095. 声と人柄 - 宮城道雄 (2nd version)
声 と 人柄 -宮城 道雄
或時 、横須賀 から 東京 に 向う 省線 に 逗子駅 から 乗った こと が あった 。 ところが その 電車 が 非常に 混んでいて 、空いた 座席 が 殆ど なかった 。 丁度 その 時 、どこか の 地方 の 青年団 の 人々 が 乗っていた が 、その 中 の 一人 が 、私 の 乗り込んだ のを 見て か 「おい 、起て 起て 」と 言ったら 、腰かけていた 人たち が みな 起ちあがって 、私たち に 席 を 与えて くれた 。 ・・
もし その 場合 に 、私 が 目 が 見えて いたら 辞退 する のであるが 、私 は 盲人 な ので 折角の 親切 を 無にしては 悪い と 思った ので 、腰かけ させて もらった 。 ・・
私 は 初め その 青年 団 の 人 たち が 、つい 近く へ でも 行く の か と 思っていたら 、やはり 私たち と 同様に 東京 へ 行く らしい のである 。 そして 、独り言 の ように 「なあに 、我々 は 起って いたって いい のだ 」と 言って いた 。 それ から また 、 自分 たち が 起って いる 苦痛 を まぎらわす ため か 、 元 気 よく お 互 に 話し合って いた 。 そう か と 思う と 、何か 手 を まるめて 、喇叭 の 真似 を 始め だした 。 ・・
そして 、色々の 節 を 吹いて いた が 、それ が なかなか 上手に やって いた 。 一節 吹いて は 興じ 合って 、みんな が 元気に 笑って いた 。 私 は それ を 面白く 感じた 。 ・・
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私 は 人 の 言葉 つきで 、その 人 が 今日 自分 に 、どういう 用向き で 来た か と いう こと が 、あらかじめ わかる 。 ・・
その 人 が どういう 態度 を している か と いう こと も 、自然に 感じられる のである 。 ・・
ある 夏 の 暑い 時 であった が 、或る 人 が 尺八 を 合せ に 、私 の ところ に 来た こと が ある 。 その 人 と は 心 易い 間柄 だった し 、丁度 その 時 は 誰 も 居合わせ なかった ので 、その 人 が 上 著 を 脱ぎ 、はだか に なって 尺八 を 吹き出した 。 私 は それ を 感じて いた けれども 黙って 合奏 を した のであった 。 そして いよいよ 済んだ あと で 、 私 が 今日 の ような 暑い 日 に は 、 はだか で やる と 大変 涼しい でしょう なあ 、 と 言ったら その人 は 驚いて 、 這う 這う の 体 で 帰って しまった 。 その 人 は 別に 私 を 誤魔化そう と 思って やった ので は なく 、心易さ から の こと だったろう が 、私 の 言った こと が 当たった のであった 。 ・・
とりわけ 、声 で 、一番 私 の 感ずる こと は 、バス や 円タク に 乗った 場合 である 。 ・・
声 を 聞いた だけ で 、今日 は 運転手 が 、疲れて いる な と 思ったり 、また 賃銀 でも 値ぎられた のか 、非常に 憤慨した 気持 の まま だ とか 、ちゃんと 知る こと が できる 。 ・・
電車 や バス など の 車掌 が 、わざわざ 発車 する の を 遅らせて も 、私たち 不自由な 者 の 手 を 引いて 、乗せて くれたり する こと が ある 。 こういう 風 に 、道 の 途中 を 歩いて いても 、その 人 の 声 を 聞いて 、その 人 の 人柄 が 知られ る のである が 、私 は 心 の 持ち ようで 、声 まで 変わって 来る ものだ と いう こと を 信じている 。 ・・
そして 、 非常に 感謝 の 気持 で 仕事 を して いる人 と 、 疲れ の 工 合 か 何 か 、 非常に 不愉快 らしく して いる人 が ある よう に 思う が 、 その 差 は 少し の 心 の 持ち ようで 、 どちら に も なる のである と 私 は 思う 。 ・・