7.1
朝 、早く 目 が 覚めて しまった とき は 、一駅前 で 降りて 店 まで 歩く こと に している 。 マンション や 飲食店 が 立ち並んでいる 場所 から 、店 の 方 へ 歩いていく にしたがって 、オフィスビル しか なくなっていく 。 ・・
その 、ゆっくりと 世界が 死んでいく ような 感覚が 、心地いい 。 初めて この 店に 迷い込んだ とき と 変わらない 光景だ 。 早朝 、たまに スーツ姿の サラリーマンが 早足で 通り過ぎていく だけで 、ほとんど 生き物が 見当たらない 。 ・・
こんなに オフィス しか ない のに 、コンビニ で 働いて いる と 住民 風 の 客 も 訪れる ので 、一体 どこ に 住んで いる のだろう と いつも 思う 。 この セミ の 抜け殼 の 中 を 歩いて いる ような 世界 の どこ か で 、私 の 「お客 様 」が 眠って いる のだ と ぼんやり 思う 。 ・・
夜 に なる と 、オフィス の 光 が 幾何学的に 並ぶ 光景 に 変わる 。 自分 が 住んで いる 安い アパート が 並ぶ 光景 と 違って 、光 も 無機質 で 、均一な 色 を している 。 ・・
店 の 周り を 歩く の は 、コンビニ 店員 に とって 大切な 情報 収集 で も ある 。 近く の 飲食店 が 弁当 を 始めたら 売上 に 影響 する し 、新しく 工事 が 始まれば そこ で 働く 客 が 増える 。 店 が オープン して 4年目 、近くに ある ライバル 店 が 潰れた ときは 大変だった 。 その分 の 客 が 殺到 して 、昼 ピーク が 終わらずに 残業 を した 。 弁当 の 数 が 足りなくて 、店長 が 本社 の 人 に リサーチ 不足 だ と 叱られて いた 。 そんな こと が 起きない ように 、私 は この 街 を 、店員 として 、しっかりと 見つめ ながら 歩く こと に している 。 ・・
今日 は 特に 大きな 変化 は なかった が 、近く に 新しい ビル が できる ような ので 、完成 したら また 客 が 増える かも しれない 。 そんな こと を 頭 に 刻み ながら 店 まで 辿りつき 、サンドイッチ と お茶 を 買って バックルーム に 入る と 、今日 も 夜勤 に 入って いた 店長 が 、汗ばんだ 身体 を 丸めて 、お店 の ストア コンピューター に 数字 を 入力している ところ だった 。 ・・
「おはよう ございます ! 」 ・・
「あ 、おはよう 古倉 さん 、今日 も 早い ね ー ! 」 ・・
店長 は 30 歳 の 男性 で 、常に きびきび と している 。 口 は 悪い が 働き者 の 、この 店 で 8 人 目 の 店長 だ 。 ・・
2 人 目 の 店長 は サボり癖 が あり 、4 人 目 の 店長 は 真面目 で 掃除 好き で 、6 人 目 の 店長 は 癖 の ある 人 で 嫌わ れ 、夕勤 が 全員 一気に 辞める という トラブル に なった 。 8 人 目 の 店長 は 比較的 アルバイト から も 好かれ 、自分 が 体 を 動かして 働く タイプ な ので 、見て いて 気持ち が いい 。 7 人 目 の 店長 は 気弱 すぎて 夜勤 に なかなか 注意 が できずに 店 が ぼろぼろに なって しまった ので 、少し 口 が 悪くて も これ くらい の ほうが 働きやすい と 、8 人 目 の 店長 を 見る と 思う 。 ・・
18 年間 、「店長 」は 姿 を 変え ながら ずっと 店 に いた 。 一人一人 違う のに 、全員 合わせて 一匹 の 生き物 である ような 気持ち に なる こと が ある 。 ・・
8 人 目 の 店長 は 声 が 大きく 、バックルーム で は いつも 彼 の 声 が 反響している 。 ・・
「 あ 、 今日 、 新人 の 白羽 ( しらは ) さんと だ から ! 夕方 に 研修 してた から 昼勤 は 初めて だ よね 。 よろしく して あげて ね ー ! 」・・
「はい ! 」・・
元気 よく 返事 を する と 、店長 は 数字 を 打ち込む 手 を 休め ずに 何度も 頷いた 。 ・・
「いや あ 、古倉 さん が いる と 安心 だ わー 。 岩木 君 が 本格的に 抜けちゃう から 、しばらく 、古倉 さん と 泉 さん と 菅原 さん 、それと 新戦力 の 白羽 さん の 四人 で 昼まわす ことに なる けど 、よろしく ! 俺 は ちょっと 、しばらく の 間 は 夜勤 に 入る しか なさそうだ わー 」・・
声 の トーン は 全く 違う ものの 、店長 も 泉 さん と 同じ ように 語尾 を 伸ばして 喋る 癖 が ある 。 泉 さん の 後 に 8 人 目 の 店長 が 来た から 、泉 さん の が 店長 に 移った の かも しれない し 、店長 の 喋り方 を 吸収して 泉 さん が ますます 語尾 を 伸ばす ように なった の かも しれない 。 そんな こと を 考え ながら 、私 は 菅原 さん の 喋り方 で 頷いた 。 ・・
「はい 、大丈夫 です ! 早く 新しい 人 入って くれる と いい です ね ! 」・・
「うーん 、募集 かけたり 、夕勤 の 子 に 友達 で バイト 探してる 子 いない か 声 かけたり してる んだ けど ね ー ! 昼 勤 は 古倉 さん が 週 5 で 入れる から 助かる わ ー 」・・
人手 不足 の コンビニ で は 、「可 も なく 不可 も なく 、とにかく 店員 として 店 に 存在 する 」という こと が とても 喜ばれる こと が ある 。 私 は 泉 さん や 菅原 さん に 比べる と 優秀な 店員 で は ない が 、無遅刻 無欠勤 で とにかく 毎日 来る と いう こと だけ は 誰 に も 負け ない ため 、良い 部品 として 扱われて いた 。 ・・
その とき ドア の 向こう から 、「 あの う ……」と か細い 声 が した 。 ・・
「あ 、白羽 さん ? 入って 入って ! 俺 、30 分 前 に 出勤 する ように 言わ なかった ? 遅刻 だ よ ー ! 」 ・ ・
店長 の 声 に 静かに ドア が 開き 、180㎝ は ゆうに 超える だろう 、ひょろり と 背 の 高い 、針金 の ハンガー みたい な 男性 が 俯き ながら 入って きた 。 ・ ・
自分 自身 が 針金 みたいな のに 、銀色 の 針金 が 顔 に 絡みついた ような 眼鏡 を かけている 。 白い シャツ に 黒い ズボン と いう 店 の ルール を 守った 服装 だが 、痩せすぎて いて シャツ の サイズ が 合って おらず 、手首 が 見えて いる のに 腹 の あたり に は 不自然に 皺 が 寄っていた 。 ・・
骨 に 皮 が こびりついて いる ような 白羽 さん の 姿 に 一瞬 驚いた が 、私 は すぐに 頭 を 下げた 。 ・・
「初めまして ! 昼 勤 の 古倉 です 。 よろしく お願い します ! 」・・
今 の 言い 方 は 、 店長 に 近かった かも しれない 。 白羽 さん は 私 の 大声 に 怯 ( ひる ) ん だ ような 顔 を して 、・・
「はあ……」・・
と 曖昧な 返事 を した 。 ・・
「ほら 白羽 さん も 、挨拶 挨拶 ! 最初 が 肝心 だ から ね 、ちゃんと 挨拶 して ! 」 ・・
「は あ ……おはよう ございます ……」 ・・
白羽 さん は もごもごと 小さな 声 を 出した 。 ・・
「今日 は 研修 も 終わって 、もう 日勤 の 一員 だ から ねー ! レジ と 掃除 と 基本 的 な ファーストフード の 作りかた は 教えた けど 、覚えなきゃいけない こと は たくさん ある から ね ! この 人 は 古倉 さん 、なんと 、この 店 が オープン して から の スタッフ だ から ! 何でも 聞いて 教わって ! 」 ・・
「は あ ……」 ・・
「18 年間 だ よ 18 年間 ! は は 、びっくり した でしょ 、白羽 さん ! 大 先輩 だ よ ー !? 」 ・・
店長 の 言葉 に 、「え …… ? 」と 白羽 さん が 怪訝 な 顔 を する 。 窪んだ 目 が さらに 奥 に 引っ込んだ ような 気 が した 。 ・・
気まずい 空気 を どう しよう か と 考えている と 、勢いよく ドア が 開いて 、菅原さん が 姿 を 現した 。 ・・
「おはよう ございます っ ! 」・・
楽器 の 入った ケース を 背中 に 背負って バックルーム に 入ってきた 菅原さん は 、白羽さん に 気が付いて 明るく 声をかけた 。 ・・
「あ 、新しい 人 だ ー ! 今日 から よろしく お願いします ! 」 ・・
菅原 さん の 声 は 、店長 が 8 人 目 に なって から ますます 大きく なって いる 気 が する 。 何だか 薄気味悪い なあ と 思って いる と 、 いつの間にか 菅原 さん も 白羽 さん も 身支度 を 終えて いた 。 ・・
「 よし 、 じゃあ 今日 は 俺 が 朝礼 やる か ー 」・・
と 店長 が 言った 。 ・・
「では 今日 の 連絡 事項 ! まず 、白羽 さん の 研修 期間 が 終わり 、今日 から 9時 から 5時 で 働いて もらいます ! 白羽 さん 、とにかく 元気 に 声 出し がんばって ー ! わかん ない こと あったら 二人 に 聞く ように ! 二人 とも ベテラン だ から ね ー 。 今日 、昼 ピーク も できれば レジ 打って みて ね ー 」・・
「ああ 、はい …… 」・・
白羽 さん が 頷く 。 ・・
「あと 、今日 は フランク が セール だ から 、いっぱい 仕込んで ! 目標 は 100 本 ! この 前 の セール の とき 83 本 だった から ね 、売れる 売れる ! どんどん 仕込んじゃって ね ー ! 古 倉 さん よろしく ! 」・・
「はい ! 」・・
私 は 声 を 張り上げ 、元気 よく 返事 を する 。 ・・
「とにかく 、体感 温度 って いう の が 大事 だ から ね 、お店 で は ! 前日 と の 気温差 も 激しい し 、今日 は 冷たい もの が 売れる から 、ドリンク が 減ったら 補充 する ように 気を 付けて ! 声かけ は 、フランク の セール と 、デザート の 新商品 の マンゴープリン で いこう ! 」 ・・
「 わかりました ー ! 」・・
菅原 さん も はきはき と 答える 。 ・・
「じゃ 、伝達 事項 は これ くらい なんで 、接客 6 大 用語 と 誓い の 言葉 を 唱和 します 。 はい 、俺 に 続いて ! 」・・
私 たち は 店長 の 大きな 声 に 続いて 、声 を はりあげた 。 ・・
「『私たち は 、お客様 に 最高の サービス を お届け し 、地域の お客様 から 愛され 、選ばれる お店 を 目指して いく こと を 誓います ! 』」 ・・
「私たち は 、お客様 に 最高の サービス を お届け し 、地域 の お客様 から 愛され 、選ばれる お店 を 目指して いく こと を 誓います ! 」 ・・
「『いらっしゃい ませ ー ! 』」 ・・
「いらっしゃい ませ ー ! 」 ・・
「『かしこまりました ー ! 』」 ・・
「かしこまりました ー ! 」 ・・
「『ありがとう ございます ー ! 』 」・・
「ありがとう ございます ー ! 」 ・・