酒 呑童 子 | 渡辺 綱 と 酒 呑童 子
むかし むかし 、ある ところ に 、酒 呑童 子 (しゅ てん どうじ )と いう 若者 が いました。
酒 呑童 子 は 誰 も が 、ほれぼれ する 様 な 色 男 で 、毎日 毎日 、女 の 人 から 想い を 寄せる 手紙 が 束 に なって 届きました。
「好きです。 わたし と 結婚 して ください」
「お 願い です。 わたし と 結婚 して ください」
「家 は お 金持ち です。 お 金 を あげます から 、結婚 して ください」
どの 手紙 に も 、その 様 な 事 が 書いて ある ので 、酒 呑童 子 は 手紙 を 開けよう と も しません。
かといって 捨てる わけに も いか ず 、酒 呑童 子 は 手紙 を から び つ と いう 箱 に 入れて おきました。
けれど ある 時 、から び つ が いっぱいに なった ので 思い切って 燃やして しまおう と 手紙 に 火 を 付けた のです が 、手紙 に 込めた 大勢 の 女 の 人 の 気持ち が 白い 煙 と なって 酒 呑童 子 を 包み込んだ のです。
すると 、あれほど りりしく ととのった 顔 が 、みるみる うち に 鬼 の 様 な 顔 に 変わって 、頭から は 角 まで 生えて きました。
「何と言う 事 だ。
女 たち の うらみ で 、鬼 に されて しまった。
こんな 顔 で は 、村 の みんな も 恐ろし がる 事 だろう」
村 を 出た 酒 呑童 子 は 丹波 の 国 (たん ば の くに →京都 府 )の 大江 山 (おおえ やま )に 隠れ 住み 、そして 大江 山 に 住む 鬼 たち の 大将 に なった のです。
顔 だけ で なく 心 まで 鬼 に なった 酒 呑童 子 は 、京 の 都 に 出かけて 侍 を 襲ったり 、お姫さま を さらったり の 悪行 を 重ねました。
そして それ を 知った 帝 (みかど )が 、渡辺 綱 (わた なべ の つな )と いう 強い 侍 に 酒 呑童 子 退治 を 命じた のです。
綱 (つな )が 羅 生 門 (ら しょうもん )へ 行く と 、待ち 伏せて いた 酒 呑童 子 が 、いきなり 太い 腕 で 綱 を つかみ あげました。
「グワグワグワーァ! おれ を 退治 に 来る と は 、生意気な! 」
酒 呑童 子 の 怪力 に 綱 は もがき ながら も 、その 右腕 を 刀 で 切り落としました。
「ウギャーーー! 」
腕 を 切られた 酒 呑童 子 が 大江 山 へ 逃げ かえった ので 、綱 は 切り落とした 腕 を 屋敷 へ 持ち帰って 石 の から び つ に 隠しました。
それ から 数 日 後 、綱 の 屋敷 に 片腕 の おばあ さん が やって 来て、
「鬼 の 腕 が ある そうだ が 、ちょっと 、見せて もらえ ん かのう? 」
と 、頼んだ のです。
(酒 呑童 子 と 同じ 片腕 と は)
おばあ さん を 怪しんだ 綱 が 断る と 、おばあ さん は 涙 を 流し ながら 訴えました。
「実は 、わし の 娘 は 鬼 に さらわれた のじゃ。
それ に 鬼 は 、娘 を 守ろう と した わし の 右腕 も。
だから ぜひとも 、かたき の 腕 を 見て おきたい のじゃ」
「・・・そう でした か」
心 を 動かされた 綱 は 鬼 の 右腕 を 取り出す と 、おばあ さん に 見せて やりました。
「これ が 、娘 さん の かたき の 腕 です」
すると おばあ さん は 、その 腕 を すばやく 自分 の 右腕 に つけて 、たちまち 鬼 の 正体 を 現しました。
「グワグワグワーァ! これ で 腕 は 元通り だ。 これ から は 、もっと 暴れて やる ぞ! 」
酒 呑童 子 は そう 言い残す と 、飛ぶ 様 に して 大江 山 へ 帰って 行きました。
「しまった! 酒 呑童 子 が お ばあさん に 化けて くる と は。 こうして は おられん」
綱 は さっそく 、この 事 を 帝 に 知らせました。
すると 帝 は 都 で 一 番 強い と 言わ れる 源 頼光 (みなもと の より みつ )を 呼んで 、大江 山 の 鬼 退治 を 命じました。
頼光 (より みつ )は 渡辺 綱 (わた なべ の つな )を はじめ 、卜部 季 武 (うら べ の すえ たけ )、碓井 貞光 (うすい さ だ みつ )、坂田 金 時 (さ かた の き ん とき →金太郎 )たち を 家来 に して 大江 山 へ 乗り込んで 行きました。
そして ようやく 酒 呑童 子 の 岩屋 に たどりついた 頼光 たち は 、山伏 (やまぶし )の 姿 に 変装 する と、
「わし ら も 、鬼 の 仲間 に して くれ。 土産 に 、うまい 酒 を 持って 来た から」
と 、見張り の 鬼 を うまく だまして 、岩屋 に 入り込みました。
この 土産 の お 酒 は 『神 便 鬼 毒 酒 (じん べんき どく しゅ )』と 呼ば れる 不思議な お 酒 で 、人 が 飲んだら 力 が 五 倍 に なり 、鬼 が 飲んだら 体 が しびれて 動け なく なる のです。
そう と は 知ら ず に 酒 を 飲んだ 鬼 たち は 、次々 に 体 が しびれて 動け なく なりました。
ようやく 山伏 の 正体 に 気づいた 酒 呑童 子 は、
「おのれ! 毒 を 使う と は 、鬼 に も おとる ひきょう者 め! 」
と 、頼光 たち に 襲いかかりました が 、酒 呑童 子 も 酒 を 飲んで いた 為 に 体 が 動か ず 、新羅三郎 (しら ん さ ぶろう )の 刀 で 首 を きられて しまいました。
ところが その 首 が 空中 を 飛んで 、くるっと 向き を 変えた か と 思う と 、歯 を むき 出した 恐ろしい 顔 で 新羅 三郎 の かぶと に 噛みついた のです。
新羅 三郎 の かぶと は 八 枚 かぶと と いって 、おおい が 八 枚 も ありました。
酒 呑童 子 の 首 は 、その うち の 七 枚 まで を 食い 破った のです が 、あと 一 枚 が どうしても 食い破れません。
そこ で 酒 呑童 子 の 首 は もう 一 度 空中 に 飛ぶ と 、頼光 ら に 言いました。
「今回 は おれ の 負け だ が 、いつか 必ず 仕返し を して やる ぞ! 」
そして 酒 呑童 子 の 首 は 、空 高く に 消えて いきました。
酒 呑童 子 に は 逃げられました が 、頼光 ら は 大江 山 の 鬼 たち を 退治 して 、京 の 都 に 平和 を もたらした のです。
おしまい