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悪人 (Villain) (1st Book), 第二章 彼は誰に会いたかったか?【4】 – Text to read

悪人 (Villain) (1st Book), 第二章 彼は誰に会いたかったか?【4】

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第 二 章 彼 は 誰 に 会い たかった か ?【4】

祐一 が いつも 選択 する の は 、一番 人気 の ある 「四十 分 ・5800 円 」の コース だった 。

シャワー を 浴びる 時間 を 除けば 、二人きり で いる 時間 は 三十 分 に も 満たない のだが 、逆に それ だけ あれば 、客 が 求めて いる こと に は 充分 だった 。

時間 が 余る と 、たいてい の 客 は 二 度目 を 望んだ 。 時間 いっぱい 何 か を して もらおう と 貪欲 だった 。 しかし 祐一 の 場合 、シャワー の あと 、あっという間に 果ててしまう と 、美保 が 手 を 伸ばして も 自分 の 性器 に は 触れ させよう と せず 、腕枕 を して 一緒に 天井 を 眺めている こと を 好んだ 。

楽な 客 で は あった 。

回 が 重なって くる うちに 美保 の ほう でも 慣れて しまい 、腕枕 を され ながら つい うとうと してしまう こと さえ あり 、いつの間にか 、無口な 祐一 に 身の上話 まで する ように なっていた 。

祐一 は ぶた まん の 次 に ケーキ を 買って きた 。

来る たび に 何 か 食べ物 を 買って きて 、狭い 個室 で 一緒に 食べた 。 徐々に 慣れて きた 美保 も 、祐一 が 来れば まず シャワー で は なく 、冷たい 紅茶 か 、珈琲 を 出して やる ように なっていた 。

祐一 が 手作り の 弁当 を 持ってきた の は 、たしか 五 回目 か 、六 回目 、休日 の 午後 だった と 思う 。

また いつも の ように 何か 持ってきた のだろう と 、差し出された 紙袋 を 受け取る と 、中 に スヌーピー の 絵柄 が ついた 二段 重ね の 弁当箱 が 入っている 。

「 弁当 ? 思わず 声 を 上げた 美保 の 前 で 、祐一 が 照れくさ そうに 蓋 を 開ける 。

一段目 に は 卵焼き 、ソーセージ 、鶏 の 唐揚げ と ポテトサラダ が 入っていた 。

下 の 段 を 開ける と 、びっしり と 詰まった ごはん に 、丁寧に 色分けされた ふりかけ が かけてあった 。

弁当 箱 を 渡された とき 、一瞬 、祐一 に は 彼女 が いて 、その 彼女 が 祐一 の ため に 作った 弁当 を 、自分 に 持ってきた の ではないか と 思った 。

しかし 、「これ 、どうした と ? 」と 美保 が 尋ねる と 、照れくさそうに 俯いた 祐一 が 、「あんまり 、旨うない かもしれん よ 」と 呟く 。

「……まさか 清水 くん が 作った わけじゃ ない よ ね ? 思わず 尋ねた 美保 の 手 に 、祐一 が 割り箸 を 割って 持たせて くれる 。

「唐揚げ とか は 、昨日 の 晩 、ばあちゃん が 揚げた 残り やけど ……」

美保 は 呆然と 祐一 を 見つめた 。

テスト の 結果 を 待つ 子供 の ように 、祐一 は 美保 が 食べる の を 待っている 。

祐一 が 祖父母 と 三人 暮らし だ と いう こと は 、すでに 聞いて いた 。

客 の 素性 など なるべく 知りたくない と 思っていた ので 、もちろん それ 以上 は 訊かなかった 。

「ほんとに 、これ 、自分 で 作った の ? 美保 は ふんわり と 焼かれた 卵焼き を 箸 で つまんだ 。

口 に 入れる と 、ほのかな 甘さ が 広がる 。

「俺 、砂糖 が 入っとる 卵焼き が 好き やけん 」言い訳 する ような 祐一 に 、「私 も 甘い 卵焼き が 好き 」と 美保 は 答えた 。 「その ポテト サラダ も 旨か よ 」

春 の 公園 に いる わけで は なかった 。

そこ は 窓 も なく 、ティッシュ 箱 の 積まれた 、ファッションヘルス の 個室 だった 。

その 日 から 、祐一 は 店 に 来る たび に 手作り の 弁当 を 持ってきた 。

美保 の ほう でも シフト を 訊かれれば 素直に 教え 、「九時 ぐらい が 一番 おなか 減る かな 」など と 、知らず知らず の うちに 、祐一 の 弁当 を 当てに する ように なっていた 。

「誰 か に 習った わけじゃ なか けど 、いつの間にか 作れる ように なっとった 。 ばあちゃん が 魚 を 下ろす の を 眺め とる の も 好き やった し 、ただ 、後片付け は 面倒 やけど …… 」

祐一 は 派手な ネグリジェ 姿 で 弁当 を 食べる 美保 を 眺め ながら 、そんな 話 を した 。

実際 、祐一 の 弁当 は 美味しくて 、「この前 の ヒジキ 、また 作って きて よ 」など と 、美保 が リクエスト する こと も 多かった 。

弁当 を 食べ 終わる と 、祐一 は 腕 枕 で 添い寝 する こと を 好んだ 。

本来 なら シャワー を 浴びて もらう 規則 だった が 、いつの間にか 、平気で 規則 を 破る ように も なっていた 。

その 日 の おかず の 感想 を 述べ ながら 、美保 は 祐一 の 性器 を 弄った 。

ちゃんと 料金 は もらっている のに 、どこか 弁当 へ の お礼 の ような 気持ち も あった 。

「清水 くん って 、外 で 会おう とか 、誘って こない よね 」残り 時間 五 分 の アラーム が 鳴った あと だった 。 美保 の 手 は 祐一 の パンツ に 突っ込まれた まま で 、祐一 の 指 は 忙しく 美保 の 乳首 を 弄っていた 。

「普通 、常連 さん に なったら 、絶対 に 誘って くる よ 。 今度 、外 で デート しようって 」祐一 が 返事 を しない ので 、美保 は 改めて 聞き直した 。 その 途端 、乳首 を 弄って いた 祐一 の 指 が とつぜん 止まる 。

「誘われたら 、外 で 会う と や ? 殺気立った 声 だった 。

口 で は なく 、指 が 喋った ようで 、痛み は ない のに 、乳首 が 強く つままれている の が 分かった 。 美保 は 身 を 捩り 、「会わん よ 。 会う わけない たい 」と 告げて ベッド を 出た 。 その 腕 を 祐一 が 強く 掴む 。

「 俺 は ここ で 会えれば よ か よ 」 と 祐一 は 言った 。

「ここ なら 、ずっと 、誰 に も 邪魔されん で 、二人きり で おれる やろ ? 」と 。

「ずっと 、って 、四十 分 だけ たい 」と 美保 は 笑った 。 祐一 は 真面目な 顔 を して 、「だったら 、今度 から 一時間 の コース に する けん 」と 言った 。

最初 、冗談 か と 思った 。

ただ 、祐一 の 目 は どこ から どう 見て も 真剣 だった 。

消灯 時間 を 向かいて 、看護師 が 病室 の 灯り を 消し に きた 。

ベッド に 横たわり 、天井 を 見つめた まま 、祐一 の こと を 思い出していた 美保 は 、病室 の 電気 が 消さ れ る と すぐに ベッド を 抜け出した 。

入口 に 一番 近い ベッド に だけ 、まだ 明かり が ついて おり 、暗い 病室 の 中 、そこ だけ 時間 が 流れて いる ように 見える 。

内側 から 照らさ れた カーテン に 、本 を 読む 人影 が かすかに 映る 。 読んで いる の は 、市内 の 短大 に 通って いる という 女の子 で 、幼い ころ から 腎臓 を 患って いる らしく 、どこか くすんだ 肌 を している が 、愛くるしい 笑顔 の 持ち主 で 、彼女 が 家族 中 から 愛されて 育った こと が よく 分かる 。 美保 は スリッパ の 音 を 立て ない ように 病室 を 出て 、エレベーターホール へ 向かった 。

廊下 に は 浴室 と トイレ を 示す オレンジ色 の ビニールテープ が 伸びている 。

担架 も 入る 大きめの エレベーター に 乗り込む と 、自分 が 下っている ので なく 、病棟 全体 が 上がっていく ような 感覚 に 襲われる 。

一階 の 待合 ホール に は 、まだ ベビーカー の 男の子 を あやしている 老婆 が いた が 、シンと 静まり返った 様子 は そのままで 、自動販売機 の 音 だけ が 響いている 。

今さら 、祐一 と 会って 何 を 話したい という わけ で も なかった 。 結局 、祐一 の 気持ち を 踏みにじった の は 自分 で 、合わせる 顔 など ない こと も 分かって いた 。 ほとんど 見舞 客 も ない 入院 生活 を 二 週間 近く も 送り 、自分 が 弱気 に なっている せい かも しれ なかった 。

それ でも さっき 老人 の からだ を 支えて ここ へ 入ってきた 祐一 に 、何か 声 を かけたかった 。

残酷に 別れ を 告げて しまった 祐一 の 口 から 、「今 は 普通 の 女の子 と 付き合ってて 、楽しく やってる 」と でも 言ってもらえれば 、あの とき の 自分 が 許されそうな 気 も した 。

ファッションヘルス で 知り合った 女 なのに 、祐一 は 一緒に 暮らそう と 小さな アパート まで 借りて くれた のだ 。

ぼんやり と ベビーカー の 男の子 を あやす 老婆 を 眺めている と 、ふと こちら に 目 を 向けた 老婆 が 、「ここ は 静かで 落ち着く もん ねぇ 」と 声 を かけてきた 。

もう 何度 も ここ で 顔 を 合わせていた が 、声 を かけられた の は 初めて だった 。 これ から 祐一 に 会う のだ と いう 緊張 で 、少し からだ を 強張らせていた 美保 は 、引きつけられる ように 老婆 の ほう へ 近寄った 。 ベビーカー の 男の子 を 間近 で 見る の は 初めて だった 。

遠目 に も なんとなく 想像 は していた が 、男の子 の からだ は 、想像 以上 に 捩れており 、弱々しい 斜視 が 、焦点 なく さまよっている 。

「マモル くん 」

美保 は 男の子 の 細い 腕 を 摩った 。

横 で 老婆 が 、どうして 名前 を 知っている の か 、怪訝そうな 顔 を する 。

「さっき 、看護師 さん が そう 呼んでた でしょ ? 美保 が 慌てて 説明 する と 、 嬉し そうな 顔 を した 老婆 が 、「 マモル は 、 人気者 や ねぇ 、 みんな 、 マモル の こと 知っと る よ 」 と 男の子 の 汗ばんだ 額 を 撫でる 。 「こう やって 撫でて やっとる と 、痛み が 減る と や もんねぇ 」そう 言いながら 、老婆 は ぐったり と した 男の子 の 肩 を 摩った 。 自動販売機 が 、かすかに 音 を 上げて 唸る 。

いくら でも 言葉 は 浮かんだ が 、なぜ か 口 から 出て こなかった 。

美保 は 老婆 の 横 に 座って 、ベビーカー から 突き出された 男の子 の 腕 や 脚 を 、見よう見真似で 摩り続けた 。

エレベーター の ドア が 開き 、祐一 が 降りて きた の は その とき だった 。

横 に 老人 は おらず 、ジーンズ の ポケット に 両手 を 突っ込んで 、不機嫌 そうな 顔 だった 。

祐一 は ちらっと こちら に 目 を 向けた が 美保 に は 気づか なかった ようで 、すぐに 視線 を 逸して 歩き出した 。

「清水 くん ! そろそろ 施錠 さ れる 入口 へ 向かう 背中 に 、美保 は 思い切って 声 を かけた 。

一瞬 、ビクッ と 足 を 止めた 祐一 が 、警戒 する ように 振り返る 。

美保 は ベンチ から 立ち上がり 、まっすぐに 祐一 を 見つめた 。

たった今 まで 摩ってあげていた 男の子 の 足 が 、かすかに 美保 の 太もも に 触れていた 。

もっと 摩って くれ と ねだる ように 、男の子 の 足 が 動いて いた 。

目 が 合った 瞬間 、祐一 の からだ から すっと 力 が 抜けた 。 美保 は 思わず 手 を 差し伸べた 。 ただ 、手 を 差し伸べて 届く ような 距離 で は ない 。

美保 は 慌てて 祐一 に 近寄った 。

祐一 の 顔 が 見る見る 青ざめて いく の が 分かる 。

「だ 、大丈夫 ? 美保 は 祐一 の 腕 を とった 。

たった今 まで 、男の子 の 細い 腕 を 摩っていた ので 、一瞬 、その 感触 の 違い に 鳥肌 が 立つ 。

「 さっき 、 お じい さん 連れて 入って くる の 見かけて 、 ここ で 待っとった と よ 」 と 美保 は 言った 。 一瞬 、あの 老人 を 送って きた ので は なく 、彼 自身 が 病気 な の かも しれない と さえ 思える 。

「とりあえず 、そこ に ちょっと 座ったら ? 美保 が 腕 を 引く と 、祐一 が すっと 逃れる ように 身 を 躱す 。 「 別に 、 今さら 謝ろう と か 、 そういう ん じゃない と よ 。

もう 二 年 も 前 の 話 だし ……。 ただ 、久しぶり に 清水 くん の 顔 を 見たら 、懐かしく なって ……」

思いがけず 縮めて しまった 距離 を 離す ように 美保 は 言った 。

真っ青 だった 祐一 の 顔 に 少しずつ 血の気 が 戻ってくる 。

「ごめん ね 、呼び止めて 」

美保 は 謝った 。

今 は 普通の 女の子 と うまく やってる 。

祐一 に そう 言って もらい たくて 声 を かけた だけ だった 。 ただ 、自分 の 顔 を 見た とたん 、祐一 は 青ざめた 。

どう 考えて も 、祐一 が まだ 自分 を 許していない と しか 考えられなかった 。 もう 時間 が 経った のだ から と 気軽に 声 を かける など 、裏切った ほう の 身勝手 だった のだ と 美保 は 痛感した 。

「俺 、ちょっと ……」

祐一 が 言いにく そうに 入口 の ほう へ 目 を 向ける 。

美保 は 素直に 手 を 離し 、「 うん 、 ごめん ね 、 声 なんか かけて 」 と 謝った 。

祐一 が まだ 自分 に 気 が ある など と 考えていた わけ で は なかった 。

ただ 、それにしても 祐一 の 態度 は 冷たすぎた 。

祐一 は まるで 逃げる ように 病院 を 出て行った 。

駐車場 へ 向かう 祐一 の 姿 が 、月明かり に 照らされて いた 。 すぐ そこ に ある 駐車場 へ 向かっている はずなのに 、美保 の 目 に は 、彼 が もっと 遠く へ 向かっている ように 見えた 。 夜 の 先 に 、また 別の 夜 が ある のだ と すれば 、彼 は そこ へ 向かっている ようだった 。

祐一 の 背中 は 駐車場 へ と 消えた 。

二 年 ぶり の 再会 など なかった ように 、彼 は 一 度 も 振り返らなかった 。

この 日 も テレビ の ワイドショー は 一斉に 三瀬 峠 の 事件 を 報じて いる 。

どの チャンネル を つけて も 、見知った キャスター や レポーター たち が 、真冬 の 峠 の 映像 を 背景 に 顔 を 歪ま せて 犯人 へ の 憎しみ を 吐露していた 。

ワイドショー で の 報道 は 、おおかた 次 の ような もの だった 。

福岡 市内 で 生命保険会社 に 勤める 二十一歳 の 女性 が 、何者 か に よって 殺害され 、三瀬峠 に 遺棄された 。

女性 は その 夜 十 時 半 ごろ 、会社 の 借り上げ アパート 近辺 で 同僚 たち と 別れて 、歩いて 三 分 ほど の 場所 へ ボーイフレンド に 会いに行った きり 、連絡 が つかなく なった 。

現在 、警察 は この ボーイフレンド 、二十二 歳 の 大学生 を 重要 参考人 と して 捜索 している が 、友人 たち の 話 に よれば 、彼 は ここ 一 週間 ほど 、行方 が 分からなくなっている と いう 。

画面 に は 事件 の 経過 を 伝える テロップ と 共に 、寒々 とした 峠 の 映像 が 重なり 、殺害 された 被害者 の 無念さ を 演出していた 。

逆に 、「学内 一 の 人気者 」「愛車 は 高級 外車 」「独り 住まい の マンション は 、福岡 の 一等地 」など と 、行方不明 の 大学生 の 素性 を 伝える 際 に は 、華やかな 天神 や 中洲 界隈 の 映像 が 使われていた 。 コメンテーター たち は 、九分九厘 、この 行方不明 の 大学生 が 犯人 だ と 思っている ようで 、その ニュアンス は ワイドショー を 眺めている 視聴者 に も 確実に 伝わってくる 。

福岡 市内 で 進学 塾 の 講師 を 務める 林 完治 、手 に した マーマレード つき トースト が 冷える の も かまわず に 、じっと テレビ 画面 を 凝視 していた 。

午後 三 時 、そろそろ 出かけなくては 授業 に 遅刻してしまう のだが 、なかなか 椅子 から 立ち上がれない 。

林 完治 が この 事件 を 知った の は 、二 日 前 、やはり 今日 と 同じ ように 昼 過ぎ に 起きて 、すぐに つけた テレビ で だった 。

最初 は 、「へ ぇ 、三瀬 で ねぇ 」など と 呑気 に 眺めていた のだが 、被害者 の 写真 が 映し出された とたん 、飲んでいた オレンジジュース を 喉 に 詰まらせた 。

石橋 佳乃 で なく 、ミア と 名乗って いた が 、その 被害者 が 二 カ月 ほど 前 に 携帯 サイト で 知り合った 女の子 に 違いなかった のだ 。

林 は 慌てて 携帯 の 履歴 を 確かめた 。

時期 的に 残って いる 可能性 は 低かった が 、辛うじて 一通 だけ 彼女 からの メール が 残っていた 。

「この前 は いろいろ ごちそうさまでした 。 すごい 楽しかった 。 でも 、やっぱり この 前 話した ように 来月 東京 へ 転勤 に なって 、もう 会え そうに ないです 。 本当に タイミング 悪くて ごめん 。 本当に ありがとう 。 バイバイ 。 ミア より 」

林 完治 の 携帯 に 残っていた の は 、彼女 から の 最後 の 、要するに 「もう 連絡 を くれるな 」という 別れ の メール だった 。

これ より 以前 に 取り交わした 膨大な メール は 、すでに 消えている が 、石橋 佳乃 =ミア と 会った 日 の こと は 鮮明に 覚えている 。

待ち合わせ した の は 福岡 ドーム ホテル の ロビー で 、広い ホール を 囲む ように 長い ベンチ が あり 、ほとんど 隙間 なく 家族連れ など の 客 たち が 占領していた 。

ミア は 約束 から 十 分 ほど 遅れて 現れた 。

事前 に もらっていた 写 メール より 、幾分 見劣り は した が 、それでも 四十二 歳 で 独身 の 林 の 目 に は 、てんとう虫 の ように 可愛らしく 映った 。

ミア は 堂々と した もの で 、すぐに 領収書 を 見せて ホテル までの タクシー 代 を 請求してきた 。

「遠い 」と言われて 、「だったら 、タクシー 使って 来んね 」と言った のは 林 の ほう だった が 、さすがに 挨拶 も なく 請求される と 、自分たち が ある 条件 の もと で 会う 約束 を した のだ と 思い知らされる 。 「あんまり 時間 が ない と よ 」と ミア が 言う ので 、予定 していた 喫茶店 は 省いて 、車 で 近所 の ラブホテル に 移動した 。

林 に とって も 初めて の 経験 で は なかった ので 、先 に 約束 した 三万 円 を テーブル に 置き 、すぐに 狭苦しい ベッド で 事 に 及んだ 。

ミア の ほう も 間違い なく 、こういう 出会い が 初めて で は ない ようだった 。

金 を 受け取る と 、すぐに 服 を 脱ぎ 、下着 だけ に なった ところ で 、「ねぇ 、飲み物 、注文 して よか ? 」と フロント に 電話 を かけた 。

豊満 な 胸 の 下 に あばら が 浮いていた 。

ただ 、下腹 に だけ 、やわらか そうな 贅肉 が ついている 。

ベッド に 腰かけて フロント に 電話 を する ミア は 、まるで 本物 の 娼婦 の ようだった 。

それ まで に 本物 の 娼婦 を 見た こと は なかった が 、林 に は そう 見えた 。

ベッド で の ミア は 楽しんでいる ようだった 。

肌 や 性器 の 熱 も 、金 の 為 の 演技 と は 思え なかった 。

素人 の 娼婦 と 娼婦 の 素人 なら 、どちら が エロティック だろう か と 林 は 考えた 。

どちら に しろ 女 に 変わり は ない が 、何か が 大きく 違っている ような 気 が して 仕方なかった 。 一口 だけ 齧った あと に 、くっきり と 歯形 が 残って いる 。

一度 関係 の あった 女 が 、何者か に 殺害された 。

この 三 日間 、頭 で は 理解 できて も 、なかなか その 気持ち を 消化 できずに いる 。

敢えて 例える ならば 、中学 時代 の 同級生 が 地元 放送局 の アナウンサー として テレビ に 出演 している のを 初めて 見た とき 、「あんな 女 が テレビ で 喋っとる 」と 、半ば あざ笑い 、半ば 羨望 した とき の 気持ち に 近い 。 ただ 、ミア は アナウンサー に なった わけで は ない 。 誰 か に 首 を 絞められて 、極寒 の 峠 に 捨てられた のだ 。 おそらく 犯人 は 、自分 と 同じ ような 男 に 違いない 。

携帯 の サイト で 、彼女 は 自分 と 同じ ような 男 と 出会い 、それ が たまたま 殺人 鬼 だった のだ 。

林 は 、自分 を 正当化 しよう と している の か 、自分 を 辱めよう と している の か 分からなかった 。

もちろん 殺した の は 俺 で は ない が 、殺された の は 俺 が 会った こと の ある 女 で 、おそらく あの 子 は 俺 の ような 男 に 殺された のだ 。

犯人 は 彼女 を 素人 の 娼婦 と して 見た の かも しれない 。

娼婦 の 素人 だ と 思えば 、殺す 気 など 芽生えなかった の かも しれない 。

いよいよ 授業 に 遅刻しそうになり 、林 は テレビ を 消す と 、ネクタイ を 締めながら 玄関 へ 向かった 。

玄関 ドア が ノック された の は その とき だった 。

間 の 悪い 宅配便 か と 思い 、無愛想な 声 で 返事をして ドア を 開ける と 、背広 姿 の 男 が 二人 、まるで 壁 を 作る ように 立っている 。

「林 完治 さん です か ? 一瞬 、どっち が 喋った の か 分からなかった 。

二 人 とも 三十 そこそこ で 、同じ ような 角刈り だった 。

「あ 、は 、はい ……」

答えながら すぐに 例 の 件 だ と 察した 。

テレビ で 事件 を 知って 以来 、いつか こういう 日 が 来る と 覚悟 して いた 。 彼女 の 携帯 を 調べれば 、自分 の 名前 など すぐ 出て くる はずだった 。

「実は ちょっと お 訊きしたい こと が あって ……」まるで 二人 が 同時に 喋っている ようだった 。 林 は 、「 はい 。 分かってます 」と 静かに 頷いた あと 、「いや 、そういう 意味 じゃなくて 」と 慌てて 付け加え 、「三瀬 の 事件 の こと です よね ? 」と 尋ねた 。

二人 が 顔 を 見合わせ 、険しい 視線 を 向けてくる 。

「彼女 の こと は 知っています 。 ただ 、私 は 今回 の こと に は まったく 関係 ありません よ 」刑事 二人 を 中 へ 入れ 、林 は ドア を 閉めた 。 狭い 玄関 先 に は 乱雑に 靴 が 散らばり 、図体 の でかい 男 が 三人 、それ を 踏まない ように 奇妙な 格好 で 立つ こと に なった 。

「来る んじゃないかなぁ と は 思ってた んです よ 。 やっぱり 携帯 とか で すぐに 分かる んでしょ ? あの 、なんて いう か 、あの 女の子 の 交友関係 みたいな もの が 」

林 は すらすら と 答えた 。

事件 を 知って 以来 、万が一 の とき に は どのように 話す べき か 考えて いた の だ 。 角刈り の 刑事 二人 は 黙って 話 を 訊きながらも 、ときどき 顔 を 見合わせていた 。 そこ に 表情 は なく 、林 の 供述 を 信じて いる の か 、信じていない の かも 分からない 。 「二 カ月 ほど 前 に メール で 知り合って 、一度 だけ デート しました 。 それ だけ です 」と 林 は 言った 。

水玉 の ネクタイ を している 刑事 が 、「デート ? 」と 苦笑する 。

「ほ 、法律 的に は 問題 ない はずです よ 。 彼女 は 成人 してる んだ し 、お互い の 合意 で 会った だけ なんです から ……。 そ 、それ に お金 の ことにしたって 、あれ は たまたま 株 で ちょっと もうけた ばっかり だった から 、お小遣い を あげた だけ の 話 で 」林 は 唾 を 飛ばした 。 すっと 避けた 一 人 の 刑事 が 、足元 の 汚れた スニーカー を 踏む 。 「ま ぁ 、そう 焦らずに 」

新たな 足場 を 探し ながら 、刑事 が 制した 。

背 の 高い 二人 の 刑事 を 見上げ ながら 、林 は もう 何人 くらい 、自分 と 同じ ように 彼女 と 会った 男 に 話 を 訊いて きた のだろうか と 勘ぐった 。

「お小遣い の こと に ついて は 、また 後日 という こと で 。 それ と 、先 に 話して おきます が 、携帯 番号 から メール や 会話 の 内容 まで は 分かりません から 」刑事 が そこ で やっと 手帳 を 出して 、ちらっと 林 の 目の前 に かざした 。 「この前 の 日曜日 な んです が 、どちら に いらっしゃいました ? 夜 、十時 ごろ の こと なんです が 」

水玉 の ネクタイ を した 刑事 が 、なぜか 眉毛 を つまみながら 尋ねてくる 。

林 は 、「よし 、きたな 」と 心 の 中 で 呟き 、一度 大きく 息 を 吐いた 。

「その 日 は 職場 に おりました 。 塾 の 講師 を やって いる んです が 、授業 が 終わった の が 十 時 半 で 、その あと 一時 近く まで 、冬 休み 補習 の カリキュラム 作り を 同僚 たち と した あと 、近所 の 居酒屋 に 行きました 。 店 を 出た の が 三 時 半 。 家 へ 帰る 前 に 近所 の ビデオ屋 に 寄ってます 。 借りた ビデオ は まだ ここ に あります 」話 は 十分 足らず で 終わった 。 刑事 たち が 笑顔 で 別れ を 告げて 出て 行く と 、 林 は 思わず その 場 に 座り込んで しまった 。

日曜日 の アリバイ を 話す ところ まで は 堂々と して いられた のだが 、「事件 が 事件 ですから 、どうしても 職場 の 方 に お話 を 伺う こと に なる と 思う んです が 」と言われた あと は 、「二十 年 続けた 仕事 なんです 。 立場 的に 大きな 問題 に なります 。 どうにか 内密に 調査 して もらう こと は できません でしょうか ? たとえば 、居酒屋 の 店主 の ほう に 尋ねる とか 、同僚 に も 別件 の 調査 の ように 尋ねてもらう とか ……」など と 、ほとんど 泣き落とし に なっていた 。

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