5.2 ダイアゴン 横丁 (1)
一行 は さらに 深く 、さらに スピード を 増して 潜って いった 。 狭い 角 を すばやく 回り込む たび 、空気 は ますます 冷えびえと して きた 。 トロッコ は 地下 渓谷 の 上 を ビュンビュン 走った 。 ハリー は 身 を 乗り出して 暗い 谷底 に 何 が ある のか と のぞき込んだ が 、ハグリッド は うめき声 を 上げて ハリー の 襟首 を つかみ 引き戻した 。
七一三 番 金庫 に は 鍵穴 が なかった 。
「下がって ください 」
グリップフック が もったいぶって 言い 、長い 指 の 一本 で そっと なでる と 、扉 は 溶ける ように 消え去った 。
「グリンゴッツ の 小 鬼 以外 の 者 が これ を やります と 、扉 に 吸い込まれて 、中 に 閉じ込められて しまいます 」と グリップフック が 言った 。
「中に 誰か 閉じ込められて いない か どうか 、時々 調べる の ? 」と ハリー が 聞いた 。
「十 年 に 一 度 ぐらい でございます 」
グリップフック は ニヤリと 笑った 。 こんなに 厳重に 警護された 金庫 だ もの 、きっと 特別な すごい もの が ある に 違いない 。 ハリー は 期待して 身を 乗り出した 。 少なくとも まばゆい 宝石 か 何か が …… 。 中 を 見た ……なんだ 、空っぽ じゃない か 、と はじめは 思った 。 次に 目に 入った のは 、茶色 の 紙 で くるまれた 薄汚れた 小さな 包み だ 。 床 に 転がって いる 。 ハグリッド は それを 拾い上げ 、コート の 奥深く しまい込んだ 。 ハリー は それが いったい 何 なのか 知りたくて たまらなかった が 、聞か ない 方 が よい のだと わかって いた 。
「行く ぞ 。 地獄 の トロッコ へ 。 帰り道 は 話しかけ ん で くれよ 。 俺 は 口 を 閉じて いる のが 一番 よさそうだ から な 」
もう 一度 猛烈な トロッコ を 乗りこなし て 、陽 の 光 に パチクリ しながら 二人 は グリンゴッツ の 外 に 出た 。 バッグ いっぱい の お金 を 持って 、まず 最初に どこに 行こうか と ハリー は 迷った 。 ポンド に 直したら いくら に なる か なんて 、 計算 し なく と も 、 ハリー は これ まで の人生 で 持った こと が ない ほど たくさん の お 金 を 持って いる …… ダドリー で さえ 持った こと が ない ほど の 額 だ 。
「制服 を 買った 方 が いい な 」
ハグリッド は マダムマルキン の 洋装 店 ──普段着 から 式服 まで の 看板 を あご で さした 。
「なあ 、ハリー 。 『漏れ 鍋 』で ちょっと だけ 元気 薬 を ひつかけて きて も いい かな ? グリンゴッツ の トロッコ に は まいった 」
ハグリッド は 、まだ 青い 顔 を していた 。 ハグリッド と いったん そこ で 別れ 、ハリー は ドギマギ しながら マダム ・マルキン の 店 に 一人 で 入って いった 。
マダム ・マルキン は 、藤 色 ずくめ の 服 を 着た 、愛想 の よい 、ずんぐり した 魔女 だった 。
「坊ちゃん 。 ホグワーツ なの ? 」ハリー が 口 を 開きかけた とたん 、声 を かけてきた 。 「全部 ここで 揃います よ ……もう 一人 お若 い 方 が 丈 を 合わせて いる ところ よ 」店 の 奥 の 方 で 、青白い 、あご の とがった 男の子 が 踏台 の 上 に 立ち 、もう 一人 の 魔女 が 長い 黒い ロープ を ピン で 留めて いた 。 マダム ・マルキン は ハリー を その 隣 の 踏台 に 立たせ 、頭から 長い ローブ を 着せかけ 、丈 を 合わせて ピン で 留め はじめた 。
「や あ 、君 も ホグワーツ かい ? 」男の子 が 声 を かけた 。
「うん 」と ハリー が 答えた 。
「 僕 の 父 は 隣 で 教科 書 を 買ってる し 、 母 は どこ か その 先 で 杖 を 見てる 」
男の子 は 気だる そうな 、気取った 話し方 を する 。
「これ から 、二人 を 引っぱって 競技用 の 箒 を 見 に 行く んだ 。 一年生 が 自分 の 箒 を 持っちゃ いけない なんて 、理由 が わから ない ね 。 父 を 脅して 一 本 買わ せて 、 こっそり 持ち込んで やる 」
ダドリー に そっくりだ 、と ハリー は 思った 。
「君 は 自分 の 箒 を 持ってる の かい ? 」男の子 は しゃべり続けて いる 。
「 う うん 」
「クィディッチ は やる の ? 」「 う うん 」 クィディッチ ? 一体全体 何 だろう と 思い ながら ハリー は 答えた 。
「僕 は やる よ ──父 は 僕 が 寮 の 代表選手 に 選ばれ なかったら それこそ 犯罪 だって 言う んだ 。 僕 も そう 思う ね 。 君 は どの 寮 に 入る か もう 知ってる の ? 」「 う うん 」 だんだん 情けなく なりながら 、ハリーは 答えた 。
「まあ 、ほんとの ところは 、行って みないと わからない けど 。 そう だろう ? だけど 僕 は スリザリン に 決まってる よ 。 僕 の 家族 は みんな そう だった んだ から ……ハッフルパフ なんか に 入れられて みろ よ 。 僕 なら 退学 する な 。 そう だろう ? 」 「 ウーン 」 もう ちょっと ましな 答えが できたら いいのに と ハリーは 思った 。
「ほら 、あの 男を 見て ごらん ! 」急に 男の子は 窓の ほうを 顎で しゃくった 。 ハグリッド が 店 の 外 に 立って いた 。 ハリー の 方 を 見て ニッコリ しながら 、手 に 持った 二本 の 大きな アイスクリーム を 指さし 、これ が ある から 店 の 中 に は 入れ ない よ 、と いう 手振り を していた 。
「あれ 、ハグリッド だ よ 」
この 子 が 知らない こと を 自分 が 知っている 、と ハリー は うれしく なった 。
「ホグワーツ で 働いてる んだ 」
「ああ 、聞いた ことが ある 。 一種 の 召使い だろ ? 」「森 の 番人 だよ 」 時間 が 経てば たつ ほど 、ハリー は この 子 が 嫌い に なって いた 。
「そう 、それ だ 。 言う なれば 野蛮 人 だって 開いた よ ……学校 の 領地 内 の ほったて小屋 に 住んで いて 、しょっちゅう 酔っ払って 、魔法 を 使おう と して 、自分 の ベッド に 火 を つける んだ そうだ 」
「彼 って 最高 だ と 思う よ 」ハリー は 冷たく 言い放った 。 「 へえ ? 」男の子 は 鼻先 で せせら笑った 。 「どうして 君 と 一緒 なの ? 君 の 両親 は どうした の ? 」「死んだ よ 」 ハリー は それ しか 言わ なかった 。 この 子 に 詳しく 話す 気 に は なれ ない 。
「おや 、ごめんなさい 」
謝って いる ような 口振り で は なかった 。
「でも 、君 の 両親 も 僕ら と 同族 なんだろう ? 」「魔法使い と 魔女 だ よ 。 そういう 意味 で 聞いてる ん なら 」
「他の 連中 は 入学 させる べき じゃない と 思う よ 。 そう 思わ ない か ? 連中 は 僕ら と 同じ じゃない んだ 。 僕ら の やり方 が わかる ような 育ち方 を して ない んだ 。 手紙 を もらう まで は ホグワーツ の こと だって 聞いた こと も なかった 、なんて やつ も いる んだ 。 考えられ ない ような こと だ よ 。 入学 は 昔 から の 魔法使い 名門 家族 に 限る べきだ と 思う よ 。 君 、家族 の 姓 は 何て 言う の ? 」ハリー が 答える 前 に 、マダム ・マルキン が 「さあ 、終わりました よ 、坊ちゃん 」と 言ってくれた のを 幸いに 、ハリー は 踏台 から ポンと 跳び降りた 。 この 子 との 会話 を やめる 口実 が できて 好都合 だ 。
「じゃ 、ホグワーツ で また 会おう 。 たぶん ね 」と 気取った 男の子 が 言った 。
店を 出て 、ハグリッドが 持ってきた アイスクリームを 食べながら (ナッツ入りの チョコレートと ラズベリーアイスだ )、ハリーは 黙りこくっていた 。
「どうした ? 」ハグリッドが 開いた 。
「なんでもないよ 」
ハリー は 嘘 を ついた 。
次 は 羊皮紙 と 羽根 ペン を 買った 。 書いて いる うち に 色 が 変わる インク を 見つけて 、ハリー は ちょっと 元気 が 出た 。 店 を 出て から 、ハリー が 聞いた 。
「ねえ 、ハグリッド 。 クィディッチ って なあに ? 」「なんと 、ハリー 。 おまえ さん が なんにも 知ら ん と いう こと を 忘れ とった …… クィディッチ を 知ら ん と は ! 」「これ 以上 落ち込ま せないで よ 」 ハリー は マダム ・マルキン の 店 で 出会った 青白い 子 の 話 を した 。
「……その 子 が 言う んだ 。 マグル の 家 の 子 は いっさい 入学 させる べきじゃない って ……」「おまえ は マグル の 家 の 子 じゃない 。 おまえ が 何者 なのか その 子 が わかって いたら なあ ……その 子 だって 、親 が 魔法使い なら 、おまえ さん の 名前 を 聞き ながら 育った はずだ ……魔法使い なら 誰 だって 、『漏れ鍋 』で おまえ さん が 見た とおり なんだよ 。 とにかく だ 、その ガキ に 何が わかる 。 俺 の 知ってる 最高の 魔法使い の 中 に は 、長いこと マグル の 家系 が 続いて 、急に その 子 だけ が 魔法の 力 を 持った という 者 も おる ぞ …おまえ の 母さん を 見ろ ! 母さん の 姉貴 が どんな 人間 か 見て みろ ! 」「 それ で 、クィディッチ って ? 」「 俺 たち の スポーツ だ 。 魔法 族 の スポーツ だ よ 。 マグル の 世界 じゃ 、そう 、サッカー だ な ── 誰 でも クィディッチ の 試合 に 夢中 だ 。 箒 に 乗って 空中 で ゲーム を やる 。 ボール は 四 つ あって ……ルール を 説明 する の は ちと 難しい なあ 」
「じゃ 、スリザリン と ハッフルパフ って ? 」「学校 の 寮 の 名前 だ 。 四つ あって な 。 ハッフルパフ には 劣等生 が 多い と みんなは 言う が 、しかし ……」
「僕 、きっと ハッフルパフ だ 」ハリーは 落ち込んだ 。
「スリザリン よりは ハッフルパフの 方が ましだ 」ハグリッドの 表情が 暗く なった 。
「悪の 道に 走った 魔法使い や 魔女 は 、みんな スリザリン 出身 だ 。 『例の あの 人 』も そう だ 」
「 ヴォル …… あ 、 ごめん ……『 あの人 』 も ホグワーツ だった の ? 」「昔々 の こと さ 」 次に 教科書 を 買った 。 「フローリシュ ・アンド ・ブロッツ 書店 」の 棚 は 、天井 まで 本 が ぎっしり 積み上げられて いた 。 敷石 ぐらい の 大きな 革製本 、シルク の 表紙 で 切手 くらい の 大きさ の 本 も あり 、奇妙な 記号 ばかり の 本 が ある か と 思えば 、何にも 書いてない 本 も あった 。 本 など 読んだ こと が ない ダドリー で さえ 、夢中で 触った に 違いない と 思う 本 も いくつか あった 。 ハグリッド は 、ヴィンディクタス ・ヴェリディアン 著 「呪い の かけ方 、解き方 (友人 を うっとり させ 、最新 の 復讐 方法 で 敵 を 困らせよう ──ハゲ 、クラゲ 脚 、舌 もつれ 、その他 あの手この手 ──)」を 読み耽っている ハリー を 、引きずる ように して 連れ出さなければならなかった 。
「僕 、どう やって ダドリー に 呪い を かけたら いい か 調べて たんだ よ 」
「それ が 悪い ちゅう わけで は ない が 、マグル の 世界 で は よっぽど 特別な 場合 で ない と 魔法 を 使えん こと に なって おる 。 それ に な 、呪い なんて おまえ さん に は まだ どれ も 無理 だ 。 その レベル に なる に は もっと た ー くさ ん 勉強 せんと な 」
ハグリッド は 「リスト に 錫 の 鍋 と 書いて ある だろが 」と 言って 純金 の 大 鍋 も 買わせて くれなかった 。 そのかわり 、魔法薬 の 材料 を 計る 秤 は 上等な のを 一揃い 買った し 、真鍮製 の 折畳み式 望遠鏡 も 買った 。 次は 薬 問屋 に 入った 。 悪く なった 卵 と 腐った キャベツ の 混じった ような ひどい 匂い が した が 、そんな こと は 気に ならない ほど おもしろい ところ だった 。 ヌメヌメ した もの が 入った 樽詰 が 床 に 立ち 並び 、壁 に は 薬草 や 乾燥 させた 根 、鮮やかな 色 の 粉末 など が 入った 瓶 が 並べられ 、天井 から は 羽根 の 束 、牙 や ねじ曲がった 爪 が 糸 に 通して ぶら下げられている 。 カウンター 越し に ハグリッド が 基本的 な 材料 を 注文 して いる 問 、 ハリー は 、 一 本 二十一 ガリ オン の 銀色 の 一角 獣 の 角 や 、 小さな 、 黒い キラキラ した 黄金虫 の 目玉 ( 一 さじ 五 クヌート ) を しげしげ と 眺めて いた 。
薬 問屋 から 出て 、ハグリッド は もう 一度 ハリー の リスト を 調べた 。
「 あと は 杖 だけ だ な ……おお 、 そう だ 、まだ 誕生 祝い を 買って やって なかった な 」
ハリー は 顔 が 赤く なる の を 感じた 。
「そんな こと し なくて いい のに ……」
「し なくて いい の は わかって る よ 。 そう だ 。 動物 を やろう 。 ヒキガエル は だめ だ 。 だいぶ 前 から 流行 遅れ に なっち ょる 。 笑われっち まう から な …… 猫 、 俺 は 猫 は 好か ん 。 くしゃみ が 出る んで な 。 ふくろう を 買って やろう 。 子ども は みんな ふくろう を 欲しがる もん だ 。 なん ち ゅったって 役 に 立つ 。 郵便 とか を 運んで くれる し 」