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悪人 (Villain) (2nd book), 悪人 下 (4)

悪人 下 (4)

夕方 に なって 、 数 組 の 客 が 同時に 訪れた 。 うち 馬 込 光代 が 受け持った の は 、 二十 代 半 ば の 男性 二 人 組 で 、 スーツ を 選び ながら の まるで 漫才 の ような 掛け合い を 聞いて いる 限 り で は 、 背 の 低い ほう が 最近 やっと 再 就職 の 面接 に 受かった ようで 、 友人 を 引き連れて 来店 した らしかった 。 「 これ まで ずっと 作業 服 や つけ ん 、 スーツって いまいち どれ を 買えば よか と か 分から ん けん な 」 「 しかし 、 普通 、 スーツ と か 買う とき は 、 女房 連れて こんや ? 」 「 馬鹿 言え 、 あれ と 一緒に 来たら 、 シャシ から ネクタイ まで 、 一式 最 安値 商品 で 揃 えら れる 」 「 なん や 、 高級 スーツ 買う つもり や ? 」 第 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? 「 そう じゃ なか けど 、 中級 さ 、 中級 」 なんだ かんだ と 言い ながら 、 ラック に 吊られた スーツ を 片っ端から 手 に 取って 、 二 人 仲良く 胸 に 当てて いく 。 光代 は 「 まだ 若く 見える が 、 もう この 年代 でも 結婚 して いる んだ なあ 」 と 思い ながら 、 つか ず 離れ ず 、 気長に 声 を かけられる の を 待って いた 。 試着 室 の 前 に は メジャー を 首 に かけた 売り場 主任 の 水谷 和子 が 立って いた 。 さっき 休 憩 を 終えて フロア へ 戻って きた 水谷 に 、 光代 は 今夜 少し 時間 が ない か と 尋ねた 。 もし あ れば 軽く 飲み に 行か ない か と 。 珍しい 誘い に 、 一瞬 、 水谷 は 首 を 捻った が 、「 大丈夫 よ 。 うち の 旦那 も ちょっと 遅う かいてん ずし なるって 言い よった し 、 どこ 行こう か ? この 前 ビックリ バー の 隣 に 出来た 回転 寿司 で も ょかたい ね 」 と 妙に 乗り気に なって くれた 。 じゃあ 、 その 回転 寿司 に 行こう と 決まって 、 光代 が 持ち場 へ 戻ろう と する と 、 水谷 が さっと その 手 を 掴み 、「 この前 の 土 日 、 珍しゅう 休み 取ったり する けん 、 なんか ある と やろう なぁ と は 思う とった けど ……。 よか 話 ね ? 」 と ニャニヤ する 。 光代 は 、「 いや 、 大した こと じゃ なか です よ 。 ただ 、 久しぶりに 水谷 さん と ごはん でもって 思う て 」 とそ の 場 を 逃れた が 、 顔 が ほころぶ の を 止められ なかった 。 土曜 の 昼 に 会った 清水 祐一 と 、 結局 丸一 日 以上 一緒に 過ごした 。 うなぎ を 食べて 、 灯 台 へ 行く つもりで ホテル を 出た のに 、 うなぎ を 食べて 店 を 出る と 、 とつぜんの どしゃ ぶ り に なり 、 結局 、 ドライブ は 諦めて 、 また 別の ホテル に 入った 。 日曜 の 晩 、 祐一 に アパート まで 送って もらい 、 車 の 中 で 長い キス を して 、 別れた の が おととい 、 翌月 曜 の 夜 に は 電話 で 三 時間 も 話 を した 。 途中 、 妹 の 珠代 が 旅行 から 戻った ので 、 最後 の 三十 分 は 寒風 吹きすさぶ アパート の 階段 に 腰かけて 。 あれ から まだ 丸一 日 も 経って いない 。 なのに もう 祐一 の 声 が 聞き たくて 仕方 が ない 。 気 が つく と 、 漫才 コンビ の ような 二 人 組 は 、 壁 際 の ラック に かかった スーツ を 手 に 取って いた 。 壁 際 の ほう は セット 料金 で 三千 円 高く なって いる 上 に 、 替え の ズボン が つい てい ない 。 威圧 感 を 与え ない 程度 に 近寄る と 、 男 たち の 会話 が 聞こえて くる 。 「 そう 言えば 、 この 前 、『 釣り バカ 」 観 に 行った けん な 」 「 一 人 で ? 」 「 まさか 、 息子 と 二 人 で 」 「 お前 、 息子 連れて 、 あげ ん 映画 に 行く と や ? 」 「 子供 、 けつ こう 喜ぶ と ぞ 」 「 マジ で ? うち の ガキ なんか 、 まん が 祭り 以外 全然 興味 なか けど な 」 二十 代 半ば 、 見かけ は 大学 の 友人 同士 と 言って も 通用 する 。 そんな 二 人 が スーツ を 選 ぴ ながら 互い の 子供 の 話 なんか を して いる 。 光代 は そんな 二 人 の 背中 を 微笑ま しく 見つめて いた 。 その 視線 に 気づいた の か 、「 す いま せ ん 。 これ 、 ちょっと 試着 して も よか です か ? 」 と 背 の 低い ほう の 子 が 振り返る 。 すると 、 すぐに 隣 の 子 が その スーツ を 奪い 、「 なん や 、 結局 、 これ に する と や ? なん か ホストっぽう ないや ? 」 と 茶化す 。 言わ れた ほう も 根 が 素直な ようで 、「 そう や ? 」 と せっかく 決めた スーツ を 眺めて 首 を 傾げる 。 「 よかったら 、 試着 して みたら どう です か ? 」 と 光代 は 笑顔 を 向けた 。 「 手 に したら 、 ちょっと 光る 感じ も します けど 、 中 に 白い シャシ と か 合わせたら 、 落ち 着いた 感じ に なります よ 」 光代 の 言葉 に 、 男 は 自信 を 取り戻した ようで 素直に 試着 室 へ ついてきた 。 残った ほう は いかにも 買う 気 が ない 客 らしく 、 目 に ついた スーツ の 値札 を 次 から 次に 捲って 回る 。 サイズ は ぴったりだった 。 様子 を 見る ため に 光代 が 渡した 白い シャシ も 、 男 の 童顔 に 妙に 合って いる 。 「 いかがです か ? 」 鏡 の 前 で 身 を 振り ながら 確認 する 男 に 声 を かける と 、 いつの間にか やってきて いた 男 の 連れ が 、「 あら 、 ほんと 、 そげ ん 派手じゃ なか な 〜」 と 背後 から 声 を かけて くる 。 「 よか ご たる な ? 」 狭い 試着 室 で 、 男 が 鏡 に 映った 光代 と 友人 に 頷いて み せる 。 光代 は 使い込んだ メジャー を ポケット から 出して 、 ズボン の 裾 上げ に 取りかかった 。 続く とき に は 続く もの で 、 その後 も 客 は ひっきりなしに 来店 し 、 来店 する ばかり か 、 次々 に スーツ が 売れて いった 。 閉店 時間 を 回り 、 フロア の 照明 を 半分 落とした レジ の テーブル で 、 光代 が 補 整 に 出す 商品 伝票 を 整理 して いる と 、「 たまに 飲み に 行こうって いう H に 限って これ や ねえ 」 と 言い ながら 、 水谷 が 同じ ように 伝票 の 束 を 掴んで やってくる 。 「 ほんとです ね 」 光代 は 相づち を 打ち ながら 時計 を 確認 した 。 八 時 四十五 分 。 普段 なら すでに 着替えて 、 自転車 を 漕いで いる 時間 だ 。 「 まだ かかり そう ? 」 すでに 整理 を 終えた らしい 水谷 に 訊 かれ 、 光代 は 、「 十五 分 も あれば 」 と 伝票 を 捲って みせた 。 「 じゃあ 、 更衣室 で 待つ とく けん 」 水谷 が そう 言い残して 階段 を 下りて いく 。 半分 照明 が 落とさ れた フロア は 薄暗く 、 暖 房 も 切られて いる ので 、 足元 から 底冷え して くる 。 レジ 台 の 上 に 置か れた 携帯 の 着信 音 が 聞こえた の は その とき だった 。 珠代 か と 思って 手 に 取る と 、 そこ に 祐一 の 名前 が ある 。 光代 は 伝票 の 間 に 親指 を 入れた まま 、 もう 片方 の 手 で 出た 。 「 もしもし 。 俺 」 受話器 の 向こう から 祐一 の 声 が 聞こえて くる 。 光代 は 薄暗い フロア に 誰 も いない の を 確認 し 、「 もしもし 。 どうした と ? 」 と 嬉し そうな 声 を 返した 。 「 まだ 仕事 中 ? 」 祐一 の 問いかけ に → 光代 は 、「 うん 、 なんで ? 」 と 問い返した 。 「 今日 、 なんか 用 ある ? 」 「 今日って 、 今 からって こと ? 」 フロア に 響いた 自分 の 声 が 、 もう すでに 喜んで いる 。 「 だって 長崎 やろ ? 仕事 もう 終わった と ? 」 と 光代 は 訊 いた 。 「 六 時 に 終わった 。 今日 、 自分 の 車 で 現場 に 行った けん 、 そこ から 直接 そっち に 行こう か と 思う て 」 運転 中 な の か 、 ときどき 電波 が 途切れる 。 「 今 、 どこ ? 」 と 光代 は 訊 いた 。 知ら ぬ 間 に 立ち上がって いて 、 伝票 に 差し込んで いた 親指 も 抜けて いる 。 「 今 、 もう 高速 降りる 」 「 え ? 高速って 、 佐賀 大和 ? 」 光代 は 思わず ガラス 窓 へ 目 を 向けた 。 佐賀 大和 の インター から なら 、 ここ まで 十分 と かから ない 。 光代 は 椅子 に 座り 直す と 、「 来て くれる なら 、 もっと 早う 知らせて くれ れ ば よか と に 」 と 、 嬉しくて 文句 を 言った 。 隣 に ある ファーストフード 店 の 駐車 場 で 待ち合わせる こと に して 、 光代 は 祐一 から の 電話 を 切った 。 平日 の 夜 、 思い も 寄ら ぬ 祐一 の 行動 に 、 からだ が カツ と する ほど の 幸福 感 が 押し寄せ て 〃 くる 。 残って いた 伝票 を 手早く 処理 し ながら も 、 高速 を 降りた 祐一 の 車 が 、 今 、 走り抜けて いる 街道 の 風景 が 浮かび 、 一 枚 確認 済み の はんこ を 押す 度 に 、 車 が 近づいて くる の が 感 じられる 。 十五 分 は かかる と 思って いた 仕事 を 、 光代 は 五 分 で 終わら せた 。 フロア の 電気 を 消し て 、 一 階 の 更衣室 へ 駆け込む と 、 すでに 着替えた 水谷 が いつも 持参 して いる 水筒 から 、 どくだみ 茶 を 注いで 飲んで いる 。 「 あら 、 もう 終わった と ? 」 水谷 に 尋ねられ 、 光代 は 一瞬 、「 あ 、 えっと 」 と 言葉 を 詰まら せた 。 これ から 二 人 で 回転 寿司 に 行く 約束 を 忘れて いた わけで は なかった が 、 あまり の 急 展開 に 断る 言い訳 を 考えて い なかった のだ 。 「 どうした と ? 」 言葉 を 詰まら せた 光代 を 見つめ 、 水谷 が 心配 そうに 訊 いて くる 。 「 あの 、 えっと ……」 「 どうした と ? なんか あった ? 」 「 いや 、 そう じゃ なくて 、 今 、 ちょっと 電話 が あって ……」 「 電話 ? 誰 から ? 」 光代 は また 口ごもった 。 水谷 に は 、 これ から 行く はずの 回転 寿司 店 で 、 祐一 と の 出会 い に ついて 話そう と して いた くせ に 、 いざ と なる と それ が 口 からすっと 出て こ ない 。 光代 の 様子 を じっと 見つめて いた 水谷 が 、「 また 今度 に する ? 私 は いっでも よか よ 」 と 意味 深 な 笑み を 浮かべる 。 「 すいません ……」 と 光代 は 謝った 。 「 彼 氏 が 急に 迎え に きた と やる ? 」 急な 変更 を 気 に も せ ず 、 水谷 が 微笑む 。 「 なんか あった と やろう と は 思う とった よ 。 珍しゅう 週 末 に 休み 取ったり する し 、 昨日 から 幸せ そうな 顔 し とった もん 」 「 すいません ….:」 と 光代 は また 謝った 。 「 ほんと 、 気 に せ んで よ かって 。 :。 … で 、 佐賀 の 人 ね ? 」 「 いや 、 長崎 の ……」 「 へえ 、 長崎 から 急に 会い に 来た と ? あら ら 、 じゃあ 、 私 と 回転 寿司 なんか 食べ とる 場合 じゃ なか ねえ 。 ほら 、 早う 着替えて 行か ん ね 」 水谷 は そう 言って 、 突っ立って いる 光代 の 尻 を 叩いた 。 水谷 が 先 に 帰り 、 誰 も い なく なった 更衣室 で 光代 は 急いで 着替えた 。 着替えて いる 最 中 に 携帯 が 鳴り 、「 今 、 着いた 」 と いう 祐一 から の メール が 入って いる 。 革 ジャケット を 着て きて よかった 。 いつも 着て いる ダウン ジャケット の 襟 が 汚れて い て 、 今朝 、 もう 一 日 着て から クリーニング に 出そう か と 思った のだ が 、 なんとなく やめ た のだ 。 週 末 、 祐一 に 会った とき に も 、 この 革 ジャケット を 着て いた 。 一 年 ほど 前 、 珠代 と バ ス で 博多 に 買い物 に 行った とき 、 十一万 円 と いう 値段 に 跨踏 は した が 、 十 年 に 一 度 と 奮発して 買った もの だった 。 更衣室 の 鍵 を 閉め 、 管理 室 の 警備貝 に 渡して 通用口 を 出た 。 寒風 が 足元 を 吹き抜け 、 マフラー を しっかり と 首 に 巻き 直す 。 がらんと した 駐車 場 に は 白線 だけ が くっきり と 浮 かび 、 フェンス の 向こう に は 、 休 閑中 の 畑 と 鉄塔 が ある 。 視線 を 転じる と 、 隣 に ある ファーストフード 店 の 駐車 場 に 、 見覚え の ある 白い 車 が 停 まって いる 。 さほど 混 んで いない が 、 よく 磨か れた 祐一 の 車 だけ が 、 駐車 場 の 照明 に き ら きら と 輝いて いる 。 光代 は 一旦 駐車 場 から 国道 に 出て 、 フェンス の 向こう を 覗き ながら 、 隣 の 駐車 場 へ と 急いだ 。 ファーストフード 店 の 駐車 場 に 入る と 、 祐一 の 車 の ライト が チカッ と 光った 。 隣 から 歩いて くる 自分 の 姿 を ずっと 見て いた らしい 。 光代 は 暗い 車 内 に いる だろう 祐一 に 向かって 、 小さく 手 を 振って 見せた 。 近寄って いく と 、 祐一 が 助手 席 の ドア を 内側 から 開けて くれた 。 開いた とたん 、 車 内 が 明るく なり 、 作業 服 を 着た 祐一 の 姿 が 見える 。 光代 は 車 に 駆け寄り 、「 さ ぶ 〜 い 」 と 身震い し ながら 助手 席 に 乗り込んだ 。 その 間 、 一 度 も 祐一 と は 目 を 合わせ なかった が 、 ドア が 閉まり 、 また 車 内 が 暗く なった とたん 、 「 ほんとに 仕事 終わって すぐに 来た と ? 」 と 祐一 の ほう へ 顔 を 向けた 。 「 家 に 帰って から や と 、 もっと 遅う なる けん 」 祐一 が 車 内 の 暖房 を 強め ながら 言う 。 「 もっと 早う 電話 くれれば よかった と に 」 「 しよう か なって 思う た けど 、 仕事 中 やろう と 思う て 」 「 もし 、 今日 、 会 えんかつ たら どう する つもり やった と ? 」 光代 が ちょっと 意地 悪く 尋ねる と 、「 もし 会え ん かつ たら 、 そのまま 帰る つもり やった 」 と 生真面目に 答える 。 光代 は シフト レバー に 置か れた 祐一 の 手 に 自分 の 手 を のせた 。 祐一 の 作業 着 の せい か 、 車 内 に 廃 嘘 の ような 匂い が した 。 車 は ファーストフード 店 の 駐車 場 に 停められた まま 、 なかなか 動き出さ なかった 。 す で に 三 組 ほど 、 店 内 から 出て きた 客 が 車 に 乗り込み 、 駐車 場 から 走り去って いる 。 逆に 入って くる 車 が ない ので 、 車 が 減る たび に 、 まるで 大海 の 小舟 の ように 自分 たち の 車 だ け が 残さ れる 。 もう 何分 くらい 経つ の か 、 光代 の 指 と 祐一 の 指 は 、 未 だに シフト レバー の 上 で 絡み合って いる 。 言葉 は なく 、 ただ 指先 だけ が 、 もう 何分 も 話 を して いる 。 「 明日 も 仕事 、 早い と やる ? 」 光代 は 祐一 の 中指 を 握り ながら 尋ねた 。 フェンス の 向こう に 見える 国道 を 、 スピード を 上げた 車 が 走って いく 。 「 五 時 半 起き 」 祐一 が 光代 の 手首 を 親指 の 腹 で 撫でる 。 「 ここ から 長崎 まで 二 時間 くらい かかる よ ね ? あんまり 時間 ない ね 」 「 ちょっと 顔 見 たかった だけ やけん ..…・」 エンジン を かけた まま の 車 の 中 で 、 デジタル 時計 が 9” 肥 を 示して いる 。 「 帰る と やる ? 」 と 光代 は 尋ねた 。 指 の 動き を 止めた 祐一 が 、「…… うん 、 今夜 の うち に 帰ら ん と 、 明日 三 時 起き に なる し 」 と 苦笑 する 。 会い たくて 、 会い たくて 、 仕方 が なくなった んだ 。 仕方 が なくて 、 仕事場 から 真っす ぐ 走って きた んだ 。 祐一 が そう 言って くれる こと は なかった が 、 自分 の 手首 を 撫でる 祐一 の 指 の 動き で 、 そんな 気持ち が 伝わって きた 。 これ から 近く の ラブ ホテル に 入れば 、 二 時間 くらい は 一緒に いられる 。 ただ 、 それ か ら 長崎 へ 帰る と なる と 、 到着 は 深夜 一 時 過ぎ に なる 。 すぐに 寝て も 、 四 時間 ほど しか 眠 ら ず に 、 祐一 は きつい 仕事 へ 出かけ なければ なら ない 。 二 時間 で いい から 一緒に いたい 。 でも 、 一 時間 でも 多く 、 祐一 を 眠ら せて あげたい 。 「 うち に 妹 が おら ん やったら ね :…・」 思わず そんな 言葉 が 漏れて 、 光代 は 自分 で 自分 の 言葉 に ハツ と した 。 これ まで 妹 の 珠 代 を 邪魔だ と 思った こと は ない 。 逆に いつも 妹 の 帰り ばかり を 心配 して いる 生活 だった のだ 。 「 ホテル .:… 行く ? 」 祐一 が ぼ そっと 訊 いて きた 。 その 訊 き 方 が 、 明日 の 朝 を 心配 して いる の か 、 どこ か 跨 踏 して いる 。 「 でも 今 から 入ったら 、 帰る の 遅く なる よ 」 「…… そう やけど 」 シフト レバー の 上 で 、 祐一 の 指先 に 力 が 入る 。 「 なんか 、 やっぱり 佐賀 と 長崎って 遠い ね 」 光代 は ふと そう 眩 いて しまい 、 すぐに 、「 あ 、 じゃ なくて 」 と 首 を 振った 。 「::: そう じゃ なくて 、 なんか 、 せっかく 来て くれた と に 、 ゆっくり する 時間 も ない 〆 一 1 し 」 「 平日 やけん 、 仕方 なか よ 」 祐一 が 諦めた ように 眩 く ・ それ が どこ か 冷たく 響き 、「 祐一って 真面目 か ょね 」 と 思 わ ず 光代 は 言い返した 。 「 仕事 は 休め ん よ 。 おじさん の 会社 やし 」 「 でも 、 土 日 は 私 が なかなか 仕事 休め ん よ 。 この前 の ように 二 日 続けて 一緒に おる んな ん て 、 滅多に でき ん かも 」 少し 意地悪な 言い 方 だった 。 その とたん 、 祐一 の 指先 から 力 が なくなる 。 私 に 会い に きて くれた 人 な のだ 、 と 光代 は 思う 。 自分 たち に は 会う 時間 が ない んだ と 、 そんな こと を わざわざ 聞き に きた わけで は なくて 、 きつい だろう 仕事 を 終えた その 足 で 、 二 時間 も 車 を 走ら せて 、 わざわざ 私 に 会い に 来て くれた 人 な のだ と 。 「 ねえ 、 隣 の 駐車 場 に 移動 せ ん ? 」 光代 は 力 の 抜けた 祐一 の 指 を 引っ張った 。 「 もう 店 も 終わっと る し 、 他の 車 が 入って くる こと も ない けん 、 ゆっくり 話 できる よ 。 建物 の 裏 に 停めれば 、 通り から も 見え ん し 」 光代 の 言葉 に 祐一 が フェンス の 向こう 、 すでに 照明 も 消さ れた 紳士 服 店 の 駐車 場 に 目 を 向け 、 すぐに サイド ブレーキ を 下ろそう と する 。 「 あ 、 ちょっと 待って 。 晩 ご飯 まだ 食べ とら ん と やる ? そこ で なんか 買って くる け ん 」 光代 が 慌てて そう 言う と 、「 いや 、 高速の サービス エリア で うどん 食 うて きた 。 我慢 でき ん で 」 と 祐一 は 笑った 。 車 は ファーストフード 店 の 駐車 場 を 出て 、 紳士 服 店 「 若葉 」 の 駐車 場 に 入った 。 店舗 の 裏 に 回る と 辺り は 真っ暗で 、 フェンス の 向こう に 見える 畑 の 中 、 ライト アップ さ れた 化粧 品 の 大きな 看板 だけ が 風景 に なる 。 「 私 、 今度 の 金曜日 、 公休 やけん 、 長崎 に 行こう か な 。 日帰り やけど 」 車 が 停 まる と 、 光代 は ハンドル を 握った まま の 祐一 に 言った 。 その 瞬間 、 祐一 の 腕 が 伸びて きて 、 耳元 から 首すじ に かけて 、 熱い 手のひら が 置か れる 。 祐一 は 何も 言わ ず に キス を して きた 。 一瞬 焦った が 、 あっという間 に 祐一 の からだ が のしかかって くる 。 光 代 は 目 を 閉じて 、 からだ を 任せた 。 駐車 場 を 出た の は 、 十 時 を 回った ころ だった 。 いつまで でも 抱き合って い たかった が 、 それ 以上 に 、 明日 の 朝 、 祐一 に つらい 思い を さ せ たく ない と いう 気持ち が 強かった 。 車 を 出す と 、 祐一 は 案内 も なし に 光代 の アパート へ 向かった 。 器用に 車線 を 変更 し 、 次々 と 他の 車 を 抜いて いく 。 「 じゃあ 、 しあさって バス で 長崎 に 行く ね 」 光代 は すでに 慣れた 車 の 揺れ に 身 を 任せ ながら 言った 。 「 六 時 に は 仕事 終わる けん 」 祐一 が 前 の 車 を 煽り ながら 眩 く ・ 「 せっかく やけん 、 午前 中 に 行って 、 一 人 で 観光 しょっと 。 長崎 市 内 に 行く とって 、 も う 何 年 ぶり やろ ……、 去年 、 妹 たち と ハウステンボス に は 行った けど 」 「 俺 が 案内 できれば いい と けど 。 …:」 「 大丈夫 。 ちゃんぽん 食べて 、 教会 と か 見て :…・」 297 第 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? 自転車 で 十五 分 かかる 距離 が 、 祐一 の 運転 だ と ほんの 三 分 だった 。 祐一 は 先日 と 同じ ように 未 舗装 の アパート 敷地 内 に 車 を 入れた 。 「 あ 〜、 やっぱり 、 妹 、 もう 帰っと る 」 光代 は 明かり の ついた 二 階 の 窓 を 見上げた 。 「…… さっき 会う た ばっかり と に ね 」 そう 眩 く 光代 の 唇 に 、 祐一 の 乾いた 唇 が 重なる 。 「 気 を つけて 帰って よ 」 光代 は 唇 を つけた まま 言った 。 祐一 も そのまま で 頷いた 。 一瞬 、 祐一 が 何 か 言い かけ たような 気 が して 、「 え ? 」 と 光代 は からだ を 離した 。 しかし 祐一 は 目 を 伏せた だけ だった 。 光代 は 敷地 から 出て いく 車 を 見送った 。 車道 へ 出る と 、 祐一 は 一 度 クラクション を 鳴 らし 、 あっという間 に 走り去った 。 もう 寂しかった 。 もう 会い たく なって いた 。 光代 は 赤い テールランプ が 見え なく なる まで 立って いた 。 あれ は いつ だった か 、 珠代 が 美容 師 の 男の子 と 付き合って いる ころ 、 同じ ような こと を 言って いた 。 デート が 終わる と もう 寂しい 。 もう 会い たくて 仕方ない 。 当時 は その 気 持ち が いまいち 理解 でき ず に いた が 、 今 なら 分かる 。 分かる どころ か 、 こんな 気持ち に なって 、 よく 平気で いられた もの だ と さえ 思う 。 光代 は 車 を 追いかけて 走り出したい 気 分 だった 。 座り込んで 、 声 を 上げて 泣き たかった 。 祐一 と 一緒に いられる ならば 、 なん だって でき そうな 気 さえ した 。

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