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悪人 (Villain) (2nd book), 悪人 下 (10)

悪人 下 (10)

遠い 空 は 晴れ間 が 広がっている のに 、フロント ガラス を 雨 粒 が 叩いている 。 雨 粒 は いくつ か 混じり合って 、すっと 音 も なく 流れ 落ちる 。 そして また 、流れた あと を 雨 粒 が 叩 車 は 海沿い の 車道 の 路肩 に 停められている 。 アスファルト の 路面 が 、雨 に 濡れ 、その 色 を 変えられて いく 。 濡れた アスファルト は 、周囲 の 景色 を 暗く する 。 その せい で 、光代 と 祐一 の いる 車内 まで 、まるで 夕暮れ 時 の ように 暗く なって いく 。 この 道 の 先 に は 、警察署 が ある 。 あと 数 十 メートル 進めば 、車 は 警察署 の 敷地 へ 入る 。 もう どれ くらい ここ に じっと して いる の か 。 たった今 、車 が 停まった ような 気 も する し 、もう 一晩 も 、ここ に いる ような 気 も する 。 光代 は 手 を 伸ばして 、フロント ガラス の 雨 に 触れた 。 もちろん 内側 から 雨 に 触れる こと は できない のだが 、指先 が 少し 濡れた ような 感触 が ある 。 いつの間にか 、雨脚 は 強く なり 、もう フロント ガラス の 向こう も 見えない 。 さっき から 祐一 の 荒い 鼻息 が はっきり と 聞き取れる 。 横 を 向けば 、そこ に いる のに 、光代 は 祐一 の ほう を 見る こと が でき ない 。 見れば 何もかも が 終わる のだ と 思う 気持ち が 、どうしても 自分 の からだ を 自由に 動かして くれ ない 。 呼子 の 岸壁 で 、光代 は 、「警察 まで 一緒に 行く 」と 祐一 に 言った 。 祐一 は 、「迷惑 が か かる 」と 拒んだ が 、半ば 強引に 助手席 に 乗り込んだ 。 自分 が 殺人 犯 と 一緒に いる と いう 恐怖感 は まったく なかった 。 自分 が 殺人 犯 と 出会った と いう より も 、自分 が 知り合った 人 が 、殺人 を 犯した と いう 感じ に 近かった 。 出会う 前 の 出来事 な のに 、何か して やれた ような 気 が して 悔しかった 。 呼子 の 駐車場 を 出て 、車 は 唐津 市内 へ と 向かった 。 車 内 で は 結局 一言 も 言葉 を 交わさ なかった 。 道 は 空いて いて 、すぐに 市街地 へ 近づいた 。 もう すぐ 市街 地 と いう 所 で 、予期せず 唐津 警察署 の 看板 が 現れた 。 祐一 も まさか こんなに 早く 行き当たる と は 思って い なかった の だろう 、一瞬 、大きく ハンドル を ぶら し 、スピード を 落とした 。 数 十 メートル 先 に クリーム色 の 建物 が 広い 敷地 に ぽつんと 建っていた 。 壁 に は 交通 安全 の 標語 を 記した 垂れ幕 が あり 、海 から の 寒風 を 大きく 孕んで 揺れている 。 通り を 行き交う 車 は ない 。 すぐ そこ に ある 海 から 強い 風 が 吹きつけている 。 「光代 は ……ここ で 降りた ほうが よか 」ハンドル を 握った まま 、祐一 は 光代 の 顔 も 見ず に そう 言った 。 雨 が 降り出した の は その とき だった 。 空 が 暗く なった か と 思ったら 、フロント ガラス を 幾 粒 か の 雨 が 叩いた 。 ベビーカー を 押して 歩道 を 歩いて いた 若い 母親 が 、慌てて ベビ ほろ -カー の 幌 を 下ろして いた 。 「光代 は 、ここ で 降りた ほう が よか 」そう 言った きり 、祐一 は 口 を 開か ない 。 「.:…それ だけ ? 」と 光代 は 眩 いた 。 祐一 は 顔 を 上げ ず 、自分 の 足元 を 見つめて いる 。 祐一 に 何 を 言って ほしくて 、こんな こと を 訊いて いる の か 分から なかった 。 ただ 、「ここ で 降りた ほうが よか 」と いう 一言 だけ で は 、あまりに も 寂し すぎた 。 また 沈黙 が 続いた 。 フロント ガラス を 濡らす 雨 が 自ら の 重み に 耐え 切れ ず に 流れ 落ちて いく 。 「俺 と 一緒に おる ところ を 見られたら 、光代 に 迷惑 かかる ……」ハンドル を 強く 握りしめた まま 、祐一 は 眩いた 。 「私 が ここ で 降りれば 、私 に は もう 迷惑 かからん わけ ? 」光代 の 乱暴な 物言い に 、祐一 が すぐ 、「ごめん 」と 謝る 。 本当に なんで こんな こと を 言い出して いる の か 分から なかった 。 この 期 に 及んで 祐一 に 悪態 を つきたい わけで は ない 。 「……ごめん 」光代 は 小さく 謝った 。 サイドミラー に ベビーカー を 押して いく 若い 母親 の 後ろ姿 が 映って いた 。 若い 母親 は 駆け出したい の を 無理に 抑えて 歩いて いた 。 その 姿 を 見届けて 、光代 は フー と 息 を 吐い た 。 もう 何分 も 呼吸 を 忘れて いた ようだった 。 「警察 に 行ったら 、その あと どう なる と ? 」ふと そんな 疑問 が 口 から こぼれる 。 ハンドル を 握る 自分 の 手 を 見つめて いた 祐一 が 顔 か を 上げ 、自分 に も 分から ない と でも 言う ように 首 を 振る 。 筆 「自首 したら 、少し は 刑 も 軽く なる よね ? 」と 光代 は 言った 。 拙 自分 に は 何も 分から ない と でも 言う ように 祐一 が また 首 を 振る 。 戯 「いつか また 会える よ ね ? 」彼 章 ずっと 傭 いて いた 祐一 が 、驚いた ように 顔 を 上げ 、その 顔 が 見る見る 泣き顔 に なって 軸 いく 。 「私 、待つ よ 。 何 年 でも 」祐一 の 肩 が 震え 出し 、激しく 首 を 振り 続ける 。 思わず 光代 は 手 を 伸ばして 、祐一 の 頬 に 触れた 。 祐一 の 震え が 、指先 に はっきり と 伝わって くる 。 「俺 、怖 か ……。 死刑 かも しれん 」光代 は 祐一 の 耳 を 優しく 掴んだ 。 火傷 する ほど 熱い 耳 だった 。 「もしも 光代 に 会う と らん なら 、こんなに 怖く は なかった 。 いつか 捕まる と 思う て ビクビク し とった けど 、自分 で は 出て行けん やった けど 、それでも こげん 怖く は なかった 。 ばあさん や じいさん は 泣く やろう けど 、せっかく 育てて くれた と に 、本当に 申し訳 なか と は 思う けど 、こげん 苦しゅう は なかった 。 もしも 光代 に 会う と らん なら :..:」振り絞る ように 出てくる 祐一 の 言葉 を 、光代 は じっと 聞いていた 。 触れた 祐一 の 耳 が 、ますます 熱く なる の が 手 に 伝わって くる 。 「 でも 、 行 かんぱ ……」 と 光代 は 言った 。 祐一 の 震え が 伝わって 、声 に ならない 声 だった 。 「ちゃんと 自首 して 、自分 の した こと は 償わん ば ……」必死に 出した 光代 の 言葉 に 、祐一 が 力尽きた ように 頷く 。 「俺 、死刑 かも しれん ……。 もう 光代 に も 会え ん 」祐一 の 口 から 出てくる 死刑 という 言葉 が 、光代 に は すんなり 入って こなかった 。 もち ろん それ が どういう 意味 な の か は 分かって いる のに 、言葉 から その 意味 が 失われて 、ただの 「さよなら 」に しか 聞こえ ない 。 光代 は 震える 祐一 の 手 を 取った 。 何 か 言おう と する のだが 、口 から 言葉 が 出て こない 。 今 、自分たち は 、単なる 「さよなら 」を している わけで は ない 。 「さよなら 」に は 、まだ 未来 が ある 。 光代 は 何 か 自分 が とんでもない 間違い を している ような 気 が して 、必死 に 祐一 の 手 を 握りしめた 。 何 か が 終わろう と している のだ 。 今 、ここ で 何か が 決定的に 終わろう と している のだ 。 ある 光景 が 蘇った の は その とき だった 。 あまりに も 一瞬 の こと で 、今 、蘇った どこ かの 光景 が 、いったい いつの 、どこで 見た 光景 なのか 、分からない ほど だった 。 光代 は 思わず 目 を 閉じて 、一瞬 蘇った 光景 を 再現 した 。 必死に 目 を 閉じて いる と 、また ぼんやり と 、その 光景 が 浮かび上がって くる 。 どこ ? ここ 、どこ ? 光代 は 目 を 閉じた まま 、心 の 中 で 舷いた 。 ただ 、浮かび上がって きた 光景 は 一枚 の 写真 の ように 、いくら 別の 場所 を 見よう と しても 、それ以上に 広がらない 。 目の前 に 若い 女の子 が 二人 立って いる 。 こちら に 背 を 向けて 、楽し そうに 笑い 合って いる 。 その 向こう に は 年配 の 女性 の 背中 が 見える 。 女性 は 壁 に 向かって 何 か 話している 。 いや 、違う 。 壁 じゃ なくて 、どこ か の 窓口 。 透明 の ボード の 向こう で 切符 を 売る 男性 の 顔 が ある 。 どこ ? どこ ? 光代 は また 心 の 中 で 眩いた 。 必死に 目 を 閉じる と 、窓口 の 上 に 貼られた 路線図 が 見え 「あ ! 」光代 は 思わず 声 を 上げ そうに なった 。 見えた の は 、バス の 路線図 だった 。 自分 が 立って いる 場所 は 、佐賀 と 博多 を 結ぶ 長距離 バス の 切符 売り場 だった のだ 。 それ が 分かった 瞬間 、静止 していた 光景 が とつぜん 音 と 共に 動き出す 。 背後 で バス の 到着 を 知らせる アナウンス が 聞こえる 。 背後 に 立って いる 若い 女の子 たち の 笑い声 が す る 。 切符 を 買った おばさん が 、財布 を しまい ながら 窓口 を 離れ 、到着 した バス の ほう へ 歩いて いく 。 あの とき だ 。 あの とき に 間違い なかった 。 この バス は 、この 博多 行き の バス は 、この あと 一人 の 少年 に バスジャック さ れる 。 光代 は 蘇った 光景 の 中 、バス へ と 向かう おばさん に 、「乗っちゃ 駄目 ! 」と 思わず 叫んだ 。 ただ 、蘇った 光景 の 中 、声 を 出す こと は おろか 、顔 を そちら に 向ける こと も できない 。 すでに 窓口 で は 若い 女の子 が 二人 、博多 行き の 切符 を 買って いる 。 「買っちゃ 駄目 ! 」心 の 中 で は 叫んで いる のに 、その 声 が 出 ない 。 列 に 並んだ 自分 の 足 が 動かせない 。 光 代 は ひどく 震えて いる 自分 に 気づいた 。 このまま で は 自分 まで 切符 を 買って しまう 。 携帯 だ ! と その とき 思い出した 。 ここ で 友人 から 携帯 に 連絡 が 入る のだ 。 「子供 が 熱 を 出した から 、申し訳ない けど 今日 は 会え ない 」という 連絡 が 入る のだ 。 光代 は バッグ を 探った 。 必死に 探る のに 、ある はずの 携帯 が 見つからない 。 窓口 で 切符 を 買った 女の子 たち が 、嬉しそうに バス へ 向かって 歩いて いく 。 携帯 が ない 。 携帯 が ない 。 窓口 の おじさん が 、「次の 方 」と 光代 を 呼ぶ 。 進む つもり は ない のに 、勝手に 足 が 前 へ 出る 。 必死に 逃げ出そう と する のに 、顔 が 窓口 に 近づいて 、口 が 勝手に 動き出す 。 「天神 まで 、大人 一 枚 」携帯 が ない 。 かかって くる はずの 携帯 が ない 。 光代 は 悲鳴 を 上げ そうに なって 目 を 開けた 。 目の前 に は 雨 に 濡れた 車道 が 伸び 、その 先 に 同じ ように 雨 に 濡れた 警察署 が 建って いる 。 光代 は 横 に いる 祐一 に 目 を 向けた 。 その とき だった 。 対向 車線 を 走って くる 一台 の パトカー が 見えた 。 スピード を 落とし 、ウィンカー を つけた パトカー が 、右折 して 警察署 の 敷地 へ と 走り込んでいく 。 「 イヤ ! 」と 光代 は 叫んだ 。 「 イヤ ! もう 、あの バス に は 乗り とう ない ! 」車 内 に 反響 する ほど の 声 だった 。 とつぜん の 光代 の 声 に 、横 で 祐一 が 息 を 呑む 。 「車 出して ! お 願い 。 ちょっと だけ 、 ちょっと だけ で い いけ ん 。 ここ から 出して ! 」とつぜん 声 を 上げた 光代 に 、祐一 は 目 を 見開いて いた 。 「 お 願い -.」 光代 の 言葉 に 、 祐一 が 一 瞬時 曙 する 。 光代 は それ でも 、「お 願い ! 」と 叫んだ 。 光代 の 焦り が 伝わった の か 、祐一 が 慌てて ハンドル に 手 を かけ 、アクセル を 踏む 。 車 は 警察署 の 前 を 過ぎて 、すぐに 左 へ 曲がった 。 道 は コンクリート の 堤防 に 沿って い た 。 道 の 先 に は 県営 の ヨット ハーバー が ある らしく 、大きな 看板 が 雨 に 濡れて いる 。 祐 一 は そこ で 車 を 停めた 。 振り返れば 、警察署 が まだ 見える 場所 だった 。 車 が 動き出した とたん に 、光代 は 声 を 上げて 泣き出して いた 。 このまま ここ で 祐一 と 別れたら 、自分 は あの バス に 乗って しまう 。 あの バス に 乗って 、真っ先 に 少年 に ナイフ を 向けられて しまう 。 車 を 停める と 、祐一 は エンジン を かけた まま 、ワイパー だけ を 切った 。 あっという間 に フロント ガラス が 雨 に 濡れて 、景色 が 参んで いく 。 「私 、イヤ ! 」光代 は 雨 に 惨む フロント ガラス を 睨んだ まま 叫んだ 。 「私 、イヤ ! ここ で 祐一 と 別れたら 、私 に は もう 何にも ないたい 。 … : 。 私 、幸せ に なれる って 魁 うた と よ ! 祐一 と 出会って 、やっと これ で 幸せに なれる って ……。 馬鹿 に せんで ! 私 の こと 、馬鹿 に せんで ! 」泣きじゃくる 光代 に 、祐一 が オドオド と 手 を 伸ばし 、肩 に 触れる と 、あと は 一気に 抱きしめて くる 。 光代 は その 腕 を 乱暴に 振り払おう と した 。 しかし 祐一 が もっと 強く 抱き しめて 、祐一 の 腕 の 中 、ただ 泣く だけ で 身動き でき なく なって しまう 。 「ごめん ……、ごめん ……」祐一 の 声 が 首筋 を 噛む ように 聞こえる 。 光代 は 力 の 限り 首 を 振った 。 振る たび に 互い の 頬 が ぶつかり合う 。 「ごめん ……、俺 に は 何も して やれん 」泣いている のが 自分 なのか 、祐一 なのか 分からない 。 「お 願い ! 私 だけ 置いて いか んで ! お 願い ! もう 一人 に せんで ! 」光代 は 祐一 の 肩 に 叫んだ 。 逃げ 切れる わけ が ない のに 、「逃げて ! 一緒に 逃げ て ! 」と 叫んで いた 。

幸せ に なれる わけ が ない のに 、「一緒に おって ! 私 だけ 置いて かんで ! 」と 叫んで いた 。

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