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世界から猫が消えたなら (If Cats Disappeared from the World), 世界 から 猫... – 읽을 텍스트

世界から猫が消えたなら (If Cats Disappeared from the World), 世界 から 猫 が 消えた なら:世界 から 電話 が 消えた なら:2

고급 1 읽기를 연습하는 일본어의 수업

지금 본 레슨 학습 시작

世界 から 猫 が 消えた なら :世界 から 電話 が 消えた なら :2

時計台 の 下 で 一時間 が 経ち 、寒さ で 僕 の 足 が 石畳 の 地面 と 同化した その頃 、彼女 が 小走り に やってきた 。

七年 前 と まったく 変わって いない 。

その 服装 も 、走り方 も 。 ひとつ だけ 違う の は 、肩 まで あった 髪 が ばっさり 切られ 、短く なっている こと ぐらい だ 。

真っ白な 顔 を して いる 僕 を 見て 、 彼女 は 心配 そうに 声 を かける 。

「どうした の ? 大丈夫 ?」

「 元気 だった ?」

でも 「お久しぶり !」で も なく 、一言 目 が 「大丈夫 ?」と は 悲しい 限り だ 。 話せば 、やはり 僕 が 一時間 ほど 約束 の 時間 を 勘違いしていた ようだ 。

「不便 だ な 」と 僕 が 言う と 、

「そう かしら ?」と 、彼女 は 笑って 答えた 。

「もう すぐ 死ぬ かもしれない んだ 」 彼女 と 入った カフェ で 僕 は あたたかい コーヒー を 飲みながら 告白した 。

彼女 は しばらく 押し黙り 、ゆっくり と ココア を 飲む 。

そして 僕 の 方 を 向いて 言った 。 「 ふ 〜 ん 、 そう な の ? 」

あまり に も 軽すぎる 反応 に 僕 は 愕然とする 。

僕 の 想定 の なか で は 、梅 「どうして ?何 が あった の ?」

竹 「私 に できる こと が あったら 何でも 言って !」

松 「うっ うっ うっ (押し黙った まま 嗚咽 )」

と いう こと だった のだが 、まさかの 梅 以下 の 反応 だ 。

でも 思い返して みれば 、僕 自身 も 死 を 宣告された とき に 、ずいぶん と 落ち着いていた 。

自分 でも 実感 が なかった こと に 対して 、他人 が 驚き 、失望し 、嘆き悲しむ こと が できない の は 当然だ 。

どうして 人 は 、自分 でも できない こと を 他人 に 期待してしまう のだろうか 。

僕 は 彼女 に 、驚いてほしかった のか 、それとも 悲しんでほしかった のか 。

「でも どうして 急に ?」

「ちょっと ガン で さ ……」

「そう ……大変 ね 。 でも 全然 、悲しそう じゃない の ね 。 人 って 死ぬ かもしれない って とき は 案外 そういう もの な の かしら ね 」

だって 悪魔 に 寿命 を 延ばしてもらってる から 、と は とても 言えない 。

死ぬ 間際 に 、初恋 の 人 に 頭 が おかしくなった と 思われたい 男 は 世界中 に ひとり も いない はずだ 。 それに 僕 が したい 話 は 、こんな こと じゃない 。

「で ね 、」

「何 ?」

「死ぬ かもしれない と なる と 、自分 に ついて いろいろ と 聞いて みたり 、確かめたり したく なる もの で さ 」

「ふーん 、そんな もの ? 」

「有り体 に 言う と 、自分 の 生きてきた 意味 と いう かね 」

「やっぱ そういう の 気 に なる んだ 」

「そりゃ 気 に なる よ 。 だから 僕 と 君 と の 思い出 の なか で 、 覚えて いる こと を いく つ か 聞いて おきたい ん だ 。 どんな 些細 な こと でも 構わない 」

そこ まで 早口 に 伝える と 、僕 は ぬるく なった コーヒー を 一気に 飲み干した 。

彼女 は 「そんなん だったら 前もって 言って おいて 欲しかった なあ 」など と ぶつぶつ 言いながら 考え始めた 。

あまりに 居づらく なって 、僕 は トイレ で ゆっくり と 用 を 足して 、席 へ 戻った 。

「トイレ の 回数 」

「え ?」

「多かった 」

開口 一番 彼女 は 言った 。

「あと 長かった 。 男 の くせに 」

なんだ なんだ 。

いきなり そんな 話 か ?

しかも そんな こと 一回 も 聞いた こと が なかった 。

でも よく 考える と 、多い し 長い ような 気 が する 。 トイレ で は ついつい 考え込んで 別世界 に いって しまい 、のろのろ と 用 を 足し 、手 を 洗っている 自分 が いる 。 それ に 引き換え 、彼女 は めったに トイレ に 行かなかった し 、一緒に トイレ に 行っても いつも 僕 より 先に 出て 、僕 の こと を 待っていた 。

「あと 、ため息 多すぎ 。 どんだけ 人生 悩んでる んだ よ ! って いつも 思ってた 」

「そう だった ……っけ ?」

「お酒 も 全然 飲めない し 」

「すみません ……」

「そう そう 。 あと レストラン に 入る と 全然 注文 を 決められなかった 。 男 の くせに 。 しかも 結局 いつも 頼む の は カレー の くせに 。 それで 怒る と すぐ へこんで 、そのうえ 立ち直り も 遅い 」

そこまで 一気に 話す と 、すごく 満足した 表情で 彼女は ココアを ゆっくりと 飲んだ 。

うう 、これが 人生 最後に 聞く 話 なのか 。

僕 の 生きて きた 意味 は ? その 価値 は ?

非情 すぎる 。

仮にも かつて 愛した 男 に 対する 思い出 が これ な の か ? いや 非情な ので は ない 。 彼女 も 、世の 女性 たち と 同じく 、過去 の 男 に 対して どこまでも シビア で ドライ だ という こと だ 。 きっと そう な のだ 。 僕 は 自分に 言い聞かせた 。

「あ 、あと あれ だ 。電話 の とき は たくさん 話す くせに 、こうやって 会ってる と 全然 話してくれなかった 」

確かに そう だった かもしれない 。

あの 頃 、僕ら は 電話 で は 二時間 でも 三時間 でも 話し続ける こと が できた 。

歩いて 三十分 の 距離 なのに 、ときには 八時間 も 電話して 「これ なら 会って 話した 方が よかった なあ 」など と よく 笑い合った 。

でも それ は 違った 。

僕ら は 会った ところで 、話す こと なんて なかった んだ 。 電話 の 、その 物理的に は 遠い けれども 、心理的に は 近い 距離感 が 僕ら に 語る べき こと を 与え 、何気ない 話 を 鮮やかに 彩っていた んだ と 思う 。

それにしても 、僕 へ の 評価 が 低すぎる 。

最後 なのだ から 、もう 少し サービス が あっても よい の で は ない か ? 心 が 折れ そうに なり ながら も 僕 は 踏み込む 。

「しかし 、あれ だ ね 。 そんなに 駄目 で 、よく 僕 と 三年 半 も 付き合ってくれた ね 」

「ほんと !でも 、」

「でも ?」

「私 は 、あなた の 電話 が 好きだった 。 何でもない 音楽 とか 小説 の こと を 、あたかも 世界 が 変わる こと かのように 話してくれる 、あなた が 好きだった 。 会う と ほとんど 話せない くせに ね 」

「確かに 僕 も 、君 が その 日 に 観た 映画 の こと を 話して くれる の を 電話 で 聞いて 、世界 が 変わる ような 気 が していた よ 」

その あと も 僕ら は 、ただただ とりとめのない 話 を 続けた 。

同級生 の 中 で 一番 痩せていた 男 が 、いま は 百二十 キロ の 巨漢 に なってしまった こと 。

一番 地味 だった 女の子 が 卒業 後 すぐ 結婚して 、もう 四人 も 子ども が いる こと 。

そんな 話 を していたら 、外 が 暗く なり はじめ 、僕 は 彼女 を 家 まで 送っていく こと に なった 。

彼女 の 家 は 、勤め先 の 映画館 だった 。

映画館 の 上 の 部屋 に 住んでいる のだ と いう 。

「ついに 映画 と 結婚したんだね 」と 僕 が 言う と 、「こらこら 、そういう 冗談 は やめなさい 」と 彼女 は 笑いながら 言った 。

「お父さん 、元気 ?」

石畳 の 道 を ゆっくりと 歩きながら 彼女 は 尋ねた 。

「うーん ……どう なんだろ 」

「まだ 、仲直りしてないんだ ……」

「母さん が 死んでから は 会ってない 」

「お母さん 、ふたり に 仲良く して もらいたい って よく 言ってた けど 」

「期待 に は 応えられず 、だ な 」

付き合って 半年 ぐらい の とき 、彼女 を 家 に 連れて いった こと が ある 。

父 は 仕事場 から 出て こ なかった が 、母さん は 彼女 の こと を とても 気 に 入り 、 お 菓子 を 出し 、食事 を 出し 、そして また お 菓子 を 出して 、なかなか 彼女 の こと を 帰さ なかった 。

「ほんと は 女の子 が 欲しかった の よ 」と 母さん は 彼女 に 言った 。 母さん に は 男 兄弟 しか いなかった し 、レタス も キャベツ も オス だった 。

その あと も 、僕 の 知らない ところ で 母さん は 彼女 の こと を 誘って 、よく ふたり で 遊んでいた らしい 。

「お母さん 、ほんと 素敵な 人 だった 」

彼女 は 笑う 。

「そう ?」

「新しい レストラン が できた ! と か 言って よく 連れていってくれた し 。 料理 も 教えてくれた 。 あと 一緒に 美容院 に 行ったり ね 」

「美容院 !?ぜんぜん 知らなかった 」

母さん が 死んだ の は 、僕 が 彼女 と 別れて から 三年 が 経った 頃 だった 。

葬式 に やってきた 彼女 は 震えながら 泣いていた 。

そして 葬式 が 終わる まで 、ずっと キャベツ を 抱いていた 。 ひどく 混乱し 、うろうろ と 歩きまわる キャベツ を 見ていられなかった のだ と 思う 。

母さん は 僕ら が 別れてから も 、あの 子 は 良かった わ と 、ことあるごとに 言っていた 。

その 意味 が 、キャベツ を 抱きながら 泣いている 彼女 の 姿 を 見た とき に 分かった 気 が した 。

「 キャベツ くん は 元気 ? 」

「元気 だ よ 」

「でも どう する の ?

あなた が 死んだら 、誰 が 面倒 みる の ?」

「誰か に 預けよう と は 思ってる よ 」

「そっか 。 どう しよう も なかったら 、言って ね 」

「ありがとう 」

急な 坂道 を 下った 先 に 映画館 の 光 が 見えてきた 。

久しぶり に 見る その 映画館 が 、なぜ だ か とても 小さく なって しまった ように 思える 。 あの 頃 の 僕 に は 、もっと 大きくて 、もっと カラフル に 見えて いた 。

同じ 感覚 は 、あの 時計台 で 待っている とき に も あった 。

不動産屋 や レストラン 、学習塾 に 花屋 。 スーパーマーケット が 改装した こと 以外 は 、町並み に さほど 大きな 変化 は なかった 。 けれども 今 の 僕 に は 、見慣れていた 町 が ぐっと 小さくなって 、ちょっとした ミニチュア に なってしまった か の ような 気 が した 。 それ は 町 が 縮小してしまった の か 、それとも 僕 の 感覚 が 拡大した の か 、おそらく その 両方 なのだろう と 僕 は 自分 を 納得させた 。

「あのさ 、」

「何 ?」

「 僕たち 、 なんで 別れた ん だ と 思う ?」

「どうした の 突然 」

「確かに 理由 が あった と 思う んだ けど 、どうしても 思い出せない んだ 」

実は 今日 最後に 、その こと を 彼女 に 聞こう と 思っていた 。

僕ら は なぜ 別れた の か 。

倦怠 と いえば それ まで なのだが 、どんなに 考えても 決定的な 理由 は 思い出せなかった 。

「じゃあ さ 、覚えてる ?」

しばらく 黙って いた 彼女 は 突然 僕 の 方 を 向き 尋ねる 。

「え ?」

「私 の 好き な 食べ物 」

不意な 質問 。

十五秒 経過 。

「うーん 、エビ フライ だ っけ ?」

「不 正解 ! とうもろこし の 天ぷら !」

惜しい 。

揚げもの 違い だった か 。 と いう か 、なんだ この 展開 ?

「じゃあ 私 の 好きな 動物 は ?」

「 えっ? うーん …… 」

「ニホンザル だ よ 」

そう だ そうだ と 相槌 を 打つ 間 も ない 。

「じゃあ 、私 が 一番 好きな 飲み物 は ?」

なんだろう か 。

まったく 思い出せない 。

「うーん ……すまない 。 降参 だ 」

「ココア 。 さっき も 飲んでた でしょ 。 忘れた の ?」

そう だった 。

思い出した 。 彼女 は とうもろこし の 天ぷら が 大好き で 、季節 に なる と 必ず 注文して 、これ が 世界 で 一番 好きな 食べ物 だ と よく 話していた 。 動物園 に 行く と ニホンザル が 集まる 猿山 から 離れなかった し 、冬 でも 夏 でも あたたかい ココア を 飲んでいた 。

別に 忘れてはいなかった 。

でも 思い出せなかった 。 心 が 漬物石 の ように 蓋 を して 、彼女 と の 記憶 を 閉じ込めようとしていた のだろう 。

人 は 何か を 覚える ために 忘れる 、と 聞いたことがある 。

忘却 は 前進 の ため に ある と 。 果たして そう な の だろう か 。 いざ 自分 が 死に 直面して みる と 、思い出す の は 無数に ある 瑣末 な 思い出 ばかり だ 。

「忘れちゃう もの な の ね 。 まあ でも 予想 通り 。 私たち が 別れた 理由 も そんな もの よ 。 覚えておく ほど の もの で も ない 」

「そう かな ……」

「でも きっかけ が ある と したら 卒業 旅行 かもしれない ね 」

「……ブエノスアイレス か 。 懐かしい ね 」

あの 頃 の 僕ら は 、 とにかく 町 から 出 なかった 。

デート といって も この 町 の なか を モノポリー の ように グルグル と 回っている だけ 。 それ でも 僕ら は 退屈 する こと が なかった 。

大学 の 授業 が 終わる と 図書館 で 待ち合わせをして 、映画館 で 映画 を 観て 、行きつけ の カフェ で のんびり 話して 、彼女 の 部屋 で セックス を した 。

ときに は 彼女 が 弁当 を 作って 、 ケーブルカー に 乗って 町 一 番 の 見晴らし の よい 場所 で 食事 を したり も した けれど 、 その くらい で 僕ら に は 十 分 だった 。

いま から 考える と ちょっと 信じられない けれど 、この 町 の サイズ 感 と 、その とき の 僕ら ふたり の サイズ 感 が ちょうど 良かった のだ と 思う 。

僕ら は 三年 半 ほど 付き合った 。

その 間 に 、一回 だけ 海外 旅行 に 行った こと が ある 。

アルゼンチン 、ブエノスアイレス 。

それ が 最初 で 最後 の 海外 旅行 だった 。

当時 の 僕ら は 、香港 の 映画 監督 が その 街 を 舞台 に して 撮った 映画 に 夢中に なり 、学生 最後 の 長い 休み に その 街 へ 旅行する こと に した のだ 。

安い アメリカ 系 の 航空会社 の 飛行機 (やたら 寒くて 、機内食 が 粘土 の ようだった )を 乗り継ぎ 、二十六 時間 かけて 僕ら は ブエノスアイレス に 到着した 。

エセイサ 空港 から 、怪しげな タクシー に 乗って セントロ へ 。

ホテル の 部屋 に 飛び込み ベッド に 倒れ込む 。 けれども 、眠れない 。 ものすごく 疲れている はず なのに 、体内時計 は まだまだ 日本 時間 で 、眠る こと が できない 。 ここ は 地球 の 裏側 だった 。

僕ら は 観念し 、ベッド から 飛び起きて 街 を 散策する こと に した 。

街 に 響く バンドネオン の 音色 、石畳 の 路上 で 踊る タンゴダンサー たち 。

空 が 低い ブエノスアイレス の 街並み を 眺めながら 、レコレータ 墓地 に 向かう 。 迷路 の ような 墓地 を さまよい 、ようやく エビータ の 墓 を 見つける 。 白髪 の 老 ギタリスト が 奏でる タンゴ の メロディー を 聴きながら 、カフェ で 昼食 を とる 。

夕方 に なる と バス に 乗って ボカ へ 行く 。

三十分 ほど 走り 、バス が 狭い 道 を 抜ける と 、カラフルな 街並み が 姿 を 現す 。 スカイブルー に マスタードイエロー 、エメラルドグリーン や サーモンピンク 。 パステルカラー に 彩られた 木造 住宅 が 、ところ狭しと 並び立つ 。 夕日 に 照らされて 光る 、おもちゃ の ような 街 を 散歩して 、夜 は サン ・テルモ の タンゲリーア 「ラ ・ベンタナ 」へ 。 タンゴ の 熱気 が 僕ら を 異世界 へ と 連れていく 。

それ から 数 日間 、僕ら は 熱 に うかされた ように ブエノスアイレス の 街 を 歩き回った 。

泊まった 安宿 に は 、トム さん が いた 。

トム さん と いっても 日本人 だ 。

二十九 歳 の 青年 で 、働いていた CM 制作 会社 を 辞めて 、世界 一周 旅行 を していた 。

夜 に なる と 、僕ら は トムさん と 近く の スーパーマーケット で ワイン や 肉 や チーズ を 買い込み 、共同 の ダイニング で それら を 食べながら 、夜な夜な 語り合った 。

トム さん は 、僕ら に いろいろな 世界 に ついて 話してくれた 。

インド の 横柄な 牛 たち 、チベット の 小さな お坊さん たち 、イスタンブール の 青い モスク 、ヘルシンキ の 白い 夜 、リスボン で 見た どこまでも 広がる 海 。

トム さん は 、酒 を 飲み 、深く 酔い 、まるで 夢 を 見る ように 話し続けた 。

「この 世界 に は たくさん の 残酷な こと が ある 。

でも それ と 同じ くらい 美しい もの が ある んだ 」

その 話 は 、あの 小さな 町 を ぐるぐる と 回っていた 僕たち に は まったく 想像 が できなかった 。

トム さん は 、ときに 笑い 、ときに 泣き ながら 、僕ら の 話 に も 付き合ってくれた 。 地球 の 裏側 で 、僕ら 三人 は とめどなく 話し続けた 。

いよいよ 日本 に 帰る 日 が 迫ってきた ある 日 、トムさん は 宿 に 帰ってこなかった 。

僕 と 彼女 は ワイン を 飲みながら ずっと 待っていた が 、結局 トムさん は 来なかった 。

翌朝 、僕ら は トム さん が 死んだ こと を 知った 。

アルゼンチン と チリ との 国境 に ある キリスト 像 を 見に行き 、乗っていた バス が 崖下 へ 転落した のだ と いう 。

まるで 夢 の なか に いる ような 気分 だった 。

まったく 実感 が なかった 。 いまでも トム さん が 、ワインボトル を 片手 に 「飲もう よ ! 」と ダイニング に 入って くる 気 が した 。 でも トム さん は 帰って こなかった 。 まるで 雲 の 上 に いる かのように 、現実感 が ない 一日 を 僕ら は 過ごした 。

最後 の 日 、僕ら は イグアス の 滝 に 向かった 。

空港 から 車 で 三十分 。

そこ から 二 時間 歩き 〝 悪魔 の 喉 笛 〟 に 到着 した 。 あの 香港 映画 に も 登場した 、世界 最大 の 滝 の 頂上 だ 。

そこから は 大量 の 水 が 壮絶な 勢い で 流れ落ちていく 。

自然 の 暴力 を 感じる 光景 だった 。

気付く と 、隣 で 彼女 は 泣いていた 。

声 を 上げながら 泣いていた 。

だが 泣いて も 泣いて も 、その 声 は 滝 の 音 に かき消されていく 。

その とき 僕 は 実感した 。

トム さん は 死んだ 。 もう 会う こと は できない 。 夜中 まで 語り合ったり 、お酒 を 飲んだり 、食事 を したり する こと は もう できない のだ 。 それ は 僕 に とって も 彼女 に とって も 生まれて 初めて の 〝 実感 ある 死 〟 だった 。

あまりに も 人間 が 無力な その 場所 で 、彼女 は 泣き続けた 。

僕 は どう する こと も できず 、地球 の なか に 飲みこまれていく 白濁した 水 を 呆然と 見つめ続けた

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