。
「 お前 、 いつ から 知っとった と や ? 」 そう 怒鳴った 瞬間 に 、 店 の ドア が チリン と 鳴った 。 佳男 は 舌打ち しながら 店 へ 戻った 。
妻 は 何も 答えなかった が 、「お父さん には 飛行機 の チケット とか 予約する まで 内緒 に しとって よ 」とか なんとか 電話 で 頼んできた はず の 娘 に 、「分かっとる 、分かっとる 」と 面倒臭 そうに 相づち を 打つ 妻 の 様子 が ありあり と 目 に 浮かんだ 。
店 に 入ってきた のは 、最近 まで 母親 に 連れられて 来ていた 近所 の 小学生 で 、鎧兜 を つけた 日本人形 のように 可愛い のだが 、赤ん坊 の ころ あまり 母親 に 抱いて もらえなかった のか 、後頭部 が 笑って しまう ほど の 絶壁 だった 。
それでも この 子 のように 、近所 の 床屋 に 通って くれる うち は いい 。
それ が 中学校 、高校 と 上がる うちに 洒落っ気 が 出て 、 髪 を 伸ばしたい だの 、あの 床屋 で 切ったら ダサく なる だの と 敬遠 される ように なり 、気がつけば 、週末 に 西鉄 に 乗って 、予約 を 入れた 博多 の 洒落た 美容院 なんか で カットする ように なっている 。
先日 、市内 の 理容 ・美容 の 組合 で 、そんな 話 を 佳男 が する と 、横 で 焼酎 を 飲んでいた 美容 リリー の 女主人 が 、「男の子 なんか まだ よか よ 。
女の子 なんか 、中学生 は もちろん 、今ごろじゃ 、小学生 の ころ から 博多 の サロン 通い や もんねぇ 」と 口 を 挟んで きた 。
「お前 だって 子供 の ころ から 色気づい とった ろう が 。
今の 子 の こと だけ 言われる もん や 」
同年 代 の 気安さ で 、佳男 は 茶化した 。
「うち ら の ころ は 、博多 の サロン や なか よ 、自分 で クルクルカーラー 片手 に 、二時間 も 、三時間 も 鏡 の 前 に 立っとった もん 」「聖子ちゃんカット やろ ?
」佳男 が 笑う と 、近く で 飲んでいた 数人 も 、「もう 二十年 も 前 の 話 や もん なぁ 」と グラス 片手 に 二人 の 会話 に 加わってくる 。
世代 的には 佳男 たちの ほうが 少し 上 だが 、たしかに この 街 から あの 松田聖子 は 巣立った のだ 。
一九八〇 年代 の 初め 、当時 の ことを 振り返る と 、今では くすんで しまった この 久留米 の 街が 彼女の 透き通った 歌声に 乗って 、再び きらきらと 輝き出して くる ように 佳男は 思う 。
佳男は 若い ころ 、一度だけ 東京へ 行った ことが あった 。
当時 組んで いた 下手くそな ロカビリーバンド の 連中と 、ポマードを たっぷりと つけた まま 夜行 列車を 乗り継いで 、原宿の 歩行者天国を 見学に 行った のだ 。
初日 は ただただ その 人 の 多さ に 圧倒された だけ だった が 、二日目 に は それに も 慣れて 、気がつけば 、田舎者 の 劣等感 と 焦燥感 から 、歩行者天国 で 踊る 男たち に 喧嘩 を ふっかけて いた 。
ただ 、九州 訛 の 売り言葉 に 、東京 の 若者たち は 、「あの さ 、邪魔 だ から 、どいて くれない かな 」と 顔色 一つ 変えなかった こと を 覚えている 。
そして もう 一つ 、あれ は ガイドブック で 調べた バー を 探して 六本木 を 歩いている とき だった か 、ドラム を 担当していた 政勝 が 、「しかし 、松田 聖子 は やっぱり すごか なぁ 。
久留米 から 出てきて 、この 街 で 成功した と やもん なぁ 」と しみじみと 呟いた 、その 言葉 を 佳男 は 未だに 忘れられない 。
考えて みれば あの 旅行 から 戻って すぐに 、当時 まだ 未入籍 だった 里子 から 、佳乃 を 妊娠した と 告げられた のだ 。
店先 に 立って 客 を 待っていた のが 功を奏した のか 、この 日 、夕方 に なって とつぜん 客が 立て込んで きた 。
最初に 来た のは 、昨年 県庁 を 定年 退職した 近所の 男 で 、退職金 や 年金 の おかげで 老後の 心配も ない のか 、最近 、一匹 十万 円 も する という ミニチュアの ダックスフント を 三匹 も まとめ買いし 、散髪に 来る とき でさえ 、両手 に その 三匹の 犬を 抱えて くる 。
三匹の うるさい 犬を 店先に 繋ぎ 、この 男の 薄くなった 髪を 切っている と 、やはり 近所の 中学生が やってきた 。
あいさつ する でも なく 、店 に 入る と さっさと 背後 の ベンチ に 座り 、持参 した マンガ 本 を 読みふける 。
一瞬 、佳男 は 妻 を 呼んで 刈らせよう か と も 思った が 、ダックスフント の 飼い主 の ほう が そろそろ 終わり そうだった ので 、「すぐ やけん 、ちょっと 待っとって ね 」と 無愛想な 少年 に 声 を かけた 。
妻 は 佳男 と の 結婚 を 機に 博多 の 学校 に 通い 、理容 師 免許 を 取得 して 、将来 的に は もう 一軒 店 を 出そう など と 夢 を 抱いて いた のだ が 、もちろん 八〇 年 代 の 景気 は すぐに 陰り を 見せ 、その 上 、三 年 前 に 母親 を 脳 血栓 で 亡くす と 、「他人 の 髪 ば 触っとる と 、なんか 死体 に 触れ とる ような 気 が して くる と よ 」など と 薄気味 の 悪い こと を 言い出して 、最近 で は 店 に 立とう と も しない 。
しかし 繁盛 する とき は する もの で 、県庁 を 退職した 客 の 髭 を 剃っている 最中 、三 人 目 の 客 が 来てしまった 。
仕方なく 店 の 奥 に 声 を かけ 、妻 に 刈らせよう と した の だが 、「今 、ちょっと 手 が 離せん 」と いう 不機嫌 な 声 が 返ってくる 。
「手 が 離せん ち なんか ?
お 客 さん が 待っと ら す と ぞ 」「だって 、ちょうど 今 、海老 の ワタ 抜き 始めた ばっかり と よ 」「海老 の ワタ なんか 、あと で よかろう が ! 」「 だって 、 今 、 して しもう た ほう が ……」 妻 の 言葉 を 聞き 終わる 前 に 、 佳男 は 内心 諦めて いた 。 鏡 の 中 で 、昨年 県庁 を 退職 した 男 が 呆れた ように 微笑んでいる 。
おそらく 、この 手 の やりとり を 以前 に も ここ で 聞いた こと が ある の だろう 。 「ごめん ねぇ 、ちょっと 待っとって ね 」佳男 は 背後 の 中学生 に 声 を かけた 。
中学生 は 気 に も せず 、じっと マンガ を 読んで いる 。
「床屋 の 嫁 の くせに 、どうにも ならん 」ハサミ を 持ち直した 佳男 が 舌打ち する と 、鏡 の 中 で 目 が 合った 客 が 、「……うち も 一緒 たい 。
こっち が ちょっと 犬 の 散歩 ば 頼んだ だけ で 、『あんた は いっちょん 家事 の 大変さ ば 分かっとらん ! 私 ば 家政婦さん か 何か と 思う とる ! 』ち 怒り出す し 」と 舌 を 出す 。
佳男 は 客 の 話 に 一応 愛想笑い は 返した が 、年金 生活者 が 頼む 犬 の 散歩 と 、床屋 の 妻 に 客 の 髪 を 刈れ と 頼む と では 話 が 違う 。
その後 も 珍しく 客足 は 途絶え なかった 。
閉店 の 七時 までに 、白髪 染め の 客 を 含めて 八人 。
まるで 月 に 一度 の ペース で 来る 常連客 が 、纏めて 来た ような 忙しさ だった 。
呼ぼう にも 海老 の ワタ を 抜き終えた 妻 は 、さっさと 買い物 に 出かけて いた 。
この 日 、最後 の 客 を 送り出して 、床 に 散乱した 髪 を 掃き取りながら 、毎日 とは 言わない が 、せめて 週 に 一度 くらい こんな 日 が あれば いい のに 、と 佳男 は 思った 。
立ちっぱなし で 足腰 は 限界 だった が 、レジ 代わりに している 古びた 革 の 財布 が 、千 円 札 で 膨れてくる 感触 は 、もう 十 年 以上 も 味わった ことの ない もの だった 。
店 を 閉めて 居間 へ 上がる と 、妻 が 電話 で 娘 と 話 を していた 。
必ず 週に 一度 、日曜の 夜に は 連絡を 入れろ 、と いう 約束 だけは 辛うじて 破って いない 。
ただ 、 娘 と 話 を する 妻 を 眺め ながら 、 佳男 は その 内容 で は なく 、 つい 電話 代 の ほう を 気 に して しまう 。
数カ月前 、娘は PHSを 解約し 、新たに 携帯を 購入した 。
部屋に 固定電話が ある のだから それを 使え と 佳男が 何度 言っても 、娘は 手元 に ある ほうが 便利だと 言って 、必ず 携帯から かけてくる 。