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青春ブタ野郎はホワイトクリスマスの夢を見る, 青春ブタ野郎はホワイトクリスマスの夢を見る 3

青春 ブタ野郎 は ホワイトクリスマス の 夢 を 見る 3

「雪 、かなり 降ってる ぞ 」

ファミレス の 裏口 から ゴミ 出し に 出ていた 佑真 が 、フロア に 戻ってくる なり そう 教えてくれた 。

「みたい だ な 」

佑真 の 頭 や ウェイター の 制服 に は 、雪 の 結晶 が いくつも 張り付いている 。

「これ 、ほんとに 積もる な 」

「だ な 」

そんな やり取り を 交わした の が 、ランチ タイム が 落ち着き はじめた 午後 二時 過ぎ 。

その後 も 雪 は 降り続け 、咲太 が バイト を 上がった 午後 五時 に は 、藤沢 駅 周辺 の 街並み は だいぶ 白く 染まって いた 。

「お 疲れ 様 でした 。 お 先 に 失礼 します 」

店長 に 挨拶 して から 店 を 出る 。 日 が 落ちて 一層 冷たく なった 風 に 身 が 縮んだ 。 駐車場 に 止まった 車 の ボンネット に は 、しっかり 雷 が 積もっている 。

「麻衣 さん 、大丈夫 かな 」

今 の ところ 交通 機関 に 目立った 遅れ は ない と 、一緒に 上がった 朋絵 が スマホ を 見 ながら 休憩室 で 教えて くれた が 、この 調子 で 降り 続ける と 油断 は できない 。 人 や 車 の 往来 が ある ファミレス 前 の 道路 も 、雪 の 白さ が 目立って きている 。

雪 に 慣れて いない 都市 部 で は 、最悪 運行 中止 も あり得る 。

「ま 、麻衣 さん が 遅刻 して きたら 、お詫び に 色々 して もらおう 」

むしろ 、そう なって くれた 方が 咲太 としては 楽しい クリスマス に なる かも しれない 。 そんな こと を 考え ながら 、店 で 借りた ビニール 傘 を 差して 、咲太 は ひとり 歩き 出した 。

約束 の 時間 まで 一時間 近く ある 。 だから 、一 度 家 に 帰る つもりだった 。 学校 帰り に 直接 バイト に 行った ため 、咲太 は 制服 の まま だった し 、家 で は お腹 を 空かせた なす の が 待っている 。

駅前 まで 戻る と 、咲太 は 階段 を 使って 立体 歩道 に 上がった 。 バイト 先 から だ と 、咲太 の 住んでいる マンション は 駅 の 反対側 に 位置している 。

その 立体 歩 追 の 上 も 、だいぶ 雪 が 積もって いる 。 人 が よく 通る 中央 部分 は 地面 の 色 が 見えている けれど 、人 が 歩かない 両 サイド は 真っ白だ 。

足元 に 気 を 付け ながら 駅 の 反対 側 に 向かって いる と 、ビックカメラ の 前 で 店 から 出てきた 客 と ぶつかり そうに なった 。 濡れた 足元 を 気 に して 、前 を 確認 できて いなかった ようだ 。

「あ 、すみません 」

顔 を 上げた 相手 と 目 が 合う 。 手 に は ジュンク 堂 書店 の 袋 を 提げた 女子 。

見覚え が ある ような 気 が した が 一瞬 誰 だ か 咲太 に は わから なかった 。 彼女 が 「しまった 」と いう 顔 で 目 を 逸らす 仕草 を 見て 、目の前 に いる のが 理央 だ と 気づいた 。

ぱっと 見 で わから なかった の は 、普段 と 雰囲気 が 違って いた から 。 服装 も 、髪型 も 見慣れた 理央 で は ない 。

ドレスっぽい 感じ の ワンピース の 上 に 、ふわふわ の ファー が ついた 上品な コート 。 スカート 部分 は 膝 丈 くらい で 、裾 が アルファベット の 「 A 」の よう に 広がっている 。 黒 の タイツ に 、艶々 した 質感 の 靴 。 少し だけ 踵 が 上がって いる 。

髪 は アップ で まとめて 軽く 横 に 流して いた 。

普段 より も ぐっと 大人っぽくて エレガントな 仕上がり だ 。

何 か 特別な 用事 でも ある のだろうか 。 ちゃんと した コース 料理 が 出てくる ような お店 に も 人 れ そうな 格好 だ 。

「……」

咲 太 が 視線 で 説明 を 求めて も 理央 は 何も 言って こない 。 な ので 、咲太 の 方 から 先に 簡単な 質問 を ぶつけた 。

「双葉 、買い物 か ?

手 に 提げて いる 書店 の 袋 に 視線 を 落とす 。 また 難しい 物理 の 本 でも 買った のだろうか 。 たぶん 、そうだ 。 ビックカメラ の 七 、八 階 は 図書館 の ように 広い 書店 が 入っている 。 専門 書 の 取り扱い も 非常に 多い 。

「梓川 は これ から デート で しよ ?

話 を 逸らす ように 、理央 は そう 咲太 に 振って きた 。

「今日 は 、水族館 に 行く 予定 だ 」

待ち合わせ を して いる の は 片瀬 江ノ島 駅 。 改札 を 出て すぐ の ところ 。

「そんな こと 聞いてない 」

理央 は 今 も なお そっぽ を 向いて いる 。 とにかく 居心地 が 悪 そうだ 。 早く 咲 太 に どこ か へ 行って ほし そうに している 。

それ が わかって い ながら も 、咲太 は めげずに 理央 の 珍しい 服装 を 瞳 に 映して いた 。 すると 、諦めた ように 、「は あ 」と 大きな ため息 を 吐かれた 。

「これ から 両親 と みなと みらい まで 食事 に 行く ところ な の 」

ようやく 咲 太 の 疑問 に 触れた 理 央 は 、いかにも 渋々 といった 様子 だ 。 それ は 食事 に 行く こと に 対して の 渋々 で はなくて 、咲太 に こんな 説明 を しなければならない この 状況 に 対して の 反応 だ 。

「双葉 の 両親 って 、どっち も 忙しい 人 だって 言ってた よ な ?

「お互い 今日 の 予定 が 急に キャンセル に なった みたい 。 私 が 学校 から 帰ったら 、ふたり とも 家 に いて ……何 年 振り だろう ね 。 時間 が 出来た からって 、食事 の 予定 も 勝手に 決められてた の 」

理央 の 父親 は 大学 病院 に 勤める 医師 だ と 聞いている 。 日々 、派閥 争い に 明け暮れて いる らしい 。

母親 の 方 は アパレル 関連 の 経営者 で 、一 年 の 大半 を 商談 の ため 海外 で 過ごしている ような こと を 前 に 言っていた 。

だから 、家族 揃って 食事 を する 機会 など 殆ど ない のだ と ……。

理央 が 自分 の 言葉 戸惑った 様子 な の は 、そうした 家庭 の 事情 が ある から だ 。

「この 服 も 全部 母親 の 指定 。 髪 も 母親 が 美容院 予約 して 、この ありさま 」

「似合ってる と 思う ぞ 」

普通に 色っぽい 。 それ は エロい と いう ニュアンス で は なくて 、知的 で 大人びた 雰囲気 が ある と いう 意味 だ 。 さらに 、年相応 の 少し 背伸び した 雰囲気 も 混ざって いて 、理央 の 魅力 を よく わかって いる 人 が 選んだ 服 なのだろうな 、と いう 感じ が した 。

以前 、理央 は 両親 ともに あまり 自分 に 興味 が ない ような こと を 言っていた が 、見ている ところ は ちゃんと 見ている ので は ない だろう か 。

「私 は 着たくて 着てる ん じゃない から 」

その 一言 を 、理央 は やけに はっきり と 咲太 に ぶつけて きた 。

これ こそ が 理央 が 咲太 に 今 一番 言いたい こと だった の だろう 。 その ため に 、わざわざ 「みなと みらい まで 食事 に 行く 」と 細かい こと まで 教えて くれた のだ 。

こんな とき でも 、順 を 追って 物事 を 説明 する ところ は 実に 理央 らしい 。

「なあ 、双葉 」

「 なに ?

理央 の 目 に は 警戒心 が 宿っている 。

「スマホ 代 して くんない ?

「や だ よ 」

「 なんで ?

「梓川 の こと だから 、私 の 写真 を 撮って 国見 に 送る つもり でしょ 」

「ばれた か 」

見事に 言い当てられて しまった 。 持つ べき もの は 、自分 を 理解 している 友人 だ 。

貴重な フォーマルスタイル な の て 、ぜひとも 記録 に 残して おきたかった が 断られて しまって は 仕方ない 。

「梓川 に 会う なら 、寄り道 なんて しなければ よかった 」

「僕 は いい もの 見れて よかった よ 」

「本当に 見たい の は 桜島 先輩 でしょ 、梓川 の 場合 」

「麻衣 さん の ドレス 姿 は さぞ 綺麗 だろう な 」

「梓川 が 捨てられ なければ 、いずれ は 見られる ん じゃない ? 純白 の ドレス が 」

「もちろん 、特等 席 で 見る 予定 だ よ 」

純白 の ドレス と 言えば 、もちろん ウェディングドレス 。 麻衣 の 花嫁 姿 を 想像 しよう と する と 、ふと 何か 強烈な 感情 が 咲太 の 中 に 流れ込んで きた 。

「……?

一瞬 だけ 、ウェディングドレス を 着た 女性 の シルエット が 頭 を 過る 。 背 格好 から 麻衣 でない こと は わかる 。 でも 、わかる の は そこ まで だ 。 面影 は おぼろな まま で 、輪郭 が はっきり しない 。 彼女 の 唇 が 何 か を 呟いた 気 が した が 、その 言葉 が 聞き取れない 。 声 が 聞こえない 。 考えよう と する と 、不安定な 姿 さえ も 霧散 して 消えて しまう 。

ただ 、感情 だけ が 咲太 の 胸 を ざわつかせて いた 。

大事な こと を 忘れて いる 感じ 。

思い出せ そうで 思い出せない もどかしい 感じ 。

そして 、それ 以上 に 妙な あたたかさ が 胸 の 中 に ある 。

その 感覚 に 導かれて 、咲太 は 自然 と 胸 に 手 を 当てて いた 。

「……」

「 梓川 ? どうかした ?

突然 黙り込んだ 咲 太 を 、理央 が 怪訝 な 顔 で 覗き込んで くる 。

「いや ……なんでもない 」

自分 に も 言い聞かせる ように して 、胸 に 当てた 手 を 下ろす 。 この 感覚 に 襲われる の は 、これ が はじめて と いう わけで も なかった 。 これ まで に 何度 も ある 。 特に 藤沢 に 引っ越して きて から 頻度 が 増えた 。

けれど 、何 度 繰り返して も 、この 不思議な 感覚 の 正体 は わからない 。 わからない まま 今日 まで 過ごして きた 。

「 そう ? なら いい けど 」

メール の 着信 が あった の か 、理央 が ポーチ から スマホ を 取り出している 。 画面 を 見て 、返事 を 送って いた 。 恐らく 、両親 の どちら か だろう 。 迎え が 来た の かも しれない 。

「そう だ 、梓川 」

「 ん ?

「今 、店内 の アナウンス 、桜島 先輩 が やってる よ 」

そう 言って 振り向いた 理 央 が 見ている のは ビックカメラ の 入口 だ 。 少し 離れた この 場所 に いて も 、スピーカー から 響く 麻衣 の 声 が 薄っすら 聞こえて いる 。

「 知ってる 。 もう 聞いて 」

「さすが 梓川 」

「それ に 、麻衣 さん の 声 なら 、この あと 生 で たっぷり 聞く から 大丈夫 だ 」

言い ながら 理央 が スマホ を ポーチ に しまった 。

「父親 の 車 が 来た みたい 。 行か ない と 」

そう 口 に した 理央 の 目 は 階段 下 の 道路 を 見て いた 。 歩道 に 寄せて 一台 の 車 が ハザード を 出して 停車 する 。 ドイツ 製 の 高級 車 。 咲 太 だって 知っている メーカー の 車 だ 。 その 助手 席 の 窓 が 開く と 、サングラス を した 女性 が 頭 を 出した 。 理央 を 見つけて 、手招き して いる 。

「ん じゃ 、楽しんで こい よ 」

その 言葉 に 理央 は 一瞬 だけ 迷う ように 視線 を 落とした 。 でも 、すぐに 顔 を 上げる と 、

「梓川 も 羽目 を 外さない ように ね 」

と 、どこ か 吹っ切れた ような 顔 で 理央 は 微笑んだ 。

その 背中 は 階段 を 静かに 下りて いき 、止まって いた 車 の 後部 座席 に 乗り込んで いく 。 ドア が 閉まる と 、すぐに 車 は 走り出した 。 その テールランプ を 目 で 追い ながら

「双葉 って 、何 気 に お嬢様 なんだ よ な 」

と 、咲太 は 今さら の ように 実感 する のだった 。

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