幸福 の 王子 -7-
次の 日一日 、ツバメ は 王子 の 肩 に 止まり 、珍しい 土地 で 見て きた たくさんの 話 を し ました 。 ナイル 川 の 岸 沿い に 長い 列 を なして 立って いて 、くちばし で 黄金 の 魚 を 捕まえる 赤い トキ の 話 。 世界 と 同じ くらい 古くから あり 、砂漠 の 中 で 住んで いて 、何でも 知っている スフィンクス の 話 。 琥珀 の ロザリオ を 手 に して 、ラクダ の 傍ら を ゆっくり 歩く 貿易 商人 の 話 。 黒檀 の ように 黒い 肌 を して おり 、大きな 水晶 を 崇拝 して いる 月 の 山 の 王 の 話 。 シュロ の 木 で 眠る 緑 の 大蛇 が いて 、二十 人 の 僧侶 が 蜂蜜 の お菓子 を 食べ させて いる 話 。 広く 平らな 葉 に 乗って 大きな 湖 を 渡り 、蝶 と いつも 戦争 して いる ピグミー の 話 。
「可愛い 小さな ツバメ さん 」王子 は 言い ました 。 「あなた は 驚く べき こと を 聞かせてくれた 。 しかし 、苦しみ を 受けている 人々 の 話 ほど 驚く べき こと は ない 。 度しがたい 悲しみ 以上 に 解きがたい 謎 は ない のだ 。 小さな ツバメ さん 、町 へ 行って おくれ 。 そして あなた の 見た もの を 私 に 教えて おくれ 」
ツバメ は その 大きな 町 の 上 を 飛びまわり 、金持ち が 美しい 家 で 幸せに 暮らす 一方 で 、乞食 が その 家 の 門 の 前 に 座って いる の を 見ました 。 暗い 路地 に 入って いき 、ものうげ に 黒い 道 を 眺めて いる 空腹な 子供 たち の 青白い 顔 を 見ました 。 橋 の 通り の 下 で 小さな 少年 が 二 人 、互いに 抱き合って 横 に なり 、暖め 合って い ました 。 「お腹 が すいた よう 」と 二 人 は 口 に して い ました が 「ここ で は 横 に なって いて は いかん 」と 夜警 が 叫び 、二 人 は 雨 の 中 へ と さまよい 出 ました 。
それから ツバメ は 王子 の ところ に 戻って 、見て きた こと を 話し ました 。
「私 の 体 は 純金 で 覆われて いる 」と 王子 は 言い ました 。 「 それ を 一 枚 一 枚 はがして 、貧しい 人 に あげ なさい 。 生きて いる 人 は 、 金 が あれば 幸福に なれる と いつも 考えて いる のだ 」
ツバメ は 純金 を 一 枚 一 枚 はがして いき 、とうとう 幸福 の 王子 は 完全に 輝き を 失い 、 灰色 に なって しまい ました 。 ツバメ が 純金 を 一 枚 一 枚 貧しい 人 に 送る と 、 子供 たち の 顔 は 赤み を 取り戻し 、 笑い声 を あげ 、 通り で 遊ぶ のでした 。 「パン が 食べられる んだ ! 」と 大声で 言いました 。
やがて 、雪が 降ってきました 。 その後 に 霜が 降りました 。 通り は 銀 で できた ように なり 、たいそう 光り輝いて おり ました 。 水晶 の ような 長い つらら が 家 の のき から 下がり 、みんな 毛皮 を 着て 出歩く ように なり 、子供 たち は 真紅 の 帽子 を かぶり 、氷 の 上 で スケート を し ました 。
かわいそうな 小さな ツバメ に は どんどん 寒く なって き ました 。 でも 、ツバメ は 王子 の 元 を 離れよう と は し ませ ん でした 。 心から 王子 の こと を 愛して いた から です 。 パン 屋 が 見て いない とき 、ツバメ は パン 屋 の ドア の 外 で パン 屑 を 拾い 集め 、翼 を ぱたぱた させて 自分 を 暖めよう と しました 。
でも ツバメ は 、とうとう 自分 は 死ぬ のだ と わかりました 。 ツバメ に は 、王子 の 肩 まで もう 一度 飛びあがる だけ の 力 しか 残って いません でした 。 「さようなら 、愛する 王子 様 」ツバメ は ささやく ように 言い ました 。 「あなた の 手 に キス を して も いい ですか 」
「あなた が とうとう エジプト に 行く の は 、私 も うれしい よ 、小さな ツバメ さん 」と 王子 は 言い ました 。 「あなた は ここ に 長居 し すぎた 。 でも 、キス は くちびる に して おくれ 。 私 も あなた を 愛して いる んだ 」
「 私 は エジプト に 行く の では ありません 」 と ツバメ は 言いました 。 「死 の 家 に 行く んです 。 『死 』と いう のは 『眠り 』の 兄弟 、ですよ ね 」
そして ツバメ は 幸福 の 王子 の くちびる に キス を して 、死んで 彼 の 足元 に 落ちて いき ました 。
その 瞬間 、像 の 中 で 何か が 砕けた ような 奇妙な 音 が しました 。 それは 、鉛 の 心臓 が ちょうど 二つ に 割れた 音 なのでした 。 ひどく 寒い 日 でした から 。
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