5 .木 の 祭り -新美 南吉
木 の 祭り -新美 南吉
木 に 白い 美しい 花 が いっぱい さきました 。 木 は 自分 の すがた が こんなに 美しく なった ので 、うれしくて たまりません 。 けれど だれひとり 、「美しい なあ 」と ほめて くれる ものが ない ので つまらない と 思いました 。 木 は めったに 人 の とおら ない 緑 の 野原 の まんなか に ぽつんと 立って いた のであります 。 ・・
やわらかな 風 が 木 の すぐ そば を とおって 流れて いきました 。 その 風 に 木 の 花 の におい が ふんわり のって いきました 。 においは 小川を わたって 麦畑を こえて 、崖っぷちを すべり おりて 流れて いきました 。 そして とうとう ちょうちょうが たくさん いる じゃがいも 畑まで 、流れて きました 。 ・・
「 おや 」 と じゃがいも の 葉 の 上 に とまって いた 一 ぴき の ちょう が 鼻 を うごかして い いました 。 「なんて よい におい でしょう 、ああ うっとり して しまう 。」 ・・
「どこか で 花 が さいた のです ね 。」 と 、別の 葉に とまって いた ちょうが いいました 。 「きっと 原っぱの まんなかの あの 木に 花が さいた のです よ 。」 ・・
それから つぎつぎと 、じゃがいも畑に いた ちょうちょうは 風に のってきた こころよい におい に 気が ついて 、「おや 」「おや 」と いった ので ありました 。 ・・
ちょうちょう は 花 の に おい が とても すきでした ので 、 こんなに よい に おい が して くる のに 、 それ を うっちゃって おく わけに は まいりません 。 そこ で ちょうちょう たち は みんな で そうだん を して 、 木 の ところ へ やっていく こと に きめました 。 そして 木 の ため に みんな で 祭り を して あげよう と いう こと に なりました 。 そこ で はね に もよう の ある いちばん 大きな ちょうちょう を 先 に して 、 白い の や 黄色い の や 、 かれた 木 の 葉 みたいな の や 、 小さな 小さな しじみ みたいな の や 、 いろいろな ちょうちょう が におい の 流れて くる 方 へ ひらひら と 飛んで いきました 。 崖っぷち を のぼって 麦畑 を こえて 、小川 を わたって 飛んでいきました 。 ・・
ところが 中 で いちばん 小さかった しじみ ちょうは は ね が あまり つよく なかった ので 、 小川 の ふち で 休ま なければ なりません でした 。 しじみちょう が 小川 の ふち の 水草 の 葉 に とまって やすんで います と 、となり の 葉 の うら に みた こと の ない 虫 が 一ぴき うつらうつら して いる こと に 気 が つきました 。 ・・
「 あなた は だ あれ 。」 と しじみちょう が ききました 。 ・・
「ほたる です 。」 と その 虫 は 眼 を さまして 答えました 。 ・・
「原っぱ の まんなか の 木 さん の ところ で お祭り が あります よ 。 あなた も いらっしゃい 。」 と しじみ ちょう が さそいました 。 ほたる が 、・・
「でも 、私は 夜の 虫 だから 、みんなが 仲間 にして くれない でしょう 。」 と いいました 。 しじみ ちょう は 、・・
「そんな ことは ありません 。」 といって 、いろいろに すすめて 、とうとう ほたるを つれて いきました 。 ・・
なんて 楽しい お祭り でしょう 。 ちょうちょうたちは 木の まわりを 大きな ぼたん雪の ように とびまわって 、つかれると 白い 花に とまり 、おいしい 蜜を お腹いっぱい ごちそうに なるので ありました 。 けれど 光 が うすく なって 夕方 に なって しまいました 。 みんな は 、・・
「 もっと 遊んで いたい 。 だけど もう じき まっ暗に なる から 。」 と ためいき を つきました 。 すると ほたる は 小川 の ふち へ とんで いって 、自分 の 仲間 を どっさり つれて きました 。 一つ一つ の ほたる が 一つ一つ の 花 の 中 に とまりました 。 まるで 小さい ちょうちん が 木 に いっぱい ともさ れた ような ぐあい でした 。 そこで ちょうちょう たち は たいへん よろこんで 夜 おそく まで 遊びました 。