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銀河英雄伝説 01黎明篇, 第五章 イゼルローン攻略 (5)

その とき 、 帝国 軍旗 艦 の 艦 尾 から 一 隻 の 脱出 用 シャトル が 射 出さ れた 。 つつましやかな 銀色 の 点 と なって 暗黒の なか に 溶けこんで いく 。

それ に 気づいた 者 が いた だろう か 。 一瞬 の 間合 を おいて 、 三 度 め の 光 の 円柱 が 闇 を 刺し つらぬいた 。

帝国 軍 の 旗 艦 を 中心 点 に おいて 、 円 型 の 空間 が 切りとら れた ように 見えた 。 ゼークト 大将 の 巨体 と 怒声 は 、 不幸な 幕僚 たち を 道連れ に して ミクロン 単位 の 塵 と 化した 。

生き残り の 帝国 軍 は 事態 を 悟る と つぎつぎ と 艦 首 を ひるがえし 、 イゼルローン 要塞 主砲 の 射程 から 離脱 し はじめた 。 玉砕 戦法 を 呼 号する 司令 官 が 〝 消滅 〟 した からに は 、 無謀な 戦闘 ―― と いう より 一方的な 殺戮 ―― で 生命 を 捨てる 理由 は どこ に も ない 。

その なか に 、 オーベルシュタイン 大佐 の 乗った 脱出 用 シャトル の 姿 も あった 。 半 自動 操縦 で 進行 し ながら 、 彼 は 遠ざかる 球 型 の 巨大 要塞 に 肩 ご しの 視線 を 投げた 。

ゼークト 大将 は 、 死 の 直前 、「 皇帝 陛下 万 歳 」 と でも 叫んだ のだろう か 。 くだらない こと だ 。 生きて いれば こそ 復讐 戦 を 企図 する こと も できよう もの を 。

まあ よい か ―― オーベルシュタイン は 心 の なか で つぶやく 。 彼 の 機 略 に 、 傑出 した 統率 力 と 実行 力 が くわえ られれば 、 イゼルローン ごとき 、 いつでも 奪回 して みせる 。 あるいは 、 イゼルローン を そのまま 同盟 の 手中 に おく と して も 、 同盟 それ じたい が 破滅 すれば 、 イゼルローン に は なんの 価値 も なくなる のだ 。

誰 を 選ぶ ? 門 閥 貴族 に 人材 は ない 。 やはり あの 金髪 の 若者 か ―― ローエングラム 伯 ラインハルト か 。 どうやら ほか に は い そうに ない な ……。

うちのめさ れ 、 敗走 する 味方 の 艦艇 を 縫う ように 、 シャトル は 夜 の なか を 飛び去って いく 。

イゼルローン 要塞 の なか で は 、 歓喜 と 興奮 の 活火山 が 爆発 し 、 音階 を 無視 した 笑い声 と 歌声 が あらゆる スペース を 占領 して いた 。 静かな の は 、 事態 を 知って 呆 然自 失する 捕虜 たち と 、 演出 家 の ヤン ・ ウェンリー だけ だった 。

「 グリーンヒル 中尉 」

呼ばれて フレデリカ が 応答 する と 、 黒 髪 の 若い 提督 は 、 指揮 卓 から 床 に 降りたった ところ だった 。 「 同盟 本国 に 連絡 して くれ 。 なんとか 終わった 、 もう 一 度 やれ と 言われて も でき ない 、 と ね 。 あと を 頼む 。 私 は 空いた 部屋 で 寝る から 。 とにかく 疲れた 」

「 魔術 師 ヤン 」

「 奇 蹟 の ヤン 」

自由 惑星 同盟 の 首都 ハイネセン に 帰還 した ヤン ・ ウェンリー を 、 歓呼 の 暴風 が 迎えた 。

つい 先日 の 、 アスターテ 星 域 に おける 大敗 は あっさり と 忘れさら れ 、 ヤン の 智 略 と 、 彼 を 登用 した シトレ 元帥 の 識見 と が 、 想像 できる かぎり の 美辞麗句 に よって 賞 賛 さ れた 。 手まわし よく 準備 さ れた 式典 と それ に つづく 祝宴 で 、 ヤン は 自分 の 虚像 が 華麗に 踊り まわる の を いやというほど 見せつけ られた 。

ようやく 解放 さ れ 、 うんざり した 表情 で 帰宅 した ヤン は 、 ユリアン 少年 が 淹れて くれた 紅茶 に 自分 で ブランデー を 注いだ が 、 その 量 は 少年 の 眼 から は 少し く 多 すぎる と 思わ れた 。 「 ど いつも こいつ も 全然 、 わかって いやし ない の さ 」

イゼルローン の 英雄 は 靴 を ぬいで ソファー に あぐら を かき 、〝 紅茶 入り ブランデー 〟 を すすり ながら ぼやいた 。

「 魔術 だの 奇術 だの 、 人 の 苦労 も 知ら ないで 言いたい こと を 言う んだ から な 。 私 は 古代 から の 用 兵 術 を 応用 した んだ 。 敵 の 主力 と その 本拠 地 を 分断 して 個別 に 攻略 する 方法 さ 。 それ に ちょっと スパイス を 効か せた だけ で 、 魔術 な ん ぞ 使って は いない んだ が 、 うっかり おだて に のった リ したら 、 今度 は 素手 で たった ひと り 、 帝国 首都 を 占領 して こい 、 なんて 言わ れ かね ない 」 その 前 に 辞めて やる 、 と は 口 に ださ なかった 。

「 でも 、 せっかく 皆 が 賞 め て くれる んでしょう 」

言い ながら 、 ユリアン は さりげない 動作 で ブランデー の 瓶 を ヤン の 手 の とどか ない 場所 に 移動 さ せた 。

「 素直に 喜んで も いい と 思う けど なあ 」

「 賞 められる の は 勝って いる 期間 だけ さ 」 素直で ない 口調 で ヤン は 応じた 。

「 戦い つづけて いれば 、 いつか は 負ける 。 その とき どう 掌 が 返る か 、 他人事 なら おもしろい が ね 。 ところで 、 ユリアン 、 ブランデー ぐらい 好きに 飲ま せて くれ ない か な 」

その とき 、 帝国 軍旗 艦 の 艦 尾 から 一 隻 の 脱出 用 シャトル が 射 出さ れた 。 つつましやかな 銀色 の 点 と なって 暗黒の なか に 溶けこんで いく 。

それ に 気づいた 者 が いた だろう か 。 一瞬 の 間合 を おいて 、 三 度 め の 光 の 円柱 が 闇 を 刺し つらぬいた 。

帝国 軍 の 旗 艦 を 中心 点 に おいて 、 円 型 の 空間 が 切りとら れた ように 見えた 。 ゼークト 大将 の 巨体 と 怒声 は 、 不幸な 幕僚 たち を 道連れ に して ミクロン 単位 の 塵 と 化した 。

生き残り の 帝国 軍 は 事態 を 悟る と つぎつぎ と 艦 首 を ひるがえし 、 イゼルローン 要塞 主砲 の 射程 から 離脱 し はじめた 。 玉砕 戦法 を 呼 号する 司令 官 が 〝 消滅 〟 した からに は 、 無謀な 戦闘 ―― と いう より 一方的な 殺戮 ―― で 生命 を 捨てる 理由 は どこ に も ない 。

その なか に 、 オーベルシュタイン 大佐 の 乗った 脱出 用 シャトル の 姿 も あった 。 半 自動 操縦 で 進行 し ながら 、 彼 は 遠ざかる 球 型 の 巨大 要塞 に 肩 ご しの 視線 を 投げた 。

ゼークト 大将 は 、 死 の 直前 、「 皇帝 陛下 万 歳 」 と でも 叫んだ のだろう か 。 くだらない こと だ 。 生きて いれば こそ 復讐 戦 を 企図 する こと も できよう もの を 。

まあ よい か ―― オーベルシュタイン は 心 の なか で つぶやく 。 彼 の 機 略 に 、 傑出 した 統率 力 と 実行 力 が くわえ られれば 、 イゼルローン ごとき 、 いつでも 奪回 して みせる 。 あるいは 、 イゼルローン を そのまま 同盟 の 手中 に おく と して も 、 同盟 それ じたい が 破滅 すれば 、 イゼルローン に は なんの 価値 も なくなる のだ 。

誰 を 選ぶ ? 門 閥 貴族 に 人材 は ない 。 やはり あの 金髪 の 若者 か ―― ローエングラム 伯 ラインハルト か 。 どうやら ほか に は い そうに ない な ……。

うちのめさ れ 、 敗走 する 味方 の 艦艇 を 縫う ように 、 シャトル は 夜 の なか を 飛び去って いく 。

イゼルローン 要塞 の なか で は 、 歓喜 と 興奮 の 活火山 が 爆発 し 、 音階 を 無視 した 笑い声 と 歌声 が あらゆる スペース を 占領 して いた 。 静かな の は 、 事態 を 知って 呆 然自 失する 捕虜 たち と 、 演出 家 の ヤン ・ ウェンリー だけ だった 。

「 グリーンヒル 中尉 」

呼ばれて フレデリカ が 応答 する と 、 黒 髪 の 若い 提督 は 、 指揮 卓 から 床 に 降りたった ところ だった 。 「 同盟 本国 に 連絡 して くれ 。 なんとか 終わった 、 もう 一 度 やれ と 言われて も でき ない 、 と ね 。 あと を 頼む 。 私 は 空いた 部屋 で 寝る から 。 とにかく 疲れた 」

「 魔術 師 ヤン 」

「 奇 蹟 の ヤン 」

自由 惑星 同盟 の 首都 ハイネセン に 帰還 した ヤン ・ ウェンリー を 、 歓呼 の 暴風 が 迎えた 。

つい 先日 の 、 アスターテ 星 域 に おける 大敗 は あっさり と 忘れさら れ 、 ヤン の 智 略 と 、 彼 を 登用 した シトレ 元帥 の 識見 と が 、 想像 できる かぎり の 美辞麗句 に よって 賞 賛 さ れた 。 手まわし よく 準備 さ れた 式典 と それ に つづく 祝宴 で 、 ヤン は 自分 の 虚像 が 華麗に 踊り まわる の を いやというほど 見せつけ られた 。

ようやく 解放 さ れ 、 うんざり した 表情 で 帰宅 した ヤン は 、 ユリアン 少年 が 淹れて くれた 紅茶 に 自分 で ブランデー を 注いだ が 、 その 量 は 少年 の 眼 から は 少し く 多 すぎる と 思わ れた 。 「 ど いつも こいつ も 全然 、 わかって いやし ない の さ 」

イゼルローン の 英雄 は 靴 を ぬいで ソファー に あぐら を かき 、〝 紅茶 入り ブランデー 〟 を すすり ながら ぼやいた 。

「 魔術 だの 奇術 だの 、 人 の 苦労 も 知ら ないで 言いたい こと を 言う んだ から な 。 私 は 古代 から の 用 兵 術 を 応用 した んだ 。 敵 の 主力 と その 本拠 地 を 分断 して 個別 に 攻略 する 方法 さ 。 それ に ちょっと スパイス を 効か せた だけ で 、 魔術 な ん ぞ 使って は いない んだ が 、 うっかり おだて に のった リ したら 、 今度 は 素手 で たった ひと り 、 帝国 首都 を 占領 して こい 、 なんて 言わ れ かね ない 」 その 前 に 辞めて やる 、 と は 口 に ださ なかった 。

「 でも 、 せっかく 皆 が 賞 め て くれる んでしょう 」

言い ながら 、 ユリアン は さりげない 動作 で ブランデー の 瓶 を ヤン の 手 の とどか ない 場所 に 移動 さ せた 。

「 素直に 喜んで も いい と 思う けど なあ 」

「 賞 められる の は 勝って いる 期間 だけ さ 」 素直で ない 口調 で ヤン は 応じた 。

「 戦い つづけて いれば 、 いつか は 負ける 。 その とき どう 掌 が 返る か 、 他人事 なら おもしろい が ね 。 ところで 、 ユリアン 、 ブランデー ぐらい 好きに 飲ま せて くれ ない か な 」