12.2みぞ の 鏡
「起こして くれれば よかった のに 」
翌朝 ロン が 不機嫌 そうに いった 。
「今晩 一緒に 来れば いい よ 。 僕 、また 行く から 。 君 に 鏡 を 見せたい んだ 」「君 の ママ と パパ に 会いたい よ 」ロン は 意気込んだ 。 「僕 は 君 の 家族 に 会いたい 。 ウィーズリー 家 の 人 たち に 会いたい よ 。 ほか の 兄さん と か 、みんな に 会わ せて くれる よ ね 」
「いつ だって 会える よ 。 今度 の 夏休み に 家 に 来れば いい 。 もしかしたら 、その 鏡 は 亡くなった 人 だけ を 見せる の かも しれない な 。 しかし 、フラメル を 見つけられなかった の は 残念 だった なあ 。 ベーコン か 何 か 食べたら 。 何も 食べて ない じゃない か 。 どうした の ? 」ハリー は 食べ たく なかった 。 両親 に 会えた 。 今晩 も また 会える 。 ハリー は フラメル の こと は ほとんど 忘れて しまって いた 。 そんな こと は もう 、どうでも いい ような 気 が した 。 三 頭 犬 が 何 を 守って いよう が 、関係ない 。 スネイプ が それ を 盗んだ ところ で 、それ が どうした と いう んだ 。
「大丈夫 かい ? なんか 様子 が おかしい よ 」ロン が 言った 。
あの 鏡 の 部屋 が 二度と 見つからない ので は と 、 ハリー は それ が 一 番 怖かった 。 ロン と 二人 で マント を 着た ので 、昨夜 より ノロノロ 歩き に なった 。 図書館 から の 道筋 を もう 一度 たどりなおして 、二人 は 一時間 近く 暗い 通路 を さまよった 。
「凍えちゃう よ 。 もう あきらめて 帰ろう 」と ロン が いった 。
「 いやだ ! どっか この あたり な んだ から 」ハリー は つっぱった 。 背 の 高い 魔女 の ゴースト が スルスル と 反対 方向 に 行く の と すれ違った ほか は 、誰 も 見かけ なかった 。 冷えて 足 の 感覚 が なくなった と 、ロン が ブツブツ 言い はじめた ちょうど その 時 、ハリー は あの 鎧 を 見つけた 。
「ここ だ ……ここ だった ……そう 」
二人 は ドア を 開けた 。 ハリー は マント を かなぐり捨てて 鏡 に 向かって 走った 。
みんな が そこ に いた 。 お 父さん と お母さん が ハリー を 見て ニッコリ 笑って いた 。 「 ねっ? 」と ハリー が ささやいた 。
「何も 見え ない よ 」
「 ほら ! みんな を 見て よ ……たくさん いる よ 」
「僕 、君 しか 見え ない よ 」
「ちゃんと 見て ごらん よ 。 さあ 、僕 の ところ に 立って みて 」
ハリー が 脇 に どいて ロン が 鏡 の 正面 に 立つ と 、ハリー に は 家族 の 姿 が 見え なく なって 、かわりに ペーズリー 模様 の パジャマ を 着た ロン が 映って いる の が 見えた 。
今度 は ロン の ほう が 、鏡 に 映った 自分 の 姿 を 夢中で のぞき込んで いた 。
「僕 を 見て ! 」ロン が 言った 。
「家族 みんな が 君 を 囲んで いる の が 見える かい ? 」「う ぅん ……僕 一 人 だ ……でも 僕 じゃない みたい ……もっと 年上 に 見える ……僕 、首席 だ ! 」「なん だって ? 」「僕 ……ビル が つけて いた ような バッジ を つけてる ……そして 最優秀 寮 杯 と クィディッチ 優勝 カップ を 持って いる ……僕 、クィディッチ の キャプテン も やってる んだ 」 ロン は ホレボレ する ような 自分 の 姿 から ようやく 目 を 離し 、興奮 した 様子 で ハリー を 見た 。
「この 鏡 は 未来 を 見せて くれる の か なぁ ? 」「そんな はず ない よ 。 僕 の 家族 は みんな 死んじゃった んだ よ ……もう 一度 僕 に 見せて ……」「君 は 昨日 一人占め で 見た じゃないか 。 もう 少し 僕 に 見せて よ 」
「君 は クィディッチ の 優勝 カップ を 持ってる だけ じゃないか 。 何 が おもしろい んだ よ 。 僕 は 両親 に 会いたい んだ 」「押す な よ ……」突然 、外 の 廊下 で 音 が して 、二人 は 「討論 」を 止めた 。 どんなに 大声 で 話して いた か に 気 が つか なかった のだ 。
「 はやく ! 」ロン が マント を 二人 に かぶせた とたん 、ミセス ・ノリス の 蛍 の ように 光る 目 が ドア の むこう から 現れた 。 ロン と ハリー は 息 を ひそめて 立って いた 。 二 人 とも 同じ こと を 考えて いた 。
──この マント 、猫 に も 効く の か な ? 何 年 も たった ような 気 が した 。 やがて 、ミセス ・ノリス は クルリ と 向き を 変えて 立ち去った 。
「まだ 安心 は でき ない ──フィルチ の ところ に 行った かも しれない 。 僕たち の 声 が 聞こえた に 違いない よ 。 さあ 」
ロン は ハリー を 部屋 から 引っぱり 出した 。 次の 朝 、雪 は まだ 解けて いなかった 。
「ハリー 、チェス しない か ? 」と ロン が 誘った 。
「 しない 」
「下 に おりて 、ハグリッド の ところ に 行か ない か ? 」「う ぅん ……君 が 行けば ……」 「ハリー 、あの 鏡 の こと を 考えて る んだろう 。 今夜 は 行か ない 方が いい よ 」
「 どうして ? 」「わかん ない けど 、なんだか あの 鏡 の こと 、悪い 予感 が する んだ 。 それ に 、君 は ずいぶん 危機一髪 の 目 に 会った じゃないか 。 フィルチ も スネイプ も ミセス ・ノリス も ウロウロ している よ 。 連中 に 君 が 見え ない からって 安心 は でき ない よ 。 君 に ぶつかったら どう なる ? もし 君 が 何か ひっくり返したら ? 」「ハーマイオニー みたいな こ と 言う ね 」 「本当に 心配 して いる んだ よ 。 ハリー 、行っちゃ だめだ よ 」
だが ハリー は 鏡 の 前 に 立つ こと しか 考えて い なかった 。 ロン が 何 と 言おう と 、止める こと は できない 。
三 日目 の 夜 は 昨夜 より 早く 道 が わかった 。 あんまり 速く 歩いた ので 、自分 でも 用心 が 足りない と 思う ぐらい 音 を 立てて いた 。 だが 誰 とも 出会わ なかった 。
お 父さん と お母さん は ちゃんと そこ に いて 、ハリー に ほほえみ かけ 、お じいさん の 一人 は 、うれし そうに うなずいて いた 。 ハリー は 鏡 の 前 に 座り込んだ 。 何 が あろう と 、一晩 中 家族 と そこ に いたい 。 誰 も 、何もの も 止められ や し ない 。 ただし ……
「ハリー 、また 来た の かい ? 」ハリー は 体中 が ヒヤーッ と 氷 に なった か と 思った 。 振り返る と 、壁 際 の 机 に 、誰 あろう 、アルバス ・ダンブルドア が 腰掛けて いた 。 鏡 の そば に 行きたい 一心 で 、ダンブルドア の 前 を 気づかず に 通り過ぎて しまった に 違いない 。 「ぼ 、僕 、気 が つきません でした 」「透明 に なる と 、不思議 に ずいぶん 近眼 に なる ん じゃ のう 」と ダンブルドア が 言った 。 先生 が ほほえんで いる の を 見て ハリー は ホッと した 。 ダンブルドア は 机 から 降りて ハリー と 一緒に 床 に 座った 。
「君 だけ じゃない 。 何 百 人 も 君 と 同じ ように 、『みぞ の 鏡 』の 虜 に なった 」
「先生 、僕 、そういう 名 の 鏡 だ と は 知りませんでした 」「この 鏡 が 何 を して くれる の か は もう 気 が ついた じゃろう 」「鏡 は ……僕 の 家族 を 見せて くれました ……」「そして 君 の 友達 の ロン に は 、首席 に なった 姿 を ね 」「どうして それ を ……」 「わし は マント が なくて も 透明 に なれる ので な 」
ダンブルドア は 穏やかに 言った 。
「それ で 、この 『みぞ の 鏡 』は わし たち に 何 を 見せて くれる と 思う かね ? 」ハリー は 首 を 横 に 振った 。 「じゃあ ヒント を あげよう 。 この世 で 一番 幸せな 人 に は 、この 鏡 は 普通の 鏡 に なる 。 その 人 が 鏡 を 見る と 、その まんま の 姿 が 映る んじゃ 。 これ で 何 か わかった かね 」
ハリー は 考えて から ゆっくり と 答えた 。
「 なに か 欲しい もの を 見せて くれる …… なんでも 自分 の 欲しい もの を ……」
「当り で も ある し 、はずれ で も ある 」
ダンブルドア が 静かに いった 。
「鏡 が 見せて くれる の は 、心 の 一番 奥底 に ある 一番 強い 『のぞみ 』じゃ 。 それ 以上 でも それ 以下 でも ない 。 君 は 家族 を 知ら ない から 、家族 に 囲まれた 自分 を 見る 。 ロナルド ・ウィーズリー は いつも 兄弟 の 陰 で 霞んで いる から 、兄弟 の 誰 より も すばらしい 自分 が 一人 で 堂々と 立っている の が 見える 。 しかし この 鏡 は 知識 や 真実 を 示して くれる もの で は ない 。 鏡 が 映す もの が 現実 の もの か 、はたして 可能な もの な の か さえ 判断 でき ず 、みんな 鏡 の 前 で へトヘト に なったり 、鏡 に 映る 姿 に 魅入られて しまったり 、発狂 したり したんじゃ よ 。 ハリー 、この 鏡 は 明日 よそ に 移す 。 もう この 鏡 を 探して は いけない よ 。 たとえ 再び この 鏡 に 出会う こと が あって も 、もう 大丈夫 じゃろう 。 夢 に 耽ったり 、生きる こと を 忘れて しまう の は よく ない 。 それ を よく 覚えて おきなさい 。 さぁて 、その すばらしい マント を 着て 、ベッド に 戻って は いかが かな 」
ハリー は 立ち上がった 。
「あの ……ダンブルドア 先生 、質問 して よろしい です か ? 」「いい とも 。 今 の も すでに 質問 だった し ね 」
ダンブルドア は ほほえんだ 。
「でも 、もう ひとつ だけ 質問 を 許そう 」
「先生 なら この 鏡 で 何 が 見える んです か 」
「わし かね ? 厚手 の ウール の 靴下 を 一足 、手 に 持って おる のが 見える 」
ハリー は 目 を パチクリ した 。
「靴下 は いくつ あっても いい もの じゃ 。 な のに 今年 の クリスマス に も 靴下 は 一足 も もらえ なかった 。 わし に プレゼント して くれる 人 は 本 ばっかり 贈り たがる んじゃ 」
ダンブルドア は 本当の こと を 言わ なかった の かも しれない 、ハリー が そう 思った のは ベッド に 入って から だった 。 でも ……ハリー は 枕 の 上 に いた スキャバーズ を 払いのけ ながら 考えた ──きっと あれ は ちょっと 無遠慮な 質問 だった ん だ ……