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翌日 、アルバイト から 帰る と 、玄関 に 赤い 靴 が 置いて あった 。 ・・
また 妹 が 来ている の か 、まさか 白羽 さん が 恋人 でも 連れて きている の か と 思い ながら 中 に 入る と 、部屋 の 中央 に は 正座 している 白羽 さん と 、テーブル 越し に 白羽 さん を 睨んで いる 茶髪 の 女性 が いた 。 ・・
「 あの …… どちら 様 です か ? 」・・
声 を かける と 、 女性 は きっと こちら を 見上げた 。 まだ 若い 、メイク が きつめの 女性 だった 。 ・・
「あなた が 、今 、この 人 と 一緒に 暮らして いる 方 です か ? 」・・
「は あ 、そう です ね 」・・
「私 、この 人 の 弟 の 妻 です 。 この 人 、ルーム シェア の 家賃 滞納 した まま 逃亡 して 。 携帯 も 繋がら ない みたいで 、北海道 の 実家 に まで 電話 が かかってきた んです よ 。 こっち から の 電話 も 全部 無視 する し 。 たまたま 私 が 同窓会 で 東京 に 来る 予定 が あった んで 、お義母さん が 立て替えた ルームシェア の 滞納分 全部 支払って 、頭 下げて 謝罪して 。 まったく 、いつか こういう こと に なる と 思って たんです よ 。 この 人 、自分 で 稼ぐ 気 が 全然 なくて お金 に 意地汚くて 、だらしなくて 。 いい です か 、絶対 に 返して もらいます から ね 」・・
テーブル の 上 に は 「借用書 」と 書かれた 紙 が 置かれていた 。 ・・
「ちゃんと 働いて 返して ください よ 。 まったく 、なんで 私 が 義理 の 兄 の ため に ここ まで しない と いけない んだ か ! 」・・
「 あの …… どうして ここ が わかった ん です か ……」・・
か細い 声 で 白羽 さん が 言う 。 私 は 、白羽 さん の 「隠して ほしい 」と いう の は 家賃 を 払わないで 逃げている から 、と いう 意味 も あった の だろう か と 思った 。 ・・
白羽 さん の 質問 に 、義妹 は 鼻 で 笑って 言った 。 ・・
「前に も お義兄さん 、家賃 を 滞納 して 実家 まで お金 を 借りに きた こと が あった でしょ 。 あの とき 、こんな こと に なる 気 が して 、旦那 に 頼んで お義兄さん の 携帯 に 追跡 アプリ 入れて もらってた んです よ 。 だから ここ に いる こと は わかって た んで 、コンビニ に 出かけた ところ を 捕まえた んです 」・・
白羽 さん は 義妹 さん に まったく 信用 されて なかった んだ なあ 、と しみじみ 思った 。 ・・
「本当に ……あの 、お金 は ぜったい 返します …… 」・・
白羽 さん は うなだれて いる 。 ・・
「当然 です 。 それ で 、この 人 と は どういう 関係 なん ですか ? 」・・
義妹 は 私 に 視線 を よこした 。 ・・
「無職 なのに 同棲 してる んですか ? そんな こと し てる 暇 が あったら 、いい 大人 なんだ から ちゃんと 就職 して ください 」・・
「結婚 を 前提 に お付き合い して います 。 僕 は 家 の こと を やって 、彼女 が 働く こと に なって います 。 彼女 の 就職先 が 決まったら 、お金 は そこ から お返し します 」・・
へえ 、白羽 さん に 彼女 が いた の か 、と 思った が 、昨日 の 妹 と 白羽 さん の やりとり を 思い出し 、あ 、自分 の こと を 言われてるんだ と 気 が 付いた 。 ・・
「そう なんです か ? 今 は どんな お仕事 されてる んです か ? 」・・
怪訝な 顔 で 尋ねられ 、「あ 、ええと 、コンビニエンスストア の アルバイト を しています 」と 答えた 。 ・・
義妹 さん の 目 と 鼻 と 口 が がばっと 一斉に あいた の を 見て 、あ 、 どこ か で 見た こと が ある 顔 だ な 、と 思う と 、妹さん が 唖然と した 様子 で 叫んだ 。 ・・
「 は あ ……!?え 、 それ で 二人 で 暮らしてる んですか ? この 男 は 無職 な のに !?」・・
「ええ と ……はい 」・・
「やって ける わけない じゃ ない で すか ! 行き倒れ に なります よ !?と いう か 、あの 、初対面 で 失礼 です けど 、けっこう いい 歳 です よ ね 。 何で アルバイト !? 」・・
「ええ と ……いろいろ 面接 を 受けた 時期 も あった んです けど 、コンビニ しか できなかった んです 」・・
義妹 は 呆然と した ように 私 を 眺めた 。 ・・
「ある 意味 お 似合い って 感じ です けど ……あの 、赤 の 他人 の 私 が 言う の も なんです けど 、就職 か 結婚 、どちらか した ほうが いい です よ 、これ 本気で 。 と いう か 、両方 した ほうが いい です よ 。 いつか 餓死 します よ 、いいかげんな 生き方 に 甘えてる と 」 ・・
「なるほど …… 」 ・・
「この 人 の こと 好き って 、ぜんぜん 趣味 が 理解 できません けど 、だったら なおさら 就職 した ほうが いい です よ 。 社会 不適合者 が 二人 で 、アルバイト の お金 だけ で やっていける わけない ですから 、まじで 」・・
「はい 」・・
「周り は 誰 も 言って くれ なかった んです か ? あの 、保険 とか ちゃん と 入ってます ? これ 本当に 、あなた の ため を 思って 言ってる んで ……! 初対面 です けど 、絶対 に ちゃんと 生きた ほうが いい です よ ! 」 ・・
身を乗り出して 親身になって くれて いる 様子の 義妹を 見て 、白羽さん から 聞いて いた より いい 人 そうだ な と 思った 。 ・・
「 二 人 で 話し合った んだ 。 子供が できる までは 、僕が 彼女を サポートする 。 僕 は ネット 起業 の ほう に 専念 する 。 子供 が できたら 、 僕 も 仕事 を さがして 一家 の 大黒柱 に なります 」・・
「夢みたい な こと 言って ないで 、お義兄さん も 働いて ください 。 まあ 、二人 の こと なので 、そんなに 私 が 干渉 する こと でも ない かもしれない です けど ……」・・
「彼女 に は バイト を すぐに やめて もらう 。 そして 毎日 職探し を して もらう 。 もう 決まった こと な ん だ 」・・
「え …… 」・・
しぶしぶ と いった 調子 で 、 義妹 は 、「 まあ 、 相手 が いる 分 、 前 より か は マシ に なってる 気 が します けど ……」 と 言い 、「 あんまり 長居 したく もない ん で 、 もう 帰ります 」 と 立ち上がった 。 ・・
「今日 の こと は 、貸した お金 の 金額 も 含めて 、ぜんぶ お義母さん に 報告 します から 。 逃げられる と 思わないで ください ね 」・・
義妹 は そう 言い残して 帰って 行った 。 ・・
白羽 さん は ドア が 閉められ 、足音 が 遠ざかる の を 慎重に 確認して から 、嬉しそうに 叫んだ 。 ・・
「やった 、うまく 逃れた ぞ ! これ で しばらく 大丈夫 だ 。 この 女 が 妊娠 なんか する わけ が ない 、だって 僕 は 絶対 に こんな 女 に 挿入 し ない から な ! 」・・
白羽 さん は 興奮 した 様子 で 、私 の 両肩 を 掴んだ 。 ・・
「古倉 さん 、あなた は 運 が いい です よ 。 処女 で 独身 の コンビニ アルバイト だ なんて 、三重苦 の あなた が 、ぼく の おかげ で 既婚者 の 社会人 に なれる し 、誰も が 非処女 だ と 思う だろう し 、周り から 見て まともな 人間 に なる こと が できる んだ 。 それ が 一番 みんな が 喜ぶ 形 の あなた なんです よ 。 よかった です ね ! 」・・
帰って 早々 、白羽 さん の 家庭 の 事情 に 巻き込まれた 私 は 、ぐったり と 疲れて 白羽 さん の 話 を 聞く 気 に も なれず 、・・
「あの 、今日 は 家 の シャワー を 使って いい ですか ? 」・・
と 言った 。 ・・
白羽 さん が バスタブ から 布団 を 出し 、私 は 久しぶりに 家 の シャワー を 浴びた 。 ・・
シャワー を 浴びて いる 間 、浴室 の ドア の 前 で ずっと 白羽 さん は 喋って いた 。 ・・
「僕 と 出会えて 、古倉 さん は 本当に 運 が いい です よ 。 このまま 一人 で のたれ死ぬ ところ だった んです から 。 そのかわり 、ずっと 僕 を 隠し続けて ください 」・・
白羽 さん の 声 は 遠くて 、水 の 音 しか しない 。 耳 の 中 に 残って いた コンビニ の 音 が 、少しずつ 掻き消されて いく 。 ・・
身体 の 泡 を 流し 終え 、ぎゅっと 蛇口 を ひねる と 、久しぶりに 耳 が 静寂 を 聴いた 。 ・・
今まで ずっと 耳 の 中 で 、コンビニ が 鳴って いた のだ 。 けれど 、その 音 が 今 は しなかった 。 ・・
久しぶり の 静寂 が 、聞いた こと の ない 音楽 の ように 感じられて 、浴室 に 立ち尽くしている と 、その 静けさ を 引っ掻く ように 、みしり と 、白羽さん の 重み が 床 を 鳴らす 音 が 響いた 。 ・・